203 / 1,646
船長の帰路
しおりを挟む
ロッシュにより最優先で命を狙われ、グレイスが海中に飛び込みシルヴィによって船へと引っ張ってもらう。シルヴィが危惧していた通り、海中には海上のライバル達とはまた別の脅威が潜んでいる。
それは他の人間達に比べればそれ程の脅威ではないが、決して侮ってはならない者達。レースにおいては人や船を襲う凶暴な者であればある程、ポイントを稼ぐことも可能なフィールドマップに主に現れる存在、”モンスター“であった。
陸で出会すモンスターであれば、戦って力量差があれば逃げることだって可能な場合がある。だが、海というフィールドはそこで暮らす彼らの土俵。確かに水中に特化したクラスも存在しているが、基本的な行動や呼吸などで圧倒的なアドバンテージがある。
その戦闘能力の差が、今正にグレイスを襲おうとしていた。ワイヤーを身体に繋ぎ、海を引かれるグレイスはその途中、海中にモンスターの影を目撃する。
「やはり来たか・・・。だが、これを乗り越えなきゃどの道、生き残ることなど出来ないさね!」
このまま海面に浮いた状態でモンスターを迎え撃つのは、波に揺られ戦いづらい。意を決したグレイスは大きく息を吸い込むと海中に潜り、迫りくるモンスターの攻撃を腰に付けた片手剣で迎え撃つ。
始めに彼女の存在を探知したのは、海面付近を縄張りとする小型の魚種モンスターだった。グレイスに向かった直進しながら口に含んだ水を、まるで弾丸のように連続して放つ。銃弾ほどの速さはない為、水中の中でも反応は出来る。
しかし陸上とは違い、水の中では動きが遅く全てを防ぐことはできなかった。数発グレイスの身体を掠っていくが、彼女もそれは仕方のないダメージだと覚悟して受けたものだった。初めから全弾防げないのは分かりきっていたこと、モンスターから放たれる時にある程度の軌道を読み、防げるものと避けられるものを選別し、ダメージを最小限に留めていたのだ。
モンスターが彼女に向かって突進して来るところを、手で頭部を受け止めながら装甲の薄い腹部に剣を突き刺す。そのまま暴れ回るモンスターを捕らえながら、彼女は水中でモンスターの身体に何度も剣を突き刺していった。
当然、モンスターの身体からは大量の血が溢れ出して来る。グレイスは自身にモンスターの血がかからないように倒すと、ワイヤーに引っ張られる勢いを利用して血の香りを海中に広げ、モンスターからゆっくり手を離していく。
こうする事により、嗅覚で獲物を探すモンスターをその場に引きつける効果が得られる。現に目の見えない魚やモンスターが、巻き餌に群がるように集まり出していくのが分かる。
息を整えるため、一度海面に上がったグレイスは残りの船までの距離を確認し、再度来るかもしれないモンスターの襲撃に警戒する。船の方から次々に撃ち込まれる砲撃の音が鳴り響いていた。報告を受けた段階では、ロッシュ軍の援軍により劣勢に立たされているという報告を受けていた為、今の戦況がどちらに傾いているのか気になり、早く戦場に戻らねばという意思が強まるばかりであった。
必死に船の上で、アンカーに繋がれたワイヤーを引くシルヴィの姿が見える。何としても彼女の努力に報いなければ、そう思っていた時に次なる刺客がやって来たのだ。それは海中の底から上がって来ると、波を立てるグレイス目掛けて突っ込んでくる。
その者の姿は、魚の頭部に人間の身体をしており体表は鱗で覆われている。首回りや背中に大きなヒレ、腕やかかと、尻尾に小さく鋭利なヒレを生やしていた。そしてその手には三叉の矛を持つ、ファンタジー系の創作物で言われるところの、所謂“サハギン”と呼ばれるモンスターだ。
身体をゆらゆらと左右に振りながら速度を上げ、上昇する勢いに乗せて三叉の矛をグレイス目掛けて投げ放つ。殺気に気付いた彼女は急ぎ剣を構え、反対の手の平で樋の部分を支えて受け止める。
しかし、その投擲に意識を持っていかれている隙にサハギンは迂回して近づき、鋭い爪による攻撃を貰ってしまう。ダメージこそ大した事はなかったが、先程の戦闘でもあった通り、海中で出血するということが何よりの痛手だ。
決して油断していたわけではない。水中というフィールドにおいて、その行動力の差がもたらした不運と言ってもいいだろう。急ぎ止血の為、怪我した部位へ布を巻きつけて縛り上げる。モンスターの動きを確認し、呼吸をするため海面へと上がる。
再び船までの距離を確認すると、漸くもう少しといった位置にまで近づいていた。グレイスは大声で、船にいるシルヴィの気を引くと彼女に人手を集めるよう指示する。
「シルヴィッ!モンスターに襲われているッ!上から確認できるかッ!?」
「姉さんッ!・・・・・あぁ、いたぜッ!ここからでも影が見えるッ!」
「人手は集められるか!?上から狙い撃ってくれッ!」
グレイスに言われた通り、手の空いている者に呼びかけ船尾に集められるだけ集めると、モンスターがグレイスから距離を空けた時を見計らい銃撃させた。モンスターも逃げ出すことなく、執拗にグレイスへの攻撃を繰り返す。何度も反撃を試みるグレイスだが、水を吸った衣類に水中というフィールド、そして船に近づけば近づく程波の影響を受け、思い通りに動けない。
援護射撃を得てモンスターを迎え撃つグレイスが勝つのが先か、それとも彼女に外傷を与え続けて消耗させ削り切るのが先か。だが、この鬩ぎ合いはそう長くは続かなかった。モンスターの攻撃に集中していたグレイスの身体が何かにぶつかる。
シルヴィは遂にやり遂げたのだ。船員達による援護射撃は、モンスターの攻撃を躊躇わせグレイスを船に手繰り寄せるための時間稼ぎを見事に果たした。身体を船体に引きずりながら引き上げられたグレイス。身体は冷え切っており、モンスターに襲われた外傷で体力を消耗してしまっていた。
「姉さんを温かいところへッ!それと直ぐに傷の手当てをしろッ!」
身体を震わせ、唇を青紫に染めたグレイスを船員達が介護する。霞む景色の中、彼女は錆び付いたロボットのようにぎこちなく首を動かし、周辺の様子を伺う。
「船は・・・戦況は・・・」
この島に着いた時には六隻あったグレイス軍の船は、見渡す限り三隻しか残っていなかった。ロッシュ軍の船に至っては確認することすら出来ず、彼らの軍には援軍で数隻合流したということを考えると、劣勢であったことは間違いない。現在の戦況を確認しなければ、治療に専念出来そうにない。
それは他の人間達に比べればそれ程の脅威ではないが、決して侮ってはならない者達。レースにおいては人や船を襲う凶暴な者であればある程、ポイントを稼ぐことも可能なフィールドマップに主に現れる存在、”モンスター“であった。
陸で出会すモンスターであれば、戦って力量差があれば逃げることだって可能な場合がある。だが、海というフィールドはそこで暮らす彼らの土俵。確かに水中に特化したクラスも存在しているが、基本的な行動や呼吸などで圧倒的なアドバンテージがある。
その戦闘能力の差が、今正にグレイスを襲おうとしていた。ワイヤーを身体に繋ぎ、海を引かれるグレイスはその途中、海中にモンスターの影を目撃する。
「やはり来たか・・・。だが、これを乗り越えなきゃどの道、生き残ることなど出来ないさね!」
このまま海面に浮いた状態でモンスターを迎え撃つのは、波に揺られ戦いづらい。意を決したグレイスは大きく息を吸い込むと海中に潜り、迫りくるモンスターの攻撃を腰に付けた片手剣で迎え撃つ。
始めに彼女の存在を探知したのは、海面付近を縄張りとする小型の魚種モンスターだった。グレイスに向かった直進しながら口に含んだ水を、まるで弾丸のように連続して放つ。銃弾ほどの速さはない為、水中の中でも反応は出来る。
しかし陸上とは違い、水の中では動きが遅く全てを防ぐことはできなかった。数発グレイスの身体を掠っていくが、彼女もそれは仕方のないダメージだと覚悟して受けたものだった。初めから全弾防げないのは分かりきっていたこと、モンスターから放たれる時にある程度の軌道を読み、防げるものと避けられるものを選別し、ダメージを最小限に留めていたのだ。
モンスターが彼女に向かって突進して来るところを、手で頭部を受け止めながら装甲の薄い腹部に剣を突き刺す。そのまま暴れ回るモンスターを捕らえながら、彼女は水中でモンスターの身体に何度も剣を突き刺していった。
当然、モンスターの身体からは大量の血が溢れ出して来る。グレイスは自身にモンスターの血がかからないように倒すと、ワイヤーに引っ張られる勢いを利用して血の香りを海中に広げ、モンスターからゆっくり手を離していく。
こうする事により、嗅覚で獲物を探すモンスターをその場に引きつける効果が得られる。現に目の見えない魚やモンスターが、巻き餌に群がるように集まり出していくのが分かる。
息を整えるため、一度海面に上がったグレイスは残りの船までの距離を確認し、再度来るかもしれないモンスターの襲撃に警戒する。船の方から次々に撃ち込まれる砲撃の音が鳴り響いていた。報告を受けた段階では、ロッシュ軍の援軍により劣勢に立たされているという報告を受けていた為、今の戦況がどちらに傾いているのか気になり、早く戦場に戻らねばという意思が強まるばかりであった。
必死に船の上で、アンカーに繋がれたワイヤーを引くシルヴィの姿が見える。何としても彼女の努力に報いなければ、そう思っていた時に次なる刺客がやって来たのだ。それは海中の底から上がって来ると、波を立てるグレイス目掛けて突っ込んでくる。
その者の姿は、魚の頭部に人間の身体をしており体表は鱗で覆われている。首回りや背中に大きなヒレ、腕やかかと、尻尾に小さく鋭利なヒレを生やしていた。そしてその手には三叉の矛を持つ、ファンタジー系の創作物で言われるところの、所謂“サハギン”と呼ばれるモンスターだ。
身体をゆらゆらと左右に振りながら速度を上げ、上昇する勢いに乗せて三叉の矛をグレイス目掛けて投げ放つ。殺気に気付いた彼女は急ぎ剣を構え、反対の手の平で樋の部分を支えて受け止める。
しかし、その投擲に意識を持っていかれている隙にサハギンは迂回して近づき、鋭い爪による攻撃を貰ってしまう。ダメージこそ大した事はなかったが、先程の戦闘でもあった通り、海中で出血するということが何よりの痛手だ。
決して油断していたわけではない。水中というフィールドにおいて、その行動力の差がもたらした不運と言ってもいいだろう。急ぎ止血の為、怪我した部位へ布を巻きつけて縛り上げる。モンスターの動きを確認し、呼吸をするため海面へと上がる。
再び船までの距離を確認すると、漸くもう少しといった位置にまで近づいていた。グレイスは大声で、船にいるシルヴィの気を引くと彼女に人手を集めるよう指示する。
「シルヴィッ!モンスターに襲われているッ!上から確認できるかッ!?」
「姉さんッ!・・・・・あぁ、いたぜッ!ここからでも影が見えるッ!」
「人手は集められるか!?上から狙い撃ってくれッ!」
グレイスに言われた通り、手の空いている者に呼びかけ船尾に集められるだけ集めると、モンスターがグレイスから距離を空けた時を見計らい銃撃させた。モンスターも逃げ出すことなく、執拗にグレイスへの攻撃を繰り返す。何度も反撃を試みるグレイスだが、水を吸った衣類に水中というフィールド、そして船に近づけば近づく程波の影響を受け、思い通りに動けない。
援護射撃を得てモンスターを迎え撃つグレイスが勝つのが先か、それとも彼女に外傷を与え続けて消耗させ削り切るのが先か。だが、この鬩ぎ合いはそう長くは続かなかった。モンスターの攻撃に集中していたグレイスの身体が何かにぶつかる。
シルヴィは遂にやり遂げたのだ。船員達による援護射撃は、モンスターの攻撃を躊躇わせグレイスを船に手繰り寄せるための時間稼ぎを見事に果たした。身体を船体に引きずりながら引き上げられたグレイス。身体は冷え切っており、モンスターに襲われた外傷で体力を消耗してしまっていた。
「姉さんを温かいところへッ!それと直ぐに傷の手当てをしろッ!」
身体を震わせ、唇を青紫に染めたグレイスを船員達が介護する。霞む景色の中、彼女は錆び付いたロボットのようにぎこちなく首を動かし、周辺の様子を伺う。
「船は・・・戦況は・・・」
この島に着いた時には六隻あったグレイス軍の船は、見渡す限り三隻しか残っていなかった。ロッシュ軍の船に至っては確認することすら出来ず、彼らの軍には援軍で数隻合流したということを考えると、劣勢であったことは間違いない。現在の戦況を確認しなければ、治療に専念出来そうにない。
0
お気に入りに追加
310
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。
いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。
元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。
登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。
追記 小説家になろう ツギクル でも投稿しております。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

前代未聞のダンジョンメーカー
黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。
けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。
というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない?
そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。
小説家になろうでも掲載しております。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる