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勝機と銷魂と渇望と
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戦線から少し離脱したかというところ。砲撃を撃ち込むには近づかなければならないくらい遠く離れた位置。武装を積んだ囮役となる船に乗るルシアンと、それを知ってか知らずか単身乗り込んで来たヴォルテル。
こちらでの戦いも相手のクールタイムを読み、如何にして攻撃の波を乗り越えるかという状況。船員達の奮闘によりヴォルテルの前進は食い止められ、ルシアンの遠距離攻撃によって少しずつではあるが、着実にダメージを与えられている。
だがそこは、ロッシュ軍の主戦力ともなる男。受けたダメージによる疲労や苦悶の表情を一切見せることなく、グレイス軍の船員を悉く打ち負かしていく。
ここで気掛かりとなってくるのが、ヴォルテルのスキルのクールタイムだ。攻守を一遍に担い、ルシアンを含めグレイス軍の者達を戦慄させた全方位シールドバッシュの再使用がいつ訪れるのか。
実際のところ、初手で強力なスキルを撃たれたのが戦況に大きく影響してきている。戦場において、相手に恐怖を植え付けるということがこれ程有効であるのかと、身を以て思い知らされた。
スキルを発動された時の衝撃や絶望、パニックにより統率が乱され、動揺は後方にいた者達へも伝染していったのだ。不幸中の幸いか、パニックに陥った者達の行動で、次に取るべき行動を見出すことが出来た。
しかしそれも長くは続かない。一度恐怖を植え付けられた者は、再度その恐怖が迫ると再び冷静さを失い、単純なミスや焦りを誘発させる。
今が正にその状況下にあり、ヴォルテルの全方位シールドバッシュのクールタイムがどの程度進んでいるのか、或いはもう終わっているのか。一度目の衝撃からそれなりの時間が過ぎた。ルシアンだけではなく、その場にいた誰もが内心に思うこと。
次はいつくるのか、本当は既にクールタイムは過ぎていていつでも再使用出来るのではないか。その恐怖からヴォルテルへの攻撃の手数が徐々に減りつつあった。
「今が踏ん張りどころですね・・・。私のスキルの回転率を上げて手数を増やすのが最善でしょう・・・」
誰もが痛い思いをして死ぬのは御免だと、目の前で今にも爆発せんと膨れ上がる爆弾を前に、足が言うことを聞かず後退しようとする。だが手数を緩め、ヴォルテルに進軍を許す訳にはいかない。
もし自分がヴォルテルの立場にあるのなら、強力なスキルでより多くの者達を巻き込むため、チャンスを伺うだろう。今のちまちまとしたグレイス軍の攻めは、彼にとって攻めの一手を打たせぬ焦ったい状況だろう。
彼にスキルを無駄撃ちさせるため、船員の命ではなく遠距離からの鬱陶しい攻撃による弾幕で、使わざるを得ない状況持ち込む事さえ出来れば勝機も見えてくるというもの。
だが不可解なのは、そんな状況にされながらも彼に焦りの様子が見えないということだ。そもそも表情や態度に表すようなタイプではなかったが、どうしても細かな所作に出てくるものだ。そしてルシアンの嫌な予感は的中し、更に彼の頭を悩ませる事態に陥ることとなる。
迫り来るグレイス軍の攻撃を押し退け、ルシアンの調合したシェイカーの遠距離投擲を捌いていくヴォルテル。所々で防ぎきれない攻撃が発生しているようで、圧倒的防御を誇る彼にも小さなダメージが積み重なっていく。
すると、それまでシールドバッシュや彼を休ませぬ為の波状攻撃に気を取られ気づかなかったが、彼の持つ大きな盾の周りに蜃気楼のような光の屈折による歪みが見える。
大したことではないのかも知れないが、ルシアンはヴォルテルの表情から何か掴もうとするが、彼は顔ごと身体を隠すようにルシアンの視線を遮ろうと盾の壁を隔てる。
その時、それが蜃気楼による影響なのか見間違いなのか分からなかったが、盾に隠れる刹那、ヴォルテルの表情が微かに笑っているように見えたのだ。そして、そんな彼の表情について考える間も無くその時はやって来た。
ヴォルテルの持つ盾の中心が、サンドワームの大口のようにパックリと開き、勢い良く真っ赤に燃え盛る炎を吐き出したのだ。
突然の予期せぬことに、目の前に迫る火炎に対し身体の前で両腕を出して遮ることしか出来なかった。当然、そんなものでどうにかなるはずも無く、ルシアンを含め彼の前方にいたグレイス軍の船員諸共、全身を業火に焼かれ立っていることもままならず、甲板でのたうち回る。
「あ“あ”あ“あ”あ“ぁぁぁッ!!」
ヴォルテルによる、その場にいる誰もが騒然とする衝撃はこれで二度目だ。まるで地獄かのように響き渡る悲鳴に、攻撃を受けなかった船員達の戦意をも焼き尽くし、彼を狙う攻撃の一切を止めた。
こちらでの戦いも相手のクールタイムを読み、如何にして攻撃の波を乗り越えるかという状況。船員達の奮闘によりヴォルテルの前進は食い止められ、ルシアンの遠距離攻撃によって少しずつではあるが、着実にダメージを与えられている。
だがそこは、ロッシュ軍の主戦力ともなる男。受けたダメージによる疲労や苦悶の表情を一切見せることなく、グレイス軍の船員を悉く打ち負かしていく。
ここで気掛かりとなってくるのが、ヴォルテルのスキルのクールタイムだ。攻守を一遍に担い、ルシアンを含めグレイス軍の者達を戦慄させた全方位シールドバッシュの再使用がいつ訪れるのか。
実際のところ、初手で強力なスキルを撃たれたのが戦況に大きく影響してきている。戦場において、相手に恐怖を植え付けるということがこれ程有効であるのかと、身を以て思い知らされた。
スキルを発動された時の衝撃や絶望、パニックにより統率が乱され、動揺は後方にいた者達へも伝染していったのだ。不幸中の幸いか、パニックに陥った者達の行動で、次に取るべき行動を見出すことが出来た。
しかしそれも長くは続かない。一度恐怖を植え付けられた者は、再度その恐怖が迫ると再び冷静さを失い、単純なミスや焦りを誘発させる。
今が正にその状況下にあり、ヴォルテルの全方位シールドバッシュのクールタイムがどの程度進んでいるのか、或いはもう終わっているのか。一度目の衝撃からそれなりの時間が過ぎた。ルシアンだけではなく、その場にいた誰もが内心に思うこと。
次はいつくるのか、本当は既にクールタイムは過ぎていていつでも再使用出来るのではないか。その恐怖からヴォルテルへの攻撃の手数が徐々に減りつつあった。
「今が踏ん張りどころですね・・・。私のスキルの回転率を上げて手数を増やすのが最善でしょう・・・」
誰もが痛い思いをして死ぬのは御免だと、目の前で今にも爆発せんと膨れ上がる爆弾を前に、足が言うことを聞かず後退しようとする。だが手数を緩め、ヴォルテルに進軍を許す訳にはいかない。
もし自分がヴォルテルの立場にあるのなら、強力なスキルでより多くの者達を巻き込むため、チャンスを伺うだろう。今のちまちまとしたグレイス軍の攻めは、彼にとって攻めの一手を打たせぬ焦ったい状況だろう。
彼にスキルを無駄撃ちさせるため、船員の命ではなく遠距離からの鬱陶しい攻撃による弾幕で、使わざるを得ない状況持ち込む事さえ出来れば勝機も見えてくるというもの。
だが不可解なのは、そんな状況にされながらも彼に焦りの様子が見えないということだ。そもそも表情や態度に表すようなタイプではなかったが、どうしても細かな所作に出てくるものだ。そしてルシアンの嫌な予感は的中し、更に彼の頭を悩ませる事態に陥ることとなる。
迫り来るグレイス軍の攻撃を押し退け、ルシアンの調合したシェイカーの遠距離投擲を捌いていくヴォルテル。所々で防ぎきれない攻撃が発生しているようで、圧倒的防御を誇る彼にも小さなダメージが積み重なっていく。
すると、それまでシールドバッシュや彼を休ませぬ為の波状攻撃に気を取られ気づかなかったが、彼の持つ大きな盾の周りに蜃気楼のような光の屈折による歪みが見える。
大したことではないのかも知れないが、ルシアンはヴォルテルの表情から何か掴もうとするが、彼は顔ごと身体を隠すようにルシアンの視線を遮ろうと盾の壁を隔てる。
その時、それが蜃気楼による影響なのか見間違いなのか分からなかったが、盾に隠れる刹那、ヴォルテルの表情が微かに笑っているように見えたのだ。そして、そんな彼の表情について考える間も無くその時はやって来た。
ヴォルテルの持つ盾の中心が、サンドワームの大口のようにパックリと開き、勢い良く真っ赤に燃え盛る炎を吐き出したのだ。
突然の予期せぬことに、目の前に迫る火炎に対し身体の前で両腕を出して遮ることしか出来なかった。当然、そんなものでどうにかなるはずも無く、ルシアンを含め彼の前方にいたグレイス軍の船員諸共、全身を業火に焼かれ立っていることもままならず、甲板でのたうち回る。
「あ“あ”あ“あ”あ“ぁぁぁッ!!」
ヴォルテルによる、その場にいる誰もが騒然とする衝撃はこれで二度目だ。まるで地獄かのように響き渡る悲鳴に、攻撃を受けなかった船員達の戦意をも焼き尽くし、彼を狙う攻撃の一切を止めた。
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