World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
211 / 1,646

仄暗い部屋の攻防

しおりを挟む

 周囲への警戒はそのままに、怪しい部屋へ追加で光を送り込むロッシュ。無論、部屋に何があるか分からないので、廊下から一歩も動かず中の捜索を行う。彼の放った光達は床や壁をゆっくり撫で回すように這って進み、何者かの痕跡を探す。

 すると、先ほど光が影に呑まれた現場に一つの光が再び近づいて行く。何かの異変を見つけるかもしれない光の動向を、常に見渡さなければならなかったのだが、何故かロッシュの視線は影に近づく光に吸い寄せられるように釘付けになった。

 論理的に考えれば効率が悪く、自身の身の危険を招きかねないことだと分かってはいたが、不思議と目を離すことが出来なかったのだ。それは心の中にあるちょっとした好奇心、或いはまた同じ現象が起こるのではないかという期待が上回った結果だろう。

 光は同じように影の中へ入ろうとした。ロッシュの意識はそれまで以上に、その光の行動を注視する。光はゆっくり影の中へ入り、周辺の痕跡を探る。すると、影の中で一部の箇所が徐々に色を濃くしていくように見えた。

 濃くなった影の部分にロッシュの送り込んだ光が接触すると、みるみる内に吸い込まれて消えてしまった。やはりここには何かいると思った時、扉の戸当たりの部分に黒い影が身を隠すようスッと室内へ入って行くのが見えた。

 正確にいえば“気がした”という感覚だったが、何者かが潜んでいるかも知れない暗闇を覗き、何かされ兼ねない状況ではそのちょっとしたことが、とても重大で大きなことになる。

 「ッ・・・!」

 咄嗟に廊下の方へ後退りするロッシュ。それまで少し離れたところで見ていたことが、自分の直ぐ真横にまで迫っていたのかと思うと、危うく影に引きずり込まれるところだったと冷や汗が止まらない。

 あのまま迫って来ていた影に気付かず、光が影に呑もれるところを見続けていたら、自分もあの光のように何処かへ消されていたのだろうか。

 「・・・誘っているのか・・・中へ入って来いと・・・。だが、これで俺はますます入らない覚悟を決めたぞッ!入らずに貴様を炙り出し始末してやる・・・」

 自身の不用意な好奇心を改め、仕切り直すように先ずは廊下を見渡し、他の捜索にあたる光を確認する。だが変化はなく、依然這い周りながら巡回を続けていた。そして目の前にある、薄暗い部屋へ続く入り口の方へ視線を送ると、ロッシュはあることに気付く。

 少し後退したことによって見える範囲が狭まったとはいえ、彼が送り出した筈の光が一向に見えてこないのだ。素早く動くものではないので、まだ見える位置に来ていないだけとも思えるが、這い周る光の数に対しこれは明かに不自然だ。

 「まさか・・・全て呑まれたとでも言うのか・・・?」

 彼が見えざる者の正体に手を拱いていると、廊下で捜索していた光が徐々に近づき、部屋の中へとゆっくり入って行った。それをただ黙って見送るも、結果は言うまでもない。

 天井の方からも光がやって来る。そして先程の光と同じようにして、真っ暗な部屋の中へと入る。そんな光景を見ていたロッシュは、ハッと我に帰り辺りを見渡すと、彼が放った無数の光は目の前の部屋に吸い込まれるようにして、次々にやって来ていたのだ。

 「こッ・・・これはッ!?そうか!これは奴のスキルによる何か・・・それに反応して集まり出したのか・・・。くッ!これでは無駄に呑み込まれる一方だッ・・・」

 ロッシュはその場でしゃがむと、床に掌をつける。目の前の部屋に向かって集まり出す光を無駄に失うまいと、自分の身体に戻して行く。しかし、これで彼に室内を調べる術はなくなった。自ら何が起きているかも分からぬ暗闇に足を踏み込む以外に方法はない。

 だがそれでは、敵の思惑通りに事が運ぶことになる。そうなれば相手の土俵で戦うことを強いられる圧倒的に不利な状況に陥るだけでなく、敵の掌の上で踊らされているということがロッシュは気に食わなかった。

 光を回収し終え立ち上がると、後退りした分を取り戻すように前進し部屋へと近づく。汗が頬を伝い、息を飲む音が聞こえる。最早、自らの目で確かめるしかないと、中を覗き込むようにして少しだけ前のめりになる。

 そこへ彼を挟むようにして廊下の両脇から音も無く矢が飛んで来る。前のめりになってしまっていた手前、ロッシュには前に回避するより道はない。勢い良く前に避け、部屋に入りそうになる身体を、扉の両枠に手を付いて支え、何とか中に入らずに矢を避けることが出来た。

 しかし、相手の攻撃はそこで終わらず畳み掛けるようにして彼を追い詰める。扉の枠に手を押し付けていた彼自身の影が、底無しの奈落へと通じる穴のように空洞に変わり、ロッシュの身体は宙に浮いて影の中へと落下する。

 「うッ・・・!」

 間一髪のところで床にしがみ付き、何とか落下を凌ぐ。だがその床は部屋への床。助かりたければ、何者かの潜む薄暗い部屋に身を投じるしかない。ロッシュはまんまと相手の思惑に嵌められたのだ。

 「これも貴様の思惑通りかッ・・・。なるほど、影に関するスキルか。通りで陰気くせぇところに隠れてる訳だッ・・・!」

 意を決し身体を持ち上げ、部屋の中へと転がり込む。例え不利な状況下でも必ず突破口はある。その為に一時‬の屈辱に耐え、プライドを捨てるロッシュ。

 「いいだろう、ここまでは貴様の勝利だ・・・認めざるを得ない。だが、まだ終わりではない。今、殺し損ねたのが貴様の敗因だと知れッ!俺はこれからだ・・・不利を覆しその死顔を拝んでやるぞ・・・」

 煮え滾るような闘志が漏れ出ているかのように、睨みを利かせて周囲の音や反応、気配に神経を研ぎ澄ませる。入り組んだ薄暗い船内という環境で、ロッシュは次なる手を打つ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...