237 / 1,646
二度目の面会
しおりを挟む
敵船へと乗り込んだシルヴィが、仲間達と共にロッシュ船の者達を次々に薙ぎ倒していく。彼らの健闘の甲斐あり、前線でロッシュの乗る船への道を塞いでいる二隻の内一隻を制圧するにまで至った。
グレイスのスキルによるバフを受けたシルヴィ達の猛攻を防ぎ切ることが出来ず、その数をみるみる減らしていくロッシュ軍。終始、数の上で優勢であった彼らは突然の反撃を受け、見た目以上に士気の低下が激しく大きな混乱を招いていた。
「これがグレイス海賊団の戦いか・・・。図に乗らせると手がつけられんな。奇襲を目論んでいる何者かの動きはどうなった?クソッ・・・!選択を誤ったか・・・・。船を前線へ向かわせろッ!友軍と合流し総力戦に出るッ!」
ロッシュはシンを警戒するあまり、前線と距離を置き後方より援護射撃と、奇襲を迎え撃つ構えを取っていたが、彼が前線を離れていてはグレイスの恩恵を得たグレイス軍の者達を抑え切ることが出来ない。
本来、討ち取られてはならない総大将は、最も危険から遠い場所に身を置くのが単純に良いのかもしれない。だが主力の駒を失った今、グレイス軍の猛攻を打開できる可能性があるとするならば、それはロッシュ自身しかない。
出来ることならば、己で手を下さずに戦闘を制することが理想であったロッシュは苦肉の策にでる。それは総大将自ら最前線へ赴き、敵を迎え撃つことだった。
しかし、総大将自身に高い戦闘能力があるのならば、これは有効な作戦にもなり得る。今まで前線で戦う者達は、目の前で戦いながらも後方に控えるロッシュの護衛、奇襲防止に努めていた。だが、ロッシュ自ら前線で共に戦うことで、奇襲の警戒と戦闘を両方一遍にまとめて果たすことが出来、やるべき目的を一つに集中させることが可能になる。
「俺が直接出なきゃならねぇこの体たらく・・・。まったく情けねぇ、己の先見の明の無さに腹が立つぜ・・・。一層戦力の見直しを図るべきかもしれねぇなぁ。使えねぇ連中は、ここで海の藻屑になってもらおうか・・・」
自軍の不甲斐なさに、静かな怒りの業火を煮えたぎらせるロッシュ。どんなに手をかけ、慕われようとも彼にとっては所詮、駒の一つに過ぎない。それが例え、ロッシュ海賊団の主戦力であるフェリクスやヴォルテルと言えども例外ではない。
彼の中で、目的を果たせない駒は必要のないもの。使えなければ無茶な命令で排除し、新たな駒を補充していくだけ。彼に惹かれて付き従い、人生を大きく変えた者がいようと、彼にとっては取るに足らない餞別作業に過ぎないのだろう。
シルヴィ達がロッシュ軍の一隻を制圧し、次なる船へ乗り込み始めた頃、その直ぐ後方にロッシュを乗せた船が接近していた。
「あぁ?野郎、前線に出て来るつもりかよ。ハッ!いいねぇ・・・後ろで踏ん反り返っているだけの臆病者かと思ってたがな。だが、姉さんの力を授かったシルヴィ様を満足させられんのかッ!?」
敵船の接近に更なる闘志を燃やすシルヴィが、決戦の舞台を整えるかのようにロッシュ軍の船員を一掃して暴れ回る。船は大騒ぎとなり、船内に控えていた船員達も次々に甲板へ飛び出すと、倒れる仲間と悍しく不気味な笑みで斧を振るうシルヴィの姿に戦慄した。
丁度その頃、ロッシュの乗る船への潜入に成功していたシンは、慌ただしくなる船内の様子に想定していた状況との違いに困惑していた。
「・・・ッ?何故こんなに慌ただしい・・・バレたのか?」
船内のあちこちから聞こえる、慌ただしく走り回っているかのような足音は、シンの潜入を発見した訳ではなく、戦況の変化と作戦の変更により、近接戦闘用の準備を整えるため準備を急いでいたからだった。
シンの想定では、後方より前線の援護を行いながら戦地へ赴くといった状態で、ある程度落ち着いた船内で、静かにロッシュを狙う予定だった。しかし、この慌ただしい状況のせいで、動き回る者達の行動が予想できないため、下手に行動を取ることが出来なくなってしまった。
船は大きく揺れ、波に軋む船体の音が激しくなる。息を殺し様子を伺っていたシンは、暫くして大きな衝撃に襲われる。船は激しく船体を揺らし、何かに衝突したかのような木材の折れる音や鉄板の歪む音が鳴り響いた。
「なッ・・・!?この状況で座礁したのか!?いや・・・しかしそんな筈は・・・まッまさかッ!」
何かを悟ったシンは、直ぐに外の様子を確認できる窓へ向かうと、そこから覗く景色で状況を理解した。船は前線で行われている激しい戦闘の場に突っ込んでいた。それと同時に、威勢の良い咆哮と共に戦地となる船へ多くの船員が乗り込んでいく。
それまでの騒々しく慌ただしい船内とは打って変わって、激しい揺れは落ち着き静けさを取り戻し閑散とした船内で、ゆっくりとその場を動くシン。もぬけの殻となった船内で、部屋を移動しようと音を殺しながら扉を開け、廊下へと出る。
「よう、やっぱり来てやがったか・・・」
「ッ・・・!!」
突然背後から話しかけられたシンは、心臓が飛び出すほどの衝撃を受け、咄嗟に声のした方向とは逆の方へと飛び退いた。廊下へ身を乗り出す時、念入りに周囲を確認し誰もいないことを確かめた。そして気配を感じなかったからこそ部屋から出たのだが、どういう訳かそこにはロッシュの姿があったのだ。
「同じ手を喰らうほど馬鹿じゃねぇよ。漸くその面を拝めて嬉しいぜぇ・・・、覚悟は出来てんだろうなぇ・・・?」
一度俯いた男は、ゆっくりとその顔を上げて表情を見せると、ドスを利かせた声と雪辱を晴らさんとする鋭い目で睨みつけていた。
グレイスのスキルによるバフを受けたシルヴィ達の猛攻を防ぎ切ることが出来ず、その数をみるみる減らしていくロッシュ軍。終始、数の上で優勢であった彼らは突然の反撃を受け、見た目以上に士気の低下が激しく大きな混乱を招いていた。
「これがグレイス海賊団の戦いか・・・。図に乗らせると手がつけられんな。奇襲を目論んでいる何者かの動きはどうなった?クソッ・・・!選択を誤ったか・・・・。船を前線へ向かわせろッ!友軍と合流し総力戦に出るッ!」
ロッシュはシンを警戒するあまり、前線と距離を置き後方より援護射撃と、奇襲を迎え撃つ構えを取っていたが、彼が前線を離れていてはグレイスの恩恵を得たグレイス軍の者達を抑え切ることが出来ない。
本来、討ち取られてはならない総大将は、最も危険から遠い場所に身を置くのが単純に良いのかもしれない。だが主力の駒を失った今、グレイス軍の猛攻を打開できる可能性があるとするならば、それはロッシュ自身しかない。
出来ることならば、己で手を下さずに戦闘を制することが理想であったロッシュは苦肉の策にでる。それは総大将自ら最前線へ赴き、敵を迎え撃つことだった。
しかし、総大将自身に高い戦闘能力があるのならば、これは有効な作戦にもなり得る。今まで前線で戦う者達は、目の前で戦いながらも後方に控えるロッシュの護衛、奇襲防止に努めていた。だが、ロッシュ自ら前線で共に戦うことで、奇襲の警戒と戦闘を両方一遍にまとめて果たすことが出来、やるべき目的を一つに集中させることが可能になる。
「俺が直接出なきゃならねぇこの体たらく・・・。まったく情けねぇ、己の先見の明の無さに腹が立つぜ・・・。一層戦力の見直しを図るべきかもしれねぇなぁ。使えねぇ連中は、ここで海の藻屑になってもらおうか・・・」
自軍の不甲斐なさに、静かな怒りの業火を煮えたぎらせるロッシュ。どんなに手をかけ、慕われようとも彼にとっては所詮、駒の一つに過ぎない。それが例え、ロッシュ海賊団の主戦力であるフェリクスやヴォルテルと言えども例外ではない。
彼の中で、目的を果たせない駒は必要のないもの。使えなければ無茶な命令で排除し、新たな駒を補充していくだけ。彼に惹かれて付き従い、人生を大きく変えた者がいようと、彼にとっては取るに足らない餞別作業に過ぎないのだろう。
シルヴィ達がロッシュ軍の一隻を制圧し、次なる船へ乗り込み始めた頃、その直ぐ後方にロッシュを乗せた船が接近していた。
「あぁ?野郎、前線に出て来るつもりかよ。ハッ!いいねぇ・・・後ろで踏ん反り返っているだけの臆病者かと思ってたがな。だが、姉さんの力を授かったシルヴィ様を満足させられんのかッ!?」
敵船の接近に更なる闘志を燃やすシルヴィが、決戦の舞台を整えるかのようにロッシュ軍の船員を一掃して暴れ回る。船は大騒ぎとなり、船内に控えていた船員達も次々に甲板へ飛び出すと、倒れる仲間と悍しく不気味な笑みで斧を振るうシルヴィの姿に戦慄した。
丁度その頃、ロッシュの乗る船への潜入に成功していたシンは、慌ただしくなる船内の様子に想定していた状況との違いに困惑していた。
「・・・ッ?何故こんなに慌ただしい・・・バレたのか?」
船内のあちこちから聞こえる、慌ただしく走り回っているかのような足音は、シンの潜入を発見した訳ではなく、戦況の変化と作戦の変更により、近接戦闘用の準備を整えるため準備を急いでいたからだった。
シンの想定では、後方より前線の援護を行いながら戦地へ赴くといった状態で、ある程度落ち着いた船内で、静かにロッシュを狙う予定だった。しかし、この慌ただしい状況のせいで、動き回る者達の行動が予想できないため、下手に行動を取ることが出来なくなってしまった。
船は大きく揺れ、波に軋む船体の音が激しくなる。息を殺し様子を伺っていたシンは、暫くして大きな衝撃に襲われる。船は激しく船体を揺らし、何かに衝突したかのような木材の折れる音や鉄板の歪む音が鳴り響いた。
「なッ・・・!?この状況で座礁したのか!?いや・・・しかしそんな筈は・・・まッまさかッ!」
何かを悟ったシンは、直ぐに外の様子を確認できる窓へ向かうと、そこから覗く景色で状況を理解した。船は前線で行われている激しい戦闘の場に突っ込んでいた。それと同時に、威勢の良い咆哮と共に戦地となる船へ多くの船員が乗り込んでいく。
それまでの騒々しく慌ただしい船内とは打って変わって、激しい揺れは落ち着き静けさを取り戻し閑散とした船内で、ゆっくりとその場を動くシン。もぬけの殻となった船内で、部屋を移動しようと音を殺しながら扉を開け、廊下へと出る。
「よう、やっぱり来てやがったか・・・」
「ッ・・・!!」
突然背後から話しかけられたシンは、心臓が飛び出すほどの衝撃を受け、咄嗟に声のした方向とは逆の方へと飛び退いた。廊下へ身を乗り出す時、念入りに周囲を確認し誰もいないことを確かめた。そして気配を感じなかったからこそ部屋から出たのだが、どういう訳かそこにはロッシュの姿があったのだ。
「同じ手を喰らうほど馬鹿じゃねぇよ。漸くその面を拝めて嬉しいぜぇ・・・、覚悟は出来てんだろうなぇ・・・?」
一度俯いた男は、ゆっくりとその顔を上げて表情を見せると、ドスを利かせた声と雪辱を晴らさんとする鋭い目で睨みつけていた。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる
朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。
彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる