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内なる怪物
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大きく外へと投げ出されたツクヨは、徐々に離れていく船の方へと視線を向ける。時間にすればあっという間の出来事だったが、宙を舞う彼にはそれが、スローモーションのようにゆっくり進む時の中であるかに思えた。
外から見る海賊船はボロボロで、恐らくあの女にやられたであろう破損の数々が見て取れる。一通り眺めた後、ツクヨの身体が突き抜けてきた穴に目をやる。そこからは依然、暴れ回る女の触手が船員達を襲う光景があった。
「・・・ダメだ、私にはやはりあの時の惨状を乗り越えることは・・・出来なかった。私には・・・俺には・・・無理だったよ、十六夜・・・蜜月・・・」
仕事や金銭を盾に、二人との時間を蔑ろにしてきたツクヨは、後悔していた。故にあの凄惨な出来事を招いたのは、自身を正当化する言い訳をしてきた自分への罰なのだと。
二人は自分といて幸せだったのだろうか、楽しかったのだろうか。そんな二人を守ることも出来ず、居なくなってしまった二人を探し出すことさへ出来なかった。希望を持ってこちらの世界に居座っていたが、結局のところ根本的な部分で人は変われぬのだと、ツクヨは自らを諦める言い訳を思っていた。
すると、彼の見ていた穴から、ツバキの応急手当てとツクヨの面倒を見てくれた船員の一人が、迫りくる触手から逃れようと逃げ惑う姿が見えた。だが、そんな儚い願いも叶わずその船員の女性は、足を触手に絡め取られ転んでしまう。
恐怖に大粒の涙を流し、床を掻き毟るように両腕を力一杯動かし、助けを求めている。そしてその女性が顔を傾けた時、宙を舞っていたツクヨと目が合う。彼女は彼の方を見ながら何かを大きな声で叫んでいるが、ツクヨの元にその思いは届かない。
引き摺り込まれるように床を滑り彼女の姿が見えなくなると、その直後に床へ赤黒いドロッとした液体が撒き散らされた。彼女がその後どうなったかなど、想像するにた易い。故に彼の中に、再びあの時の恐怖が蘇る。
また救えなかった。自分は同じことを繰り返してしまう。何も変わらない、変えられない。恐怖に押し潰される自分に吐き気がする。それでも動こうとしない自分の身体が嫌になる。
「・・・やめてくれ・・・。もう・・・やめてくれよッ・・・!」
自分にも、彼を取り巻く世界・環境にも何もかもに嫌気がさし、内から漏れる呻き声と止まらぬ涙が溢れ出し感情が極まった時、彼の身体は聖都でシュトラールとの戦いで見せた、赤黒いオーラを放つ怪物のような姿へと変貌した。
周囲に撒き散らす憎悪の殺気を爆風のように撒き散らし、鋭い眼光を海賊船へ送る。それまで感じることのなかった悍しく猛々しい殺気を触手の女が捕らえられない筈もなく、その衝撃に何事かと思わず手を止め、殺気のする方を確かめると、ツクヨを飛ばした穴から顔を覗かせる。
「何ッ!?一体これは・・・ッ!!」
するとそこには、人の姿を逸脱した怪物が宙に舞っている光景があった。彼の実力は確かにその身体に触れた時に、記憶と共に調べた筈。そこにはこれ程の力を隠し持つことなど不可能。その瞳に映る、自らを敵視する怪物の姿に、触手の女は開いた口が塞がらなかった。
しかし、どんなに強力な力を解放しようと、その怪物がいるのは周囲を海に囲まれた空中。翼は無く、周りに利用できる物など何一つ無い場所で、この海賊船に戻って来ることなどできる筈もない。
怪物の殺気に後退りする触手の女だったが、その変えようの無い彼の状態が後ろ盾となり、女の中に僅かな余裕が垣間見える。
「どッ・・・どんな姿になろうと、あの場からここへ帰って来る事などできる筈もない!私の邪魔はさせないわ」
