311 / 1,646
怪異の討ち入り
しおりを挟む
船内を多くの者達が行き来する中、二人の足取りはそれまで以上に早くなる。焦る気持ちが抑え切れず一点しか見えていない様に、シュユーは人をかき分けるというよりも、退かすと言った表現の方がしっくりくるだろう。
だが、大切な人がどんな状況にあるか分からないと、それを確かめる為なら人は普段の人間性さえもかなぐり捨て、目的に向かって一直線になってしまうのだろう。何かの物語、ドラマや小説に伝承など、人が常軌を逸した行動に出る時というものは、人の感情によるものであるのがほとんど。
その点、シュユーは主従関係を忘れることなく、優先すべきことを失わずにいられているのだ。それだけ彼の主人に対する忠誠心が強いということだ。
そんな彼の姿を目にしていると、ミアも心の内で思うところがあった。自分でも、誰かの為に盲目になることがあるのだろうか。自分にも、危機が迫れば駆けつけてくれる誰かがいるのだろうか。そういう人間に、成れるだろうか・・・。
彼の行いこそ褒められたものではないが、その心のあり方はミアにとって美しく輝いて見えた。自分にも、彼にとってのフーファンのような存在がいれば、輝けるのだろうか。それは憧れではなく、羨み。彼女には無いものでこの先、得られるとも思えないものに、ミアは高嶺の花を見つめるような感覚でいた。
通路の装飾が豪華になり、これまでの扉とは明らかに違う少し大きめの扉を開けると、そこには船内の装飾に引けを取らない、美しくあしらわれた真紅のドレスに身を包んだ、神々しく描かれた女神の絵画のように見惚れてしまいそうになる白い肌をした、ルビーのように赤い瞳に艶やかな長い黒髪の女性が、艶かしく足を組んで鎮座していた。
「我が主人、敵襲にございます!」
扉を開けるシュユーが開口一番、騒動の原因は敵による襲撃であることを報告する。既に予想はついていたと、彼が報告をした女性が答える。そして詳細を話すよう彼に要求すると、シュユーは船員から聞いた敵の特徴について報告する。
彼と会話をしている女性こそ、ロロネー海賊団を迎え撃つ大船団の主人にして、フォリーキャナルレースの優勝候補である大海賊、チン・シーその人である。別の船で亡霊の対策案を講じたミアは、通信機を使ってやり取りをしていた船員から、その声だけは耳にしていたが、実物の彼女と対面するのは初めてだった。
シュユーの報告が進み、彼と共にやって来た女性がミアである事を明かす。それと同時にチン・シーと視線が合ったミアは、小さく会釈した。ロロネー海賊団による亡霊の攻撃に対し、迎撃の術を見出したミアへ彼女は賛辞の言葉を送り、現状打開のため、協定を結ぶことを提案した。
ミアにとっても、彼女らと手を組めるということはこれ以上無いほど心強い。チン・シーの申し入れを快く受け入れ、シュユーの報告にあった謎の怪物、メデューズと直接刃を交えたミアに、その特徴・能力、そしてどのようにして逃れて来たのかを問うチン・シー。
元々シュユーと共に乗り合わせていた船から移動を開始し、その道中の船でメデューズが彼女らの海賊船を襲撃している場面に遭遇。もぬけの殻となった船で不意打ちをくらい、戦闘に突入。
姿形を自在に変える液体の怪物。その姿は何を思ってか少年の姿を象っており、物理的攻撃によるダメージを一切受けないその身体は、溶解させる毒の成分を含むことも出来るようだった。
そして何よりも重要なこと。メデューズは何体にも数を増やし、どれが本体なのか外見では見分けが付かないということだ。本体と分身体、どちらも性能や出来ることに個体差はない。
違いがあるとすれば、それは感電させた時の反応の違いだろう。水の身体であるが故に雷属性は通るだろうと高を括っていたが、本体にはダメージがなかった。見分ける為に、一々雷属性を放たなければならないのだ。
ミアからメデューズの事を聞き出したチン・シーは、焦りや慌てるといったこともなく、落ち着いた態度でシュユーや船員達に指示を出す。
「なるほど・・・。先ずは本体を見つけ出さねばならぬという訳か。シュユーよ、フーファンの元へ行き、急ぎ術式の再構築をさせろ。船員が欠如いていた場合、直ぐに妾へ報告を。必要な人数を送り出す。その後、シュユーはフーファン及び、術師部隊の護衛につけ!」
