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神代 コウ

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妖術師の少女と鍛治師の男

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 ロロネーと同じく、海賊の界隈では非道なことで有名だというロッシュ海賊団。町で情報を集めていた時には、その名を耳にすることはなかったが、恐らくロロネーの悪事が一際目立ち過ぎているため、一般的にはそれ程知れ渡っていないのかもしれない。

 悪巧みに長けたロッシュは、海賊同士の間で争いの火種を作り、勝つ見込みの高い方に加担しながら報酬と戦利品をくすねて行く狡賢いことをしているのだとか。今回のレースでロロネーの企みに一役買っているという情報を掴んだチン・シーが、同じく彼の行いに目を付けていたグレイスに話を持ち掛け、その企みを潰す為の同盟を組んだ。

 「立ち話もなんだ・・・。アンタ達には悪いが、もう一度この店でってことになるけど良いかい?」

 店員の男に、ハオランとの会食の会計について尋ねると、既に彼が支払ってくれていたようだ。それを聞いて安心したシン達は再度、グレイス一行について行きながら店の個室へと案内された。

 部屋に着き、一行が席に座るとグレイスから任務についての確認と、その作戦内容について説明があった。

 「さて、任務内容についてはさっき話した通り、停泊場にあるロッシュの船に忍び込み、あるアイテムの回収、もしくは処分を行うといった内容だ。勿論、船の周りにも中にも船員がいるだろうから、隠密行動が厳守となる」

 無論、自身の船なのだから警備に当たっている者がいるのは当然だろう。しかし彼女らはそんな大勢の目がある中、どうやって忍び込もうとしていたのだろうか。シンのような隠密に長けたクラス構成のパーティでもないのに、どうやって隠密任務をこなそうというのか、シンは興味があった。

 「まずはフーファンによる妖術で、ロッシュの船一帯に幻術をかける。だがこれは広範囲な上、探知されない程の微弱な幻術だ。一般の者やロッシュ海賊団の船員以外の視線を遮る遮断フィールを展開する。これで外から中の様子に変化があったなどとは思われなくなり、行動がしやすくなる」

 妖術師のクラスは、相手を幻術などの術中に陥れることに特化しており、他のクラスとの違いは複数の者に幻術をかけられるだけでなく、広範囲に渡る術の範囲にある。しかしながら、勿論そんな強力な術が簡単に放てるものではなく、祭壇や魔法陣、施設などの設置が必要不可欠であり、準備や発動までに時間がかかってしまう。

 その上、設置した装置が破壊されれば術は乱れ、その効果を失い、再度スキルを使うにはまた設置を強いられるという、下準備や作戦が重要になってくるクラスだ。

 「作戦の決行は本日の真夜中、それまでにフーファンとシュユーで術式の装置を設置しにいく。アタシとアンタらは時間まで待機し、彼らの設置が終了したら各自持ち場に着いてもらう。フーファンは幻術を発動し、シュユーとアンタ達は装置の護衛、そしてガンスリンガーのミア、アンタには最悪の事態になった時に狙撃による援護をお願いしたい」

 「了解だ。だが、私は幻術の範囲外だろ?どうやって中の事態に対応すればいい?」

 「それは大丈夫です!術式の側に居てくれてさえいれば、中の様子を装置に映し出すことができます!ミアさんはそれで敵の配置を確認しながら撃っていただければ問題ありません!」

 フーファンが自信ありげに口を開いた。だが、一度も作戦の合わせを行なっていないのに、瞬時に対応できるものなのだろうか。中の様子がどの様に映し出されるのかも分からないのに、見えない敵を正確に狙撃することが可能なのか。

 「簡単に言ってくれるな・・・」

 「まぁ、あくまでも最悪の事態になった時の話だ。それにこの子のサポートは強力だよ。まるでレーダーを見ているかのように敵の位置を教えてくれる。だから彼女もこの子をスカウトしたのさ」

 グレイスのお墨付きをもらい、満面の笑みを作るフーファン。確かにこの少女にかかる重圧は重い。実際に船に忍び込む実働班の命を預かっているだけではなく、もし作戦が相手に知られれば真先に命を狙われるのは、術者であるフーファンが有力だろう。

 「そして実際に船に忍び込むのはアタシとシンになる。アタシらは小船でロッシュの船に近づき乗り込む。アタシだけの作戦では別のやり方で忍び込もうと思っていたけど、シンのスキルで影の中を移動し、より安全に忍び込むことが可能になった。船員の目を掻い潜り、恐らくロッシュの部屋にあるであろうアイテムを回収し、脱出するってぇのが今回の任務となる」

 簡単に言ってくれるが、何処から船員が見ているか、出てくるか分からない入り組んだ船の中という敵地のど真ん中で、音を立てることもなく見られることもなくなど、容易なことではない。

 「待ってくれ。俺だけならともかく、声も出せない状態でどうやってアンタを俺の影の中に誘える?そんな直ぐに言葉の要らない連携など出来ないぞ・・・」

 シンの言い分も最もなことだった。どんなに信頼があり親密で意思疎通の出来る相方であっても、一度も合わせることもなく咄嗟な連携を取るなど容易ではない。まして出会って間もないシンとグレイスでそんな連携など、取れるはずもないだろう。しかし、そんな心配事を祓うように口を開いたのが、この作戦においてもう一人の重要人物でもあるシュユーだった。

 「ご安心されよ、シン殿。元よりこの作戦はグレイス殿お一人で行う筈だったもの。貴殿のように隠密スキルを持たぬグレイス殿が如何にして忍び込むとしていたのか・・・」

 「そうだ、言われてみれば・・・。一体どうやって忍び込もうとしたんだ?」

 彼の答えを求めるような表情を見て、誇らしげにほくそ笑むシュユーがシンの質問に答えようとした時、その様子を見ていたグレイスが焦ったく勿体ぶるシュユー差し置いて、先にその答えを喋り出した。

 「回りくどい言い方してんじゃないよ。それはコイツの作るエンチャント装備さ」

 「なっ!?私が言おうと思っていたことをッ!」

 グレイスの言う“エンチャント”とは、武器や防具といった装備やアイテムに、属性や特殊なスキル、特定の要素や効果を追加する技術を指す言葉で、分かりやすいところで言えば、炎を纏った剣を作ったり、防具に水属性を吸収する効果を付けるなど、属性攻撃ができないクラスであっても、エンチャントされた装備を身につけることで魔法を放つことが出来たり、属性攻撃が扱えるようになるという、強大な相手を攻略する時などに重宝される技術の一つだ。

 彼女に不意を突かれ、取り乱したシュユーが仕切り直し、自らの口でシンに説明する。

 「コホンッ・・・。私の鍛治スキルによって作り出す、不可視の黒衣を使って忍び込もうという作戦だったのです。ですがこの不可視というものは万能ではございません。音を立てれば聞こえてしまい、気配察知や温度による探知などを受けてしまえば看破され、効果を剥がされてしまいますので過信は禁物なのです」
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