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一つ目の障壁
しおりを挟むあれだけ苦戦を強いられていた相手を、こうもあっさりと倒してしまうとは思ってもみなかった。あまりにも強烈な攻撃と、瞬く間の出来事に思わず言葉を失い、これからの本体との戦闘の事を考え、気が重くなっていたミアは拍子抜けしてしまう。
チン・シーを助ける為に駆け出したミアは、緊張から解放されたように床に膝を着いていた。そんな彼女の元へチン・シーがやって来ると、手を差し伸べ立ち上がらせるのと同時に、彼女に対し本来の策を明かさなかった理由を話してくれた。
「すまなかったな、ミアよ・・・。だが結果として、奴を倒すことに成功した。其方らの奮闘と活躍には感謝せねばな。策の醍醐味とは、如何にしても相手を掌の上で転がすかよ。その為には先ず味方から・・・」
そう言って、妖艶で狡賢い笑みを浮かべる。敵を欺くにはまず味方からとはよく言ったものだ。彼女から真相を明かされるまで、ミアはチン・シーに託された食塩で本体に雷属性を通るようにさせるのが、自分の役割なのだとばかり思っていた。
恐らく船員の殆どが彼女の思惑など知る由もなく、命懸けの攻防を繰り広げていたに違いない。ただ一つ誤算だったことといえば、シュユーを単騎で術師部隊の救援に向かわせたことだろう。
本来であれば小隊を組んで向かわせる筈だったものの、彼の必死に己を押し殺し命令に忠実であろうとする姿に、チン・シーも彼に編成まで待てとは言えなくなってしまったので、先に一人で向かわせたようだ。
彼女の言う結果論では、シュユーもフーファン達も無事だったので思惑通りのストーリーを辿ることになった。そんな渦中の彼らも、目の前でメデューズが消滅するのを見て、チン・シーの仕業であることを悟ると、抑えていた息を一気に吐き出す。
「はぁ~・・・。全くあのお方も人が悪い。そう言うことならそうと言っておいてくれれば、時間稼ぎの行動をしてただろうに・・・」
「無駄口はそこまでですよ、シュユーさん。他の方に報告はお任せしました。貴方は応急処置をしておいてください。直ぐに術で治療所まで飛ばしてあげるです!」
普段、直接戦闘に参加するタイプの者ではないシュユーは、勇ましくフーファンを守る為メデューズに戦いを挑んだが、後にチン・シーが編成した増援が到着するまでの間に、手酷くやられてしまっていた。
勿論、彼が弱かった訳ではないが、それだけあの怪異の少年がまともに戦っていられるような相手ではなかったのだ。寧ろ、一人でよく持ち堪えられた方だろう。
船の各所で被害と怪我人を出したものの、甚大な被害になることはなく事態は収束した。一時はチン・シーの采配に不安を覚えたミアだったが、彼女の策とその能力に流石は優勝候補の大海賊だと、考えを改めさせられた。
だが、ロロネーとの戦いはまだ終わってはいない。一つの節目を越えたに過ぎない彼らは、直ぐに部隊と船を立て直し、妖術を再び発動させる。それにより範囲はまだ狭いものの、霧の中にいる近場の友軍を見つけ出し船団を整えると、いよいよ攻勢に出る時と濃霧の中を進軍し始める。
ハオランを手中に収めたロロネー海賊団の本隊と、メデューズ討伐を果たし船団の混乱を払い除け部隊を整えたチン・シー海賊団の本隊。
そしてシンと再会したツクヨは、依然危機的状況の渦中にある海賊船に合流しようと、繋いだロープを辿る。そんな彼らに迫るはもう一つの怪異、卑劣な手段でツクヨ達を苦しめた触手の女、クトゥルプスが逆襲せんと二人の向かう海賊船へ進行していた。
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