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来る戦火、残る想い
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シンとシルヴィが、囮船にいるルシアンと生き残りの船員達を救出に向かった後、グレイスは船員を鼓舞し能力向上効果を付与すると、ロッシュ軍へ向けて反撃を開始する。
グレイス軍の戦力は、囮船を除き残り二隻。一方ロッシュ軍は、船長を乗せた船を後方に置き、前線を二隻で固めた計三隻の布陣となる。
前に出る船に戦力を集中させ、敵船団へと向かわせるグレイス軍。そして彼女の乗る船もその後に続く。それというのも、継続した能力向上効果を維持するためだ。
一度効果を付与すれば、暫くの間維持される。しかし、時間経過と共に効力を失ってしまうため、短時間のブースト効果しか得られない。前線へ送り出した船と距離を空けてしまうと接近に時間がかかり、付与効果が切れてから再び付与をかけ直すまで、能力が元に戻ってしまう。
ただでさえ戦力に差がある中で、まともな能力で迎え撃ってしまえば瞬く間に数に飲み込まれてしまうだろう。そうならない為にも離れる訳にはいかない。
例え危険を犯す行為でも、ロッシュが参戦してこない現状を考えたら、今の内に敵戦力を削ぐのがベストだろう。せめてシルヴィやシンが戻って来るまでの間だけでも。
「おかしい・・・。何故数で勝っている俺達が攻め切れずにいる?それどころか押されてすらいる・・・」
シンのスキルで船から落とされそうになっていたロッシュが、船の停止と共に引き上がると甲板へ上がり、戦況の確認をしているところだった。だが状況は彼が思い描いていたのとは、全く別のかけ離れたものだった。
双眼鏡を取り出し、前線の状況を見てみればグレイス軍の船員一人一人が、波の兵達よりも各段に戦闘能力に長けているのが伺える。
ロッシュは自身の海賊団にある程度の自信を持っていた。それは数による人海戦術だけではなく、個々の腕前にも気を配っていたからだ。実際のところ、ロッシュの海賊船に乗る船員達の戦闘能力は、平均的な水準よりも高い能力を持っている。
「エイヴリーやキングんところの奴らにならともかく、何故グレイス海賊団なんぞに・・・ッ!グレイス・・・そうかッ!」
ロッシュの狡猾なところは、対決する相手や競争相手、ターゲットの人物を調べ上げることだ。それがこのフォリーキャナルレースともなれば、彼は尚更参加者のことを調べて来ていることだろう。
無論、ある程度名の知れたグレイスであれば例外である筈がない。極悪非道で狡賢い人物でありながら、ロッシュは勤勉でもあった。
そしてそんな彼が、攻め切れずにいる前線の状況を見て気付いたこと。それはグレイス海賊団の戦い方について、事前に調べていた情報を思い出したからだった。
「本来であれば、俺の船員達がこれ程遅れを取るなど考えられない。ならば何故数で勝る戦況を押し返されているのか・・・。てっきり海に落ちたモンだと思っていたが、グレイスの野郎・・・生きてやがったなッ・・・!?」
ロッシュがグレイスの存在に気付き始めていた頃、ルシアンを救出したシン達がグレイスの乗る船へと近づいていた。シルヴィはボードの到着を待たずして、ルシアンを背負いながら船へと飛び移る。これも本来の彼女であれば到底届くような距離ではない。グレイスの能力向上効果範囲に到達したことで、彼女の身体能力も上昇したのだろう。
「姉さんッ!マスターを連れて来たぜッ!重傷だがまだ生きてる。急いで手当てをッ!」
「助かったよシルヴィ、ありがとう・・・。手の空いてる者達で直ぐにルシアンを船内に運びなッ!船内の回復班に状況を説明し、治療を開始するんだッ!エリクの治療はある程度済んでる筈だ、ルシアンの治療を最優先ッ!急いで取り掛かりなッ!」
彼女の号令に船員達の威勢の良い声が響き渡る。シルヴィやエリクを回復させた時と同様、グレイスの能力向上を付与された回復班の治療のおかげで、ルシアンの治療は瞬く間に安全圏へと持って行くことができた。
もし、囮船にいた者達をここへ連れて来ることができたのなら、彼らも救うことが出来たのだろうか。あの時の状況では、多くの命を運び出すことは出来なかった。シンは最善の行動をし、最も失うことのできない戦力であるルシアンの命を救った。
それを咎める者など誰もいないだろう。ただ、それでも一時の安心の中に身を置くと考えてしまうことがある。あの時、もっと出来ることがあったのではないだろうか。自分にもっと力があれば、もう少し別の結果になったのではないだろうか。
