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混戦する赤と黒
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三人を乗せた船は、小舟を調べた後に濃霧の奥へと進んで行く。後ろを振り向くと、さっきまですぐ側にあった無人の小舟の姿がなくなっていた。周囲を見渡すことの出来ないこの状況の中、慎重に進んでいるいも関わらずこんなに早く見えなくなるものだろうか。
そこへ、何かの接近に気付いたハオランが声を荒立てる。濃霧の奥からぼんやりと橙色に光る明かりが、三人の乗った船に向かって飛んで来るのを見つけたハオランが目を凝らして凝視すると、それは瞬く間に船との距離を縮めて来た。
「何か来ます!・・・あれは・・・ッ!?」
彼に向けて一直線に飛んで来たものは、先端に炎を灯した一本の矢だった。瞬時に取り出した剣で火矢を弾くハオラン。甲板に落ちた矢に目をやると、それは彼にとって馴染み深く見覚えのある物で、ハオランの乗る船に放たれるとは到底思えないその攻撃に、彼は困惑した。
「何故私に向けて・・・ッ!?」
しかし、彼に思考を巡らせる暇を与えまいと、次々に火の矢が彼らの船目掛けて飛んで来ていたのだ。ハオランの声に、直ぐに駆けつけたミアが銃弾でその悉くを撃ち落とすことで攻撃の手は一旦収まりを見せる。
「助かりました・・・」
「誰から攻撃されたッ・・・?」
周囲を警戒するミアに対し、彼は落ち着いた様子で甲板に落ちた矢を拾い上げる。その様子に違和感を感じたミアが、彼の手にしている矢に見覚えがあるのかと尋ねる。すると、彼から予想だにしない相手の名前が飛び出した。
「これはあの方・・・チン・シー様の軍の矢・・・。この濃霧の中、これだけ正確な射撃・・・。私が乗っているのは分かっているはず、なのにどうして・・・?」
矢が飛んで来るということは、明かに彼らを敵視して放たれた攻撃。それとこの濃霧で敵味方の区別がついていないということなのだろうか。しかし、多くの船を率いる大船団が、集団戦において敵味方を見間違えるミスを犯すものなのか。
そこへ、彼らの動揺を掻き消すように大きな砲撃音のようなものが聞こえると、それを境にあちらこちらから、まるで戦場のど真ん中にいるような銃声や砲撃、怒号や絶叫が彼らを取り囲んだ。
「ッ・・・!?何だ!?急に騒がしくなったぞ!」
「戦いは、既に始まっていたんだ・・・!」
なんと彼らは既に戦場のど真ん中にいたのだ。三人を乗せた船の何倍もある海賊船の数々が、周囲の至る所で戦闘を繰り広げている。片方の軍はグレイスの海賊船によく似た、赤い船体をした船。そしてもう片方の軍は、既に大きな戦いでもして来たかのように破損の酷い船体でボロボロの状態の黒い海賊船。
その様子から一見、戦闘は一方的に進んでいるもののように見えたが、よく見ると戦況は均衡しており、数の上では不自然にボロボロの状態である黒い海賊側が押しているように見える。
「これはッ!・・・くッ!すみません!私は直ぐにあの方の元へ向かわねばなりません。どうかご無事でッ!」
そういうとハオランは、自らのボードを使い海上に飛び降りると、エンジンを全力で吹かし、赤い海賊船の集まる方へと駆け抜けていった。
「マズイぞミアッ!私達も直ぐに避難しなくては、流れ弾にやられるッ・・・!」
既にミア達の周辺の海上には、砲弾の雨や船から落下する船員達の死体でいっぱいだった。状況を整理している時間など無く、ミアはハオランの向かった赤い海賊船の軍の中へ向かう為、操縦するツクヨに指示を出した。
「赤い海賊船が集まっている方へ行けッ!恐らくこっちがチン・シーの軍と見て間違いないはずだ。ロロネーに比べりゃぁどっちに加担する方が得策など、考えるまでもないッ!」
急ぎ船を旋回させ、砲撃や飛び交う弓矢を回避しながら、ミアの言う赤い海賊船を目指して一気に走り抜ける。それでも避けきれない物を、甲板で周囲を見渡し警戒するミアが、船を走らせるツクヨに操縦に集中させる為にと、正確な射撃で撃ち落としていく。
いくつかの船団が彼女らの船を見つけて攻撃をしてくるも、上手く身を隠しながらやり過ごす。如何やらどちらの軍も切羽詰まった状況のようで、いちいち敵であるかの確認などしていないかのように、目につくものをひたすら攻撃している。
そんな入り乱れた戦場の中で、迷わず一直線にボードを走らせたハオランには、味方の位置が分かるのだろう。それも船長を乗せた船が、この布陣の何処に位置しているのかさえも。
周囲にチン・シーのものと思われる赤い船が増え始めたところで、ミアが他の船とはやや違う作りの船を一隻見つける。他の船の作りがどうなっているのかなど知る由もないが、目につくその船に寄せるようツクヨに促すと、先に自分が乗り込み話をつけてくると、ミアが単独で赤い船へと乗り込んで行く。
壁を蹴り、素早い身のこなしで甲板まで上がっていくと、周りの者達がざわつき武器を向けるのも無視して、船内へ入り込む。廊下で出会した船員が驚きながら武器を彼女へ構えと、直ぐ横にあった扉を体当たりでこじ開けて室内に転がり込む。
すると幸運なことに、たまたま攻撃を避ける為に入った部屋には、ミアも面識のある男の姿がそこにあった。
「何者だッ!」
突撃して来た彼女を取り囲むように剣を向ける船員達。膝をついた体勢から起き上がろうとするミアに、複数の船員が持つ刃先が向けられる。流石にこの状況では無事に脱出することなど不可能と悟ったミアが、ゆっくり視線を周囲へ向ける。
すると船員をかき分け、奥から現れた明かに周りの者達とは格好の違う男がミアの前に姿を現す。
「これは・・・ミア殿・・・ですか?」
「アンタは・・・!」
彼女の身体に張り詰めていた緊張が、誰の目にも分かりやすく解ける。その男は、レース開始前のグラン・ヴァーグで知り合い、共にグレイスとの共同作戦を行ったシュユーの姿だった。
そこへ、何かの接近に気付いたハオランが声を荒立てる。濃霧の奥からぼんやりと橙色に光る明かりが、三人の乗った船に向かって飛んで来るのを見つけたハオランが目を凝らして凝視すると、それは瞬く間に船との距離を縮めて来た。
「何か来ます!・・・あれは・・・ッ!?」
彼に向けて一直線に飛んで来たものは、先端に炎を灯した一本の矢だった。瞬時に取り出した剣で火矢を弾くハオラン。甲板に落ちた矢に目をやると、それは彼にとって馴染み深く見覚えのある物で、ハオランの乗る船に放たれるとは到底思えないその攻撃に、彼は困惑した。
「何故私に向けて・・・ッ!?」
しかし、彼に思考を巡らせる暇を与えまいと、次々に火の矢が彼らの船目掛けて飛んで来ていたのだ。ハオランの声に、直ぐに駆けつけたミアが銃弾でその悉くを撃ち落とすことで攻撃の手は一旦収まりを見せる。
「助かりました・・・」
「誰から攻撃されたッ・・・?」
周囲を警戒するミアに対し、彼は落ち着いた様子で甲板に落ちた矢を拾い上げる。その様子に違和感を感じたミアが、彼の手にしている矢に見覚えがあるのかと尋ねる。すると、彼から予想だにしない相手の名前が飛び出した。
「これはあの方・・・チン・シー様の軍の矢・・・。この濃霧の中、これだけ正確な射撃・・・。私が乗っているのは分かっているはず、なのにどうして・・・?」
矢が飛んで来るということは、明かに彼らを敵視して放たれた攻撃。それとこの濃霧で敵味方の区別がついていないということなのだろうか。しかし、多くの船を率いる大船団が、集団戦において敵味方を見間違えるミスを犯すものなのか。
そこへ、彼らの動揺を掻き消すように大きな砲撃音のようなものが聞こえると、それを境にあちらこちらから、まるで戦場のど真ん中にいるような銃声や砲撃、怒号や絶叫が彼らを取り囲んだ。
「ッ・・・!?何だ!?急に騒がしくなったぞ!」
「戦いは、既に始まっていたんだ・・・!」
なんと彼らは既に戦場のど真ん中にいたのだ。三人を乗せた船の何倍もある海賊船の数々が、周囲の至る所で戦闘を繰り広げている。片方の軍はグレイスの海賊船によく似た、赤い船体をした船。そしてもう片方の軍は、既に大きな戦いでもして来たかのように破損の酷い船体でボロボロの状態の黒い海賊船。
その様子から一見、戦闘は一方的に進んでいるもののように見えたが、よく見ると戦況は均衡しており、数の上では不自然にボロボロの状態である黒い海賊側が押しているように見える。
「これはッ!・・・くッ!すみません!私は直ぐにあの方の元へ向かわねばなりません。どうかご無事でッ!」
そういうとハオランは、自らのボードを使い海上に飛び降りると、エンジンを全力で吹かし、赤い海賊船の集まる方へと駆け抜けていった。
「マズイぞミアッ!私達も直ぐに避難しなくては、流れ弾にやられるッ・・・!」
既にミア達の周辺の海上には、砲弾の雨や船から落下する船員達の死体でいっぱいだった。状況を整理している時間など無く、ミアはハオランの向かった赤い海賊船の軍の中へ向かう為、操縦するツクヨに指示を出した。
「赤い海賊船が集まっている方へ行けッ!恐らくこっちがチン・シーの軍と見て間違いないはずだ。ロロネーに比べりゃぁどっちに加担する方が得策など、考えるまでもないッ!」
急ぎ船を旋回させ、砲撃や飛び交う弓矢を回避しながら、ミアの言う赤い海賊船を目指して一気に走り抜ける。それでも避けきれない物を、甲板で周囲を見渡し警戒するミアが、船を走らせるツクヨに操縦に集中させる為にと、正確な射撃で撃ち落としていく。
いくつかの船団が彼女らの船を見つけて攻撃をしてくるも、上手く身を隠しながらやり過ごす。如何やらどちらの軍も切羽詰まった状況のようで、いちいち敵であるかの確認などしていないかのように、目につくものをひたすら攻撃している。
そんな入り乱れた戦場の中で、迷わず一直線にボードを走らせたハオランには、味方の位置が分かるのだろう。それも船長を乗せた船が、この布陣の何処に位置しているのかさえも。
周囲にチン・シーのものと思われる赤い船が増え始めたところで、ミアが他の船とはやや違う作りの船を一隻見つける。他の船の作りがどうなっているのかなど知る由もないが、目につくその船に寄せるようツクヨに促すと、先に自分が乗り込み話をつけてくると、ミアが単独で赤い船へと乗り込んで行く。
壁を蹴り、素早い身のこなしで甲板まで上がっていくと、周りの者達がざわつき武器を向けるのも無視して、船内へ入り込む。廊下で出会した船員が驚きながら武器を彼女へ構えと、直ぐ横にあった扉を体当たりでこじ開けて室内に転がり込む。
すると幸運なことに、たまたま攻撃を避ける為に入った部屋には、ミアも面識のある男の姿がそこにあった。
「何者だッ!」
突撃して来た彼女を取り囲むように剣を向ける船員達。膝をついた体勢から起き上がろうとするミアに、複数の船員が持つ刃先が向けられる。流石にこの状況では無事に脱出することなど不可能と悟ったミアが、ゆっくり視線を周囲へ向ける。
すると船員をかき分け、奥から現れた明かに周りの者達とは格好の違う男がミアの前に姿を現す。
「これは・・・ミア殿・・・ですか?」
「アンタは・・・!」
彼女の身体に張り詰めていた緊張が、誰の目にも分かりやすく解ける。その男は、レース開始前のグラン・ヴァーグで知り合い、共にグレイスとの共同作戦を行ったシュユーの姿だった。
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