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暗黒沈静
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それぞれがお互いの存在を探る中、まず動きを見せたのは砲撃を見事撃ち落とした狙撃手を乗せた船だった。その大きな船体の向きを変え、砲撃の飛んで来た島の反対側へ向かおうというのか、迂回路をとる。
「撃ってきやがった奴に、誰に向かって喧嘩を売ったのかを思い知らせてやる・・・。北西側に舵を切り船を島に沿って迂回させろッ!手の空いてる奴ぁ身の程知らずの奴らに贈るプレゼントの用意をしろッ!・・・ありったけ派手な奴をな!」
号令を飛ばす男の船内では、船員達が慌ただしく走り回る。大きな大砲を船の側面に設置し、砲弾の入った木箱を次々に大砲の元へと運んでいく。男の率いる大型船は着水した海上を離れ島へと徐々に近づいてくると、新たな波を立てて進軍する。
彼らの着水した海上の様子を見に向かっていたミアとハオランは、島を迂回しようと移動を始めた彼らの船が起こす新たな波に気付き、近くの岩場で身を隠して様子を見る。
「新たに波が立ち始めました!ミアさん、物陰に・・・」
「移動し始めたか・・・。波の様子はどうだ?そこからどれくらいの規模の船団か分からないか?」
ミアのいる物陰からは船や波の様子が確認できない。彼女は自分の双眼鏡を少し離れた物陰にいるハオランに投げてよこし、彼はそれを受け取ると黙って波の様子を双眼鏡を覗き、確認する。
「・・・数はそれ程多くないと思います。三隻から五隻・・・といったところでしょうか」
「それ程多くない・・・?やっぱりアンタとアタシらでは感覚がズレてるようだな。でもまぁ、それくらいの数なら気付かれずに逃げられるか・・・」
レーススタート時点で大船団を率いる者達は何十隻という船を引き連れていたのを確認しているミア達。そして序盤の洗礼により小規模の船団や新人、邪魔になるライバルの船団を潰す争いを掻い潜ったのであれば、たかだか五隻はハオランの言う通り“それ程多くない”のかも知れない。
しかし洗礼の時とは違い、相手側は警戒態勢を強めており、こちらが逃げようと動きを見せその姿を見られてしまえば、彼らの攻撃はミア達に集中することだろう。つまり洗礼の時の相手とは違い、獲物が複数いるのではなく、単体であることが問題なのだ。
「それはどうでしょう・・・。あれだけ正確な砲撃を撃てる者がいるとなると、無事に彼らの包囲網を掻い潜れるとは思えません・・・」
先程、彼らの上空で起きた砲弾同士の衝突による衝撃を目の当たりにすると、彼のその発言も肯ける。ましてやミア達の船は小さく、まともに砲撃を受けてしまえば数発と耐えることは出来ない。洗礼で受けたたった一発の砲撃でツバキを助けを失う結果になっているのだ。彼の操縦技術無くして、正確な砲撃を避け切れるとは思えない。それはミアもよく分かっている。
「だがどうすれば・・・」
やはり海上戦術に疎いミア達ではこの島を離れる事はできないのか。そう思っていた彼女の心に、光明を見出させるように助言を言い渡すハオラン。姑息なやり方ではあるが、少数であり防御力のないミア達の船ではそれが最善であるだろう。
「先に攻撃を仕掛けた勢力を、彼らにぶつけさせるんです。幸い、彼らを先制して攻撃したということは、もう一つの勢力に我々の存在がバレているという可能性はないでしょう。先に見つけた彼らに的を絞っている間に、あなた方は船でこの島を離れるのです」
彼の提案する策を最善策と見出す彼女は、彼の発言を聞き逃さなかった。彼の最後に放った言葉には、ハオランがこの島を脱する気がないという意思が含まれていた。
「アンタはいいのか?手を貸してくれたんだ。島からの離脱に協力するぞ?」
「いえ、私はまだ目的を達成出来ていないので、ここを離れる訳にはいかないのです。大丈夫、心配は要らないですよ。あの少年から貰ったボードがあれば、私一人だけで逃げるなら容易な事です。実に素晴らしい乗り物を造ったものですね、彼・・・」
しかし、島を挟んで睨み合う二つの勢力をぶつけるにしても、一体ミア達に何が出来るのだろうか。気をそらそうにも動きを悟られる訳にはいかない。行動を取るにしてもタイミングが重要になるだろう。
「アタシらは動けない・・・。奴らが互いの姿を視認してからが最優のタイミングだと思うが・・・どうだ?」
「そうですね、それがベストだと思います。彼らに動きがあり次第、船に戻り島を離れて下さい」
二人は迂回する船団の動きを見ながら、戦闘が始まるのを静かに待つことにした。
その頃、ミアと島に上陸し反対の方向から島を回って行ったツクヨは、最初に砲撃を放った島の反対側に位置する勢力の船団を目撃していた。
「撃ってきやがった奴に、誰に向かって喧嘩を売ったのかを思い知らせてやる・・・。北西側に舵を切り船を島に沿って迂回させろッ!手の空いてる奴ぁ身の程知らずの奴らに贈るプレゼントの用意をしろッ!・・・ありったけ派手な奴をな!」
号令を飛ばす男の船内では、船員達が慌ただしく走り回る。大きな大砲を船の側面に設置し、砲弾の入った木箱を次々に大砲の元へと運んでいく。男の率いる大型船は着水した海上を離れ島へと徐々に近づいてくると、新たな波を立てて進軍する。
彼らの着水した海上の様子を見に向かっていたミアとハオランは、島を迂回しようと移動を始めた彼らの船が起こす新たな波に気付き、近くの岩場で身を隠して様子を見る。
「新たに波が立ち始めました!ミアさん、物陰に・・・」
「移動し始めたか・・・。波の様子はどうだ?そこからどれくらいの規模の船団か分からないか?」
ミアのいる物陰からは船や波の様子が確認できない。彼女は自分の双眼鏡を少し離れた物陰にいるハオランに投げてよこし、彼はそれを受け取ると黙って波の様子を双眼鏡を覗き、確認する。
「・・・数はそれ程多くないと思います。三隻から五隻・・・といったところでしょうか」
「それ程多くない・・・?やっぱりアンタとアタシらでは感覚がズレてるようだな。でもまぁ、それくらいの数なら気付かれずに逃げられるか・・・」
レーススタート時点で大船団を率いる者達は何十隻という船を引き連れていたのを確認しているミア達。そして序盤の洗礼により小規模の船団や新人、邪魔になるライバルの船団を潰す争いを掻い潜ったのであれば、たかだか五隻はハオランの言う通り“それ程多くない”のかも知れない。
しかし洗礼の時とは違い、相手側は警戒態勢を強めており、こちらが逃げようと動きを見せその姿を見られてしまえば、彼らの攻撃はミア達に集中することだろう。つまり洗礼の時の相手とは違い、獲物が複数いるのではなく、単体であることが問題なのだ。
「それはどうでしょう・・・。あれだけ正確な砲撃を撃てる者がいるとなると、無事に彼らの包囲網を掻い潜れるとは思えません・・・」
先程、彼らの上空で起きた砲弾同士の衝突による衝撃を目の当たりにすると、彼のその発言も肯ける。ましてやミア達の船は小さく、まともに砲撃を受けてしまえば数発と耐えることは出来ない。洗礼で受けたたった一発の砲撃でツバキを助けを失う結果になっているのだ。彼の操縦技術無くして、正確な砲撃を避け切れるとは思えない。それはミアもよく分かっている。
「だがどうすれば・・・」
やはり海上戦術に疎いミア達ではこの島を離れる事はできないのか。そう思っていた彼女の心に、光明を見出させるように助言を言い渡すハオラン。姑息なやり方ではあるが、少数であり防御力のないミア達の船ではそれが最善であるだろう。
「先に攻撃を仕掛けた勢力を、彼らにぶつけさせるんです。幸い、彼らを先制して攻撃したということは、もう一つの勢力に我々の存在がバレているという可能性はないでしょう。先に見つけた彼らに的を絞っている間に、あなた方は船でこの島を離れるのです」
彼の提案する策を最善策と見出す彼女は、彼の発言を聞き逃さなかった。彼の最後に放った言葉には、ハオランがこの島を脱する気がないという意思が含まれていた。
「アンタはいいのか?手を貸してくれたんだ。島からの離脱に協力するぞ?」
「いえ、私はまだ目的を達成出来ていないので、ここを離れる訳にはいかないのです。大丈夫、心配は要らないですよ。あの少年から貰ったボードがあれば、私一人だけで逃げるなら容易な事です。実に素晴らしい乗り物を造ったものですね、彼・・・」
しかし、島を挟んで睨み合う二つの勢力をぶつけるにしても、一体ミア達に何が出来るのだろうか。気をそらそうにも動きを悟られる訳にはいかない。行動を取るにしてもタイミングが重要になるだろう。
「アタシらは動けない・・・。奴らが互いの姿を視認してからが最優のタイミングだと思うが・・・どうだ?」
「そうですね、それがベストだと思います。彼らに動きがあり次第、船に戻り島を離れて下さい」
二人は迂回する船団の動きを見ながら、戦闘が始まるのを静かに待つことにした。
その頃、ミアと島に上陸し反対の方向から島を回って行ったツクヨは、最初に砲撃を放った島の反対側に位置する勢力の船団を目撃していた。
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