World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
303 / 1,646

力の酷使

しおりを挟む
 ロロネー攻略の糸口を見つけたハオランは、それまで以上に細心の注意を払い、手数を増やしていく。彼の武術を避けきれなくなったロロネーは、手や足を使い彼の攻撃を捌くようになった。

 表情は依然笑みを浮かべたままだが、口数は少なくなり動きは精錬され始めている。だが体術においては、彼の方が一枚も二枚も上手。当然、その動きについて来られる筈もなく、ロロネーの身体を擦っていく。

 「ありゃりゃぁ・・・。やっぱりこのままじゃ抑えられる筈もねぇか・・・」

 ハオランの執拗な細かい攻撃を嫌って、一度後方へ飛び退き距離を空けるロロネー。しかし、彼が手繰り寄せたチャンスを見過ごす筈もなく、今度は同じ轍を踏まぬよう男の着地に合わせ、遠距離から拳を振るい槍のように鋭い衝撃波を放つ。

 「おっ・・・!」

 すると、腹部に手を当てた後、掌を確認するロロネー。その手にはべっとりと男の身体から流れ出た赤い液体でいっぱいになっていた。ハオランの放った一撃が男の腹部を貫き、拳サイズ程の風穴を空けていた。

 ロロネー本人はそれ程驚いた様子はなかったが、それ以上にハオランの方が彼よりも自分の攻撃が命中した事に驚いていた。てっきりまた、身体が蒸気となりダメージを与えられないと思い込んでいたからだ。

 ならば何故、彼の攻撃が突然通り出したのか。きっとロロネーの蒸気は、常に彼の身体を守ってはくれないのだろう。その攻撃が通る条件さえ掴めれば、この男を攻略することができるのかもしれない。

 そしてそれは、この海域一帯を覆う濃霧を晴らすことに繋がる。傷口から滴る血を眺め、ロロネーが呆けている内にと、ハオランは畳み掛けるように追撃を行う。

 未だ動かず、ハオランを無視して自らの身体を見たままのロロネーに、再度素早く鋭い衝撃波を生む正拳突きを放つ。先程の咄嗟に放った一撃とは違い、十分な力を溜める時間があった今度の一撃は、比べ物にならない程の威力を見せた。

 しかし今度の一撃はロロネーの身体を擦り抜け、そこからは煙のような蒸気が血の代わりに吹き出した。より精度と威力、そしてスピードまでもが上回っている筈の攻撃の方が、外れてしまった。

 「ッ・・・!?」

 空かさずロロネーの懐に飛び込んだハオランは、拳と蹴りの連撃を数回叩き込むが、二発目の衝撃波で我に返ったロロネーは、素早いスウェーとステップでこれを躱し、五月蝿い虫を払うかのように初めて、反撃らしい反撃を行ってきた。

 今までにないパターンの動きに、思わず距離を取るハオラン。すると、男は小声で何か不思議そうな表情で言葉を漏らす。

 「・・・酷使させ過ぎちまったか・・・?」

 もうこの男の言葉に耳を傾けてはいけない。分からないからこそ、入ってくる情報が彼の思考を惑わせる。ロロネーの身体の事、海賊の亡霊の事、そして濃霧の事。真相を確かめるには、自分の目で確かめるしかない。

 空いた穴が塞がり、ロロネーの戯けた表情が少しだけ引き締まったように思えた。すると、今度はロロネーの方からハオランとの距離を詰めて来る。そして力一杯握りしめた拳を、脇に抱え前方へ大きく突き出す。

 ハオランのコンパクトな攻撃に比べ、予備動作のあるロロネーの攻撃は、武術を心得た者達であれば容易く避けられる程度のものではあるのだが、自ら攻撃してくるロロネーを探ろうと、ギリギリまで男の拳を目で追っていた。

 拳が突き出されると、向かってくる段階でその異変は起きた。何とロロネーの拳は蜃気楼のように揺らめいていたのだ。それに気付いたハオランは、紙一重で避けようと思っていたが、急遽サイドステップを踏んで少し大げさに避けた。

 「・・・?」

 彼が自分の拳に警戒したのを見て、ロロネーは笑う。この男も、通常の攻撃方法ではハオランに敵わぬことは理解していた。だからこそ、使役するモンスターについては語ったものの、自らのことについてはお茶を濁している。

 「いい判断だが・・・それじゃぁ俺ぁ倒せねぇぜ?」

 ハオランの顔を覗き込み、舌を垂れ流し左右に振って挑発する。憎たらしいその顔面に拳を叩き込もうと、下から顎を跳ね上げるアッパーを放つ。しかし、読んでいたとばかりにタイミングを合わせ、上半身を反らして躱すロロネー。

 スウェーで避けたという事は、下半身がある程度固定される。ハオランは右のアッパーが空を切る一打に終わると、その勢いを利用し回し蹴りで前方を薙ぎ払う。ロロネーの脇腹へと迫る蹴り。

 本来であれば、このまま男を蹴り飛ばしているところだが、ロロネーは避ける素振りも無く、蹴りは男の身体を擦り抜けていく。そして彼の蹴りの後を追うように煙が付いていく。

 「・・・迂闊だったな、二枚目ッ!」

 すると、煙は熱を帯び始め水蒸気爆発を引き起こした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

処理中です...