169 / 1,646
ツバキの顧客
しおりを挟む
話をして歩いていくうちに、目的のウィリアムの元へとたどり着いた一行。フーファンはそのままウィリアムの作業場に顔を出すといって別れ、シン達は一度ツバキの家へと戻ることにした。
彼の家に明かりがついていない。遅くなってしまったのできっと先に就寝したのだろうと思ったシン達は、玄関のドアノブを開いてみるが鍵がかかっていることに気がついた。
寝床や食事の面倒まで見てもらって、結局お返しが出来なかったことで彼を怒らせてしまったのかと心配しながらも、他に行く当てがなかったシン達はフーファンが向かったウィリアムの作業場へと立ち寄ってみることにした。
こちらはまだ明かりがついており、中から人の気配であろうものも感じる。大勢で作業をしているような音や気配ではなかったため、既に作業員や弟子達は帰宅の途についていることだろう。すると中にいるのはウィリアムとフーファンだろうか、などと想像しながら作業場の戸を開ける。
「失礼します。ウイリアムさんお話が・・・」
エイヴリー海賊団との件を尋ねようと彼の作業場に入って来た一行だったが、眼前にいたのはウィリアムの姿ではなく、一人の大人の姿と二人の子供の姿だった。
「ん?何だアンタか・・・遅かったじゃねぇか。じじぃなら今出掛けてるぜ?」
中にいた者達の視線が彼らに注がれる。一番最初に声を掛けてきたのは、彼らの世話をするツバキだった。シン達の心境とは裏腹に、全く彼らのレース不参加について気にしている様子はなかった。
子供のうちの一人がツバキとなれば、もう一人は必然的にフーファンとなる。そしてそこにウィリアムの代わりにいた大人の影は、見覚えのある美しい出立の美青年で、グレイスと彼らを繋いでくれた人物だったのだ。
「おや・・・?貴方達は・・・」
そこにいたのは、昼間に彼の行き付けの店で別れたハオランだった。お互いに驚いた様子を見せると、状況を整理している途中の彼らに変わりツバキが自分とシン達の関係について説明してくれた。簡潔に彼らとのことを話し終えた後、次に少年はハオランがここに居る理由についても話してくれた。
どうやら彼は、一人用の船が無いかウィリアムに訪ねに来たのだという。しかし、ウィリアムが不在で、代わりにいたツバキにその話をすると、丁度良い物があるといって、彼の造っていたモーターボートに積んである特殊な乗り物を勧めたのだ。丁度その乗り物の試し乗りを終え、ハオランは気に入ったように一台譲り受けたのだという。
「そうでしたか、そんなことが・・・。奇しくも丁度良いところに私が現れた様ですね。ツバキ殿の舟・・・?乗り物はとても素晴らしかったですよ。小回りも効きますし、スピードもある。単独行動の多い私には正にピッタリの物でしたよ。彼の宣伝に役立つのなら喜んで使わせてもらいます」
どうやらシン達の代わりにツバキの船を使ってくれる人が現れたようで、肩の荷が取れた三人だったが、ツバキの表情は宣伝をしてくれる顧客が見つかったにしては、あまり浮かない顔をしていた。
「よかったじゃないかツバキ。彼なら大いに宣伝効果を得られるんじゃないか?なんたって彼のところのリーダーはレースでトップスリーに数えられるほど、有力株なんだろ?」
ハオランはチン・シーという、このレースにおいての一大勢力に属する人物。別部隊としてレースに参加するのは、彼の能力が関係しているかららしい。有名な人物が使っている物というのはそれだけでファンが買ったり、何を買えば良いか分からない人が取り敢えず手を出すならと買ってもらいやすいもの。尚且つ、一人用の乗り物となれば、レースに出ずとも仲間内での遊戯や運動などでも使えるのではないだろうか。
「確かに有名人に使ってもらえるのは有難いことだし、俺の乗り物を選んでくれたのにも感謝してる・・・。でもハオランがこれに乗ってレースで戦績を上げたところで、ハオランの実力に目がいっちまってあまり有効な宣伝にはならねぇんだよなぁ・・・。アンタらだってそう思うだろ?強い奴は何を使っても強いんだって。要は、無名の奴でも俺の舟で上位勢に渡り合えるってところを見せられるのが一番いいんだ」
確かにツバキの言い分も一理ある。ただでさえその見た目から人気の高いハオラン。その彼が何に乗って優勝しようと、乗り物ではなく彼に目がいってしまうのは何となく想像ができる。
「贅沢言うもんじゃない。それでも彼の名がアンタの舟を世に知らしめてくれるかもしれないんだから。彼の力で上がった知名度を活かすも殺すも、その後のアンタ次第なんだから」
全く宣伝も出来ないよりは遥かにマシだろう。彼がウィリアムとここで落ち合わなかったこと、丁度その場にツバキが居合わせたことこそ、何かの縁なのだから。
彼の家に明かりがついていない。遅くなってしまったのできっと先に就寝したのだろうと思ったシン達は、玄関のドアノブを開いてみるが鍵がかかっていることに気がついた。
寝床や食事の面倒まで見てもらって、結局お返しが出来なかったことで彼を怒らせてしまったのかと心配しながらも、他に行く当てがなかったシン達はフーファンが向かったウィリアムの作業場へと立ち寄ってみることにした。
こちらはまだ明かりがついており、中から人の気配であろうものも感じる。大勢で作業をしているような音や気配ではなかったため、既に作業員や弟子達は帰宅の途についていることだろう。すると中にいるのはウィリアムとフーファンだろうか、などと想像しながら作業場の戸を開ける。
「失礼します。ウイリアムさんお話が・・・」
エイヴリー海賊団との件を尋ねようと彼の作業場に入って来た一行だったが、眼前にいたのはウィリアムの姿ではなく、一人の大人の姿と二人の子供の姿だった。
「ん?何だアンタか・・・遅かったじゃねぇか。じじぃなら今出掛けてるぜ?」
中にいた者達の視線が彼らに注がれる。一番最初に声を掛けてきたのは、彼らの世話をするツバキだった。シン達の心境とは裏腹に、全く彼らのレース不参加について気にしている様子はなかった。
子供のうちの一人がツバキとなれば、もう一人は必然的にフーファンとなる。そしてそこにウィリアムの代わりにいた大人の影は、見覚えのある美しい出立の美青年で、グレイスと彼らを繋いでくれた人物だったのだ。
「おや・・・?貴方達は・・・」
そこにいたのは、昼間に彼の行き付けの店で別れたハオランだった。お互いに驚いた様子を見せると、状況を整理している途中の彼らに変わりツバキが自分とシン達の関係について説明してくれた。簡潔に彼らとのことを話し終えた後、次に少年はハオランがここに居る理由についても話してくれた。
どうやら彼は、一人用の船が無いかウィリアムに訪ねに来たのだという。しかし、ウィリアムが不在で、代わりにいたツバキにその話をすると、丁度良い物があるといって、彼の造っていたモーターボートに積んである特殊な乗り物を勧めたのだ。丁度その乗り物の試し乗りを終え、ハオランは気に入ったように一台譲り受けたのだという。
「そうでしたか、そんなことが・・・。奇しくも丁度良いところに私が現れた様ですね。ツバキ殿の舟・・・?乗り物はとても素晴らしかったですよ。小回りも効きますし、スピードもある。単独行動の多い私には正にピッタリの物でしたよ。彼の宣伝に役立つのなら喜んで使わせてもらいます」
どうやらシン達の代わりにツバキの船を使ってくれる人が現れたようで、肩の荷が取れた三人だったが、ツバキの表情は宣伝をしてくれる顧客が見つかったにしては、あまり浮かない顔をしていた。
「よかったじゃないかツバキ。彼なら大いに宣伝効果を得られるんじゃないか?なんたって彼のところのリーダーはレースでトップスリーに数えられるほど、有力株なんだろ?」
ハオランはチン・シーという、このレースにおいての一大勢力に属する人物。別部隊としてレースに参加するのは、彼の能力が関係しているかららしい。有名な人物が使っている物というのはそれだけでファンが買ったり、何を買えば良いか分からない人が取り敢えず手を出すならと買ってもらいやすいもの。尚且つ、一人用の乗り物となれば、レースに出ずとも仲間内での遊戯や運動などでも使えるのではないだろうか。
「確かに有名人に使ってもらえるのは有難いことだし、俺の乗り物を選んでくれたのにも感謝してる・・・。でもハオランがこれに乗ってレースで戦績を上げたところで、ハオランの実力に目がいっちまってあまり有効な宣伝にはならねぇんだよなぁ・・・。アンタらだってそう思うだろ?強い奴は何を使っても強いんだって。要は、無名の奴でも俺の舟で上位勢に渡り合えるってところを見せられるのが一番いいんだ」
確かにツバキの言い分も一理ある。ただでさえその見た目から人気の高いハオラン。その彼が何に乗って優勝しようと、乗り物ではなく彼に目がいってしまうのは何となく想像ができる。
「贅沢言うもんじゃない。それでも彼の名がアンタの舟を世に知らしめてくれるかもしれないんだから。彼の力で上がった知名度を活かすも殺すも、その後のアンタ次第なんだから」
全く宣伝も出来ないよりは遥かにマシだろう。彼がウィリアムとここで落ち合わなかったこと、丁度その場にツバキが居合わせたことこそ、何かの縁なのだから。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる