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一人用のボードにツクヨを担ぎ、シンが彼の括り付けていた海賊船へのロープを使って、クトゥルプスによって酷く破損させられた船へと向かう。
中の様子はどうなっているのだろうか。ツバキは無事だろうか、一緒に戦った船員達は、治療をしてくれた回復班の人達は生きているだろうか。そんなことが脳裏に浮かびながらも、波を立てて走るボードの音と、波の水飛沫を感じながら戻っていると、ツクヨの視界の隅に、何やら海中で動く物の影が映り込んだ。
よく目にするような、自分の髪の毛だったり波のちょっとした影なのかもしれない。だが、操縦をシンがしてくれている中で、特にすることもなかったツクヨは、辺りを見渡し、敵襲や異変が無いかを自主的に探していた。
次第にその影は大きくなり、ぼやけていたモノはそのシルエットを浮かび上がらせる。海中にあった影は、ツクヨや船員達を散々苦しめた、あの忌まわしき女の触手に違いなかった。
彼女は生きていた。別のモンスターや野生生物のものであるとは到底思えない。その質量や模様、動きを見て海賊船での戦闘が脳裏に蘇ってくる。
「シンッ!奴だ!触手が直ぐそこまで迫って来ている。まだ生きていたんだッ・・・」
「何だってッ!?真っ二つに斬ったんじゃなかったのか!?」
操縦をしているシンは前から目が離せず、首だけ傾けて時折視線を送りながら、ツクヨにクトゥルプスを倒した時のことを確認したが、如何やら彼から伝わる声色や反応で、嘘や見間違いではなく、倒し切るには至らなかったのだということが伝わって来た。
「もっとスピードは出ないかッ!?このままでは海に引き摺り込まれるぞ!」
「だッ・・・ダメだッ・・・!これ以上は出ない。そもそも一人用のボードに二人で乗っていること自体、相当な負荷をかけているに違いない。これ以上速度が上がることはない・・・、寧ろ落ちるしかないぞ・・・」
燃料や操縦者の魔力は有限であり、ボードを走らせている限り消費し続けるだろう。これ以上スピードを上げたいのなら、根本的な重さをボードから取り除くしかない。
それはつまり、シンかツクヨをクトゥルプスの迫る海へ投げ落とすしか方法は無い。しかし、海というフィールドにおいて人間はこの上なく弱く、そこに巣食う者達は逆に地の利を得ている状況にある。
そんなところに投げ出されればひとたまりもないだろう。それにお互い、仲間を犠牲にすることなど、端から選択肢になど入れていない。だが、海賊船までの距離はまだある上、辿り着く前に触手に捕まってしまうことは確実。
操縦でそれどころでは無いシンに、打開策を考えるだけの余裕はない。かと言って、ツクヨにも現状を変える術が思いつく訳でもなく、ただ時間を浪費するのみ。
底の見えぬ海中に焦燥と恐怖が広がっているようで、海上が如何に危険な場所であるかを身を持って感じていたその時、ツクヨの懐で何かが光り始めたのだ。
「なッ・・・何だ何だッ!?」
「ツクヨ!何か持っているのか?確認してみてくれ」
当然何が光出しているのか、ツクヨ自身分からない。懐を探してみるも、何かを身に付けている訳でもなさそうだった。そこでシンは、彼らのように現実世界から来たユーザーにのみあるアイテムや道具をしまう便利なものの存在を思い出し、ツクヨに尋ねる。
「アイテムリストだ・・・。メニューを開いて所持品を見てみるんだッ!」
ツクヨは、聖都ユスティーチでミアから学んだゲームとしてのこの世界、WoFの世界の機能を使い視界に映るメニューから、所持品リストの項目に視線を合わせて中身を確認する。
すると、その中に人気は輝く文字で書かれたとある武器の存在に気付く。それは彼らの行いが招いた運命の因果。何の巡り合わせか、彼らの選択して来た出来事はここに繋がったのだとしか思えぬことを引き起こす。
「布都御魂剣・・・。グレイスから貰った、あの使い道のない剣が光ってるッ!」
直ぐにアイテムリストにあった布都御魂剣という武器に視線を合わせると、それはリストから消え、ツクヨの懐に突如として質量を持った物質として出現する。
「これはッ・・・」
ツクヨは特別武器に詳しい訳でも、歴史や神話に詳しい訳でもない。だが不思議なことに、布都御魂剣を手にするとその剣に宿る力と、その使い方が自然と身に染みてくるように浸透していくのを感じた。
突然冷静さを取り戻し、落ち着いた様子のツクヨが心配になり、一体何があったのかとシンが尋ねると、彼は黙ってシンの背中で腕を伸ばし身体をゆっくり離す。そしてシンの衣服を掴んでいた手から、徐々に力が抜けていくのを感じた。
このままでは海に振り落とされると、シンはツクヨの手をがっしりと掴み、今海に落ちたら生きて帰れないと必死に彼に呼びかける。しかしツクヨは、そんな彼の呼び止めを宥め、彼には分からぬ根拠のない理由で自分がクトゥルプスを止めると言い出し、掴んでいたシンの背中から手を離し、ボードから落ちてしまった。
中の様子はどうなっているのだろうか。ツバキは無事だろうか、一緒に戦った船員達は、治療をしてくれた回復班の人達は生きているだろうか。そんなことが脳裏に浮かびながらも、波を立てて走るボードの音と、波の水飛沫を感じながら戻っていると、ツクヨの視界の隅に、何やら海中で動く物の影が映り込んだ。
よく目にするような、自分の髪の毛だったり波のちょっとした影なのかもしれない。だが、操縦をシンがしてくれている中で、特にすることもなかったツクヨは、辺りを見渡し、敵襲や異変が無いかを自主的に探していた。
次第にその影は大きくなり、ぼやけていたモノはそのシルエットを浮かび上がらせる。海中にあった影は、ツクヨや船員達を散々苦しめた、あの忌まわしき女の触手に違いなかった。
彼女は生きていた。別のモンスターや野生生物のものであるとは到底思えない。その質量や模様、動きを見て海賊船での戦闘が脳裏に蘇ってくる。
「シンッ!奴だ!触手が直ぐそこまで迫って来ている。まだ生きていたんだッ・・・」
「何だってッ!?真っ二つに斬ったんじゃなかったのか!?」
操縦をしているシンは前から目が離せず、首だけ傾けて時折視線を送りながら、ツクヨにクトゥルプスを倒した時のことを確認したが、如何やら彼から伝わる声色や反応で、嘘や見間違いではなく、倒し切るには至らなかったのだということが伝わって来た。
「もっとスピードは出ないかッ!?このままでは海に引き摺り込まれるぞ!」
「だッ・・・ダメだッ・・・!これ以上は出ない。そもそも一人用のボードに二人で乗っていること自体、相当な負荷をかけているに違いない。これ以上速度が上がることはない・・・、寧ろ落ちるしかないぞ・・・」
燃料や操縦者の魔力は有限であり、ボードを走らせている限り消費し続けるだろう。これ以上スピードを上げたいのなら、根本的な重さをボードから取り除くしかない。
それはつまり、シンかツクヨをクトゥルプスの迫る海へ投げ落とすしか方法は無い。しかし、海というフィールドにおいて人間はこの上なく弱く、そこに巣食う者達は逆に地の利を得ている状況にある。
そんなところに投げ出されればひとたまりもないだろう。それにお互い、仲間を犠牲にすることなど、端から選択肢になど入れていない。だが、海賊船までの距離はまだある上、辿り着く前に触手に捕まってしまうことは確実。
操縦でそれどころでは無いシンに、打開策を考えるだけの余裕はない。かと言って、ツクヨにも現状を変える術が思いつく訳でもなく、ただ時間を浪費するのみ。
底の見えぬ海中に焦燥と恐怖が広がっているようで、海上が如何に危険な場所であるかを身を持って感じていたその時、ツクヨの懐で何かが光り始めたのだ。
「なッ・・・何だ何だッ!?」
「ツクヨ!何か持っているのか?確認してみてくれ」
当然何が光出しているのか、ツクヨ自身分からない。懐を探してみるも、何かを身に付けている訳でもなさそうだった。そこでシンは、彼らのように現実世界から来たユーザーにのみあるアイテムや道具をしまう便利なものの存在を思い出し、ツクヨに尋ねる。
「アイテムリストだ・・・。メニューを開いて所持品を見てみるんだッ!」
ツクヨは、聖都ユスティーチでミアから学んだゲームとしてのこの世界、WoFの世界の機能を使い視界に映るメニューから、所持品リストの項目に視線を合わせて中身を確認する。
すると、その中に人気は輝く文字で書かれたとある武器の存在に気付く。それは彼らの行いが招いた運命の因果。何の巡り合わせか、彼らの選択して来た出来事はここに繋がったのだとしか思えぬことを引き起こす。
「布都御魂剣・・・。グレイスから貰った、あの使い道のない剣が光ってるッ!」
直ぐにアイテムリストにあった布都御魂剣という武器に視線を合わせると、それはリストから消え、ツクヨの懐に突如として質量を持った物質として出現する。
「これはッ・・・」
ツクヨは特別武器に詳しい訳でも、歴史や神話に詳しい訳でもない。だが不思議なことに、布都御魂剣を手にするとその剣に宿る力と、その使い方が自然と身に染みてくるように浸透していくのを感じた。
突然冷静さを取り戻し、落ち着いた様子のツクヨが心配になり、一体何があったのかとシンが尋ねると、彼は黙ってシンの背中で腕を伸ばし身体をゆっくり離す。そしてシンの衣服を掴んでいた手から、徐々に力が抜けていくのを感じた。
このままでは海に振り落とされると、シンはツクヨの手をがっしりと掴み、今海に落ちたら生きて帰れないと必死に彼に呼びかける。しかしツクヨは、そんな彼の呼び止めを宥め、彼には分からぬ根拠のない理由で自分がクトゥルプスを止めると言い出し、掴んでいたシンの背中から手を離し、ボードから落ちてしまった。
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