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重なる禍い
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エンジンが掛かり加速を始めた船が一気に二人の乗るボードを追い抜き、今度はシンとツクヨを引っ張り更に加速した船は、砲弾の雨を置き去りにして彼方先へと進んでいく。
的を外した砲弾が海へ落ち、高い水飛沫を上げながら彼らを見送る。こうして少年の研究と覚悟のおかげで、レース序盤の洗礼を掻い潜り、激戦区を抜けることに成功したシン達一行。最早彼らを追う船はいなかった。
だが、それでも彼らにとってその代償は大きかった・・・。
「抜けたぞ!ミア、ツバキの容態はどうだ?」
「治癒アイテムは使った。だが良くならない・・・。何故だッ!リーベの時の方が重傷だったのに・・・、それでも彼女は復帰したぞ!?」
負傷したツバキを手当てするミアだったが、その怪我は一向に良くならず、出血こそ止まれど少年の容態を回復させるまでには至らなかった。
彼女の言うように、これまでの経験であればこれはおかしなことだった。聖都で行われた戦闘では、門の前でイデアールに敗れ負傷したシンを、そして聖都内で死闘を繰り広げたリーベは腹部を貫かれながらも、ミアの手当てにより傷は塞がり一命は取り留めた。
しかしどうだろう。ツバキの傷はあの時の負傷に比べれば、とても治らない傷では無いように思える。この事からシンの脳裏にある、以前から疑問に思っていたゲームならではの現象のことが思い浮かんだ。
戦闘中の怪我やダメージは耐えたり治ったりするのに、どうしてストーリー上のイベントになると急にキャラクター達は脆くなるのだろう。戦闘でいくら斬られようが撃たれようが、一度その戦闘が終了すれば負傷は治り再起することが良くある。
ツバキの負傷から、彼の傷はイベントによる負傷なのではないかと考えたシン。もしそれが、この世界にも反映されているのならば彼はここで脱落、或いは失うことになるのではないか。
「まさか・・・これはイベントによる負傷なのか・・・?」
「イベント・・・?何だそれは?普通に負傷するのとは違うのかい?」
ゲームに疎いツクヨには、シンの言っていることが分からなかった。しかしミアには彼の意図が伝わり、介護する手が少年から離れる。勿論、諦めた訳ではない。今ツバキにしてやれる事がこれ以上ないからこそ、彼女は少年の元を離れ船のハンドルを代わりに握り、シンとツクヨが合流出来るよう安全な場所まで移動させることを優先した。
激戦区を抜け、一行の後ろを追ってくる物陰や気配はない。徐々に速度を落とし、海上に隆起した岩陰に船を寄せると、ボードに乗る二人はミアとツバキの乗る船と合流し、彼の容態を確認する。
「出来るだけのことはした・・・。後は彼自身の復帰を待つしかない」
側にいてツバキの様子を見ていたミアが、合流した二人に状況を説明するも、彼の様子を見た二人はかける言葉が見つからず、その場で立ち尽くしていた。彼らの沈黙はツバキの安否を気遣ってのこともあるが、同時に今後のレースへの不安に対する沈黙でもあった。
「どうする?彼無くしてレースを勝ち抜くなんて出来るだろうか・・・。それに何処にあるかも分からない転移ポータルを探し出すのにだって、この船の機動力を活かせる彼の技術が必要だ。・・・如何にかして彼を復帰させないと」
そもそもシン達の目的はレース自体ではなく、あの謎の男が提供した転移ポータルの入手だ。しかしそれを達成するのにも、やはりツバキの操縦技術が必要になるのは間違いない。数ある島の中から転移ポータルのある場所を探すには、それだけ多くの島を訪れなければならない。かといって、海上戦術に疎く少数のチームである彼らが手分けをして探すわけにもいかない。
「だがどうやって・・・?回復アイテムではツバキを復帰させるまでには至らなかった。それに俺達の中に蘇生や回復のスキルを使える者はいない・・・」
アイテムによる回復や蘇生は、ミアの錬金術によるスキルを用いることで可能だ。しかしプレイヤーに使うようなアイテムでは、彼の復帰は叶わなかった。それならスキルはどうだろう。一行の中に回復スキルを使える者がいないのならば、探すしかない。そう思ったミアが二人にある提案を持ちかける。
「なら、スキルを使える者を探すしかない」
「つまり協力者を探す・・・と?」
「あぁ・・・幸いアタシらはレース前のグラン・ヴァーグで、いくつかのチームと知り合うことが出来た。中には友好的に接してくれる者もいる筈だ、それを探そう。それに大所帯ともなれば回復のスキルを持つ船員を連れてる可能性はある」
陸から離れ、海を渡れば宿や医者にはかかれなくなる。その為、船に多くの物資を積んで凌ぐ手段や、船員に回復や蘇生を行える者を同行させるのは当然の準備とも言える。
「グレイスやシュユーのところの船団を見つけて協力を仰ぐ。ツバキの自力復帰を待っている余裕がない以上、それしか手段はない・・・」
しかし、レースが始まれば自分達以外の者は全てライバルになる。仮に自分達が逆の立場だとして、ライバルの戦線復帰に手を貸すだろうか。それでも、海という不慣れなフィールドにおいて最早シン達に考えるだけの余裕はない。
洗礼を乗り越え、ひと段落したシン達は次にツバキを復活させる手段を模索することとなった。
的を外した砲弾が海へ落ち、高い水飛沫を上げながら彼らを見送る。こうして少年の研究と覚悟のおかげで、レース序盤の洗礼を掻い潜り、激戦区を抜けることに成功したシン達一行。最早彼らを追う船はいなかった。
だが、それでも彼らにとってその代償は大きかった・・・。
「抜けたぞ!ミア、ツバキの容態はどうだ?」
「治癒アイテムは使った。だが良くならない・・・。何故だッ!リーベの時の方が重傷だったのに・・・、それでも彼女は復帰したぞ!?」
負傷したツバキを手当てするミアだったが、その怪我は一向に良くならず、出血こそ止まれど少年の容態を回復させるまでには至らなかった。
彼女の言うように、これまでの経験であればこれはおかしなことだった。聖都で行われた戦闘では、門の前でイデアールに敗れ負傷したシンを、そして聖都内で死闘を繰り広げたリーベは腹部を貫かれながらも、ミアの手当てにより傷は塞がり一命は取り留めた。
しかしどうだろう。ツバキの傷はあの時の負傷に比べれば、とても治らない傷では無いように思える。この事からシンの脳裏にある、以前から疑問に思っていたゲームならではの現象のことが思い浮かんだ。
戦闘中の怪我やダメージは耐えたり治ったりするのに、どうしてストーリー上のイベントになると急にキャラクター達は脆くなるのだろう。戦闘でいくら斬られようが撃たれようが、一度その戦闘が終了すれば負傷は治り再起することが良くある。
ツバキの負傷から、彼の傷はイベントによる負傷なのではないかと考えたシン。もしそれが、この世界にも反映されているのならば彼はここで脱落、或いは失うことになるのではないか。
「まさか・・・これはイベントによる負傷なのか・・・?」
「イベント・・・?何だそれは?普通に負傷するのとは違うのかい?」
ゲームに疎いツクヨには、シンの言っていることが分からなかった。しかしミアには彼の意図が伝わり、介護する手が少年から離れる。勿論、諦めた訳ではない。今ツバキにしてやれる事がこれ以上ないからこそ、彼女は少年の元を離れ船のハンドルを代わりに握り、シンとツクヨが合流出来るよう安全な場所まで移動させることを優先した。
激戦区を抜け、一行の後ろを追ってくる物陰や気配はない。徐々に速度を落とし、海上に隆起した岩陰に船を寄せると、ボードに乗る二人はミアとツバキの乗る船と合流し、彼の容態を確認する。
「出来るだけのことはした・・・。後は彼自身の復帰を待つしかない」
側にいてツバキの様子を見ていたミアが、合流した二人に状況を説明するも、彼の様子を見た二人はかける言葉が見つからず、その場で立ち尽くしていた。彼らの沈黙はツバキの安否を気遣ってのこともあるが、同時に今後のレースへの不安に対する沈黙でもあった。
「どうする?彼無くしてレースを勝ち抜くなんて出来るだろうか・・・。それに何処にあるかも分からない転移ポータルを探し出すのにだって、この船の機動力を活かせる彼の技術が必要だ。・・・如何にかして彼を復帰させないと」
そもそもシン達の目的はレース自体ではなく、あの謎の男が提供した転移ポータルの入手だ。しかしそれを達成するのにも、やはりツバキの操縦技術が必要になるのは間違いない。数ある島の中から転移ポータルのある場所を探すには、それだけ多くの島を訪れなければならない。かといって、海上戦術に疎く少数のチームである彼らが手分けをして探すわけにもいかない。
「だがどうやって・・・?回復アイテムではツバキを復帰させるまでには至らなかった。それに俺達の中に蘇生や回復のスキルを使える者はいない・・・」
アイテムによる回復や蘇生は、ミアの錬金術によるスキルを用いることで可能だ。しかしプレイヤーに使うようなアイテムでは、彼の復帰は叶わなかった。それならスキルはどうだろう。一行の中に回復スキルを使える者がいないのならば、探すしかない。そう思ったミアが二人にある提案を持ちかける。
「なら、スキルを使える者を探すしかない」
「つまり協力者を探す・・・と?」
「あぁ・・・幸いアタシらはレース前のグラン・ヴァーグで、いくつかのチームと知り合うことが出来た。中には友好的に接してくれる者もいる筈だ、それを探そう。それに大所帯ともなれば回復のスキルを持つ船員を連れてる可能性はある」
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しかし、レースが始まれば自分達以外の者は全てライバルになる。仮に自分達が逆の立場だとして、ライバルの戦線復帰に手を貸すだろうか。それでも、海という不慣れなフィールドにおいて最早シン達に考えるだけの余裕はない。
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