142 / 1,646
ゲストスポンサー
しおりを挟む
グラスが落ちて割れ、破片が床に散らばり、椅子や机がなぎ倒され損壊し木屑が散らばっている中に、多勢の人が居れば物音の一つも立つ筈だろう。そんな異常で緊迫した雰囲気に包まれ、シンの額からは大粒の冷や汗が数滴、彼の顔に数本の水滴の道を作ると、丁度顎のラインに差し掛かったところで合流しながら、ついに顎先から汗が重力に押し負け、床へと引きつけられる。
彼の垂らした汗が、床に落ちて起こした音が店内に響き渡る。多くの視線がシンとミア、そしてキングのいる方へと向けられ、冷たく鋭くビリビリとした感覚が彼らを襲う。静寂に静まり返る場を切り裂き、止まった時の流れを動かしたのはキングだった。
「なんてな・・・!冗談冗談ッ!アイツがそんな簡単に死ぬようならとっくに殺されてるわな!」
大声で笑い出すキングにつられて、店内にいる彼の仲間達も笑いながら片付けを再開する。和んだ空気に胸をなでおろすように、大きな息を吐くとシンは緊張が解けたのか、首をガクッと落として膝に手をつく。流石のミアも、この時ばかりは言葉を失い、肝を冷やされた事だろう。彼女の表情からも、筋肉の硬直が解けたかのようなものを感じ取れる。
「いくら君達が強かろうが、君達だけじゃ彼は倒せないよねぇ!・・・君達だけじゃ・・・さぁ?」
他の者達には聞こえていなかったのか、それとも何のことなのか分からなかったのか、反応する者はいなかったが、キングの再び放ったその台詞に一度は解かれた緊張が、一瞬だけ蘇ってきた。この男にはシン達が何者かと組んでシュトラールに挑んだということが、分かっているとでもいうのだろうか。掴めぬキングの発言に翻弄される二人。
「まぁ、正直ぃ?俺ちゃんにとっちゃ都合の良い出来事だったわけなんよ、聖都の大ニュースってやつは。だって!正義正義って五月蝿いのよねあの男!いっつもウチらの邪魔ばかりしてきたから、漸くこれで伸び伸び出来るって感じぃ?」
身振り手振りをしながら目まぐるしく表情を変えて話すキング。彼の言っている邪魔をされたというのは、ギャングとしての活動に関与されたということだろう。正義を謳っていたシュトラールにとってギャングなど、悪の権化以外の何者でも無い筈だ。良し悪しは分からないが、シュトラールの死は、彼のストッパーを外した事に繋がったのだろう。
「ギャングとしての行動がし易くなったってところか?」
「ご明察ぅッ!彼に差し止められていた物流が可能になったりね!だから俺ちゃんは感謝してる訳さぁ。そんで、気分が良いからさっきのお詫びも込めて君達の知りたい情報を一つ、教えてあげちゃおうかなぁ?」
二人はあからさまな視線をキングに送ると、彼は万面の笑みでウィンクし、親指を立ててシン達に向ける。
「数日後に開催されるフォリーキャナルレースのセレモニーで、景品を出してるスポンサーのお偉いさんが何人か来るわけよ。んで!今回そのスポンサーの中に飛び入りのゲストが入ったんだけど、そのゲストが出した景品ってのがどうにも得体の知れない何かだって話ぃ・・・」
「この町でアンタの耳に入らない情報は無いんじゃなかったのか?得体の知れない何かを知りたいんだが?」
ミアが情報を聞き出すため強気に出ると、彼はお手上げといった様子で両手を上に上げて困った顔をする。
「ん~・・・手厳しいねぇ。君の言う通りなんだけど、言う通りになってないんだよねぇ。つまり、俺ちゃんにとってこの事自体が異変な訳に成る訳よッ!」
組織を牛耳っているキングでさえ分からない情報、確かにこの町で得てきた情報の中では一番きな臭く思える。そのゲストが持ち込んだ景品が、何かの異変に かんれんしている可能性も十分にあり、もしかしたらそのゲスト自体が異変にn関した人物なのかも知れない。
「何か他に情報はないのか?どんな小さなことでも良いんだ・・・。例えば景品がどんな用途の物なのか、その飛び入りゲストって言うのがどんな人物なのか。そもそも、その景品が・・・物・・・なのか?」
「悪いが景品に関しては、珍しいモノって以外何の情報もないのにゃぁ・・・。それにゲストの方も“黒いコート”で身を隠していて、何処の誰だか分からないって感じでぇ・・・」
キングの発した思わぬゲストの特徴に、シンとミアは驚きのあまり、お互いに顔を見合わせる。“黒いコート”、以前にメアを襲ったとされる男、そして彼を助けた男に特徴が似ている。たまたま同じような黒いコートなのかも知れない、だが確認する価値は十分にある。
何にしろ、キングの話すレースのセレモニーが情報調達の最も有力な手段であることは間違いない。数日後と言うことなので、一旦ツクヨとヘラルトに合流し、今後の行動を再度練り直さなければならなくなった。
「まっ!それが君達にとって有力な情報になるのかは、セレモニーに行ってみないと分からないって訳ねぇ。町を出るにしても、先ずはセレモニーに参加してみるのが良いんじゃなくてぇ?」
「ありがとう!キング。アンタのお陰で前進出来そうだ」
嬉しそうに頷くキングは席を立ち、彼の側まで来ていた女性から上着を掛けてもらうと、最後に冗談なのか本気なのか、二人を自分のギャングへと勧誘した。
「俺達ッ!シー・ギャングはッ!いつでも君達を待っているぞッ!」
拳で胸を叩き、そのままの拳を二人へ向けるキング。彼の言葉に呼応し店内で片付けをしていた構成員の者達が声をあげて煽り立てる。そして、歓声の中、キングは酒場を後にしたのだった。
彼の垂らした汗が、床に落ちて起こした音が店内に響き渡る。多くの視線がシンとミア、そしてキングのいる方へと向けられ、冷たく鋭くビリビリとした感覚が彼らを襲う。静寂に静まり返る場を切り裂き、止まった時の流れを動かしたのはキングだった。
「なんてな・・・!冗談冗談ッ!アイツがそんな簡単に死ぬようならとっくに殺されてるわな!」
大声で笑い出すキングにつられて、店内にいる彼の仲間達も笑いながら片付けを再開する。和んだ空気に胸をなでおろすように、大きな息を吐くとシンは緊張が解けたのか、首をガクッと落として膝に手をつく。流石のミアも、この時ばかりは言葉を失い、肝を冷やされた事だろう。彼女の表情からも、筋肉の硬直が解けたかのようなものを感じ取れる。
「いくら君達が強かろうが、君達だけじゃ彼は倒せないよねぇ!・・・君達だけじゃ・・・さぁ?」
他の者達には聞こえていなかったのか、それとも何のことなのか分からなかったのか、反応する者はいなかったが、キングの再び放ったその台詞に一度は解かれた緊張が、一瞬だけ蘇ってきた。この男にはシン達が何者かと組んでシュトラールに挑んだということが、分かっているとでもいうのだろうか。掴めぬキングの発言に翻弄される二人。
「まぁ、正直ぃ?俺ちゃんにとっちゃ都合の良い出来事だったわけなんよ、聖都の大ニュースってやつは。だって!正義正義って五月蝿いのよねあの男!いっつもウチらの邪魔ばかりしてきたから、漸くこれで伸び伸び出来るって感じぃ?」
身振り手振りをしながら目まぐるしく表情を変えて話すキング。彼の言っている邪魔をされたというのは、ギャングとしての活動に関与されたということだろう。正義を謳っていたシュトラールにとってギャングなど、悪の権化以外の何者でも無い筈だ。良し悪しは分からないが、シュトラールの死は、彼のストッパーを外した事に繋がったのだろう。
「ギャングとしての行動がし易くなったってところか?」
「ご明察ぅッ!彼に差し止められていた物流が可能になったりね!だから俺ちゃんは感謝してる訳さぁ。そんで、気分が良いからさっきのお詫びも込めて君達の知りたい情報を一つ、教えてあげちゃおうかなぁ?」
二人はあからさまな視線をキングに送ると、彼は万面の笑みでウィンクし、親指を立ててシン達に向ける。
「数日後に開催されるフォリーキャナルレースのセレモニーで、景品を出してるスポンサーのお偉いさんが何人か来るわけよ。んで!今回そのスポンサーの中に飛び入りのゲストが入ったんだけど、そのゲストが出した景品ってのがどうにも得体の知れない何かだって話ぃ・・・」
「この町でアンタの耳に入らない情報は無いんじゃなかったのか?得体の知れない何かを知りたいんだが?」
ミアが情報を聞き出すため強気に出ると、彼はお手上げといった様子で両手を上に上げて困った顔をする。
「ん~・・・手厳しいねぇ。君の言う通りなんだけど、言う通りになってないんだよねぇ。つまり、俺ちゃんにとってこの事自体が異変な訳に成る訳よッ!」
組織を牛耳っているキングでさえ分からない情報、確かにこの町で得てきた情報の中では一番きな臭く思える。そのゲストが持ち込んだ景品が、何かの異変に かんれんしている可能性も十分にあり、もしかしたらそのゲスト自体が異変にn関した人物なのかも知れない。
「何か他に情報はないのか?どんな小さなことでも良いんだ・・・。例えば景品がどんな用途の物なのか、その飛び入りゲストって言うのがどんな人物なのか。そもそも、その景品が・・・物・・・なのか?」
「悪いが景品に関しては、珍しいモノって以外何の情報もないのにゃぁ・・・。それにゲストの方も“黒いコート”で身を隠していて、何処の誰だか分からないって感じでぇ・・・」
キングの発した思わぬゲストの特徴に、シンとミアは驚きのあまり、お互いに顔を見合わせる。“黒いコート”、以前にメアを襲ったとされる男、そして彼を助けた男に特徴が似ている。たまたま同じような黒いコートなのかも知れない、だが確認する価値は十分にある。
何にしろ、キングの話すレースのセレモニーが情報調達の最も有力な手段であることは間違いない。数日後と言うことなので、一旦ツクヨとヘラルトに合流し、今後の行動を再度練り直さなければならなくなった。
「まっ!それが君達にとって有力な情報になるのかは、セレモニーに行ってみないと分からないって訳ねぇ。町を出るにしても、先ずはセレモニーに参加してみるのが良いんじゃなくてぇ?」
「ありがとう!キング。アンタのお陰で前進出来そうだ」
嬉しそうに頷くキングは席を立ち、彼の側まで来ていた女性から上着を掛けてもらうと、最後に冗談なのか本気なのか、二人を自分のギャングへと勧誘した。
「俺達ッ!シー・ギャングはッ!いつでも君達を待っているぞッ!」
拳で胸を叩き、そのままの拳を二人へ向けるキング。彼の言葉に呼応し店内で片付けをしていた構成員の者達が声をあげて煽り立てる。そして、歓声の中、キングは酒場を後にしたのだった。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる