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海に足をつける
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急にボードが軽くなり、前方部を海面から浮上させスピードが上がる。何も言わず、音も立てず飛び降りたツクヨは、彼がいたという人肌の温もりをシンの背中に残し、あれだけ望んだ触手から逃れる速さを手に入れた。
「ッ!?ツクヨッ・・・?おい、何をしたッ!?」
ハンドル操作などお構いなしにシンが振り返ると、フラつくボードの上で視界に捉えたツクヨの表情はとても穏やかで、後ろ髪を引かれるであろうシンの気持ちを少しでも和らげる為に、即興の言葉を捻り出し彼に贈る。
「先に行くんだッ!・・・大丈夫、グレイスのくれた剣が私に力をくれたからッ!」
この感覚は、恐らく誰かに伝えようとしても言葉で理解できるものはない。だからこそ、シンが信頼をおけるグレイスの名を出し、彼女のくれた代物であれば何かしらの力が宿った剣なのかもしれない。そう思わせることが出来れば、今のシンを納得させるだけの選択肢として脳裏に植え付けられる。
グレイスはシンの知らぬWoFの世界の海を巡り、裁定者という希少で珍しいクラスに就いていた人物。ならば、ユーザーであるシンの知らぬことも他に知っているやもしれない。そんな彼女の代物となればと、ツクヨの思惑通りシンの思考回路に考えるだけの余地を与え、ボードをその場から引き離すことに成功する。
シンの脳裏にツクヨの言葉が駆け巡った一瞬で彼との距離は開き、我に帰った時には既にツクヨの姿は、掌よりも小さく見えるほど離れてしまっていた。今更戻っても彼の思いを無碍にしてしまう。
ツクヨの思惑通り、シンはその場を離れて行く。そしてボードから落ちたツクヨが海面に足を沈めようかとしたところで、彼の持つ布都御魂剣による、不可解で現実離れした力がその身に宿る。
彼の身体は、水面で人に突き飛ばされたかのように尻餅をついたのだ。予想だにしなかった事態に驚くツクヨだったが、次第に泥沼に引き摺り込まれるように沈んでいくのを感じると、急ぎ立ち上がろうともがき出す。
だが、柔らかい液状の海面に手を取られ、うまく起き上がることが出来ず、焦れば焦るほど沈没していく。布都御魂剣を手にして、その剣に宿る漠然とした能力を感じることが出来たが、想像していたように上手くいかず思い通りに動けないことにパニックになってしまう。
すると、そんな彼の視界に幾つかの文字が浮かんでくる。
落ち着いて。怖がらないで。
声が聞こえてくることはなく、ただ文字として視界に映り込んでおり、首をいくら振ろうとブレることなくツクヨの視界に現れ続けた。当然最初は落ち着けるような状況になく、そこの見えない海に沈んでいく恐怖に、身体が勝手に動いてしまっていた。
直に身体が疲労のピークを迎え、自分の意思で動かそうとしても力が入らなくなって来たことから、半ば諦めたように一度身体を休ませる意も込めてもがくのを止めると、ツクヨの身体は沈まなくなり、水面へ浮上する様に徐々に海面へと上がって来たのだ。
目を閉じて。立ち上がることに意識を集中させて。
身体が海面に浮くと、彼の視界に再び文字が浮かび上がると、先程までの文字とは違う文面へと変わり、この状況ですることとは思えないことを要求してくるようになった。
既に体感したことのない事態に陥っていることから、たかが目を瞑り立ち上がることを想像するだけならと、彼は浮かび上がる何者によるものかも分からぬ文字に従い瞼を閉じると、水面に立ち上がる自分の姿を想像した。
だが、当然人間にそんなことが出来る筈もなく、そんな経験もなかった彼はどうしたらいいのか分からず、現実世界で体感することの出来る、とある風景を思い浮かべた。
それはウユニ塩湖で見られる、塩湖全体の高低差が五十センチ以内という世界で最も平らな場所とされ、空を湖面に映し出す“天空の鏡“と呼ばれる神秘的な絶景だった。
実際に行ったことはないが、その存在をテレビやインターネットで知っていたツクヨは、恰も自分がそこにいるかのように想像し、頭の中で景色を作り上げながら海面で立ち上がろうとする。
彼の思惑は見事成功し、それまで幾ら足掻いても出来なかった、ただ立ち上がるという動作をやってのけた。だが、一度目を開けてしまえば、再びその光景に目が眩みパニックを起こし兼ねないと、ツクヨはそのまま目を閉じ架空のウユニ湖の景色の中で、怪異を迎え撃つ覚悟をする。
「ッ!?ツクヨッ・・・?おい、何をしたッ!?」
ハンドル操作などお構いなしにシンが振り返ると、フラつくボードの上で視界に捉えたツクヨの表情はとても穏やかで、後ろ髪を引かれるであろうシンの気持ちを少しでも和らげる為に、即興の言葉を捻り出し彼に贈る。
「先に行くんだッ!・・・大丈夫、グレイスのくれた剣が私に力をくれたからッ!」
この感覚は、恐らく誰かに伝えようとしても言葉で理解できるものはない。だからこそ、シンが信頼をおけるグレイスの名を出し、彼女のくれた代物であれば何かしらの力が宿った剣なのかもしれない。そう思わせることが出来れば、今のシンを納得させるだけの選択肢として脳裏に植え付けられる。
グレイスはシンの知らぬWoFの世界の海を巡り、裁定者という希少で珍しいクラスに就いていた人物。ならば、ユーザーであるシンの知らぬことも他に知っているやもしれない。そんな彼女の代物となればと、ツクヨの思惑通りシンの思考回路に考えるだけの余地を与え、ボードをその場から引き離すことに成功する。
シンの脳裏にツクヨの言葉が駆け巡った一瞬で彼との距離は開き、我に帰った時には既にツクヨの姿は、掌よりも小さく見えるほど離れてしまっていた。今更戻っても彼の思いを無碍にしてしまう。
ツクヨの思惑通り、シンはその場を離れて行く。そしてボードから落ちたツクヨが海面に足を沈めようかとしたところで、彼の持つ布都御魂剣による、不可解で現実離れした力がその身に宿る。
彼の身体は、水面で人に突き飛ばされたかのように尻餅をついたのだ。予想だにしなかった事態に驚くツクヨだったが、次第に泥沼に引き摺り込まれるように沈んでいくのを感じると、急ぎ立ち上がろうともがき出す。
だが、柔らかい液状の海面に手を取られ、うまく起き上がることが出来ず、焦れば焦るほど沈没していく。布都御魂剣を手にして、その剣に宿る漠然とした能力を感じることが出来たが、想像していたように上手くいかず思い通りに動けないことにパニックになってしまう。
すると、そんな彼の視界に幾つかの文字が浮かんでくる。
落ち着いて。怖がらないで。
声が聞こえてくることはなく、ただ文字として視界に映り込んでおり、首をいくら振ろうとブレることなくツクヨの視界に現れ続けた。当然最初は落ち着けるような状況になく、そこの見えない海に沈んでいく恐怖に、身体が勝手に動いてしまっていた。
直に身体が疲労のピークを迎え、自分の意思で動かそうとしても力が入らなくなって来たことから、半ば諦めたように一度身体を休ませる意も込めてもがくのを止めると、ツクヨの身体は沈まなくなり、水面へ浮上する様に徐々に海面へと上がって来たのだ。
目を閉じて。立ち上がることに意識を集中させて。
身体が海面に浮くと、彼の視界に再び文字が浮かび上がると、先程までの文字とは違う文面へと変わり、この状況ですることとは思えないことを要求してくるようになった。
既に体感したことのない事態に陥っていることから、たかが目を瞑り立ち上がることを想像するだけならと、彼は浮かび上がる何者によるものかも分からぬ文字に従い瞼を閉じると、水面に立ち上がる自分の姿を想像した。
だが、当然人間にそんなことが出来る筈もなく、そんな経験もなかった彼はどうしたらいいのか分からず、現実世界で体感することの出来る、とある風景を思い浮かべた。
それはウユニ塩湖で見られる、塩湖全体の高低差が五十センチ以内という世界で最も平らな場所とされ、空を湖面に映し出す“天空の鏡“と呼ばれる神秘的な絶景だった。
実際に行ったことはないが、その存在をテレビやインターネットで知っていたツクヨは、恰も自分がそこにいるかのように想像し、頭の中で景色を作り上げながら海面で立ち上がろうとする。
彼の思惑は見事成功し、それまで幾ら足掻いても出来なかった、ただ立ち上がるという動作をやってのけた。だが、一度目を開けてしまえば、再びその光景に目が眩みパニックを起こし兼ねないと、ツクヨはそのまま目を閉じ架空のウユニ湖の景色の中で、怪異を迎え撃つ覚悟をする。
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