World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
230 / 1,646

尽きる事なき闘争心

しおりを挟む
 徐々に火の手が回る囮船の甲板に倒れる人物を確認しようと、シルヴィが目を凝らす。すると、這いずって移動して来たであろう人物の後ろに立つ、もう一人のシルエットが燃ゆる炎の奥に見える。

 「ッ・・・!」

 必死の思いで這いずり救いを求めるルシアンは、背後に歩み寄る影の存在にまだ気付いていないようだ。意識が朦朧とし、視覚や聴覚といった器官がまともに機能していないのだ。

 ゆらゆらと力無く、ルシアンを目指して歩み寄るシルエット。遠目からでは、その影が味方のものであるのか敵のものであるのか判別がつかない。しかし、それもルシアンへ接近することで様子が変わってくる。

 もしその影が味方のものであるのならば、倒れているルシアンに何らかのアクションを起こしてもいい筈なのだが、彼の元まで辿り着くとその人影は立ち止まり、まるでトドメでも刺すかのように、倒れるルシアンに手をかざそうとしていたのだ。

 「あれは味方じゃねぇッ!クソッ・・・間に合えッ!!」

 シルヴィは再び鎖と手斧の投擲武器を取り出すと、最低限の回転で遠心力を溜め込み、ルシアンを狙う人影に向けて投げ放つ。最初の一投に加え、距離は近くなったものの、投擲に必要な予備動作を十分に確保出来ず、飛距離や回転数のみならず威力そのもの自体も大きく下がってしまった。

 それでも、ルシアンに手を加えられるまでの時間を稼げればそれで良い。大した攻撃にならなかった分、船との距離は既にシルヴィの跳躍で乗り込めるくらいのものにまで達していたからだ。

 「直接乗り込んで奴を叩くッ!お前は直ぐに船を脱出できるように、ボードを横につけて待機しててくれッ!」

 グッとボードの上で、跳躍のため足に力を溜めるシルヴィを引き止めるように声をかけるシン。距離が近くなったとはいえ、病み上がりの身体という条件だけでなく、足場の悪いボードの上だ。果たして、彼女本来の力で飛ぶことが出来るのだろうか。

 「まッ待て!こんな距離をその身体で飛べるのか?」

 囮船との距離はシルヴィが倒れる前、敵前線の船へ乗り込んだ時よりも遠い。とてもじゃないが、届くとは到底思えない。しかし、彼女には到達出来るという確たるものと自信があるように見受けられる。

 ルシアンの救出で距離が離れていて忘れていたが、その自信の正体はシンも知っているもの。そして何より彼にもその効果が乗っている。

 「今度は一人じゃねぇからな・・・。見せてやるよ、グレイス海賊団の戦い方ってやつをよぉッ!!」

 二人を乗せたボードが一瞬、グンと海へと沈むと彼女は宙を舞い囮船へと飛んで行った。その高さや飛距離から見て、これなら間違いなく届くであろうと予感させるものが感じられる。そこで初めてシンは思い出した。

 彼女の無謀を確たるものへと昇華している正体。それは彼女が絶対の信頼を送るグレイスの能力。ダンサークラスによる複数のステータス向上効果、所謂“バフ”が盛られていることによるものだった。

 「そうか!グレイスの・・・」

 彼女が向かうよりも先に、船に乗り込んでいった投擲武器は狙い通りルシアンの元で立っていた人影に向かって飛んでいく。この調子であれば問題なく当たるだろう。シンもシルヴィもそう思っていた。

 だが、狙われていた事を知ってか知らずかその人影は目前にまで迫った投擲を、それまでの動きからは想像も出来ない動きで避ける。人影の驚くべき身体能力はそれだけに留まらず、回転する投擲武器の中に腕を突っ込み、自らの腕に巻き付けていく。

 次第に迫って来た鎖の端に括り付けられた手斧を掴むと、もう片方の手斧が身体に刺さろうがお構い無しに、手にした武器を大きく振りかぶり、這いずるルシアンの頭部目掛けて振り下ろした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...