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無人船の少年
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霧の中を進むミアが、最初の一隻目の船を見つけ出す。白くボヤけた視界の中で、黒い影が徐々に濃くなり、その姿形を映し出していく。
しかし、ある程度近づいたところでそのシルエットを目撃したミアは目前に広がるその姿に目を疑う。彼女の目指していたチン・シーの海賊船のように整ったものではなく、ロロネーの海賊船のようにところどころ損壊が激しく、今にも沈没してしまいそうな外見をしていた。
「ッ・・・!?敵船か・・・?もうこんな所まできていたのか?」
まだ出発して間もないミアは、周囲にある船は味方の船であるだろうと踏んでおり、いざ目の前に現れたその海賊船に冷静さをかいてしまっていた。だがよく見ればその違いに気付く。
船体は黒というにはやや赤寄りの暗さであり、マストに掲げられた帆には僅かにチン・シー海賊団の海賊旗のマークが伺え、ゆらゆらと大きな音を立てることもなく靡いていた。
「いや・・・そんな筈はないか・・・。だがあの損傷、亡霊や火矢だけでここまでの損壊にはならない。強力な個体がいたのか、或いは・・・」
彼女が経験した敵襲では、今目の前にある海賊船のような損壊は考えづらい。これはミアやツクヨが危惧いていた、孤立した部隊への襲撃に当てはまる。まるで砲撃の雨でも受けたかのような損壊に警戒しつつ、ミアは船に誰かいないか探る為、ボードをその海賊船へ寄せる。
入り口と呼ぶには大きく空いた側面の船体から中に入り込み、ボードを手に取ると近くの扉もない船室に置き、人の気配のしない海賊船内を探索する。波に揺られ木材の軋む音と、波が立てるこの光景とは不釣り合いに穏やかな水飛沫が、何度もミアの周りで奏でられている。
人を探すのであれば、本来声を掛けるようなものだが、あまりの静けさに物音を立てる事さえ拒まれる。コツコツと彼女の履いている靴が、古びた木材を軋ませ足音を助長する。ゆっくり船内を探っていくが、ミアの知っているチン・シーの海賊船とは違い、戦闘の激しさを物語るように壁や床に血飛沫が降りかかっている。
潮風に触れ、血痕の表面は少し乾燥しているようだ。だが、問題の遺体が未だに一つとして見当たらない。外観からは見えなかった部分へ進むと、火矢によって灯された燃後に残る小さな火がまだ燻っている。
「誰もいないのか・・・?」
船内を巡る中、先ず真先に向かった操舵室には誰も居らず、舵を握る者を失った船は波に揺られるがまま、カラカラと音を立てて自由気ままに回っていた。無論、ここにも遺体は無く、あるのは血痕と損傷の跡だけ。
階段を上がり、甲板の方へと向かおうとした時、僅かにそれまでは聞こえてこなかった物音が、ミアの元へ届けられる。誰も見当たらないということで警戒心の緩んでいたミアの足取りが、急に緊張感のあるものへと変わる。
そこにいるのは生き残った者か、それとも襲撃者の影か。ミアが音を立てぬよう細心の注意を払いながら、ゆっくり甲板を見渡す。すると、船の先、船首の辺りに蹲ってモゾモゾと動く小さな人影が見えた。
漸く見つけた人の気配だが、とても安堵する気持ちや気軽に声をかけられるような雰囲気ではない。そして何より、その光景は何か不穏な気配を感じさせる異様な空気を漂わせている。
異様な光景の中心ともいえるその小さな人影が、ミアにはとても味方につくようなものには感じられなかった。故に彼女は、気配を悟られぬよう大きなスコープ付きの銃を取り出すと、そのまま床にうつ伏せになり身体を固定する。
ミアはスコープを覗き、スナイパーライフルの銃口をその小さな人影の頭部に向ける。レンズ越しに見える人影は、何かを終えたように俯いていた頭を上げ、ゆっくり立ち上がると、まるで気付いていたかのようにミアの方へ振り返る。
彼女へ向けるその人影の顔は、口を中心に真っ赤に染まっており、あどけない少年の見た目をしていた。ミアと目が合ったことを感じたのか、少年はその悍しく鮮血に染まる顔を、その瞳をいっぱいに見開き、満面の笑みに変えた。
背筋の凍りつくような悪寒を感じたミアは、躊躇うことなくスナイパーライフルの引き金を引いた。大きな銃声と共に、弾は見事少年の頭部に命中すると、頭部を後方へ跳ね退け、顔の真ん中に大きな風穴を開けた。
だが、少年の異様さはそこからさらに増し、後方へ仰け反った頭を何事も無かったかのように起こすと、何をするでもなくミアの方を棒立ちの状態で向いているのだ。
あれだけ大きな損傷を与えたのにも関わらず、少年からは一滴の血も流れない。その様子からミアは、この少年があの海賊の亡霊と同じく、人の類いのものでないことを直ぐに察した。
不気味に立ち尽くす少年の姿をした何かに、もう一発撃ち込もうと再び狙いを定めようとしたその時、彼女の背後や周囲から無機質な視線を向けられているかのような気配を感じ、直ぐ様狙撃を中断し、横へ一回転がりながら腰を上げて片膝をつくミア。
銃をスナイパーライフルから、自身の錬金術で作った属性弾を込められるリボルバーに持ち替えると、周囲の複数の気配に順々と銃口を向けた。
しかし、ある程度近づいたところでそのシルエットを目撃したミアは目前に広がるその姿に目を疑う。彼女の目指していたチン・シーの海賊船のように整ったものではなく、ロロネーの海賊船のようにところどころ損壊が激しく、今にも沈没してしまいそうな外見をしていた。
「ッ・・・!?敵船か・・・?もうこんな所まできていたのか?」
まだ出発して間もないミアは、周囲にある船は味方の船であるだろうと踏んでおり、いざ目の前に現れたその海賊船に冷静さをかいてしまっていた。だがよく見ればその違いに気付く。
船体は黒というにはやや赤寄りの暗さであり、マストに掲げられた帆には僅かにチン・シー海賊団の海賊旗のマークが伺え、ゆらゆらと大きな音を立てることもなく靡いていた。
「いや・・・そんな筈はないか・・・。だがあの損傷、亡霊や火矢だけでここまでの損壊にはならない。強力な個体がいたのか、或いは・・・」
彼女が経験した敵襲では、今目の前にある海賊船のような損壊は考えづらい。これはミアやツクヨが危惧いていた、孤立した部隊への襲撃に当てはまる。まるで砲撃の雨でも受けたかのような損壊に警戒しつつ、ミアは船に誰かいないか探る為、ボードをその海賊船へ寄せる。
入り口と呼ぶには大きく空いた側面の船体から中に入り込み、ボードを手に取ると近くの扉もない船室に置き、人の気配のしない海賊船内を探索する。波に揺られ木材の軋む音と、波が立てるこの光景とは不釣り合いに穏やかな水飛沫が、何度もミアの周りで奏でられている。
人を探すのであれば、本来声を掛けるようなものだが、あまりの静けさに物音を立てる事さえ拒まれる。コツコツと彼女の履いている靴が、古びた木材を軋ませ足音を助長する。ゆっくり船内を探っていくが、ミアの知っているチン・シーの海賊船とは違い、戦闘の激しさを物語るように壁や床に血飛沫が降りかかっている。
潮風に触れ、血痕の表面は少し乾燥しているようだ。だが、問題の遺体が未だに一つとして見当たらない。外観からは見えなかった部分へ進むと、火矢によって灯された燃後に残る小さな火がまだ燻っている。
「誰もいないのか・・・?」
船内を巡る中、先ず真先に向かった操舵室には誰も居らず、舵を握る者を失った船は波に揺られるがまま、カラカラと音を立てて自由気ままに回っていた。無論、ここにも遺体は無く、あるのは血痕と損傷の跡だけ。
階段を上がり、甲板の方へと向かおうとした時、僅かにそれまでは聞こえてこなかった物音が、ミアの元へ届けられる。誰も見当たらないということで警戒心の緩んでいたミアの足取りが、急に緊張感のあるものへと変わる。
そこにいるのは生き残った者か、それとも襲撃者の影か。ミアが音を立てぬよう細心の注意を払いながら、ゆっくり甲板を見渡す。すると、船の先、船首の辺りに蹲ってモゾモゾと動く小さな人影が見えた。
漸く見つけた人の気配だが、とても安堵する気持ちや気軽に声をかけられるような雰囲気ではない。そして何より、その光景は何か不穏な気配を感じさせる異様な空気を漂わせている。
異様な光景の中心ともいえるその小さな人影が、ミアにはとても味方につくようなものには感じられなかった。故に彼女は、気配を悟られぬよう大きなスコープ付きの銃を取り出すと、そのまま床にうつ伏せになり身体を固定する。
ミアはスコープを覗き、スナイパーライフルの銃口をその小さな人影の頭部に向ける。レンズ越しに見える人影は、何かを終えたように俯いていた頭を上げ、ゆっくり立ち上がると、まるで気付いていたかのようにミアの方へ振り返る。
彼女へ向けるその人影の顔は、口を中心に真っ赤に染まっており、あどけない少年の見た目をしていた。ミアと目が合ったことを感じたのか、少年はその悍しく鮮血に染まる顔を、その瞳をいっぱいに見開き、満面の笑みに変えた。
背筋の凍りつくような悪寒を感じたミアは、躊躇うことなくスナイパーライフルの引き金を引いた。大きな銃声と共に、弾は見事少年の頭部に命中すると、頭部を後方へ跳ね退け、顔の真ん中に大きな風穴を開けた。
だが、少年の異様さはそこからさらに増し、後方へ仰け反った頭を何事も無かったかのように起こすと、何をするでもなくミアの方を棒立ちの状態で向いているのだ。
あれだけ大きな損傷を与えたのにも関わらず、少年からは一滴の血も流れない。その様子からミアは、この少年があの海賊の亡霊と同じく、人の類いのものでないことを直ぐに察した。
不気味に立ち尽くす少年の姿をした何かに、もう一発撃ち込もうと再び狙いを定めようとしたその時、彼女の背後や周囲から無機質な視線を向けられているかのような気配を感じ、直ぐ様狙撃を中断し、横へ一回転がりながら腰を上げて片膝をつくミア。
銃をスナイパーライフルから、自身の錬金術で作った属性弾を込められるリボルバーに持ち替えると、周囲の複数の気配に順々と銃口を向けた。
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