宙を落ちていく怪物は身体を回転させ、手にした自らの剣で遠心力を乗せた凄まじい斬撃を海へ放つ。すると、それは宛らモーゼの奇跡と称される“葦の海の奇跡”のように、彼の元から海賊船へ向けて海面が裂けて割れた。
しかし、神話のように海面は割れたままではなく、直ぐに海水を飲み込み閉じようとしていた。だが割れた海を渡るのではなく、元に戻ろうとする海面の動きこそが怪物の目的だった。
周囲の海面を飲み込んでいく裂け目は、辺りに散らばった海賊船の残骸を集め、川に架かる飛び石のように、瓦礫の橋が海賊船に向けて架ったのだ。素早い身のこなしで海面に浮かぶ瓦礫を渡っていき、触手の女に吹き飛ばされた穴から船内へと帰って来る。
床に減り込むような着地音に、背筋が凍りついたように驚く触手の女。船員への攻撃を怪物に変え、全ての触手をもって迎え撃つ。触手の女に向け駆け出す怪物は、迫る触手を一本二本と次々に引き千切り、逆に触手を掴むと女を自分の元へと引っ張り込む。
抗えぬ圧倒的力に引き寄せられ、床から足が離れ宙に浮く。凄まじいスピードで引き寄せ、怪物は全身全霊の力を込めた拳を腹部に叩き込む。今度は触手の女の身体がピンボールのように吹き飛び、船内の壁を突き抜け外へと飛び出していった。
「ぐッ・・・ぁぁッ!」
凄まじい衝撃に呼吸すらままならない触手の女。飛んで行った女を追うように海賊船を飛び出した怪物は、自分で吹き飛ばしたにも関わらずその勢いに追いつき、追い討ちの斬撃を触手の女に放つ。
「グォォオオオッ!!」
咆哮と共に放たれた鋭い一閃は、女の身体を上半身と下半身に両断した。
「・・・あ“あ”ぁッ・・ぁ・・・」
海へと落ちていく上半身だけとなった女がその最中見た光景は、自身の身体から噴き出した返り血を浴び、その身に纏う悍しいオーラが身体中から蒸気のように溢れ出す怪物の姿。
そしてその怪物は、海賊船に一直線に伸びるロープをその手に握っていた。吹き飛ばした女を追う僅かな助走の間に、怪物は船内に落ちていたロープを拾い上げ、海に落ちても海賊船に戻れるよう、命綱を用意していたのだった。
外から見る海賊船はボロボロで、恐らくあの女にやられたであろう破損の数々が見て取れる。一通り眺めた後、ツクヨの身体が突き抜けてきた穴に目をやる。そこからは依然、暴れ回る女の触手が船員達を襲う光景があった。
「・・・ダメだ、私にはやはりあの時の惨状を乗り越えることは・・・出来なかった。私には・・・俺には・・・無理だったよ、十六夜・・・蜜月・・・」
仕事や金銭を盾に、二人との時間を蔑ろにしてきたツクヨは、後悔していた。故にあの凄惨な出来事を招いたのは、自身を正当化する言い訳をしてきた自分への罰なのだと。
二人は自分といて幸せだったのだろうか、楽しかったのだろうか。そんな二人を守ることも出来ず、居なくなってしまった二人を探し出すことさへ出来なかった。希望を持ってこちらの世界に居座っていたが、結局のところ根本的な部分で人は変われぬのだと、ツクヨは自らを諦める言い訳を思っていた。
すると、彼の見ていた穴から、ツバキの応急手当てとツクヨの面倒を見てくれた船員の一人が、迫りくる触手から逃れようと逃げ惑う姿が見えた。だが、そんな儚い願いも叶わずその船員の女性は、足を触手に絡め取られ転んでしまう。
恐怖に大粒の涙を流し、床を掻き毟るように両腕を力一杯動かし、助けを求めている。そしてその女性が顔を傾けた時、宙を舞っていたツクヨと目が合う。彼女は彼の方を見ながら何かを大きな声で叫んでいるが、ツクヨの元にその思いは届かない。
引き摺り込まれるように床を滑り彼女の姿が見えなくなると、その直後に床へ赤黒いドロッとした液体が撒き散らされた。彼女がその後どうなったかなど、想像するにた易い。故に彼の中に、再びあの時の恐怖が蘇る。
また救えなかった。自分は同じことを繰り返してしまう。何も変わらない、変えられない。恐怖に押し潰される自分に吐き気がする。それでも動こうとしない自分の身体が嫌になる。
「・・・やめてくれ・・・。もう・・・やめてくれよッ・・・!」
自分にも、彼を取り巻く世界・環境にも何もかもに嫌気がさし、内から漏れる呻き声と止まらぬ涙が溢れ出し感情が極まった時、彼の身体は聖都でシュトラールとの戦いで見せた、赤黒いオーラを放つ怪物のような姿へと変貌した。
周囲に撒き散らす憎悪の殺気を爆風のように撒き散らし、鋭い眼光を海賊船へ送る。それまで感じることのなかった悍しく猛々しい殺気を触手の女が捕らえられない筈もなく、その衝撃に何事かと思わず手を止め、殺気のする方を確かめると、ツクヨを飛ばした穴から顔を覗かせる。
「何ッ!?一体これは・・・ッ!!」
するとそこには、人の姿を逸脱した怪物が宙に舞っている光景があった。彼の実力は確かにその身体に触れた時に、記憶と共に調べた筈。そこにはこれ程の力を隠し持つことなど不可能。その瞳に映る、自らを敵視する怪物の姿に、触手の女は開いた口が塞がらなかった。
しかし、どんなに強力な力を解放しようと、その怪物がいるのは周囲を海に囲まれた空中。翼は無く、周りに利用できる物など何一つ無い場所で、この海賊船に戻って来ることなどできる筈もない。
怪物の殺気に後退りする触手の女だったが、その変えようの無い彼の状態が後ろ盾となり、女の中に僅かな余裕が垣間見える。
「どッ・・・どんな姿になろうと、あの場からここへ帰って来る事などできる筈もない!私の邪魔はさせないわ」
宙を落ちていく怪物は身体を回転させ、手にした自らの剣で遠心力を乗せた凄まじい斬撃を海へ放つ。すると、それは宛らモーゼの奇跡と称される“葦の海の奇跡”のように、彼の元から海賊船へ向けて海面が裂けて割れた。
しかし、神話のように海面は割れたままではなく、直ぐに海水を飲み込み閉じようとしていた。だが割れた海を渡るのではなく、元に戻ろうとする海面の動きこそが怪物の目的だった。
周囲の海面を飲み込んでいく裂け目は、辺りに散らばった海賊船の残骸を集め、川に架かる飛び石のように、瓦礫の橋が海賊船に向けて架ったのだ。素早い身のこなしで海面に浮かぶ瓦礫を渡っていき、触手の女に吹き飛ばされた穴から船内へと帰って来る。
床に減り込むような着地音に、背筋が凍りついたように驚く触手の女。船員への攻撃を怪物に変え、全ての触手をもって迎え撃つ。触手の女に向け駆け出す怪物は、迫る触手を一本二本と次々に引き千切り、逆に触手を掴むと女を自分の元へと引っ張り込む。
抗えぬ圧倒的力に引き寄せられ、床から足が離れ宙に浮く。凄まじいスピードで引き寄せ、怪物は全身全霊の力を込めた拳を腹部に叩き込む。今度は触手の女の身体がピンボールのように吹き飛び、船内の壁を突き抜け外へと飛び出していった。
「ぐッ・・・ぁぁッ!」
凄まじい衝撃に呼吸すらままならない触手の女。飛んで行った女を追うように海賊船を飛び出した怪物は、自分で吹き飛ばしたにも関わらずその勢いに追いつき、追い討ちの斬撃を触手の女に放つ。
「グォォオオオッ!!」
咆哮と共に放たれた鋭い一閃は、女の身体を上半身と下半身に両断した。
「・・・あ“あ”ぁッ・・ぁ・・・」
海へと落ちていく上半身だけとなった女がその最中見た光景は、自身の身体から噴き出した返り血を浴び、その身に纏う悍しいオーラが身体中から蒸気のように溢れ出す怪物の姿。
そしてその怪物は、海賊船に一直線に伸びるロープをその手に握っていた。吹き飛ばした女を追う僅かな助走の間に、怪物は船内に落ちていたロープを拾い上げ、海に落ちても海賊船に戻れるよう、命綱を用意していたのだった。
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