World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
213 / 1,646

算段成就

しおりを挟む
 あからさまな痕跡。これまでの用意周到な攻撃をして来た相手のものとは思えない見落とし、簡単なミス。だがロッシュは、当然そんなことは無いだろうと踏み、先行して光を送り込む。

 そこで彼に、更なる衝撃が訪れる。何と彼の予想に反し、光は物陰で何かの反応を探知しているのだ。痕跡だけ残し、既に別の場所へ移動しているものとばかり思っていた彼の不意を突いた。

 「誘ってやがるのか・・・?かかって来い・・・と?」

 チープな挑発だが、彼の頭の中に不安の影を落とすのには十分な効果があった。しかし、考察に時間を取られて仕舞えば回復の時間を与えてしまうだけでなく、相手に策を弄され流れを変えられてしまう。

 考えてしまえば再び後手に回る戦闘になる。今の勢いを失う訳にはいかないロッシュは、懐から取り出した二本の投げナイフに光を潜ませると、回転をかけて左右からブーメランのように物陰に隠れる何者かへと投げる。

 間髪入れずに自らも物陰へと走るロッシュ。彼よりも先に物陰に隠れているであろう何者かの元へ到達する二本の投げナイフ。左右から同時に物陰へと入るのをその目で見ていた。

 そこにいるのであれば刺さるなり切れるなりの、負傷を負わせられる筈なのだが、物陰から聞こえてきたのは、鉄製の物同士をぶつかり合わせたかのような金属音。直ぐに視線を落と床を這う光の様子を伺うも、依然何かの反応があるような動きを見せている。

 投げナイフは当たらなかったのに、そこには確かに何かがいる。単純にナイフを外したと考えるのが妥当だが、彼の中にこの距離で外すということが先ず有り得ないことだった。

 それというのも、彼がナイフに施したスキルに秘密がある。海上で砲撃を行なっていた際、ロッシュが触れた砲弾は正確性を増し、グレイスの船を撃沈させてみせた。だがその砲撃は、狙撃手の腕が良かったからでは無い。ロッシュの砲弾に対する施しがあったからこそなのだ。

 その砲弾と同じことを、ロッシュは今投げナイフでやってみせた。故に投擲はある程度のカーブが掛かろうとも、目標に向かって正確に飛んで行くことに疑いの念は一切なかった。ナイフも正確、光も正確となれば後は相手側の要素以外に考えられない。

 いよいよ物陰の裏側を確かめるため、置かれた荷物に触れ覗き込む。だが、そこには誰もいない。集まっていた光は彼が覗くのと同時に、周囲へと散開して行く。何者かが居たであろう場所を注視した後、そこから移動できそうな物陰はないか見渡す。

 もしも自分が隠れるならばという場所の目ぼしを付けるも、先程のロッシュの位置であれば移動を視認出来た筈。ロッシュは腰を下ろし床に手を置く。掌には僅かではあるが、何か暖かいものが寸前までそこにあったであろう温度を感じる。

 「見てからではどんな距離でも逃げられるか・・・。ならばある程度予測し、連続でスキルを使わせる。同じ手は食わん・・・数を増やし監視の目を置く」

 ロッシュは再び腕から光を床に送り込むと、今度は今までの探索とは趣向を変えた動きをとらせる。すると彼は限られた物陰を、より多く視認出来る位置へと移動し、光達の様子を伺う。

 息を飲み、僅かな変化でも一瞬で見極め反応することこそが、ロッシュの作戦には必要不可欠。神経を集中させ、目の中の瞳は少しでも視野を広げるため細かに動き続けている。

 床や壁、天井を這う光は物陰を中心とし、付かず離れずの位置で巡回をしている。暫くすると、その内の一つが何かを見つけたかのような反応を見せる。ロッシュはその反応を見るや否や、素早く投げナイフによる投擲でその物陰を狙う。

 ナイフを投げた場所への視点送りをやめたロッシュは、そちらを一切見ることなく他の光の反応を伺うと、彼の予想した通り相手は影を通り別の場所へと移動したようで、狙いを付けていた内の一つの光が直ぐに反応を示す。

 今度は二本の投げナイフを投げる。最初の物陰へ投げたナイフが壁か床に当たったのか、金属音を響かせ床に転がる。その代わりに二つ目の反応があった場所ではナイフの音が明かに違っていた。

 恐らくその物陰に何者かがいる。しかしロッシュは直ぐに動かない。反応を追って追撃を与えるのは、カウンターを受けるリスクがある。それならば今の状況を継続し、相手を疲弊させて行く方が後々の戦況に影響してくるであろうと踏んでのことだった。

 その他にもロッシュには確認したい事があった。それは影による移動スキルのクールタイムだった。連続して使用できるスキルだったとしても、必ずクールタイムは存在する。その僅かな時間こそ、相手に攻撃を仕掛けられるチャンスなのだから。

 負傷を与えたであろう物陰に、間髪入れず再び投げナイフを放る。すると今度はそれまでに無い反応が、物陰で起こったのだ。その何者かは、ロッシュの放ったナイフを弾いた。つまり影を使っての移動が出来ない状態であることが分かる。

 しかし、一度目は観察のため余計な時間を食ってしまった為に、今回は追撃を見送ると再び光の反応を伺う作業に戻る。声も上げる事なく負傷を我慢しているのか治しているのか、依然相手はその物陰から移動する事なく止まっている。

 わざとスキル再使用までの猶予を与え、暫く間を置いた後再びナイフを放ってみる。放たれたナイフとそこを見張っていた光は、相手が影による移動をした時と同じ反応を示す。空かさず別の場所に視点を切り替えると、他の物陰で光が反応しているのが見えた。

 今度はクールタイムの時間をロッシュは知っている。間違いなく今、相手は影に逃れることは出来ない。二本の投げナイフを放り先行させると、今度はトドメを刺すため自ら動き出すロッシュ。

 ナイフは何処に落ちるでもなく、標的に命中した。僅かに飛び散る赤い液体が、光を反射させたのが視界に映る。相手の姿を隠す遮蔽物に手を添え、ロッシュは漸く拝めるであろう相手の顔目掛けて、身に付けていた短剣を腰から引き抜き、勢い良く振るう。

 遮蔽物の後ろには、コートで身を隠した何者かが寄り掛かって座っている。それが誰で何者であるかなど関係ない。始末した後で確認すれば良いと、躊躇うことなく振るわれる短剣。コートの何者かは、ロッシュの方を向くこともなくただそこで座っているだけ。

 そして姿を見せなかった者との戦いは佳境へと差し掛かり、ロッシュの振るった短剣はその剣先を着地させ、彼の動きを止めた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...