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天から垂れる蜘蛛の糸
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鎖を纏い斧を突き立てたその身体目掛け、別の物には目もくれず一直線に降った雷が、とてつもない光をビカビカとシャッターのフラッシュのように、辺りを真っ白の空間へと変える。
そしてその真っ白なキャンパスに、まるで描き殴られたかのような黒い人型のシルエットが見える。天を仰ぎ、雄叫びでも挙げているかの如く震える影。それが雷の衝撃によるものなのか、彼自身の震えなのか判断は出来ない。
雷撃の放った光が収まると、ルシアンの見ている光景には自分と同じく熱に焦された男の姿と、甲板に発火した炎の火の粉が待っている景色が広がっていた。生死の境を彷徨う壮絶な戦いの果てに迎えた結果がこれだ。
炎に蝕まれた船の上。ヴォルテルのスキルにより甲板は酷い有様だ。生き残った船員達は負傷者の手当てと救助を行い、救援ボートにて味方船を目指して行ったようだ。その道中、海へ投げ出された者や自ら飛び込んだ者達を可能な限り拾ってくれていた。
「おいおいおいッ・・・!何だ今の光はッ!?」
「雷だ、あの辺りだけ妙に暗かったのはそういうことだったのか」
ルシアンの乗る囮船を目指していた二人の目にも当然、今の雷鳴と稲光は見えていた。しかし、事情の分からぬ二人にはそれがスキルによるものなのか、単なる海の天候の気まぐれなのか。将又、意図的に狙っていたものなのか判断がつかない。
「んなこたぁ分かってんだよッ!問題はアレが誰の仕業だってこった。ルシアンのおっさんは調合師のクラスだ・・・。意図的に作り出した可能性だって十分あんだよ。・・・ただ相手が誰なのかが分からねぇ、そのクラスもな・・・」
シルヴィの言う通り最も危惧するべきは、あれ程の雷撃をスキルで放てる相手であるかどうかだ。あんな威力の雷撃を容易く撃たれては、たまったものではない。彼女の額から流れる汗を見れば、その危険性が言わずもながら伝わってくるようだった。
雷属性の攻撃は非常に早く、視認してから避けるなど到底不可能。しかし、スキル発動までの準備や前動作が分かりやすく、事前に対策は出来る。
それでも、先程の雷撃を目のあたりにしてしまうと、最早対策をする必要性があるのか甚だ疑問だ。対策諸共、一瞬にして焼き払われてしまうのが目に浮かぶ。
船に近づくにつれ、その船体の輪郭がぼやける蜃気楼のような空間の揺らめきが見えるようになって来ると、甲板から燃え上がる炎が火の粉を巻き上げているのが視界に飛び込んできた。
「船が燃えてやがるッ・・・おいッ!もっと早く動かねぇのかッ!?」
「無茶言うな、これでも全力だよ」
手遅れになる前に、何としてもルシアンの救出を成功させなければ。急かされる気持ちと不安が二人の足を早める中、船では瀕死の男が神の雷に撃ち抜かれた男の最後を見取ろうとしていた。
鉄壁の防御力を誇り、凡ゆる攻撃を跳ね除けてきたヴォルテルであったが、その鎧を剥がれてから徐々にダメージが通るようになり、そして最後には積み上げてきた布石が功を奏し、致命的な一撃を入れることが出来た。
しかしその代償は大きく、ルシアンもまた戦うことは愚か、満足に動き回ることすら出来ない状態へと追いやられ、あんなに大勢乗っていたこの船にも、残すところ甲板で黒々と焼かれた二人の男のみとなっていた。
雷撃で身を焦がしたその男は、不気味といっていいほどにピクリとも動かず、シルヴィの鎖に拘束されたままの体勢で立ち尽くしている。
肺を巡る空気がむせ返りそうになる熱を帯び、飛び火した炎が甲板に散らばる残骸と船員の亡骸を焼き尽くしていく。全身に力が入らず、皮肉にもヴォルテルによって床にひれ伏されたことで、煙から身を守ることで辛うじて呼吸出来ているルシアン。
暫くの間、立ち尽くすヴォルテルの様子を伺っていたルシアンだったが、どうやら動く様子のないその男を尻目に、シルヴィが救援に来ている方向へと這いずりながら移動を始めた。
その道中、仲間の遺体がまるで助けを求めるように、目を開いたまま恐怖の表情でこちらを向いているのを目撃する。彼らの助け無くしてここまで戦うことは出来なかった。だが、そんな彼らをここに置いていかねばならない状況がルシアンの心を蝕んでいく。
当然、彼らは既に助かることはない。例え自身が健全な状態で彼らの身体を運んでいこうと、何をすることも最早叶わない。彼の行動を咎める者など誰もいない。それでも、彼らの姿をその目に映すたびに、彼らとの他愛のない日々の思い出が蘇って来る。
今は辛くとも、彼らの死が無駄ではなかったことを証明する為にも、何としても残された仲間の元に帰らなければ。そんな思いだけが、今の彼の身体を動かす原動力になっていた。
船の端まで辿り着き、海の方を眺めると既に目と鼻の先までシンとシルヴィを乗せたボードがやって来ているのが見えた。
「おいッ!誰かいるぞ!・・・あれは・・・まさかッ、ルシアンかッ!?」
助けに来た仲間の姿が、これ程までに頼もしく安心出来るものなのだと痛感し、安堵が彼の心と思考を緊張から解き放つ。
そんな中、彼は気付かなかったが、背後で鉄の切れる音と共に甲板に鉄製の連なった物がジャラジャラと打ちつけていた。
そしてその真っ白なキャンパスに、まるで描き殴られたかのような黒い人型のシルエットが見える。天を仰ぎ、雄叫びでも挙げているかの如く震える影。それが雷の衝撃によるものなのか、彼自身の震えなのか判断は出来ない。
雷撃の放った光が収まると、ルシアンの見ている光景には自分と同じく熱に焦された男の姿と、甲板に発火した炎の火の粉が待っている景色が広がっていた。生死の境を彷徨う壮絶な戦いの果てに迎えた結果がこれだ。
炎に蝕まれた船の上。ヴォルテルのスキルにより甲板は酷い有様だ。生き残った船員達は負傷者の手当てと救助を行い、救援ボートにて味方船を目指して行ったようだ。その道中、海へ投げ出された者や自ら飛び込んだ者達を可能な限り拾ってくれていた。
「おいおいおいッ・・・!何だ今の光はッ!?」
「雷だ、あの辺りだけ妙に暗かったのはそういうことだったのか」
ルシアンの乗る囮船を目指していた二人の目にも当然、今の雷鳴と稲光は見えていた。しかし、事情の分からぬ二人にはそれがスキルによるものなのか、単なる海の天候の気まぐれなのか。将又、意図的に狙っていたものなのか判断がつかない。
「んなこたぁ分かってんだよッ!問題はアレが誰の仕業だってこった。ルシアンのおっさんは調合師のクラスだ・・・。意図的に作り出した可能性だって十分あんだよ。・・・ただ相手が誰なのかが分からねぇ、そのクラスもな・・・」
シルヴィの言う通り最も危惧するべきは、あれ程の雷撃をスキルで放てる相手であるかどうかだ。あんな威力の雷撃を容易く撃たれては、たまったものではない。彼女の額から流れる汗を見れば、その危険性が言わずもながら伝わってくるようだった。
雷属性の攻撃は非常に早く、視認してから避けるなど到底不可能。しかし、スキル発動までの準備や前動作が分かりやすく、事前に対策は出来る。
それでも、先程の雷撃を目のあたりにしてしまうと、最早対策をする必要性があるのか甚だ疑問だ。対策諸共、一瞬にして焼き払われてしまうのが目に浮かぶ。
船に近づくにつれ、その船体の輪郭がぼやける蜃気楼のような空間の揺らめきが見えるようになって来ると、甲板から燃え上がる炎が火の粉を巻き上げているのが視界に飛び込んできた。
「船が燃えてやがるッ・・・おいッ!もっと早く動かねぇのかッ!?」
「無茶言うな、これでも全力だよ」
手遅れになる前に、何としてもルシアンの救出を成功させなければ。急かされる気持ちと不安が二人の足を早める中、船では瀕死の男が神の雷に撃ち抜かれた男の最後を見取ろうとしていた。
鉄壁の防御力を誇り、凡ゆる攻撃を跳ね除けてきたヴォルテルであったが、その鎧を剥がれてから徐々にダメージが通るようになり、そして最後には積み上げてきた布石が功を奏し、致命的な一撃を入れることが出来た。
しかしその代償は大きく、ルシアンもまた戦うことは愚か、満足に動き回ることすら出来ない状態へと追いやられ、あんなに大勢乗っていたこの船にも、残すところ甲板で黒々と焼かれた二人の男のみとなっていた。
雷撃で身を焦がしたその男は、不気味といっていいほどにピクリとも動かず、シルヴィの鎖に拘束されたままの体勢で立ち尽くしている。
肺を巡る空気がむせ返りそうになる熱を帯び、飛び火した炎が甲板に散らばる残骸と船員の亡骸を焼き尽くしていく。全身に力が入らず、皮肉にもヴォルテルによって床にひれ伏されたことで、煙から身を守ることで辛うじて呼吸出来ているルシアン。
暫くの間、立ち尽くすヴォルテルの様子を伺っていたルシアンだったが、どうやら動く様子のないその男を尻目に、シルヴィが救援に来ている方向へと這いずりながら移動を始めた。
その道中、仲間の遺体がまるで助けを求めるように、目を開いたまま恐怖の表情でこちらを向いているのを目撃する。彼らの助け無くしてここまで戦うことは出来なかった。だが、そんな彼らをここに置いていかねばならない状況がルシアンの心を蝕んでいく。
当然、彼らは既に助かることはない。例え自身が健全な状態で彼らの身体を運んでいこうと、何をすることも最早叶わない。彼の行動を咎める者など誰もいない。それでも、彼らの姿をその目に映すたびに、彼らとの他愛のない日々の思い出が蘇って来る。
今は辛くとも、彼らの死が無駄ではなかったことを証明する為にも、何としても残された仲間の元に帰らなければ。そんな思いだけが、今の彼の身体を動かす原動力になっていた。
船の端まで辿り着き、海の方を眺めると既に目と鼻の先までシンとシルヴィを乗せたボードがやって来ているのが見えた。
「おいッ!誰かいるぞ!・・・あれは・・・まさかッ、ルシアンかッ!?」
助けに来た仲間の姿が、これ程までに頼もしく安心出来るものなのだと痛感し、安堵が彼の心と思考を緊張から解き放つ。
そんな中、彼は気付かなかったが、背後で鉄の切れる音と共に甲板に鉄製の連なった物がジャラジャラと打ちつけていた。
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