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濃霧の中の真偽
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異変は直ぐにミアやツクヨを乗せた船にも起き始めた。チン・シーの指示通り、濃霧の向こうから飛んで来る火矢を撃ち落としながら、属性弾の射程範囲内に入った亡霊へ凍結弾を撃ち込んでいくミア。
「霧の向こうから何か来る・・・。アレは・・・船か・・・?」
彼女のスコープに映ったのは、それまで彼らが戦っていた酷く破損した黒いボロボロの船ではなく、猛々しく紅い船体をした、今ミアが正しく乗っている船と良くに似た船だった。
そして良く覗いてみると、火矢を放っているのも彼女の周囲にいる船員と同じ格好をした者達のように見える。同じ姿形をした者達が、互いに同じ事をしている。まるで、そこに巨大な鏡でもあるかのように姿を現す船。
濃霧を進み、漸く彼らの肉眼でも確認できる距離にまでやって来ると、火矢を放っていた船員達は思わずその手を止める。
「まッ・・・待てッ!友軍だ!前方よりこちらに向かって来るのは、我々の軍の船だ・・・」
ミア達側の船も、霧の中からやって来た船も、互いの存在に気づき火矢を放つ手を止め、濃霧の中を飛び交う紅い灯火はその姿を消した。
「どういう事だ・・・?敵だと思っていたのは、味方の船だった・・・と、言う訳か・・・?」
再びスコープを除き、前方からやって来る船の様子を確認するミア。そこには、彼女の乗る船の船員達と同じく、唖然とし戸惑う船員達の姿が見えた。どうやら向こうも思うことは同じく、こちらを敵と判断し攻撃を仕掛けていたようだ。
だが、ふと彼女はある事を思い出す。ミア達を敵と勘違いし飛んで来たのは、チン・シーのリンクによるシュユーの力の共有、エンチャントをして矢に炎を宿した火矢だけではなく、彼女は確かにもう一つの脅威にも銃口を向けていた筈。
それは、彼らに混乱を招き、一度は窮地に追いやった海賊姿の亡霊だ。火矢と共に亡霊も向こう側からやって来ていたのを思い出したミアは、すれ違うように近付けた友軍の乗員にあることを尋ねた。
「おい、そこの。アンタ達の船に飛んで来たのは、こちらの火矢だけか?」
声を張り、質問をするミアに周囲の船員達は彼女の方に顔を向けて、その意味を考え始める。そして彼らもその疑問に気付いたように驚き、周囲の者達と各々の頭の中を共有し、答え合わせをする様にざわざわと声が上がる。
ミアに質問された船員が、自身の船にいる仲間達と話を共有し確認を取る。火矢の他に飛んで来たものがあったのかどうかを。そして彼らの答えは一律に同じものであったが、彼女の求めていた回答ではなかった。
「いや・・・矢だけじゃないッ・・・。アンタらの船の方から、あの亡霊も飛んで来ていたぞ」
亡霊はミア達の船にだけではなく、彼らの船の方にも飛んで来ていたようだ。そしてそれは互いの方角からやって来たと言うのだ。
もし、自分達の船にしか亡霊が飛んで来ていないとなれば、そこから何かヒントが得られるのかもしれないと思っていたが、少なくともこの二隻には分け隔てなく、亡霊はやって来ていたということになる。
彼らの質疑応答をの一部始終を聞いていた船員達が、何やら騒がしくなっているのに気付く。どうやら彼らは、先程の船員の言った言葉が気に食わなかったようで、口論になっているようだ。
「お前らの方からも、あの亡霊は飛んで来ていたんだ。そのせいで死んだ奴だっている。お前らがこっちに流れて来て“擦り”つけなければなッ!」
「俺らは指示通り船を動かしていたんだ!お前らがチンタラしてっから距離が狂っちまったんだろうがッ!自分のミスをこっちのせいにいてんじゃねぇぞ!」
気の立った船員同士が互いの船に乗り込み、胸柄を掴み殴り合う事態にまで発展してしまう。ロロネーの仕向けた予期せぬ未知の攻撃に、彼らの内にも過度なストレスや不安が募ってしまっていたのだろう。
それが互いを疑心暗鬼に追い込み、仲間割れを引き起こさせてしまった。ロロネーがそこまで計算していたのかは分からないが、周りの状況や他の船がどうなっているのかも分からないこの状況において、これ程の事態になるとは思っていなかった。
「よさねぇかッ!今はそんなことで言い争ってる場合じゃねぇ!直ぐに自分の持ち場に戻って船を動かすんだ」
中には冷静な者もいたようだ。仲裁に入り各々のやるべき事を全うするよう促すと、血が上っていた彼らも頭を冷やしたのか、掴んでいた手を離しそれぞれの船へと戻っていった。
「船長への通信はどうだ?アタシらの船だけこんな事になっている訳でもあるまいし・・・。事態を収束させられるのは彼女なんじゃないのか?」
ミアは彼らに、チン・シーとの連絡を図るよう伝える。だが、戦闘をしていた者達は知らなかったようで、彼女の言葉を聞いていた船員の一人が、冷静にその事について教えてくれた。
「それが・・・火矢が飛び交い始め、霧がその濃さをますます深めた頃から通信機器の調子が、どうにもおかしいんだ・・・。何度か通信を試みているんだが、船長の船はおろか、他の船とも通信が繋がらねぇんだ・・・」
霧が濃くなってからということは、この霧事態に電波を妨害するような効果があるということなのだろうか。だとしたら、それは極めてマズいじょうきょうだと言える。これだけ何も見えない中で孤立してしまえば、ロロネーの思う壺だろう。
戦力を削がれ孤立した海賊船を、各個撃破していけば数で勝るチン・シーの大船団を、一気に攻めることが出来る。何が確かなことで、何が異変と呼べるものなのか判断がつけられなくなってしまった中、どうする事が現状を打開する事に繋がるのか。先ずはそこから考えていかなければならない。
「霧の向こうから何か来る・・・。アレは・・・船か・・・?」
彼女のスコープに映ったのは、それまで彼らが戦っていた酷く破損した黒いボロボロの船ではなく、猛々しく紅い船体をした、今ミアが正しく乗っている船と良くに似た船だった。
そして良く覗いてみると、火矢を放っているのも彼女の周囲にいる船員と同じ格好をした者達のように見える。同じ姿形をした者達が、互いに同じ事をしている。まるで、そこに巨大な鏡でもあるかのように姿を現す船。
濃霧を進み、漸く彼らの肉眼でも確認できる距離にまでやって来ると、火矢を放っていた船員達は思わずその手を止める。
「まッ・・・待てッ!友軍だ!前方よりこちらに向かって来るのは、我々の軍の船だ・・・」
ミア達側の船も、霧の中からやって来た船も、互いの存在に気づき火矢を放つ手を止め、濃霧の中を飛び交う紅い灯火はその姿を消した。
「どういう事だ・・・?敵だと思っていたのは、味方の船だった・・・と、言う訳か・・・?」
再びスコープを除き、前方からやって来る船の様子を確認するミア。そこには、彼女の乗る船の船員達と同じく、唖然とし戸惑う船員達の姿が見えた。どうやら向こうも思うことは同じく、こちらを敵と判断し攻撃を仕掛けていたようだ。
だが、ふと彼女はある事を思い出す。ミア達を敵と勘違いし飛んで来たのは、チン・シーのリンクによるシュユーの力の共有、エンチャントをして矢に炎を宿した火矢だけではなく、彼女は確かにもう一つの脅威にも銃口を向けていた筈。
それは、彼らに混乱を招き、一度は窮地に追いやった海賊姿の亡霊だ。火矢と共に亡霊も向こう側からやって来ていたのを思い出したミアは、すれ違うように近付けた友軍の乗員にあることを尋ねた。
「おい、そこの。アンタ達の船に飛んで来たのは、こちらの火矢だけか?」
声を張り、質問をするミアに周囲の船員達は彼女の方に顔を向けて、その意味を考え始める。そして彼らもその疑問に気付いたように驚き、周囲の者達と各々の頭の中を共有し、答え合わせをする様にざわざわと声が上がる。
ミアに質問された船員が、自身の船にいる仲間達と話を共有し確認を取る。火矢の他に飛んで来たものがあったのかどうかを。そして彼らの答えは一律に同じものであったが、彼女の求めていた回答ではなかった。
「いや・・・矢だけじゃないッ・・・。アンタらの船の方から、あの亡霊も飛んで来ていたぞ」
亡霊はミア達の船にだけではなく、彼らの船の方にも飛んで来ていたようだ。そしてそれは互いの方角からやって来たと言うのだ。
もし、自分達の船にしか亡霊が飛んで来ていないとなれば、そこから何かヒントが得られるのかもしれないと思っていたが、少なくともこの二隻には分け隔てなく、亡霊はやって来ていたということになる。
彼らの質疑応答をの一部始終を聞いていた船員達が、何やら騒がしくなっているのに気付く。どうやら彼らは、先程の船員の言った言葉が気に食わなかったようで、口論になっているようだ。
「お前らの方からも、あの亡霊は飛んで来ていたんだ。そのせいで死んだ奴だっている。お前らがこっちに流れて来て“擦り”つけなければなッ!」
「俺らは指示通り船を動かしていたんだ!お前らがチンタラしてっから距離が狂っちまったんだろうがッ!自分のミスをこっちのせいにいてんじゃねぇぞ!」
気の立った船員同士が互いの船に乗り込み、胸柄を掴み殴り合う事態にまで発展してしまう。ロロネーの仕向けた予期せぬ未知の攻撃に、彼らの内にも過度なストレスや不安が募ってしまっていたのだろう。
それが互いを疑心暗鬼に追い込み、仲間割れを引き起こさせてしまった。ロロネーがそこまで計算していたのかは分からないが、周りの状況や他の船がどうなっているのかも分からないこの状況において、これ程の事態になるとは思っていなかった。
「よさねぇかッ!今はそんなことで言い争ってる場合じゃねぇ!直ぐに自分の持ち場に戻って船を動かすんだ」
中には冷静な者もいたようだ。仲裁に入り各々のやるべき事を全うするよう促すと、血が上っていた彼らも頭を冷やしたのか、掴んでいた手を離しそれぞれの船へと戻っていった。
「船長への通信はどうだ?アタシらの船だけこんな事になっている訳でもあるまいし・・・。事態を収束させられるのは彼女なんじゃないのか?」
ミアは彼らに、チン・シーとの連絡を図るよう伝える。だが、戦闘をしていた者達は知らなかったようで、彼女の言葉を聞いていた船員の一人が、冷静にその事について教えてくれた。
「それが・・・火矢が飛び交い始め、霧がその濃さをますます深めた頃から通信機器の調子が、どうにもおかしいんだ・・・。何度か通信を試みているんだが、船長の船はおろか、他の船とも通信が繋がらねぇんだ・・・」
霧が濃くなってからということは、この霧事態に電波を妨害するような効果があるということなのだろうか。だとしたら、それは極めてマズいじょうきょうだと言える。これだけ何も見えない中で孤立してしまえば、ロロネーの思う壺だろう。
戦力を削がれ孤立した海賊船を、各個撃破していけば数で勝るチン・シーの大船団を、一気に攻めることが出来る。何が確かなことで、何が異変と呼べるものなのか判断がつけられなくなってしまった中、どうする事が現状を打開する事に繋がるのか。先ずはそこから考えていかなければならない。
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