254 / 1,646
グレイスとロッシュ
しおりを挟む
ロッシュは体勢を立て直し、後方へ追いやったグレイスの方へ近づく。全ての辻褄が合い、愛する人とその子供の命を奪ったきっかけを作った張本人が今、目の前にいいる。
込み上げてくる感情は怒りか、それとも探し求めていたものを見つけた喜びから来るものか、彼女の身体は小さく震え、握った拳からは血が流れた。
「アンタが・・・あの人と、あの子を・・・。やっと掴んだ手掛かりは、そのまま答えに辿り着くものだった・・・。彼らが望んでいるかは分からない。少なくともあの子は、こんなこと望んじゃいないだろうが・・・アタシはアンタを生かしておくことなんて出来ないッ・・・!」
押し退けられ、崩した体勢を踏みしめた足で立ち直らせ、こちらへと近づいて来るロッシュを迎え撃つ。
最早二人とも満身創痍といった状態。恐らくこれが最後の戦いになるだろう。もうグレイスのダンサーのスキルでバフをかける作戦は通用しない。ロッシュのトレジャーハンターのスキルで、バフの効果ごと盗まれ強化されてしまう。
ロッシュは、トレジャーハンターのスキルでグレイスからバフを盗み能力を向上させたところで、彼女の持つアストレアの天秤によって打ち消されてしまう。
つまり今の二人に残されているのは、己自信の肉体的な能力以外にない。グレイスとロッシュは、ある程度の距離まで近づくと徐々に小走りから、勢いを乗せて殴る為の助走と言わんばかりの走りへと変わり、互いの拳を相手の顔面目掛けて打ち放つ。
互いの拳で弾ける顔を苦痛に歪め、先に視線を相手に向けて次の行動に移ったのはグレイスの方だった。ロッシュ依も先に二発目の拳を彼の腹部へ打ち込む。クラスや能力に依らないグレイスの生身の拳は、とても女性のものとは思えない程の威力と鋭さをしている。
腹部から身体の芯に伝わる衝撃に、思わずロッシュの身体がくの字に曲がる。空かさずグレイスは、ロッシュの下がった頭を両手で掴み、顔へ向けて膝蹴りをお見舞いする。
「ぐッ・・・・ぁぁあああッ!!」
単純な身体能力ではグレイスに軍配が上がるようで、戦闘は一方的な死合い運びとなっていた。
だが、そこで終わるのならロッシュという男がこれ程名乗りを上げる人物とはならなかったことだろう。
両手でグレイスの膝を受けた頭を押さえて天を仰ぐロッシュ。身体の防御がガラ空きとなり、それを見逃さなかった彼女は、ロッシュの腹部へ再度全力の拳を振り抜こうとした。だが、彼女の拳はロッシュへ命中することはなかった。
「ッ・・・!」
頭を押さえていたロッシュの顔がニヤける。彼は狙っていたのだ。身体能力の差や、クラススキルによる能力向上の効果を無効化する裁定者のスキル。それを受けていてはロッシュに勝ち目はない。彼がグレイスに勝るには、正攻法では不可能。
そしてグレイスの攻撃を逸れさせる方法が、ロッシュにはあった。
これまでシンやシルヴィ、グレイスを散々苦しめて来たロッシュ最大の秘密にして隠している能力。島で多くの人間から補充したミラーニューロンによる、対象への外部伝達、人体の操縦だ。
ロッシュは両手を頭の裏で組み、そのままの勢いでグレイスの肩へ振り下ろす。関節への攻撃は、直接彼女の肉体へダメージを与えるよりも効果的だった。ロッシュの身体能力ではグレイスの防御力を打ち破れる程の攻撃力はない。
利き腕が麻痺し、思うように動かせなくなったグレイスは、絶大な威力を誇らなくとも着実にその身に刻まれるダメージを与えるロッシュの攻撃を、一方的にもらい始める。
「マズイッ・・・!このままじゃグレイスが倒れるのも、時間の問題だ・・・。ロッシュの放つ怪しい光を何とかしないと・・・!」
グレイスにロッシュの光り、ミラーニューロンを取り除く術はない。寧ろ、ここまで変わったスキルの使い方をする者など滅多にいないだろう。対応出来ないのは当然のことだ。対策無しでは、戦闘が始まった次点で既に勝敗は見えていたのかもしれない。
そして何の因果か、グレイスの援軍に駆けつけたシンにはロッシュのミラーニューロンをどうにか出来る術を持っている。
ロッシュの毒をもらい麻痺していたシンの身体は、徐々にその魔の手から解放されつつある。それでもロッシュから受けた攻撃のダメージは甚大。例え自分自身で相手を打ち倒すことが出来なくとも、何とかしてグレイスに加勢出来れば、グレイス海賊団対ロッシュ海賊団の結末を変えられるのかもしれない。
込み上げてくる感情は怒りか、それとも探し求めていたものを見つけた喜びから来るものか、彼女の身体は小さく震え、握った拳からは血が流れた。
「アンタが・・・あの人と、あの子を・・・。やっと掴んだ手掛かりは、そのまま答えに辿り着くものだった・・・。彼らが望んでいるかは分からない。少なくともあの子は、こんなこと望んじゃいないだろうが・・・アタシはアンタを生かしておくことなんて出来ないッ・・・!」
押し退けられ、崩した体勢を踏みしめた足で立ち直らせ、こちらへと近づいて来るロッシュを迎え撃つ。
最早二人とも満身創痍といった状態。恐らくこれが最後の戦いになるだろう。もうグレイスのダンサーのスキルでバフをかける作戦は通用しない。ロッシュのトレジャーハンターのスキルで、バフの効果ごと盗まれ強化されてしまう。
ロッシュは、トレジャーハンターのスキルでグレイスからバフを盗み能力を向上させたところで、彼女の持つアストレアの天秤によって打ち消されてしまう。
つまり今の二人に残されているのは、己自信の肉体的な能力以外にない。グレイスとロッシュは、ある程度の距離まで近づくと徐々に小走りから、勢いを乗せて殴る為の助走と言わんばかりの走りへと変わり、互いの拳を相手の顔面目掛けて打ち放つ。
互いの拳で弾ける顔を苦痛に歪め、先に視線を相手に向けて次の行動に移ったのはグレイスの方だった。ロッシュ依も先に二発目の拳を彼の腹部へ打ち込む。クラスや能力に依らないグレイスの生身の拳は、とても女性のものとは思えない程の威力と鋭さをしている。
腹部から身体の芯に伝わる衝撃に、思わずロッシュの身体がくの字に曲がる。空かさずグレイスは、ロッシュの下がった頭を両手で掴み、顔へ向けて膝蹴りをお見舞いする。
「ぐッ・・・・ぁぁあああッ!!」
単純な身体能力ではグレイスに軍配が上がるようで、戦闘は一方的な死合い運びとなっていた。
だが、そこで終わるのならロッシュという男がこれ程名乗りを上げる人物とはならなかったことだろう。
両手でグレイスの膝を受けた頭を押さえて天を仰ぐロッシュ。身体の防御がガラ空きとなり、それを見逃さなかった彼女は、ロッシュの腹部へ再度全力の拳を振り抜こうとした。だが、彼女の拳はロッシュへ命中することはなかった。
「ッ・・・!」
頭を押さえていたロッシュの顔がニヤける。彼は狙っていたのだ。身体能力の差や、クラススキルによる能力向上の効果を無効化する裁定者のスキル。それを受けていてはロッシュに勝ち目はない。彼がグレイスに勝るには、正攻法では不可能。
そしてグレイスの攻撃を逸れさせる方法が、ロッシュにはあった。
これまでシンやシルヴィ、グレイスを散々苦しめて来たロッシュ最大の秘密にして隠している能力。島で多くの人間から補充したミラーニューロンによる、対象への外部伝達、人体の操縦だ。
ロッシュは両手を頭の裏で組み、そのままの勢いでグレイスの肩へ振り下ろす。関節への攻撃は、直接彼女の肉体へダメージを与えるよりも効果的だった。ロッシュの身体能力ではグレイスの防御力を打ち破れる程の攻撃力はない。
利き腕が麻痺し、思うように動かせなくなったグレイスは、絶大な威力を誇らなくとも着実にその身に刻まれるダメージを与えるロッシュの攻撃を、一方的にもらい始める。
「マズイッ・・・!このままじゃグレイスが倒れるのも、時間の問題だ・・・。ロッシュの放つ怪しい光を何とかしないと・・・!」
グレイスにロッシュの光り、ミラーニューロンを取り除く術はない。寧ろ、ここまで変わったスキルの使い方をする者など滅多にいないだろう。対応出来ないのは当然のことだ。対策無しでは、戦闘が始まった次点で既に勝敗は見えていたのかもしれない。
そして何の因果か、グレイスの援軍に駆けつけたシンにはロッシュのミラーニューロンをどうにか出来る術を持っている。
ロッシュの毒をもらい麻痺していたシンの身体は、徐々にその魔の手から解放されつつある。それでもロッシュから受けた攻撃のダメージは甚大。例え自分自身で相手を打ち倒すことが出来なくとも、何とかしてグレイスに加勢出来れば、グレイス海賊団対ロッシュ海賊団の結末を変えられるのかもしれない。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる