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適材適所の存在
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グレイスが船に引き上げられる間にも、戦況は大きく変わっていた。それまでの砲撃戦をメインにしたエリクとフェリクスによる遠距離戦の展開から、船をぶつかり合わせ敵船に乗り込む接近戦へと移行していたのだ。
それは、エリクが煙幕の中に砲撃砲を撃ち込み、火炎弾による炎上を計っていたところまで遡る。エリクは火炎弾を撃ち込むと、風水による術でそれまでロッシュ軍の周りに留めていた風を動かし始めたのだ。
煙幕で得られていた敵軍の妨害効果は失われてしまうが、それ以上にロッシュの船団を追い込む絶大な効果を得ることになる。
行動を制限され、手を拱いているところに火炎弾をばら撒くことで更なる混乱を招いた。そして、それまで風を制御されていた煙幕の中一帯に、再び風を起こすことによって炎の回りが早まったのだ。
みるみる広がる炎は、瞬く間に船を覆い尽くさんという勢いで燃え盛り、数で上をいくロッシュの船団を焼き払い、劣勢であった戦況を覆して見せた。この功績のおかげでロッシュの船団は数隻の船を失う結果となり、雲塊に埋もれていた一帯には三隻しか残っていなかったのだ。
実際にはもう一隻あったのだが、その船は火炎弾が撃ち込まれるよりも先に煙幕を脱し、何故かそのまま直進し続け、通信も入らぬまま大海原へと姿を消していた。これが功を奏し、両軍の数による戦力差はなくなるのだが、ロッシュによる思わぬ攻撃を受けることになる。
「ルシアンさん、俺はこれから風水士のスキルで奴らの船団の周りに風を起こします。無論、煙幕の効果は無くなってしまいます・・・。その前に貴方にやって頂きたいことがあります」
「やって貰いたいこと・・・?」
エリクはまだ、煙幕による恩恵を隈なく活かす気でいる。ルシアンと数人の船員は彼の指示に従い、準備に取り掛かる。その途中、彼はルシアンに突然謝罪をした。本来であれば自分がやるべき事なのだが、エリクはこの作戦に適さない他、術でここを離れる訳にはいかなかったからだ。
「ルシアンさん、恐らくですがこの作戦で最も危険になる可能性が高いのは・・・貴方です。その・・・すいません・・・」
彼の突然の態度に少し動揺したルシアンだったが、役割というものには適材適所がある。遠距離クラスの者と組むのであれば、同じ遠距離タイプのクラスに就く者より、近距離や中距離をこなせるクラスの者の方が一般的にはいいとされる。同じ特徴を持つ者同士では、出来ない事が被ってしまい、それに付随して弱点も同じになってしまう。
それならば互いの欠点を補い、サポートし合える者同士で組んだ方が行えることが増え、敵からの攻撃にも対応しやすい。エリクがルシアンに頼むということは、遠距離クラスである彼では出来ないことなんであろう。それは長い付き合いであれば分かることだった。
「構いませんよ。貴方はここから離れられず、シルヴィも船長救出で動けない・・・。と、なれば私しかいないでしょう」
笑顔で返すルシアンの姿に、エリクは申し訳なさと、必ず作戦を成功させなければと静かに奮起した。
戦闘が始まった時には数で勝っていたロッシュの船団だが、今では大半を失い五分五分の状況にまで追いやられた。そして主戦力であったフェリクスの姿が消え、通信も途絶えたことにより遠距離戦の要を失っていた。
「どうするんですかぃ?船長・・・。フェリクスの奴は逃げたのか死んだのか知らねぇが、いなくなっちまった。船もまさかこんなに失うことになるなんてなぁ」
巨大な盾を甲板に立て、寄りかかるヴォルテルという男。降り注ぐ火炎弾の雨からロッシュの乗る船を守ったその大きな盾。これこそ彼のクラスの特徴であった。
「お前の出撃を許可したんだ。何をするか・・・わかるだろ?」
「えぇ、勿論ですぜぇッ!俺の戦い方・・・ゴリゴリの接近戦をさせてもらえるんですよねぇ!そんじゃぁ・・・どの船を頂けるですかぃ?」
ロッシュは火炎弾を浴びても尚、何とか機能している味方船を顎で指す。自分が乗り込む船を確認したヴォルテルは、ロッシュにあることを頼む。彼はヴォルテルの鎧に纏われた巨体に触れると、触れた部分から淡い光が現れ、ヴォルテルの鎧の上を走りながら脚部にまでたどり着くと、まるで体内に吸い込まれるようにして消えた。
「行け・・・」
「おっしゃぁッ!任せてくだせぇッ!!」
ゆっくり後ろへ下がるヴォルテルは、騒がしい金属音をその身体から奏で助走をつけて走り出すと手摺りへ足をかけ、常識的に考えてあり得ないであろう距離を飛んで味方船へと渡った。
「ヴォッ・・・ヴォルテルさん!」
「船を出せッ!船長命令だッ!敵船に突っ込むぜぇッ!!」
船長命令とあらば説明は不要だといった様子でふんぞり返り、グレイス軍の船目掛けて進軍するヴォルテルと、その後ろから船を進めるロッシュ。不穏な雰囲気を身に纏い、船首で腕を組みながらただ黙って立っているロッシュには、まだ秘策があるようだった。
準備を整え、船を乗り換えるルシアン。それまで乗っていたエリクやシルヴィの残る船を離れ、少し前に船を進めて待機する。その船の甲板には、全弾を撃ち尽くした迫撃砲がズラリと並べて置かれていた。
迫撃砲の移動ですっかり広々とした船の甲板で、エリクは風水士のスキルを再度発動させようとする。その時、彼目掛けて一センチにも満たない小さな銃弾が機関銃のように飛んできた。
「ッ・・・!何だッ・・・!?」
不意打ちを食らってしまったエリクが、咄嗟に甲板を転がると、彼の頭上を戦闘機のようなものが通り過ぎる。得体の知れない飛行物体を目で追うと、小さな戦闘機が彼の周りを飛び回っていた。
エリクにはこれが何なのか、誰による攻撃なのかは分からなかったが、これこそロッシュの秘策の片鱗であったのだ。逃げ回るエリクを執拗に追い回す戦闘機の銃弾が、彼の足と腕に命中する。
通常の銃弾に比べれば傷の大きさもダメージも小さいが、それがかえってエリクを苦しめる結果となった。その銃弾は、中途半端に威力が弱いため身体を貫通していかず、肉に突き刺さるようにして皮膚を破り、内部に食い込んでいたのだ。
「ぐッ!!・・・何だあれは!?敵の誰か・・・いや、ロッシュの攻撃なのかッ!?だがこんな攻撃見たことがない・・・、どういう原理でッ・・・」
敵軍の不可解な攻撃に翻弄されるエリク。だが、この戦闘機が彼を狙う限り決して姿を隠したり逃げることは許されない。もし船尾でシルヴィがグレイスを引き上げているのが気付かれでもしたら、戦闘機はターゲットを変え襲い掛かることだろう。
無防備の状態でシルヴィが襲われれば、戦況に影響を及ぼすダメージを負い兼ねない。自分の策でルシアンに重荷を背負わせ、船長やシルヴィまで危険に晒す訳にはいかない。
怪我の痛みに震える足を起き上がらせ、隠れる物のない甲板で敵の注意を自らに集めるため、姿を晒し続けるエリクが謎の戦闘機との戦いを始める。
それは、エリクが煙幕の中に砲撃砲を撃ち込み、火炎弾による炎上を計っていたところまで遡る。エリクは火炎弾を撃ち込むと、風水による術でそれまでロッシュ軍の周りに留めていた風を動かし始めたのだ。
煙幕で得られていた敵軍の妨害効果は失われてしまうが、それ以上にロッシュの船団を追い込む絶大な効果を得ることになる。
行動を制限され、手を拱いているところに火炎弾をばら撒くことで更なる混乱を招いた。そして、それまで風を制御されていた煙幕の中一帯に、再び風を起こすことによって炎の回りが早まったのだ。
みるみる広がる炎は、瞬く間に船を覆い尽くさんという勢いで燃え盛り、数で上をいくロッシュの船団を焼き払い、劣勢であった戦況を覆して見せた。この功績のおかげでロッシュの船団は数隻の船を失う結果となり、雲塊に埋もれていた一帯には三隻しか残っていなかったのだ。
実際にはもう一隻あったのだが、その船は火炎弾が撃ち込まれるよりも先に煙幕を脱し、何故かそのまま直進し続け、通信も入らぬまま大海原へと姿を消していた。これが功を奏し、両軍の数による戦力差はなくなるのだが、ロッシュによる思わぬ攻撃を受けることになる。
「ルシアンさん、俺はこれから風水士のスキルで奴らの船団の周りに風を起こします。無論、煙幕の効果は無くなってしまいます・・・。その前に貴方にやって頂きたいことがあります」
「やって貰いたいこと・・・?」
エリクはまだ、煙幕による恩恵を隈なく活かす気でいる。ルシアンと数人の船員は彼の指示に従い、準備に取り掛かる。その途中、彼はルシアンに突然謝罪をした。本来であれば自分がやるべき事なのだが、エリクはこの作戦に適さない他、術でここを離れる訳にはいかなかったからだ。
「ルシアンさん、恐らくですがこの作戦で最も危険になる可能性が高いのは・・・貴方です。その・・・すいません・・・」
彼の突然の態度に少し動揺したルシアンだったが、役割というものには適材適所がある。遠距離クラスの者と組むのであれば、同じ遠距離タイプのクラスに就く者より、近距離や中距離をこなせるクラスの者の方が一般的にはいいとされる。同じ特徴を持つ者同士では、出来ない事が被ってしまい、それに付随して弱点も同じになってしまう。
それならば互いの欠点を補い、サポートし合える者同士で組んだ方が行えることが増え、敵からの攻撃にも対応しやすい。エリクがルシアンに頼むということは、遠距離クラスである彼では出来ないことなんであろう。それは長い付き合いであれば分かることだった。
「構いませんよ。貴方はここから離れられず、シルヴィも船長救出で動けない・・・。と、なれば私しかいないでしょう」
笑顔で返すルシアンの姿に、エリクは申し訳なさと、必ず作戦を成功させなければと静かに奮起した。
戦闘が始まった時には数で勝っていたロッシュの船団だが、今では大半を失い五分五分の状況にまで追いやられた。そして主戦力であったフェリクスの姿が消え、通信も途絶えたことにより遠距離戦の要を失っていた。
「どうするんですかぃ?船長・・・。フェリクスの奴は逃げたのか死んだのか知らねぇが、いなくなっちまった。船もまさかこんなに失うことになるなんてなぁ」
巨大な盾を甲板に立て、寄りかかるヴォルテルという男。降り注ぐ火炎弾の雨からロッシュの乗る船を守ったその大きな盾。これこそ彼のクラスの特徴であった。
「お前の出撃を許可したんだ。何をするか・・・わかるだろ?」
「えぇ、勿論ですぜぇッ!俺の戦い方・・・ゴリゴリの接近戦をさせてもらえるんですよねぇ!そんじゃぁ・・・どの船を頂けるですかぃ?」
ロッシュは火炎弾を浴びても尚、何とか機能している味方船を顎で指す。自分が乗り込む船を確認したヴォルテルは、ロッシュにあることを頼む。彼はヴォルテルの鎧に纏われた巨体に触れると、触れた部分から淡い光が現れ、ヴォルテルの鎧の上を走りながら脚部にまでたどり着くと、まるで体内に吸い込まれるようにして消えた。
「行け・・・」
「おっしゃぁッ!任せてくだせぇッ!!」
ゆっくり後ろへ下がるヴォルテルは、騒がしい金属音をその身体から奏で助走をつけて走り出すと手摺りへ足をかけ、常識的に考えてあり得ないであろう距離を飛んで味方船へと渡った。
「ヴォッ・・・ヴォルテルさん!」
「船を出せッ!船長命令だッ!敵船に突っ込むぜぇッ!!」
船長命令とあらば説明は不要だといった様子でふんぞり返り、グレイス軍の船目掛けて進軍するヴォルテルと、その後ろから船を進めるロッシュ。不穏な雰囲気を身に纏い、船首で腕を組みながらただ黙って立っているロッシュには、まだ秘策があるようだった。
準備を整え、船を乗り換えるルシアン。それまで乗っていたエリクやシルヴィの残る船を離れ、少し前に船を進めて待機する。その船の甲板には、全弾を撃ち尽くした迫撃砲がズラリと並べて置かれていた。
迫撃砲の移動ですっかり広々とした船の甲板で、エリクは風水士のスキルを再度発動させようとする。その時、彼目掛けて一センチにも満たない小さな銃弾が機関銃のように飛んできた。
「ッ・・・!何だッ・・・!?」
不意打ちを食らってしまったエリクが、咄嗟に甲板を転がると、彼の頭上を戦闘機のようなものが通り過ぎる。得体の知れない飛行物体を目で追うと、小さな戦闘機が彼の周りを飛び回っていた。
エリクにはこれが何なのか、誰による攻撃なのかは分からなかったが、これこそロッシュの秘策の片鱗であったのだ。逃げ回るエリクを執拗に追い回す戦闘機の銃弾が、彼の足と腕に命中する。
通常の銃弾に比べれば傷の大きさもダメージも小さいが、それがかえってエリクを苦しめる結果となった。その銃弾は、中途半端に威力が弱いため身体を貫通していかず、肉に突き刺さるようにして皮膚を破り、内部に食い込んでいたのだ。
「ぐッ!!・・・何だあれは!?敵の誰か・・・いや、ロッシュの攻撃なのかッ!?だがこんな攻撃見たことがない・・・、どういう原理でッ・・・」
敵軍の不可解な攻撃に翻弄されるエリク。だが、この戦闘機が彼を狙う限り決して姿を隠したり逃げることは許されない。もし船尾でシルヴィがグレイスを引き上げているのが気付かれでもしたら、戦闘機はターゲットを変え襲い掛かることだろう。
無防備の状態でシルヴィが襲われれば、戦況に影響を及ぼすダメージを負い兼ねない。自分の策でルシアンに重荷を背負わせ、船長やシルヴィまで危険に晒す訳にはいかない。
怪我の痛みに震える足を起き上がらせ、隠れる物のない甲板で敵の注意を自らに集めるため、姿を晒し続けるエリクが謎の戦闘機との戦いを始める。
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