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餞別代わりの噂話
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ロッシュとの戦いで見た不可解な光の正体を探るためにも、シンは彼のいる船への潜入をグレイスに提案するが、危険を伴う単独行動を彼女は快く思わなかった。
共同作戦とはいえ、私事の思念で始めた戦いに関係のないシンを巻き込むわけにはいかないと、グレイスは心の内を話してくれたがシンの方も、最早引くに引けない状況になっていた。
既にロッシュを危険な状態に追い込んだ者として、彼もシンをこの戦場から見逃す筈もない。ましてや、周りに身を隠す様なものもない大海原で、遠ざかろうとするモノがあれば嫌でも目立つに違いない。
それにここまで首を突っ込んでおいて、今更我が身かわいさに撤退するような薄情な真似がどうして出来ようか。過去の現実世界でのシンであれば、誰かの為になど考えもしなかっただろう。
彼が変わったのは、他者から受ける思い遣りに心を動かされたからだった。どんなに他人に興味がなかろうと無愛想にしようと、見返りを意図しない無償の人情を与えられ続ければ何かしらの感情が芽生えてくる。
シン達にも、ツバキを治療しレースへの復帰を果たしてくれる人物を探すという目先の目的があるが、それとは関係なく単純にグレイスを助けたいと思ったからここまで来たのだ。
グレイスの静止を受け入れることなく、ロッシュの元へ向かうという固い意志を彼女に伝えるシン。すると彼女から、餞別代わりロッシュのとある噂を聞かされた。
「そういえばロッシュは、ある時期から死体に興味を持ち始めたんだそうだ。元々残忍で非道な奴だったから、別段あり得ない話でもないんだが、どうにも死体を漁る奴の姿が異様だったって噂があるようだ」
「死体漁り・・・?」
海賊というものの知識をそれほど詳しく認知していなかったシンだが、賊というモノが戦利品目当てに死体漁りをすると言った話を耳にしたことがある。実際シンの遊んでいたゲームにも、勝者が敗者の所持品を戦利品として持っていくというのは割とポピュラーな知識として知られている。
勿論、その行為自体には罪の意識や人目に付いた時の風評被害を伴い、あまり正当化できたものではないのかもしれないが、弱肉強食のサバイバルを考えれば致し方ないのかもしれない。
それにその場所に放置しておくくらいなら、自分や他者の為に使ったり、換金などをするといった損得勘定を思う人もいるのではないだろうか。
だがどうやらグレイスの言う噂話の中のロッシュは、ただの所持品漁りではないのだろう。それは海賊稼業に身を投じている彼女らであれば、同じことをしたことがある筈。そんな彼女ら海賊達が異様な姿だと言うからには、ロッシュは別の目的で死体を漁っていたのではないだろうか。
「詳しくは分からないが、死体に何かしたのか、何かを持っていったのか・・・。それとロッシュの投擲や射撃は、かなりの精密度を有している。それこそ遠距離クラスの命中率に匹敵するほどにな。そしてその能力は、以前の奴にはなかったものだ・・・何処で会得したんだかな」
それを聞いて、シンは直ぐにロッシュとの戦いの中で受けた投げナイフの投擲を思い出した。回転をかけていたとはいえ、妙に曲がってきたそれは、物陰に隠れていたシンを適格に狙い撃ってのものだった。
「ッ・・・!?それには心当たりがある。奴と戦った時、妙に曲がってくる投擲を受けた。遠距離クラスでもない限り狙えるような位置ではなかったのに・・・」
以前のロッシュにはなかった能力、ある時から死体に興味を持ち始めたこと。彼にはシンやグレイス達がまだ知らない何かがある。それがロッシュ攻略にどう役立ってくるのか、今はまだ紐解くことは出来ないが、用心するに越したことはないだろう。
彼女の忠告とバフを受け、シンはボードへ乗り込み、敵陣の後方に控えるロッシュの乗っているであろう船を目指して走り出した。
なるべくロッシュのいる船から視認されないように、船や残骸の物陰を移動しながら距離を縮めていく。しかし、どうやって嗅ぎつけたのか、シンを標的にした砲撃や銃撃が飛んでくるようになる。
「小さなボード状の乗り物を見つけたら優先して射撃しろッ!見たらない時は海面を注視するんだ。この場に船は少ない、大型船が動けば直ぐに分かる。それとは別の乗り物特有の波や波紋を探し、周辺の物陰を片っ端から粉砕し、奴の姿を暴き出せッ!」
色物のクラスである“パイロット”の能力か、ロッシュには波や波紋でどのくらいの大きさの物で、どんな物が起こしたものなのかを見極めることが出来るようで、シンの乗るボードが起こす波を見逃さなかった。
不意打ちをした時とは打って変わり、今度は船に近づくことすら出来なくなってしまったシンは、一度前線で戦っている味方船の付近へと戻り、その船に乗り込んだ。
甲板や船内では多くの敵味方が入り乱れ、戦闘を繰り広げている。物陰を伝いながら見つからないように船の船首の方へと向かうシン。そして戦火に紛れながら敵船へ乗り込んで行くと、更に奥へ奥へと突き進む。
「もう直ぐか・・・。何とか届かないだろうか・・・」
シンがスキルの使用を試みるも、そのスキルは範囲外であることから発動させることが出来ない。そのまま使用不可のブザー音を聞き流しながら、シンは足早に敵船内を奥へと隠れながら突き進む。
そして彼の思いが通じたのか、それまで範囲外であることから発動することが出来なかったスキルが、遂に使用できる範囲内に入ったことを伝える。
「なるほど・・・これは凄い。本当にスキル範囲が拡大されているようだ。これで奴の船に乗り込める・・・」
まるで悪事を企む悪役のような笑みを浮かべるシンは、近くの物影からとあるスキルを使い、影の中へと姿を消していった。
共同作戦とはいえ、私事の思念で始めた戦いに関係のないシンを巻き込むわけにはいかないと、グレイスは心の内を話してくれたがシンの方も、最早引くに引けない状況になっていた。
既にロッシュを危険な状態に追い込んだ者として、彼もシンをこの戦場から見逃す筈もない。ましてや、周りに身を隠す様なものもない大海原で、遠ざかろうとするモノがあれば嫌でも目立つに違いない。
それにここまで首を突っ込んでおいて、今更我が身かわいさに撤退するような薄情な真似がどうして出来ようか。過去の現実世界でのシンであれば、誰かの為になど考えもしなかっただろう。
彼が変わったのは、他者から受ける思い遣りに心を動かされたからだった。どんなに他人に興味がなかろうと無愛想にしようと、見返りを意図しない無償の人情を与えられ続ければ何かしらの感情が芽生えてくる。
シン達にも、ツバキを治療しレースへの復帰を果たしてくれる人物を探すという目先の目的があるが、それとは関係なく単純にグレイスを助けたいと思ったからここまで来たのだ。
グレイスの静止を受け入れることなく、ロッシュの元へ向かうという固い意志を彼女に伝えるシン。すると彼女から、餞別代わりロッシュのとある噂を聞かされた。
「そういえばロッシュは、ある時期から死体に興味を持ち始めたんだそうだ。元々残忍で非道な奴だったから、別段あり得ない話でもないんだが、どうにも死体を漁る奴の姿が異様だったって噂があるようだ」
「死体漁り・・・?」
海賊というものの知識をそれほど詳しく認知していなかったシンだが、賊というモノが戦利品目当てに死体漁りをすると言った話を耳にしたことがある。実際シンの遊んでいたゲームにも、勝者が敗者の所持品を戦利品として持っていくというのは割とポピュラーな知識として知られている。
勿論、その行為自体には罪の意識や人目に付いた時の風評被害を伴い、あまり正当化できたものではないのかもしれないが、弱肉強食のサバイバルを考えれば致し方ないのかもしれない。
それにその場所に放置しておくくらいなら、自分や他者の為に使ったり、換金などをするといった損得勘定を思う人もいるのではないだろうか。
だがどうやらグレイスの言う噂話の中のロッシュは、ただの所持品漁りではないのだろう。それは海賊稼業に身を投じている彼女らであれば、同じことをしたことがある筈。そんな彼女ら海賊達が異様な姿だと言うからには、ロッシュは別の目的で死体を漁っていたのではないだろうか。
「詳しくは分からないが、死体に何かしたのか、何かを持っていったのか・・・。それとロッシュの投擲や射撃は、かなりの精密度を有している。それこそ遠距離クラスの命中率に匹敵するほどにな。そしてその能力は、以前の奴にはなかったものだ・・・何処で会得したんだかな」
それを聞いて、シンは直ぐにロッシュとの戦いの中で受けた投げナイフの投擲を思い出した。回転をかけていたとはいえ、妙に曲がってきたそれは、物陰に隠れていたシンを適格に狙い撃ってのものだった。
「ッ・・・!?それには心当たりがある。奴と戦った時、妙に曲がってくる投擲を受けた。遠距離クラスでもない限り狙えるような位置ではなかったのに・・・」
以前のロッシュにはなかった能力、ある時から死体に興味を持ち始めたこと。彼にはシンやグレイス達がまだ知らない何かがある。それがロッシュ攻略にどう役立ってくるのか、今はまだ紐解くことは出来ないが、用心するに越したことはないだろう。
彼女の忠告とバフを受け、シンはボードへ乗り込み、敵陣の後方に控えるロッシュの乗っているであろう船を目指して走り出した。
なるべくロッシュのいる船から視認されないように、船や残骸の物陰を移動しながら距離を縮めていく。しかし、どうやって嗅ぎつけたのか、シンを標的にした砲撃や銃撃が飛んでくるようになる。
「小さなボード状の乗り物を見つけたら優先して射撃しろッ!見たらない時は海面を注視するんだ。この場に船は少ない、大型船が動けば直ぐに分かる。それとは別の乗り物特有の波や波紋を探し、周辺の物陰を片っ端から粉砕し、奴の姿を暴き出せッ!」
色物のクラスである“パイロット”の能力か、ロッシュには波や波紋でどのくらいの大きさの物で、どんな物が起こしたものなのかを見極めることが出来るようで、シンの乗るボードが起こす波を見逃さなかった。
不意打ちをした時とは打って変わり、今度は船に近づくことすら出来なくなってしまったシンは、一度前線で戦っている味方船の付近へと戻り、その船に乗り込んだ。
甲板や船内では多くの敵味方が入り乱れ、戦闘を繰り広げている。物陰を伝いながら見つからないように船の船首の方へと向かうシン。そして戦火に紛れながら敵船へ乗り込んで行くと、更に奥へ奥へと突き進む。
「もう直ぐか・・・。何とか届かないだろうか・・・」
シンがスキルの使用を試みるも、そのスキルは範囲外であることから発動させることが出来ない。そのまま使用不可のブザー音を聞き流しながら、シンは足早に敵船内を奥へと隠れながら突き進む。
そして彼の思いが通じたのか、それまで範囲外であることから発動することが出来なかったスキルが、遂に使用できる範囲内に入ったことを伝える。
「なるほど・・・これは凄い。本当にスキル範囲が拡大されているようだ。これで奴の船に乗り込める・・・」
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