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拾われた命
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シュユーの言う、チン・シーの能力が何なのか、ミアとツクヨにはそれがどんなクラスなのかは分からなかったが、その能力自体の大まかな力については、大体想像がついた。
要するにチン・シーがハオランの力の一部を、他の船員に共有するという能力という事だろう。更に恐ろしいのは、それが複数人に共有されるということだ。もし、共有する元となる人物が強ければ強いほど、その力を多くの人間に共有させ、最強の部隊が誕生する。
だが、これだけ協力な能力であれば、相応のデメリットもあるに違いない。そうでなければ、チームで行動する者達の中に一人は欲しいメジャーなクラスになっているに違いない。
シンやミアがプレイしていたWoFのゲーム内や、転移出来る様になった後の旅の道中に、そのような能力を持った人物に一度も遭遇していない上に、何処の情報にもそんな能力を持った者の存在は確認出来ていない。
グレイスの裁定者と同様、珍しいクラスであることは変わりない。その共有する能力が故に、多くの部下を抱え大船団を築き上げたのだろう。自身の能力を最大限に活かすための最適な組織を作ったものだと、ミアは感心した。
「チン・シーのクラスとは一体何だ?見たことがないぞ、そんな能力」
「力を共有出来るのなら、部隊を鍛える必要もない・・・ということですか?」
ミアとツクヨが質問ばかりになってしまうのも無理もない。レースの優勝候補とはいえ、その未知の能力に頼っていいものなのか。そして折角ここまで来たのに、彼らに恩を得ることもできず、逆に匿ってもらってしまっては、ツバキの回復をしレースへ復帰するという目的を果たせなくなってしまう。
しかし、自らの船長の能力を明かすことなど出来ないようで、シュユーはそれ以上の追求には答えられないと、共有の能力について話そうとはしなかった。だが、ツクヨの言っていた部隊を鍛える必要がないというのには、首を横に振った。
「力を共有する者達の鍛錬は欠かせません。全く戦闘を行えない者がハオランの力を共有すれば、短時間しか力を継続出来ず、その身体は彼の力に耐え切れずに崩壊してしまうのです」
やはりミアの思っていた通り、この力にはデメリットがあるようで、強過ぎる力を共有すれば、力を授かった方はただでは済まないのだという。コップに注げる水の量がそれぞれ違うように、能力を受け取れる人間の許容にも限度がある。
それを超越しての戦闘はあり得ないのだ。故に少しでも長く力を共有し、それに耐えられるだけの肉体という名の入れ物を鍛えておかねばならない。
「諸刃の剣・・・ということか?」
「彼らもそれは承知の上・・・。我々はあの方に全てを捧げている、故に恐れはなく、あるのはあの方の為の役に立つという名誉のみ」
死を恐れぬ組織とは、それだけで相手にとっては恐ろしいもの。まるで華々しく散ることこそ勲章かのように、最高潮の士気で突撃してくるが故に下手な小細工も通用しない。
何とは言わなかったが、そういった軍をミアもツクヨもよく知っている。だが、その戦い方が強いという印象はなく、浮かぶのはただ失うばかりという執念の成れの果ての光景だった。
「何というか・・・儚い、ですね・・・」
それまでは彼らの戦いに興奮冷めやまぬツクヨだったが、シュユーの話を聞いて急に大人しくなってしまった。何故そのような命を削る戦い方をするのか、理解こそ出来たが、別の手段をとるべきではないかと心の何処かで思っていた。
「元々、我々の命は既に尽きていたも同然だったのです・・・。それを救ってくれたのがあの方。本来なかった筈の余命を与えてくれたあの方への感謝は、言葉だけでは表せない。もう一度会いたかった人に会えた者、やりたかった事をした者、叶えたかった夢を叶えた者。失われた幸福の代わりに、あの方へついて行く者は多かった・・・」
シュユーの返しは、ツクヨの心に深く突き刺さるものとなった。失われた幸福、償えない過ち、取り戻したい大切な家族。それが満たされようものなら、ツクヨもきっと返しても返し切れない恩を感じるだろう。そう思うと、彼らの戦い方に口を出すことなど、到底出来なかった。
「我々は儚くとも、不幸ではありません。今にあの方の前に立ち塞がる障壁を打ち砕いて見せましょう」
ハオランの力を共有した彼らの捨て身の攻撃で、周囲を取り囲んでいたロロネーの海賊船はその殆どを、海の藻屑に変えた。
すると、再び船内の放送機に電源が入る。そして彼らの恩人であるあの方から、船に残っている船員達へ指示が出された。
「攻勢はここまでよ。直ぐに救援の船を出し、あの者達を回収せよ!余計な戦闘は許さぬ。速かに成すべきことを成せッ!」
放送が切れると同時に船内は慌ただしく船員達が動き出し、尋常ならざる跳躍で敵船へ向かっていった船員達を、海上に小舟を出して迎えに行った。
「ん~・・・一筋縄ではいかねぇかぁ。まぁこの程度で堕ちるとは思っちゃいなかったがなぁ」
濃霧の奥で一隻の船から、奮闘する彼らの様子を伺う一人の男の姿があった。終始手を加える訳でも引く訳でもなく、自ら動くことのなかった男が、戦場にいる誰にも気配を気取られることなく、静かにその地へ足を踏み入れた。
要するにチン・シーがハオランの力の一部を、他の船員に共有するという能力という事だろう。更に恐ろしいのは、それが複数人に共有されるということだ。もし、共有する元となる人物が強ければ強いほど、その力を多くの人間に共有させ、最強の部隊が誕生する。
だが、これだけ協力な能力であれば、相応のデメリットもあるに違いない。そうでなければ、チームで行動する者達の中に一人は欲しいメジャーなクラスになっているに違いない。
シンやミアがプレイしていたWoFのゲーム内や、転移出来る様になった後の旅の道中に、そのような能力を持った人物に一度も遭遇していない上に、何処の情報にもそんな能力を持った者の存在は確認出来ていない。
グレイスの裁定者と同様、珍しいクラスであることは変わりない。その共有する能力が故に、多くの部下を抱え大船団を築き上げたのだろう。自身の能力を最大限に活かすための最適な組織を作ったものだと、ミアは感心した。
「チン・シーのクラスとは一体何だ?見たことがないぞ、そんな能力」
「力を共有出来るのなら、部隊を鍛える必要もない・・・ということですか?」
ミアとツクヨが質問ばかりになってしまうのも無理もない。レースの優勝候補とはいえ、その未知の能力に頼っていいものなのか。そして折角ここまで来たのに、彼らに恩を得ることもできず、逆に匿ってもらってしまっては、ツバキの回復をしレースへ復帰するという目的を果たせなくなってしまう。
しかし、自らの船長の能力を明かすことなど出来ないようで、シュユーはそれ以上の追求には答えられないと、共有の能力について話そうとはしなかった。だが、ツクヨの言っていた部隊を鍛える必要がないというのには、首を横に振った。
「力を共有する者達の鍛錬は欠かせません。全く戦闘を行えない者がハオランの力を共有すれば、短時間しか力を継続出来ず、その身体は彼の力に耐え切れずに崩壊してしまうのです」
やはりミアの思っていた通り、この力にはデメリットがあるようで、強過ぎる力を共有すれば、力を授かった方はただでは済まないのだという。コップに注げる水の量がそれぞれ違うように、能力を受け取れる人間の許容にも限度がある。
それを超越しての戦闘はあり得ないのだ。故に少しでも長く力を共有し、それに耐えられるだけの肉体という名の入れ物を鍛えておかねばならない。
「諸刃の剣・・・ということか?」
「彼らもそれは承知の上・・・。我々はあの方に全てを捧げている、故に恐れはなく、あるのはあの方の為の役に立つという名誉のみ」
死を恐れぬ組織とは、それだけで相手にとっては恐ろしいもの。まるで華々しく散ることこそ勲章かのように、最高潮の士気で突撃してくるが故に下手な小細工も通用しない。
何とは言わなかったが、そういった軍をミアもツクヨもよく知っている。だが、その戦い方が強いという印象はなく、浮かぶのはただ失うばかりという執念の成れの果ての光景だった。
「何というか・・・儚い、ですね・・・」
それまでは彼らの戦いに興奮冷めやまぬツクヨだったが、シュユーの話を聞いて急に大人しくなってしまった。何故そのような命を削る戦い方をするのか、理解こそ出来たが、別の手段をとるべきではないかと心の何処かで思っていた。
「元々、我々の命は既に尽きていたも同然だったのです・・・。それを救ってくれたのがあの方。本来なかった筈の余命を与えてくれたあの方への感謝は、言葉だけでは表せない。もう一度会いたかった人に会えた者、やりたかった事をした者、叶えたかった夢を叶えた者。失われた幸福の代わりに、あの方へついて行く者は多かった・・・」
シュユーの返しは、ツクヨの心に深く突き刺さるものとなった。失われた幸福、償えない過ち、取り戻したい大切な家族。それが満たされようものなら、ツクヨもきっと返しても返し切れない恩を感じるだろう。そう思うと、彼らの戦い方に口を出すことなど、到底出来なかった。
「我々は儚くとも、不幸ではありません。今にあの方の前に立ち塞がる障壁を打ち砕いて見せましょう」
ハオランの力を共有した彼らの捨て身の攻撃で、周囲を取り囲んでいたロロネーの海賊船はその殆どを、海の藻屑に変えた。
すると、再び船内の放送機に電源が入る。そして彼らの恩人であるあの方から、船に残っている船員達へ指示が出された。
「攻勢はここまでよ。直ぐに救援の船を出し、あの者達を回収せよ!余計な戦闘は許さぬ。速かに成すべきことを成せッ!」
放送が切れると同時に船内は慌ただしく船員達が動き出し、尋常ならざる跳躍で敵船へ向かっていった船員達を、海上に小舟を出して迎えに行った。
「ん~・・・一筋縄ではいかねぇかぁ。まぁこの程度で堕ちるとは思っちゃいなかったがなぁ」
濃霧の奥で一隻の船から、奮闘する彼らの様子を伺う一人の男の姿があった。終始手を加える訳でも引く訳でもなく、自ら動くことのなかった男が、戦場にいる誰にも気配を気取られることなく、静かにその地へ足を踏み入れた。
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