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合流
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霧を抜けて行く間、他にも数隻の海賊船を見かけたが、先程の船と同じく何者かの襲撃を受けている様子だった。その全てがメデューズによるものではなかったが、先の事もある。今は先ず、本隊に合流することを最優先に考えるようにした。
海賊船の爆発音や、人の悲鳴が彼女の後ろ髪を引く。駆けつければ助けられた命もあったかもしれない。ミアは時々、冷たい対応とも取れる決断をすることもあるが、何も冷酷な人間という訳ではない。ただ、彼女の中での人助けに対する、決断に至るボーダーラインというものが、シンやツクヨよりも低いのだろう。
それは言い換えれば、助けられるかも分からない危険な賭けに出ることなく、冷静に今の自分達に出来る最善を決断することが出来る。それに、迷いは決断を鈍らせ、選択出来たかもしれない選択肢さえ失うことに繋がる。
優しさだけでは生きていけない。時には彼女のように、非情な決断も出来なければ仲間を危険な目に合わせかねない。シンとツクヨがお人好しな所がある分、彼女のそういった面が、彼らのパーティを凄惨な運命から遠ざけている。
それでも彼女は内心、心を痛めていた。彼女が強いられてきたのは“選択”ではなく“決断”。他者の運命にも影響を与える決断とは、常にそういうリスクを伴っているものなのかもしれない。
自責の念に駆られながらも、無惨に沈められて行く船に目を瞑り走り抜けて行くと、この濃霧の中で初めて群れをなしている船を目撃する。紅い船体に周囲を固めるように配置された幾つかの海賊船。
間違いない。漸くミアは目的のチン・シー海賊団の本隊を見つけたのだ。しかし、その様子は心中穏やかではなく、例の海賊の亡霊や、似たような海賊船による攻撃を受けている最中だった。
「先ずは、チン・シーに会わないと・・・。すまないがもう少し耐えてくれッ・・・!」
ツバキの作った小回りの効くボードのおかげで、船同士の戦いの合間を潜ぬけ、チン・シーの乗っている船と思われる、他のよりも少し大きく派手な装飾を施されている海賊船に向けて進んでいく。
道中、船上の方からミアを標的とする声や攻撃が放たれたが、波に揺れ小刻みに動き回るボードを捉えるには至らなかった。最も彼女の進行を邪魔したのは、戦場を飛び回る海賊の亡霊達だった。
海上を走り抜けるミアの姿を見つけると、複数の亡霊が群れをなして彼女のボードの周りを鬱陶しく飛び回る。ミアは銃を取り出し応戦するが、身のこなしの軽さはお互い様のようで、宙を舞う綿埃を掴むようにふわりと躱されてしまう。
運良く別の亡霊を狙った流れ弾が、他の亡霊に命中しようと実体のない彼らにダメージは殆どない。銃による攻撃では露払いにもならないと、ミアは攻撃することを諦め銃をしまうと、ボードの運転に集中する。
飛び回る亡霊の斬りかかりを、徐々に身に付けてきたボード捌きで華麗に避ける。すると、攻撃を避けた時に生じた水飛沫で亡霊が僅かに怯んでいるのが目に入る。それにヒントを得た彼女は、一気に加速しスピードを上げると、弧を描くようにして急ブレーキをかける。
大きくボードを沈ませながら、海水を上空へと巻き上げ水のカーテンを作ると、再び加速し水のカーテンを突き抜けて行く。亡霊達は彼女の巻き上げた水飛沫を避けるように迂回した為、距離を大きく空けられた。
海水を嫌う亡霊達の追手を振り払う為、蛇行しながら水飛沫を頻繁に打ち上げ、チン・シー海賊団の本隊を目指す。
追手を振り切ったミアは、周囲の海賊船に守られた一隻の船に近づく。しかし、外部からの攻撃に備える海賊船は、窓はおろか船を収納する船体の扉も固く閉ざされている。