それでも傷心している時間は彼らにはない。残された者に出来るのは、この世を去った者達が残したものを受け取ることだけ。活かすも殺すも残された者次第。せめて彼らの思いを無駄にせんと、ロッシュ戦最後の舞台に相応の闘志を燃やす。
グレイス軍の戦力は、囮船を除き残り二隻。一方ロッシュ軍は、船長を乗せた船を後方に置き、前線を二隻で固めた計三隻の布陣となる。
前に出る船に戦力を集中させ、敵船団へと向かわせるグレイス軍。そして彼女の乗る船もその後に続く。それというのも、継続した能力向上効果を維持するためだ。
一度効果を付与すれば、暫くの間維持される。しかし、時間経過と共に効力を失ってしまうため、短時間のブースト効果しか得られない。前線へ送り出した船と距離を空けてしまうと接近に時間がかかり、付与効果が切れてから再び付与をかけ直すまで、能力が元に戻ってしまう。
ただでさえ戦力に差がある中で、まともな能力で迎え撃ってしまえば瞬く間に数に飲み込まれてしまうだろう。そうならない為にも離れる訳にはいかない。
例え危険を犯す行為でも、ロッシュが参戦してこない現状を考えたら、今の内に敵戦力を削ぐのがベストだろう。せめてシルヴィやシンが戻って来るまでの間だけでも。
「おかしい・・・。何故数で勝っている俺達が攻め切れずにいる?それどころか押されてすらいる・・・」
シンのスキルで船から落とされそうになっていたロッシュが、船の停止と共に引き上がると甲板へ上がり、戦況の確認をしているところだった。だが状況は彼が思い描いていたのとは、全く別のかけ離れたものだった。
双眼鏡を取り出し、前線の状況を見てみればグレイス軍の船員一人一人が、波の兵達よりも各段に戦闘能力に長けているのが伺える。
ロッシュは自身の海賊団にある程度の自信を持っていた。それは数による人海戦術だけではなく、個々の腕前にも気を配っていたからだ。実際のところ、ロッシュの海賊船に乗る船員達の戦闘能力は、平均的な水準よりも高い能力を持っている。
「エイヴリーやキングんところの奴らにならともかく、何故グレイス海賊団なんぞに・・・ッ!グレイス・・・そうかッ!」
ロッシュの狡猾なところは、対決する相手や競争相手、ターゲットの人物を調べ上げることだ。それがこのフォリーキャナルレースともなれば、彼は尚更参加者のことを調べて来ていることだろう。
無論、ある程度名の知れたグレイスであれば例外である筈がない。極悪非道で狡賢い人物でありながら、ロッシュは勤勉でもあった。
そしてそんな彼が、攻め切れずにいる前線の状況を見て気付いたこと。それはグレイス海賊団の戦い方について、事前に調べていた情報を思い出したからだった。
「本来であれば、俺の船員達がこれ程遅れを取るなど考えられない。ならば何故数で勝る戦況を押し返されているのか・・・。てっきり海に落ちたモンだと思っていたが、グレイスの野郎・・・生きてやがったなッ・・・!?」
ロッシュがグレイスの存在に気付き始めていた頃、ルシアンを救出したシン達がグレイスの乗る船へと近づいていた。シルヴィはボードの到着を待たずして、ルシアンを背負いながら船へと飛び移る。これも本来の彼女であれば到底届くような距離ではない。グレイスの能力向上効果範囲に到達したことで、彼女の身体能力も上昇したのだろう。
「姉さんッ!マスターを連れて来たぜッ!重傷だがまだ生きてる。急いで手当てをッ!」
「助かったよシルヴィ、ありがとう・・・。手の空いてる者達で直ぐにルシアンを船内に運びなッ!船内の回復班に状況を説明し、治療を開始するんだッ!エリクの治療はある程度済んでる筈だ、ルシアンの治療を最優先ッ!急いで取り掛かりなッ!」
彼女の号令に船員達の威勢の良い声が響き渡る。シルヴィやエリクを回復させた時と同様、グレイスの能力向上を付与された回復班の治療のおかげで、ルシアンの治療は瞬く間に安全圏へと持って行くことができた。
もし、囮船にいた者達をここへ連れて来ることができたのなら、彼らも救うことが出来たのだろうか。あの時の状況では、多くの命を運び出すことは出来なかった。シンは最善の行動をし、最も失うことのできない戦力であるルシアンの命を救った。
それを咎める者など誰もいないだろう。ただ、それでも一時の安心の中に身を置くと考えてしまうことがある。あの時、もっと出来ることがあったのではないだろうか。自分にもっと力があれば、もう少し別の結果になったのではないだろうか。
それでも傷心している時間は彼らにはない。残された者に出来るのは、この世を去った者達が残したものを受け取ることだけ。活かすも殺すも残された者次第。せめて彼らの思いを無駄にせんと、ロッシュ戦最後の舞台に相応の闘志を燃やす。
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