World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
256 / 1,646

最悪な特別

しおりを挟む
 立ち上がる力もなく、もがき苦しむロッシュ。先程までの自信が嘘の様だ。その姿はまるで、彼が島で多勢殺した、弾倉くらいにしか思っていなかったであろう人達と相違ない装いで倒れている。

 うつ伏せになり、這って離れようとするロッシュをゆっくり追い詰める様にして近づくグレイス。引き摺る足に鞭を打ちながら、この戦いに終止符を打つ為、最期のトドメを刺す為に向かって行く。

 「終わりだ・・・ロッシュ。今までアンタがやってきた事を考えれば、当然の結果だろう。覚悟・・・出来てんだろうねぇ・・・?」

 「やってきた・・・事・・・?略奪か?残虐か?殺戮か?フフフ・・・そんなもの、他の者達やお前達だって同じようなものだろう?弱ければ全てを奪われ、失い、そして手元には何も残らない・・・」

 グレイスもロッシュと同じように海賊となった身。殺戮こそしなくとも、略奪くらいはしたことがあるだろう。それぞれの者が、それぞれの志を持って凌ぎを削り合う。

 そしてロッシュもまた、内に秘めていた誰にも語ることのなかった想いを持って、奪われる側から奪う側へとなっていった。

 「俺はあの時・・・全てを奪われたあの日から、強者に与えられる権利に魅力を感じ、憧れるようになった。目の前で親を殺され、その血を浴びながら目の前で俺を見ながら、その肉塊をバラすのを見てな・・・。俺はそれが普通だと思った。皆同じ状況になれば多少の違いこそあれど、俺と同じことを思うのだと・・・」

 ロッシュは自分が正常であることを証明しようと、多くの人間の命を奪い、そして一人だけ残し、幼少の頃ロッシュが見た光景と同じものを彼らに見せてきた。しかし、生き残った彼らはロッシュと同じように、その光景に憧れを抱くことなどなかった。

 悲しみに泣き崩れ精神を病んでしまう者や、ロッシュへの復讐を誓い憤怒の炎に身を焦がす者、全てに絶望し自らの命を絶つ者。それ以外では大抵、その場で気を失ってしまったり、怒りに身を任せ向かって来る者が殆どだった。

 哀れにも力の差を理解せず、その場の感情に身を任せる者達にロッシュは、安らかな死を与えた。

 感情は大事な物。ロッシュはそういった奪われた者の怒りや悲しみ、そして奪った者の喜びや楽しさを重要視している。ただそれは、人として大切な感情というよりも、他人を欺き騙す為のツールとして“感情的な”態度や行動が、相手を出し抜く上で最も利用しやすい部分だと考えている。

 彼はただ自分と同じ思考に至る、”同類“が欲しかった。自分はおかしくない、正常なのだと。人はこうして強く生きていくのだと証明したかったのだ。

 彼の最期の言葉を聞き、グレイスは高く振り上げた剣を一気に振り下ろした。シンは思おわず目を背ける。決着の瞬間を目にすることはなかったが、吹き出る血液であろう水飛沫と、ゴトッと重く鈍い音が床に落ちた音だけが、シンの脳内を浸食した。

 ロッシュの悪行三昧は、いつしかそういった者達の間で噂となり、彼自信が憧れの人物として悪党達を引きつける事となっていく。だがそれはロッシュの目的とは違った者達の憧れ。所詮、そのような者達は華やかな悪道が歩めなくとも、道を引き返せるだけの”保険“のある人生でしかない。

 彼が求めるのは、全てを目の前で奪われて尚、その強者の勝手気ままな振る舞いに憧れられるかどうかというもの。見せ掛けだけの不幸ではなく、真の絶望から見る憧れという名の光を探し出せる”同類“の発見。

 賊であればそういった機会も多く、同じ地に止まることの出来ない身であれば、世界を見て回れる海路を行く賊、”海賊“が彼の欲求を満たせるだろうと海に出た。

 「だが違った・・・俺はどうやら頭のネジが飛んだ異常者だったらしい。俺と同じ気持ちになるものなど、何処にも現れなかった・・・」

 「当然だ、他人に自分と同じ感情を強要する人間が正常である筈がないだろう。ましてや多くの命を奪い一人だけ残すなど、常人ではそんな考えにすらならないねぇ。アンタは最悪の意味で特別で、悪夢を振り撒く怪物だったってことさ」

 グレイスはロッシュの首に、鋭く光る剣の刃で狙いを定めて振り上げる。そして後はそれを振り下ろすだけで、二人の人間と、それぞれの戦いに決着がつく。

 「俺は・・・特別なんか要らない・・・。”普通“であると・・・信じたかっただけだ・・・」

 彼の最期の言葉を聞き、グレイスは高く振り上げた剣を一気に振り下ろした。シンは思おわず目を背ける。決着の瞬間を目にすることはなかったが、吹き出る血液であろう水飛沫と、ゴトッと重く鈍い音が床に落ちた音だけが、シンの脳内を浸食した。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
転生者グレイボーンは、前世でシュールな死に方をしてしまったがあまりに神に気に入られ、【重弩使い】のギフトを与えられた。 しかしその神は実のところ、人の運命を弄ぶ邪神だった。 確かに重弩使いとして破格の才能を持って生まれたが、彼は『10cm先までしかまともに見えない』という、台無しのハンデを抱えていた。 それから時が流れ、彼が15歳を迎えると、父が死病を患い、男と蒸発した母が帰ってきた。 異父兄妹のリチェルと共に。 彼はリチェルを嫌うが、結局は母の代わりに面倒を見ることになった。 ところがしばらくしたある日、リチェルが失踪してしまう。 妹に愛情を懐き始めていたグレイボーンは深い衝撃を受けた。 だが皮肉にもその衝撃がきっかけとなり、彼は前世の記憶を取り戻すことになる。 決意したグレイボーンは、父から規格外の重弩《アーバレスト》を受け継いだ。 彼はそれを抱えて、リチェルが入り込んだという魔物の領域に踏み込む。 リチェルを救い、これからは良い兄となるために。 「たぶん人じゃないヨシッッ!!」 当たれば一撃必殺。 ただし、彼の目には、それが魔物か人かはわからない。 勘で必殺の弩を放つ超危険人物にして、空気の読めないシスコン兄の誕生だった。 毎日2~3話投稿。なろうとカクヨムでも公開しています。

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

練習船で異世界に来ちゃったんだが?! ~異世界海洋探訪記~

さみぃぐらぁど
ファンタジー
航海訓練所の練習船「海鵜丸」はハワイへ向けた長期練習航海中、突然嵐に巻き込まれ、落雷を受ける。 衝撃に気を失った主人公たち当直実習生。彼らが目を覚まして目撃したものは、自分たち以外教官も実習生も居ない船、無線も電子海図も繋がらない海、そして大洋を往く見たこともない戦列艦の艦隊だった。 そして実習生たちは、自分たちがどこか地球とは違う星_異世界とでも呼ぶべき空間にやって来たことを悟る。 燃料も食料も補給の目途が立たない異世界。 果たして彼らは、自分たちの力で、船とともに現代日本の海へ帰れるのか⁈ ※この作品は「カクヨム」においても投稿しています。https://kakuyomu.jp/works/16818023213965695770

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...