「クソッ・・・!何とかして中に入れないものか。早くしないと・・・」
そこでミアは、少し前にいた船でシュユーが本隊へ向かった事を思い出す。彼ならばもしやと思い、彼女は銃を取り出すと上空へ向けて数発、空砲を打ち鳴らした。
「頼むッ!気づいてくれッ・・・!」
聞いたことのあるような銃声に、船内にいたシュユーが船内の窓から銃声のした方を確認する。するとそこには、こちらを見ながら必死の形相をしたミアが、ありったけの空砲を打ち鳴らす姿があった。
「ミア殿ッ!?一体どうしてこんなところにッ・・・」
急ぎ窓を開け、彼女に呼びかけるシュユー。
「シュユーッ!中に入れてくれッ!戦場に妙な奴が紛れ込んでいる。そいつがアンタらの船を次々に沈めて回っているんだッ!」
ミアの功績はチン・シーも知っている。彼女を迎え入れとも問題ないであろうと判断したシュユーは、急ぎ部下に指示してミアの回収を命じる。窓から彼女へ準備をするから船体の後方へ行くよう促すと、彼もまたミアを迎え入れる為、船体後方にある開閉扉へと向かった。
小舟やボートを収納する為の開閉扉を開け、ミアを引き入れる。ボードを収納し、船員に案内されているミアの元に、シュユーがやって来ると、何故彼女がここに来たのか事情を伺う。
ミアはこの船に来るまでにあったことを、簡潔に説明した。襲撃されていたチン・シー海賊団の船のこと。そこで出会した謎の少年の姿をした怪物が現れたこと。それが海賊の亡霊とは比べものにならない程の脅威だということなど。
「そうか、大変なところ申し訳ありません。直ぐにチン・シー様の元へ報告しに向かいましょう」
だがその直後、船の奥の方から何やら大きな物音が響き渡る。何事かと、思わず顔を見合わせるミアとシュユー。すると、通路の方から一人の船員が駆け出して来て大きな声で警告を促す。
「敵襲だぁッ!ガキの姿をしたバケモンに、みんな溶かされちまうッ!急ぎ援軍を送ってくれぇーッ!」
子供の姿をした怪物。二人の脳裏にはミアの話していたメデューズのことが思い浮かぶ。足止めをし、かなり距離を引き離していたと思っていたミアだったが、こんなにも早く先手を打たれたことに、言葉を失い冷や汗がこぼれ落ちる。
海賊船の爆発音や、人の悲鳴が彼女の後ろ髪を引く。駆けつければ助けられた命もあったかもしれない。ミアは時々、冷たい対応とも取れる決断をすることもあるが、何も冷酷な人間という訳ではない。ただ、彼女の中での人助けに対する、決断に至るボーダーラインというものが、シンやツクヨよりも低いのだろう。
それは言い換えれば、助けられるかも分からない危険な賭けに出ることなく、冷静に今の自分達に出来る最善を決断することが出来る。それに、迷いは決断を鈍らせ、選択出来たかもしれない選択肢さえ失うことに繋がる。
優しさだけでは生きていけない。時には彼女のように、非情な決断も出来なければ仲間を危険な目に合わせかねない。シンとツクヨがお人好しな所がある分、彼女のそういった面が、彼らのパーティを凄惨な運命から遠ざけている。
それでも彼女は内心、心を痛めていた。彼女が強いられてきたのは“選択”ではなく“決断”。他者の運命にも影響を与える決断とは、常にそういうリスクを伴っているものなのかもしれない。
自責の念に駆られながらも、無惨に沈められて行く船に目を瞑り走り抜けて行くと、この濃霧の中で初めて群れをなしている船を目撃する。紅い船体に周囲を固めるように配置された幾つかの海賊船。
間違いない。漸くミアは目的のチン・シー海賊団の本隊を見つけたのだ。しかし、その様子は心中穏やかではなく、例の海賊の亡霊や、似たような海賊船による攻撃を受けている最中だった。
「先ずは、チン・シーに会わないと・・・。すまないがもう少し耐えてくれッ・・・!」
ツバキの作った小回りの効くボードのおかげで、船同士の戦いの合間を潜ぬけ、チン・シーの乗っている船と思われる、他のよりも少し大きく派手な装飾を施されている海賊船に向けて進んでいく。
道中、船上の方からミアを標的とする声や攻撃が放たれたが、波に揺れ小刻みに動き回るボードを捉えるには至らなかった。最も彼女の進行を邪魔したのは、戦場を飛び回る海賊の亡霊達だった。
海上を走り抜けるミアの姿を見つけると、複数の亡霊が群れをなして彼女のボードの周りを鬱陶しく飛び回る。ミアは銃を取り出し応戦するが、身のこなしの軽さはお互い様のようで、宙を舞う綿埃を掴むようにふわりと躱されてしまう。
運良く別の亡霊を狙った流れ弾が、他の亡霊に命中しようと実体のない彼らにダメージは殆どない。銃による攻撃では露払いにもならないと、ミアは攻撃することを諦め銃をしまうと、ボードの運転に集中する。
飛び回る亡霊の斬りかかりを、徐々に身に付けてきたボード捌きで華麗に避ける。すると、攻撃を避けた時に生じた水飛沫で亡霊が僅かに怯んでいるのが目に入る。それにヒントを得た彼女は、一気に加速しスピードを上げると、弧を描くようにして急ブレーキをかける。
大きくボードを沈ませながら、海水を上空へと巻き上げ水のカーテンを作ると、再び加速し水のカーテンを突き抜けて行く。亡霊達は彼女の巻き上げた水飛沫を避けるように迂回した為、距離を大きく空けられた。
海水を嫌う亡霊達の追手を振り払う為、蛇行しながら水飛沫を頻繁に打ち上げ、チン・シー海賊団の本隊を目指す。
追手を振り切ったミアは、周囲の海賊船に守られた一隻の船に近づく。しかし、外部からの攻撃に備える海賊船は、窓はおろか船を収納する船体の扉も固く閉ざされている。
「クソッ・・・!何とかして中に入れないものか。早くしないと・・・」
そこでミアは、少し前にいた船でシュユーが本隊へ向かった事を思い出す。彼ならばもしやと思い、彼女は銃を取り出すと上空へ向けて数発、空砲を打ち鳴らした。
「頼むッ!気づいてくれッ・・・!」
聞いたことのあるような銃声に、船内にいたシュユーが船内の窓から銃声のした方を確認する。するとそこには、こちらを見ながら必死の形相をしたミアが、ありったけの空砲を打ち鳴らす姿があった。
「ミア殿ッ!?一体どうしてこんなところにッ・・・」
急ぎ窓を開け、彼女に呼びかけるシュユー。
「シュユーッ!中に入れてくれッ!戦場に妙な奴が紛れ込んでいる。そいつがアンタらの船を次々に沈めて回っているんだッ!」
ミアの功績はチン・シーも知っている。彼女を迎え入れとも問題ないであろうと判断したシュユーは、急ぎ部下に指示してミアの回収を命じる。窓から彼女へ準備をするから船体の後方へ行くよう促すと、彼もまたミアを迎え入れる為、船体後方にある開閉扉へと向かった。
小舟やボートを収納する為の開閉扉を開け、ミアを引き入れる。ボードを収納し、船員に案内されているミアの元に、シュユーがやって来ると、何故彼女がここに来たのか事情を伺う。
ミアはこの船に来るまでにあったことを、簡潔に説明した。襲撃されていたチン・シー海賊団の船のこと。そこで出会した謎の少年の姿をした怪物が現れたこと。それが海賊の亡霊とは比べものにならない程の脅威だということなど。
「そうか、大変なところ申し訳ありません。直ぐにチン・シー様の元へ報告しに向かいましょう」
だがその直後、船の奥の方から何やら大きな物音が響き渡る。何事かと、思わず顔を見合わせるミアとシュユー。すると、通路の方から一人の船員が駆け出して来て大きな声で警告を促す。
「敵襲だぁッ!ガキの姿をしたバケモンに、みんな溶かされちまうッ!急ぎ援軍を送ってくれぇーッ!」
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