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光明落影
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「・・・驚いたな、何でアンタがここに?洗礼を受けずに抜けたのなら、もっと先に行っているものとばかり思っていたんだが・・・。何かあったのか?ハオラン」
彼女の前に立っていたのは、グラン・ヴァーグの店でロロネーに因縁を付けられていた、シュユーやフーファンと同じくチン・シーと呼ばれる海賊団の一員でもある美青年、ハオランであった。
だが、ミアの言うように彼が未だにこのような場所にいるのには些か疑問に思う点が多い。前回のレースでも賞金首の頭部を携えてゴールするといった強烈なインパクトのある完走を果たし、その顔と名を世に知らしめた。それ故に、今更彼に洗礼を浴びせようなどという輩がいるなど考えづらい。それに彼もミア達と同じく、機動力に長けたツバキのボードを使って、単独行動ででレースに参加している。
誰もがその名を知る強者であり、他人を気遣うことなく自由に動き回れ、スピードの出る乗り物に乗っているのならば、既にレース序盤の島を次々に調べ上げ、財宝やレアアイテムを回収して回っている筈だ。
それが何故こんなレース序盤の島に止まっているのか、ミアはそれが分からなかった。単純に考えれば、彼の主人でもあるチン・シーから何か特別な指令を受けていると考えるのが妥当だろう。若しくは、主人の命に削ぐわぬ範囲で、彼自身の行動をとっているのか。ハオランはミアの質問に、明確な返答で応えようとはしなかった。
「えぇ、少し私用で・・・。貴方は何故ここに?それに他の方々は・・・」
ミアの周囲を見渡し、彼と面識のあるシンやツクヨの姿を探すハオラン。その手に付けた倒れている死体のものと思われる赤い雫を垂らしながら、全く気にする素振りもなく話を進める姿が、彼の感覚が常識のソレではないことを物語っているようだった。
しかしそれはミアも同じで、グラン・ヴァーグで散々まともでは無い面々を見てきたせいか、最早この程度のことでは動揺しない感覚に達してしまっている。
「シンやツクヨも来てるよ。それよりアンタ、回復や蘇生スキルを使える仲間か知り合いはいないか?レース始めの争いで負傷しちまったんだが、アイテムだけでは如何にもならない様なんだ・・・。手を貸してくれると助かるんだが」
暫くの間、考える素振りを取りながら沈黙するハオラン。町でシュユー達の任務を通して友好的に接したおかげか、彼から協力的な言葉を聞くことができた。
「・・・・・容態を診てみないことには分かりません。よろしければ、その方が居るところまで案内していただけますか?返事はそれからで・・・」
「分かった、頼む」
血生臭いその場を後にし、ハオランを連れて来た道を戻るミア。道中、二手に別れたツクヨのことを思い出した彼女は、一瞬どうしたものかと考えを巡らせようとしたが、今は掴んだチャンスの方が重要だと判断し仕方がないと自分を納得させ、一人で収集をつけ頷くミア。それを後ろから、どうしたのかと様子を伺うように彼女の顔を控えめに覗き込むハオラン。
船に到着すると体調が戻ったのか、シンが甲板に出て双眼鏡を覗き込み周囲の警戒をしていた。徐々にミア達の方へと向くシンが二人の姿をそのレンズに映すと、手にした双眼鏡を下ろして肉眼で再度確認する。
戻ったことを知らせるように軽く手をあげるミアと、シンと目を合わせ会釈をするハオランが、ツバキのいる船内へと入っていく。長椅子に寝かせたツバキの容態を確認するハオラン。そして彼の言葉に一度は安堵するも、再びその光明に影を落とすことになる。
「命に別状はないようですね・・・これなら安静にして暫く過ごせば回復するでしょう」
彼の診断に、息を合わせたかのようにシンクロし、ホッと胸を撫で下ろすシンとミア。続けて、その“暫く”の過程を飛ばすための回復か蘇生スキルを使える者がいないか尋ねる。
「よかった・・・・・、それで?アンタの仲間か知り合いに回復か蘇生のスキルを使える者はいないか?」
「・・・チン・シー様の船員の中にヒーラーのクラスに就いてい部隊の者がいます」
そこまで口にしたところで、彼は言いづらそうに目を瞑り俯いた後、ゆっくりと続きを話し始める。
「ですが、恐らく彼を診てもらうことは叶わないでしょう・・・」
「何故だ!?大した怪我ではないんだろ?治してくれたら礼もする」
「そういう事ではないのです。確かに診てもらうだけなら条件次第で可能かとは思います。ですがそれはレースの後・・・と、いうことになるでしょう。あなた方もご存知の通り、我々は海賊稼業を営む者・・・。他人の面倒を見るほどお人好しではありません。それにレース中ともなれば、競争相手に手を貸すものなどおりますまい」
シン達が危惧していた通りのことが起きた。ハオランの言う通り、レースの競争相手をわざわざ全快にするなど、海賊でなくてもお断りだろう。そして彼が理由を話してくれたのには、他にも何も知らぬシン達を心配してのことだった。
それは、競争相手に弱みを見せるということは、敗北若しくは最悪の場合死を意味する。助けて貰ったチームはレース中、実質的な傘下状態になるのは必須。それだけならまだいいが、財宝やレアアイテムの譲渡を要求されたり、危険な場所へ鉄砲玉として送り込まれたり、身代わりにされることも多い。要するに弱みを見せれば、使い捨ての駒のように扱われるということだ。
「残念ですが、レース中の彼の復帰は望めないかもしれませんね。お力になれず申し訳ない・・・」
「いや・・・いいんだ、ある程度予想は出来ていたことだ。わざわざ競争相手を助ける奴などいないことは・・・」
希望を絶たれた彼らにハオランは、更にもう一つ彼らに話さなければならないことを伝える。
「それと、貴方達はもうこの島を発った方がいいでしょう。私も見て回りましたが、ここに財宝やレアアイテムといった物は既にありませんでした」
「見て回ったのならアンタにも、もうこの島は用済みではないのか?」
シンが彼に尋ねると、船にいたシンはまだ知らない彼の用事について少し明かしてくれた。
「私はここに私用で来ています。・・・待ち合わせをしているんですよ。でもそれはあなた方にとっては良くないことだ・・・。不幸を続けたくないのなら、なるべく早く出発した方がいい」
「・・・そうだな、アンタが言うならそうしよう。だが、島にまだもう一人仲間が残ってるんだ。そいつが戻って来てから・・・」
と、その時。ミアの会話を遮るように、外で大きなものが海に着水するような音を轟かせ、辺り一帯に響き渡る。
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だが、ミアの言うように彼が未だにこのような場所にいるのには些か疑問に思う点が多い。前回のレースでも賞金首の頭部を携えてゴールするといった強烈なインパクトのある完走を果たし、その顔と名を世に知らしめた。それ故に、今更彼に洗礼を浴びせようなどという輩がいるなど考えづらい。それに彼もミア達と同じく、機動力に長けたツバキのボードを使って、単独行動ででレースに参加している。
誰もがその名を知る強者であり、他人を気遣うことなく自由に動き回れ、スピードの出る乗り物に乗っているのならば、既にレース序盤の島を次々に調べ上げ、財宝やレアアイテムを回収して回っている筈だ。
それが何故こんなレース序盤の島に止まっているのか、ミアはそれが分からなかった。単純に考えれば、彼の主人でもあるチン・シーから何か特別な指令を受けていると考えるのが妥当だろう。若しくは、主人の命に削ぐわぬ範囲で、彼自身の行動をとっているのか。ハオランはミアの質問に、明確な返答で応えようとはしなかった。
「えぇ、少し私用で・・・。貴方は何故ここに?それに他の方々は・・・」
ミアの周囲を見渡し、彼と面識のあるシンやツクヨの姿を探すハオラン。その手に付けた倒れている死体のものと思われる赤い雫を垂らしながら、全く気にする素振りもなく話を進める姿が、彼の感覚が常識のソレではないことを物語っているようだった。
しかしそれはミアも同じで、グラン・ヴァーグで散々まともでは無い面々を見てきたせいか、最早この程度のことでは動揺しない感覚に達してしまっている。
「シンやツクヨも来てるよ。それよりアンタ、回復や蘇生スキルを使える仲間か知り合いはいないか?レース始めの争いで負傷しちまったんだが、アイテムだけでは如何にもならない様なんだ・・・。手を貸してくれると助かるんだが」
暫くの間、考える素振りを取りながら沈黙するハオラン。町でシュユー達の任務を通して友好的に接したおかげか、彼から協力的な言葉を聞くことができた。
「・・・・・容態を診てみないことには分かりません。よろしければ、その方が居るところまで案内していただけますか?返事はそれからで・・・」
「分かった、頼む」
血生臭いその場を後にし、ハオランを連れて来た道を戻るミア。道中、二手に別れたツクヨのことを思い出した彼女は、一瞬どうしたものかと考えを巡らせようとしたが、今は掴んだチャンスの方が重要だと判断し仕方がないと自分を納得させ、一人で収集をつけ頷くミア。それを後ろから、どうしたのかと様子を伺うように彼女の顔を控えめに覗き込むハオラン。
船に到着すると体調が戻ったのか、シンが甲板に出て双眼鏡を覗き込み周囲の警戒をしていた。徐々にミア達の方へと向くシンが二人の姿をそのレンズに映すと、手にした双眼鏡を下ろして肉眼で再度確認する。
戻ったことを知らせるように軽く手をあげるミアと、シンと目を合わせ会釈をするハオランが、ツバキのいる船内へと入っていく。長椅子に寝かせたツバキの容態を確認するハオラン。そして彼の言葉に一度は安堵するも、再びその光明に影を落とすことになる。
「命に別状はないようですね・・・これなら安静にして暫く過ごせば回復するでしょう」
彼の診断に、息を合わせたかのようにシンクロし、ホッと胸を撫で下ろすシンとミア。続けて、その“暫く”の過程を飛ばすための回復か蘇生スキルを使える者がいないか尋ねる。
「よかった・・・・・、それで?アンタの仲間か知り合いに回復か蘇生のスキルを使える者はいないか?」
「・・・チン・シー様の船員の中にヒーラーのクラスに就いてい部隊の者がいます」
そこまで口にしたところで、彼は言いづらそうに目を瞑り俯いた後、ゆっくりと続きを話し始める。
「ですが、恐らく彼を診てもらうことは叶わないでしょう・・・」
「何故だ!?大した怪我ではないんだろ?治してくれたら礼もする」
「そういう事ではないのです。確かに診てもらうだけなら条件次第で可能かとは思います。ですがそれはレースの後・・・と、いうことになるでしょう。あなた方もご存知の通り、我々は海賊稼業を営む者・・・。他人の面倒を見るほどお人好しではありません。それにレース中ともなれば、競争相手に手を貸すものなどおりますまい」
シン達が危惧していた通りのことが起きた。ハオランの言う通り、レースの競争相手をわざわざ全快にするなど、海賊でなくてもお断りだろう。そして彼が理由を話してくれたのには、他にも何も知らぬシン達を心配してのことだった。
それは、競争相手に弱みを見せるということは、敗北若しくは最悪の場合死を意味する。助けて貰ったチームはレース中、実質的な傘下状態になるのは必須。それだけならまだいいが、財宝やレアアイテムの譲渡を要求されたり、危険な場所へ鉄砲玉として送り込まれたり、身代わりにされることも多い。要するに弱みを見せれば、使い捨ての駒のように扱われるということだ。
「残念ですが、レース中の彼の復帰は望めないかもしれませんね。お力になれず申し訳ない・・・」
「いや・・・いいんだ、ある程度予想は出来ていたことだ。わざわざ競争相手を助ける奴などいないことは・・・」
希望を絶たれた彼らにハオランは、更にもう一つ彼らに話さなければならないことを伝える。
「それと、貴方達はもうこの島を発った方がいいでしょう。私も見て回りましたが、ここに財宝やレアアイテムといった物は既にありませんでした」
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「私はここに私用で来ています。・・・待ち合わせをしているんですよ。でもそれはあなた方にとっては良くないことだ・・・。不幸を続けたくないのなら、なるべく早く出発した方がいい」
「・・・そうだな、アンタが言うならそうしよう。だが、島にまだもう一人仲間が残ってるんだ。そいつが戻って来てから・・・」
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