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神代 コウ

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強奪と逃亡

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 しかし、ハオラン程の手練れが精神攻撃によって身体を乗っ取られるものだろうか。強者というものは、力だけでなく精神面でも強靭な者が多い。故に、簡単な精神の汚染やコントロールを受けることはない。

 もし、相手のスキルや術によって操られるようであれば、それは術者が相手を上回っているということが考えられる。確かに、ロロネー海賊団であるただの亡霊がハオランの身体を乗っ取れるとは思えない。

 それはロロネーも重々承知のこと。それを踏まえて、この男はハオランを自分のモノにする計画を画策していたのだ。本人のものではない、他人の魂を複数一つの身体に入れ込み、容量を溢れさせる。

 圧倒的な数の魂で満たすことで、抵抗する力ごと押し込むのだ。ハオランは、自分の中に入り込んでくる無数の魂の声に、頭が割れそうになる。頭を抱えてフラつく彼に、絶えず魂は入り込んでいく。

 「ぁぁッ・・・あ“あ”あ“ッ!や・・・やめろ!」

 膝から崩れ落ち、足に力が入らなくなる。頭を抱えていた腕がぶらりと身体の側面へ降りて来ると、床に突っ伏すように倒れるハオラン。自分の身体が遠く離れていくような感覚の中で彼は、意識をうしなった。

 大人しくなったハオランに、ゆっくりと歩み寄るロロネー。髪を掴み上げ、その表情を眺めると、意識がないのを確認しそのまま手を離す。部下に彼を運ぶようハンドシグナルを出し、自ら起こした船同士の衝突で、沈没した筈の男の船に彼を連れて行く。

 「さて、目的の一つは完了した。戦いはいよいよ大詰めってかぁ?・・・逃しゃしねぇぜ、チン・シー・・・」 

 周囲一帯を覆い尽くしていた船の残骸は、綺麗な小川に静かに漂う蛍火のように淡い光を撒き散らしながら消滅して行く。そして最後には、まるで初めからここにはロロネーを乗せた一隻の海賊船しかなかったかのように、閑散とした光景に変わった。

 そしてロロネー達を乗せた船は、濃霧の中を進んでいく。本来の目的であるチン・シーのいる本隊へ向けて。





 少年の姿をした水の怪物、“メデューズ”の襲撃を退け、何とか海賊船を脱出したミアは、急ぎこの事を伝える為、チン・シー海賊団の本隊を探す。だが、海域を覆う濃霧は彼女から視界を奪い、音を消し、不安を煽る。

 「クソッ・・・!何だってんだ、アイツは・・・・」

 そう言うと彼女は後ろを向き、視線を落とす。ボードの起こす波でその場では確認できないが、少し後方へ目をやると海面には赤い絵具を垂らしたように、赤黒い靄が出来ていた。

 それはメデューズにやられた彼女の足から滴る血液。あの場では何とか逃げ切ることが出来たが、再び目をつけられれば今度こそ生きては帰れないだろう。それに、彼女は知る由もないが、ロロネー海賊団を始め、メデューズや触手の女“クトゥルプス”は、この濃霧の中で視界を失うこともなければ、音を聞き逃すこともない。

 所謂、地形効果のような恩恵を受けている状態にあるため、基本的に敵軍の有利は揺るがない。その中での孤立は極めて危険なことだろう。するとその道中、ミアは再び孤立した海賊船を発見する。

 形状や船の様子から見て、チン・シー海賊団のものであるのは確か。目的は本隊を見つけることだが、その途中で出会した友軍の船には一声、ロロネー海賊団の他にも注意すべきものがいることを伝えようとした。

 しかし、遠目からでも彼女の目にはその青白い稲光が、嫌でも見えてしまった。それはあの船での戦いを思い起こさせるもの。そして恐らく、今目にしている海賊船でも戦闘が行われ、彼女と同じく雷属性の攻撃を試みているのだろ。それがメデューズの本体へ放ったものなのか、分身体に放ったものなのかまでは分からない。

 「いや、待てよ・・・。戦闘中ということは、今度は複数人で奴と戦うことが出来る。・・・ここで奴を始末しておくべきか・・・?」

 初めてミアがメデューズと遭遇した時、既に海賊船内は殲滅されており、一人で複数の相手をすることになってしまった。だが、今回は戦闘の様子からも分かる通り、属性攻撃を扱える味方がいる。

 魔法であれば、設備を利用した攻撃を仕掛けることなく、直ぐに迎撃出来る。奴
らの目を掻い潜り、先に本隊を見つけ出すことが出来るだろうか。それならばここで一度脅威を退けられれば、友軍に協力を仰ぐことが出来る。

 判断を迫られたミアは、見つけてしまった以上、見捨てることも出来ないと、戦闘中の海賊船に向けて航路を取る。だが、そんな彼女の行動の出鼻を挫くように、ソレは起こった。

 海賊船との距離が縮まり、あと少しといったところで、大きな爆発と共に水の触手がうねうねと、船の側面を突き抜け姿を現したのだ。

 「なッ・・・何だッ!?」

 目を凝らして見ると、水の触手の中には溶解された人間のようなものが、いくつも漂っている。ここでミアは過ちに気がつかされた。倒せるなどとは痴がましい。チン・シー海賊団の本隊と合流するまで、奴には手を出してはならない。

 もし、もう少し早く自分があの海賊船に辿り着いてしまっていたらと思うと、ゾッとして冷や汗と鳥肌が止まらなかった。

 バチバチと燃え上がる海賊船を尻目に、ミアは急ぎ方向転換をして濃霧の中へと姿を消して行った。そんな彼女の気配を感じたのか、船の甲板に姿を現した少年が、彼女の逃げていった方向を、鋭い目つきで睨んでいた。
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