フーファンの部隊は、主に妖術による妨害工作やサポートを担っている部隊で、チン・シー海賊団各々の海賊船に妖術師からなる部隊が編成されており、術間での様々なやり取りを可能にしている。
彼らの中枢ともいえる妖術は、総大将であるチン・シーの能力、“リンク”を複数人と広範囲に繋げる、最も大事な役割も担っている。
チン・シー海賊団の本隊に乗り合わせているフーファン部隊に異常が出てしまえば、チン・シーのリンク能力を活かすことが出来なくなってしまう。その為、信頼のおけるシュユーに、部隊の再編成、術式の再構築を命じた。
これは彼の予想していた通りの指示だった。チン・シーも、シュユーとフーファンの関係性については熟知している。故に彼女を任せるならシュユーしかいないと決断したのだろう。自身の護衛を割いてまで、彼の心中を察して指示を出したことから、部下を大事に思っていることが伝わる。
シュユーは彼女の命に従い、感謝の言葉を添えて足早にフーファンの元へと駆けて行った。するとチン・シーは、今度はミアにある頼み事をする。それは恐らく、敵が既に本陣へと乗り込んできたこと、そしてその敵は無数に数を増やせることから、総当たりでこの船を探し回り、総大将であるチン・シーの首を取りに来ると考えてのことだった。
初めて対面したばかりのミアに、そんな重要なことを頼むのは、彼女がメデューズとの戦闘経験があるアドバンテージを利用しない手はないということと、先の功績でチン・シー海賊団への貢献を果たしたことが大きい。
「さて、其方には重要な役割をしてもらう。なに、安心せい。妾の軍がサポートする故、作戦に不備はない。他の者達は準備に取り掛かれッ!」
彼女の指示で数人の船員達が足早に準備に取り掛かると、ミアはその場に残ったチン・シーの護衛部隊と共に、メデューズの襲撃を迎え撃つ。
だが、大切な人がどんな状況にあるか分からないと、それを確かめる為なら人は普段の人間性さえもかなぐり捨て、目的に向かって一直線になってしまうのだろう。何かの物語、ドラマや小説に伝承など、人が常軌を逸した行動に出る時というものは、人の感情によるものであるのがほとんど。
その点、シュユーは主従関係を忘れることなく、優先すべきことを失わずにいられているのだ。それだけ彼の主人に対する忠誠心が強いということだ。
そんな彼の姿を目にしていると、ミアも心の内で思うところがあった。自分でも、誰かの為に盲目になることがあるのだろうか。自分にも、危機が迫れば駆けつけてくれる誰かがいるのだろうか。そういう人間に、成れるだろうか・・・。
彼の行いこそ褒められたものではないが、その心のあり方はミアにとって美しく輝いて見えた。自分にも、彼にとってのフーファンのような存在がいれば、輝けるのだろうか。それは憧れではなく、羨み。彼女には無いものでこの先、得られるとも思えないものに、ミアは高嶺の花を見つめるような感覚でいた。
通路の装飾が豪華になり、これまでの扉とは明らかに違う少し大きめの扉を開けると、そこには船内の装飾に引けを取らない、美しくあしらわれた真紅のドレスに身を包んだ、神々しく描かれた女神の絵画のように見惚れてしまいそうになる白い肌をした、ルビーのように赤い瞳に艶やかな長い黒髪の女性が、艶かしく足を組んで鎮座していた。
「我が主人、敵襲にございます!」
扉を開けるシュユーが開口一番、騒動の原因は敵による襲撃であることを報告する。既に予想はついていたと、彼が報告をした女性が答える。そして詳細を話すよう彼に要求すると、シュユーは船員から聞いた敵の特徴について報告する。
彼と会話をしている女性こそ、ロロネー海賊団を迎え撃つ大船団の主人にして、フォリーキャナルレースの優勝候補である大海賊、チン・シーその人である。別の船で亡霊の対策案を講じたミアは、通信機を使ってやり取りをしていた船員から、その声だけは耳にしていたが、実物の彼女と対面するのは初めてだった。
シュユーの報告が進み、彼と共にやって来た女性がミアである事を明かす。それと同時にチン・シーと視線が合ったミアは、小さく会釈した。ロロネー海賊団による亡霊の攻撃に対し、迎撃の術を見出したミアへ彼女は賛辞の言葉を送り、現状打開のため、協定を結ぶことを提案した。
ミアにとっても、彼女らと手を組めるということはこれ以上無いほど心強い。チン・シーの申し入れを快く受け入れ、シュユーの報告にあった謎の怪物、メデューズと直接刃を交えたミアに、その特徴・能力、そしてどのようにして逃れて来たのかを問うチン・シー。
元々シュユーと共に乗り合わせていた船から移動を開始し、その道中の船でメデューズが彼女らの海賊船を襲撃している場面に遭遇。もぬけの殻となった船で不意打ちをくらい、戦闘に突入。
姿形を自在に変える液体の怪物。その姿は何を思ってか少年の姿を象っており、物理的攻撃によるダメージを一切受けないその身体は、溶解させる毒の成分を含むことも出来るようだった。
そして何よりも重要なこと。メデューズは何体にも数を増やし、どれが本体なのか外見では見分けが付かないということだ。本体と分身体、どちらも性能や出来ることに個体差はない。
違いがあるとすれば、それは感電させた時の反応の違いだろう。水の身体であるが故に雷属性は通るだろうと高を括っていたが、本体にはダメージがなかった。見分ける為に、一々雷属性を放たなければならないのだ。
ミアからメデューズの事を聞き出したチン・シーは、焦りや慌てるといったこともなく、落ち着いた態度でシュユーや船員達に指示を出す。
「なるほど・・・。先ずは本体を見つけ出さねばならぬという訳か。シュユーよ、フーファンの元へ行き、急ぎ術式の再構築をさせろ。船員が欠如いていた場合、直ぐに妾へ報告を。必要な人数を送り出す。その後、シュユーはフーファン及び、術師部隊の護衛につけ!」
フーファンの部隊は、主に妖術による妨害工作やサポートを担っている部隊で、チン・シー海賊団各々の海賊船に妖術師からなる部隊が編成されており、術間での様々なやり取りを可能にしている。
彼らの中枢ともいえる妖術は、総大将であるチン・シーの能力、“リンク”を複数人と広範囲に繋げる、最も大事な役割も担っている。
チン・シー海賊団の本隊に乗り合わせているフーファン部隊に異常が出てしまえば、チン・シーのリンク能力を活かすことが出来なくなってしまう。その為、信頼のおけるシュユーに、部隊の再編成、術式の再構築を命じた。
これは彼の予想していた通りの指示だった。チン・シーも、シュユーとフーファンの関係性については熟知している。故に彼女を任せるならシュユーしかいないと決断したのだろう。自身の護衛を割いてまで、彼の心中を察して指示を出したことから、部下を大事に思っていることが伝わる。
シュユーは彼女の命に従い、感謝の言葉を添えて足早にフーファンの元へと駆けて行った。するとチン・シーは、今度はミアにある頼み事をする。それは恐らく、敵が既に本陣へと乗り込んできたこと、そしてその敵は無数に数を増やせることから、総当たりでこの船を探し回り、総大将であるチン・シーの首を取りに来ると考えてのことだった。
初めて対面したばかりのミアに、そんな重要なことを頼むのは、彼女がメデューズとの戦闘経験があるアドバンテージを利用しない手はないということと、先の功績でチン・シー海賊団への貢献を果たしたことが大きい。
「さて、其方には重要な役割をしてもらう。なに、安心せい。妾の軍がサポートする故、作戦に不備はない。他の者達は準備に取り掛かれッ!」
彼女の指示で数人の船員達が足早に準備に取り掛かると、ミアはその場に残ったチン・シーの護衛部隊と共に、メデューズの襲撃を迎え撃つ。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです
寝転ぶ芝犬
ファンタジー
スマホ大好きなこの俺、関谷道長はある日いつものように新しいアプリを探していると何やら怪しいアプリを見つけた。早速面白そうなのでDLして遊ぼうとしてみるといつの間にか異世界へと飛ばされていた!
ちょっと待てなんなんだここは!しかも俺のスマホのデータ全部消えてる!嘘だろ俺の廃課金データが!!けどこのスマホなんかすごい!けど課金要素多すぎ!!ツッコミどころ多すぎだろ!
こんなことから始まる俺の冒険。いや、宿にこもってスマホばっかりいじっているから冒険してないや。異世界で俺強え無双?いや、身体能力そのままだから剣もまともに振れませんけど。産業革命で超金持ち?いや、スマホの課金要素多すぎてすぐに金欠なんですけど。俺のすごいところってただすごいスマホ持っているだけのような…あれ?俺の価値なくね?
現在、小説家になろうで連載中です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる