World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
179 / 1,646

最終調整

しおりを挟む
 ウィリアムの作業場を抜け、ツバキの工房へと来た一行は早速く船へと案内され、エンジンを掛けると近場の海へと出て行く。少年の工房から船が出て行くという光景はそこまで珍しいものではなかったのか、特に怪しまれることもなく移動することができた。

 「ここらでいいだろう・・・。この辺りは俺が試し乗りに良く使ってる場所だから、じじぃに怪しまれることもねぇ筈さ。さぁ!とっとと操縦を覚えて貰うぜ!」

 海上で一度エンジンを切ると、そこで実際に操作をしながらエンジンの掛け方や操縦、停止の仕方までざっくりと三人にやらせていく。彼自身がそうだったのかは分からないが、口で説明されるよりも、実際に触らせるといったやり方がウィリアム達の教え方のようで、ひたすら同じような操作を繰り返しやらされていた。

 「船本体の操縦はそれほど重要じゃねぇ。俺達にとって重要なのはボードの方だからな。どの道船の操縦が上手くなったところで、他の奴らには遠く及ばねぇからな・・・。そんな単純なら誰でも操縦ぐらい出来てるさ」

 スタートの時点で他のチームから遅れを取ってしまっているシン達にとって、船の操縦など最悪の事態になった時用の応急処置だという少年は、他のチームにないモノでレースに挑んで行こうと言い出した。

 それこそ彼の船に積んである特殊な細工を施してあるボードであり、マクシムとの会話でも言っていた最新技術なのだろう。シンとツクヨは既にその技術を体験しており、ミアも体験こそしてはいないものの見てはいた。

 乗る者のスキルに呼応する特殊なボード。確かにこれがあれば様々な応用が効きそうなものだが、勿論このボードの操縦にも慣れておかなければならない。故に少年は船の操縦など早々に切り上げ、シン達にはボードの練習に取り掛かって欲しかったのだ。

 「俺達の本命はコイツさ!他の奴らが持たねぇ技術で、劣っている部分を補う。しかもただ補うだけじゃねぇ。コイツなら十二分に勝負出来る性能がある!・・・まぁ、一台はハオランの野郎に渡しちまったから数は限られるが・・・」

 ボードに施された特殊な加工には、希少価値の高い非情にレアな素材が使われており、彼が入手できたものでは三台作るのがやっとだったそうだ。そして一台はシン達よりも先に彼の元を訪れ、使用を契約したハオランに渡しているため、シン達が使えるのは残りの二台。

 一応ボードは二人までなら乗れると言うので、ツバキも含めた四人 へんせいの彼らにとってはギリギリの台数だった。

 「ミア、アンタは見てただけで乗ったことがねぇ・・・だろ?船の操縦はこの辺で切り上げて、先にアンタが練習するといい」

 「分かった、先に使わせて貰うよ」

 船からボードに乗ったミアがそのまま海へ滑り降りると、シン達が立ち上がるだけでも苦労していたボードに難なく乗って、バランスを保っていた。遠目で見ていただけにしてはやけに上手く乗りこなしている。彼女の俊敏さが運動神経に反映され、それを実現させているのだろうか。

 「上手いもんだな。俺達は海上のボードに立つだけでも苦労してたのに、こうもあっさりと・・・」

 「彼女なら何でもそつなくこなしそうだ。出会った時からそんなイメージだったな私は」

 ミアのボード捌きに感心した様子でその姿を眺める二人。それを聞いたツバキが、彼女の上達の速さが何故のものなのか知った様子でシン達に話そうとする。

 「なんだ、アンタら知らなかったのか?実は・・・」

 「おいッ!・・・余計な口叩いてないで操縦を教えとけよ」

 少年の言葉を遮るように、慌てて割って入るミアの声が少し離れた場所から聞こえてくる。言いかけた言葉を飲み込み、少年は一度目を瞑りながら口角を上げると、そのまま何事もなかったかのように二人への指導に戻った。

 ツバキの指導を聞きながら、遠目にミアの方をチラッと見てみると、彼女は小声で何かを言いながら少しだけ頬を赤らめている様にも見えた。

 シンとツクヨは知らないことだが、昨晩‬二人が夢中になってボードの練習をしていたすぐ翌日。二人が疲労から熟睡している間に、ミアは早朝に一人でツバキに頼み、二人に内緒でボードの練習をしていたのだ。

 明日のレースに間に合わせるように、要点だけをしっかりと身につけていく一行は、その後も休む暇もなく練習を繰り返し、レースに疲れを持ち越さないよう早めに就寝する。

 そしていよいよ、レース当日の時がやって来る。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...