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惨状の彼岸花
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ミアの言うことが嘘か真か、決して信じていない訳ではない。何によって海水が真っ赤に染まっているのかの予想は大体心の中で予想はついていた。プランクトンの異常増殖で海や川が赤い色に変色する現象があるとも言われ、現実世界でいうウクライナには腐海と呼ばれる赤い海があるそうだ。そちらは海の底にある藻の異常繁殖が要因になっているという。
だが、シンが頭の中で思い描いた赤い海はもっと悍しいものが原因で染まる赤い海の景色。そう、生き物の血で染まる赤い海だ。そんなもの見たいはずがないのに、人の好奇心は身体の制御を上回り、無意識に怖いものや悍しいものを見ようとしてしまう。
彼がミアのいる甲板へ駆け寄り、手にした双眼鏡で彼女が見つめる方向を覗き込む。そこには彼の想像と細かな違いこそあれどほとんど変わらない凄惨な光景が広がっていた。
何か大きな力によって粉砕されたような船の残骸と、海を染め上げるには少ないのではないのかと思われる動かなくなった人影が岩場や岸に打ち上げられている。あまりの光景に胃の内容物が上がってくるかのような感覚に襲われ、むせかえるシン。大きく数回咳き込み、ミアに心配されながら徐々に平常心を取り戻そうと試みる。
「な・・・なんだよ、あれ・・・。何であそこまでするんだ?」
「まともな奴の仕業じゃない・・・。だが、島の付近に船の気配や影はない。・・・どうする?危険かもしれないが、島を探索するのは誰かの痕跡を辿る為にも役に立つかもしれない・・・。アタシは現状を打開する為にも、島へ上陸し調べてみる価値はあると思う。何ならアタシだけボードで様子を見てきてもいいが・・・」
シンは少し彼女が怖くなった。何故あんなところに平然と向かおうと思えるのか。確かにツバキの容態を考えれば、人の痕跡があるであろう場所を調べるのは大事なことかもしれない。それでもやはり物怖じしてしまうのが普通なのではないだろうか。
ミアは一人で行ってもいいと言っているが、そんな危険な場所に一人で向かわせる訳にはいかない。船の中で操縦をしているツクヨにも、無線機を使って島を見つけたことと、そこがどんなところなのかを説明する。彼も最初は危険なのではないかとミアに言ったが、彼女が一人で行くと言いだすとシンと同じ結論へと至った。
ツクヨの操縦で赤く染まる海を進み、島への上陸を目指す。道中船の進行速度を出来るだけ落とし、波と音を可能な限り立てないように入江へと進んで行った。海が赤く染まっている領域に近づいたところで、風に乗って嗅いだ事のあるような鉄の香りが漂ってくる。目的地が定まったこともあり、気分を悪くしたシンは到着までの僅かな間だが船内で休むこととなり、警戒はミアに任せることにした。
暫くすると船は止まり、エンジンの音が鳴り止む。入江に入った船からミアが島へと先陣を切って上陸する。
「シン、君は後からでいい、体調が戻ってからおいで。私と彼女で先に島の探索を進めておくから、その間ツバキのこと頼んだよ」
「ありがとう・・・、助かるよ。・・・それと・・・ごめん」
構わないからゆっくりしていろと、ツクヨが目を閉じながら首を横に振り、甲板へと向かっていった。
明らかに直に触るのは良くないであろう海水を避ける為、ミアとツクヨはボードを使って慎重に上陸する。砂浜に降りるとボードを上げ、そのまま置き去りにも出来ないのでそれぞれアイテム欄へしまう。左右に別れ、島を一周するように回って探索することにした二人は、辺りを見渡しながら進む。
人気はなく、ただ入江に打ち寄せる波の音と風に揺れる草木の擦れ合う音だけが聞こえてくる。倒れている人影に近づくと、最初の一人目ではそこまで妙に感じなかったが二人目、三人目と遭遇していくうちにある共通した損傷を負っていることに気がつく。
「妙だな・・・、さっきからみんな同じところに怪我をしているように見える。みんな頭に・・・」
少し罰当たりで祟られそうにも思えたが、直接触るのも何があるか分からないので危険だと判断したミアは、近場に落ちていたやや太めの木の枝で打ち上げられた身体を、うつ伏せから仰向けへと返してみる。流石の彼女も、壮絶な最期を迎えたであろう見開いたままの目をしたその顔を見て思わず目を背ける。
彼女が数体の死体を調べていると、島の内側の方でさっきまで感じなかった何者かの気配を察する。ゆっくり振り返り、銃を手にすると音を立てないように気配のした方に歩きながら手元で弾倉を開き、視界の端で確認を行う。
遠くからでは分からなかったが、近づくに連れて何者かがしゃがんでいるのが視認できた。銃口を向け、引き金に指をかけながら更に慎重に進むミア。だが、彼女の気配は既に、その何者かに気づかれていた。
「その物騒なものを、下げてもらえますか?」
「うッ動くなッ!ここで何をしている!?」
気づいていないと思っていたその人物に話かけられ、心臓を掴まれたかのように驚いたミアは、咄嗟に声を出すことで動揺を誤魔化そうとした。照準をその人物の頭に合わせ、銃を握る手には力が入り、額からは嫌な汗が流れる。
彼女の忠告を無視してゆっくり立ち上がるその人物の前には、倒れた人影があった。どうやらその人物も死体を調べているようだった。
「・・・それは?・・・アンタがやったのか・・・?」
周囲に警戒しながらこの島へ上陸したミア達一行は、上陸するまでに島に近づく船や人影を目撃していない。つまり、この人物はミア達よりも先にこの島に上陸していたことになる。一体どれくらい前に島に辿り着いたのかまでは分からないが、その人物がこの惨状を起こした可能性は十分にある。
彼女の掛けた言葉に、その人物は一度死体の方へ顔を動かし首を横に振る。
「いえ、私が来た時には既に・・・。しかし、異様な負傷をしているようだったので調べていたんですよ。そうしたら皆似たような箇所に傷を負っているようなのです・・・。これは殺害というよりも、別の目的の過程で死に至った可能性が考えられると思うんです」
「コイツらに何かする過程で死んだ・・・と?」
その人物は銃口を向けられているにも関わらず、気にした素振りもなくミアの方へと振り返る。話に気を逸らされたと感じたミアが再度照準をその人物の頭に合わせようとした。だが振り返ったその人物は驚くことに、ミア達が知っている人物だったのだ。
「驚きました、貴方達もレースに参加していたのですね?・・・しかも、洗礼を抜けて来た・・・と。元気そうで何よりです、その節はどうも」
辺りの草木や地面に血飛沫が飛び散る惨状とは真逆で似つかわしくない、美しい立ち姿でその人物はミアの方を見つめていた。
だが、シンが頭の中で思い描いた赤い海はもっと悍しいものが原因で染まる赤い海の景色。そう、生き物の血で染まる赤い海だ。そんなもの見たいはずがないのに、人の好奇心は身体の制御を上回り、無意識に怖いものや悍しいものを見ようとしてしまう。
彼がミアのいる甲板へ駆け寄り、手にした双眼鏡で彼女が見つめる方向を覗き込む。そこには彼の想像と細かな違いこそあれどほとんど変わらない凄惨な光景が広がっていた。
何か大きな力によって粉砕されたような船の残骸と、海を染め上げるには少ないのではないのかと思われる動かなくなった人影が岩場や岸に打ち上げられている。あまりの光景に胃の内容物が上がってくるかのような感覚に襲われ、むせかえるシン。大きく数回咳き込み、ミアに心配されながら徐々に平常心を取り戻そうと試みる。
「な・・・なんだよ、あれ・・・。何であそこまでするんだ?」
「まともな奴の仕業じゃない・・・。だが、島の付近に船の気配や影はない。・・・どうする?危険かもしれないが、島を探索するのは誰かの痕跡を辿る為にも役に立つかもしれない・・・。アタシは現状を打開する為にも、島へ上陸し調べてみる価値はあると思う。何ならアタシだけボードで様子を見てきてもいいが・・・」
シンは少し彼女が怖くなった。何故あんなところに平然と向かおうと思えるのか。確かにツバキの容態を考えれば、人の痕跡があるであろう場所を調べるのは大事なことかもしれない。それでもやはり物怖じしてしまうのが普通なのではないだろうか。
ミアは一人で行ってもいいと言っているが、そんな危険な場所に一人で向かわせる訳にはいかない。船の中で操縦をしているツクヨにも、無線機を使って島を見つけたことと、そこがどんなところなのかを説明する。彼も最初は危険なのではないかとミアに言ったが、彼女が一人で行くと言いだすとシンと同じ結論へと至った。
ツクヨの操縦で赤く染まる海を進み、島への上陸を目指す。道中船の進行速度を出来るだけ落とし、波と音を可能な限り立てないように入江へと進んで行った。海が赤く染まっている領域に近づいたところで、風に乗って嗅いだ事のあるような鉄の香りが漂ってくる。目的地が定まったこともあり、気分を悪くしたシンは到着までの僅かな間だが船内で休むこととなり、警戒はミアに任せることにした。
暫くすると船は止まり、エンジンの音が鳴り止む。入江に入った船からミアが島へと先陣を切って上陸する。
「シン、君は後からでいい、体調が戻ってからおいで。私と彼女で先に島の探索を進めておくから、その間ツバキのこと頼んだよ」
「ありがとう・・・、助かるよ。・・・それと・・・ごめん」
構わないからゆっくりしていろと、ツクヨが目を閉じながら首を横に振り、甲板へと向かっていった。
明らかに直に触るのは良くないであろう海水を避ける為、ミアとツクヨはボードを使って慎重に上陸する。砂浜に降りるとボードを上げ、そのまま置き去りにも出来ないのでそれぞれアイテム欄へしまう。左右に別れ、島を一周するように回って探索することにした二人は、辺りを見渡しながら進む。
人気はなく、ただ入江に打ち寄せる波の音と風に揺れる草木の擦れ合う音だけが聞こえてくる。倒れている人影に近づくと、最初の一人目ではそこまで妙に感じなかったが二人目、三人目と遭遇していくうちにある共通した損傷を負っていることに気がつく。
「妙だな・・・、さっきからみんな同じところに怪我をしているように見える。みんな頭に・・・」
少し罰当たりで祟られそうにも思えたが、直接触るのも何があるか分からないので危険だと判断したミアは、近場に落ちていたやや太めの木の枝で打ち上げられた身体を、うつ伏せから仰向けへと返してみる。流石の彼女も、壮絶な最期を迎えたであろう見開いたままの目をしたその顔を見て思わず目を背ける。
彼女が数体の死体を調べていると、島の内側の方でさっきまで感じなかった何者かの気配を察する。ゆっくり振り返り、銃を手にすると音を立てないように気配のした方に歩きながら手元で弾倉を開き、視界の端で確認を行う。
遠くからでは分からなかったが、近づくに連れて何者かがしゃがんでいるのが視認できた。銃口を向け、引き金に指をかけながら更に慎重に進むミア。だが、彼女の気配は既に、その何者かに気づかれていた。
「その物騒なものを、下げてもらえますか?」
「うッ動くなッ!ここで何をしている!?」
気づいていないと思っていたその人物に話かけられ、心臓を掴まれたかのように驚いたミアは、咄嗟に声を出すことで動揺を誤魔化そうとした。照準をその人物の頭に合わせ、銃を握る手には力が入り、額からは嫌な汗が流れる。
彼女の忠告を無視してゆっくり立ち上がるその人物の前には、倒れた人影があった。どうやらその人物も死体を調べているようだった。
「・・・それは?・・・アンタがやったのか・・・?」
周囲に警戒しながらこの島へ上陸したミア達一行は、上陸するまでに島に近づく船や人影を目撃していない。つまり、この人物はミア達よりも先にこの島に上陸していたことになる。一体どれくらい前に島に辿り着いたのかまでは分からないが、その人物がこの惨状を起こした可能性は十分にある。
彼女の掛けた言葉に、その人物は一度死体の方へ顔を動かし首を横に振る。
「いえ、私が来た時には既に・・・。しかし、異様な負傷をしているようだったので調べていたんですよ。そうしたら皆似たような箇所に傷を負っているようなのです・・・。これは殺害というよりも、別の目的の過程で死に至った可能性が考えられると思うんです」
「コイツらに何かする過程で死んだ・・・と?」
その人物は銃口を向けられているにも関わらず、気にした素振りもなくミアの方へと振り返る。話に気を逸らされたと感じたミアが再度照準をその人物の頭に合わせようとした。だが振り返ったその人物は驚くことに、ミア達が知っている人物だったのだ。
「驚きました、貴方達もレースに参加していたのですね?・・・しかも、洗礼を抜けて来た・・・と。元気そうで何よりです、その節はどうも」
辺りの草木や地面に血飛沫が飛び散る惨状とは真逆で似つかわしくない、美しい立ち姿でその人物はミアの方を見つめていた。
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