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波乱を予感させる町
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死海文書は、死海の北西岸周辺で発見された写本群の総称のことで、材質は羊皮紙やパピルス、珍しいものでは銅板で発見されたものもある。
発見された場所やその内容は多岐に渡り、どういった内容の書物であるかを説明するのは難しい。しかし、中でも重要視され、歴史的価値が高いとされているのは宗教の内容が記されたもののようだ。
彼の言う死海文書が、現実世界の物と同じである可能性は低いのかもしれない。それというのも、宗教上の問題というのは過去から現在に至るまで多くあり、それが元で争いが起こることも多かった。
様々な人がプレイするオンラインゲームで、そういった問題に触れるのは制作上で多くの問題を抱えることになりかねない。
「それは一体、どういう内容のものなんだい?」
普通に生活していれば、恐らくその言葉自体聞き馴染みのない人も多いだろう。ツクヨが彼からその言葉を聞いて思い至ることがなかったのも、無理もない。
「僕が持っている物は数枚で内容も様々なのですが、誰かのメモのようなものであったり、何処かの場所を記した文章のものが殆どでした。僕が興味を持ったのはメモの方で、そこには見たこともないような生物の記述や目撃談で、冒険者の方々に尋ねても知らない生き物ばかりなんです!興味が湧きませんか!?誰も知らない生き物なんて!」
目を輝かせて語るヘラルトを、嬉しそうに好きなものについて語る子供の話を聞く親のような心持ちで聞いていたツクヨ。誰も見たことがなく知らないという生物の特徴に、ツクヨは現実世界にもある、誰も見たことは無いが居たとされており、名前こそ多くの人に広まっている空想上の生き物について彼に話した。
「まるで幻獣のようだね。ユニコーンやペガサス、麒麟とかなら知っているけど・・・。あれ?こっちじゃ割と知られている存在なのかな?寧ろ存在してたりして・・・」
一人で話し出すツクヨの言葉に目を輝かせるヘラルトは、彼の口にした生き物について詳しく聞いた。その姿の特徴であったり、どのような存在であるのか、またどのようなものを通して人々に知れ渡ったのかというルーツについて聴取しながら、ヘラルトは手にした紙の束でできたスケッチブックのようなものに、ツクヨから聞いた生き物の絵を想像しながら描いていく。
「へぇー、凄いね!正にその通りだよ!まるで見て描いたようじゃないか!」
作家とは聞いていたが、聞いただけでどんな生き物なのかを描き上げる彼の才能にツクヨは驚いた。それもその筈、ヘラルトは戦闘以外の方法でお金を稼ぐ手段として、見てきた風景や肖像画などを描いてその場凌ぎの収入を得ていたのだ。
「ツクヨさんは物知りですね!こんなにもいろんな生き物のこと、どこで知ったんですか?」
彼の素朴な疑問に、つい現実世界のことを口にしそうになったが、異世界のことを説明してもきっと信じてもらえないだろうし、文化の違いに驚かれるだろう。それに、プレイヤー以外にこの手の話はしない方が得策だと考えた。
「え?あぁー・・・うん、私も人から聞いた伝承や民話の話なんだけどね」
上手いこと質問を避けていくツクヨは、何とかその場を凌ぎながらヘラルトに現実世界で有名な幻獣の話をし、その日の夜を過ごした。
翌日、アランの馬車に集った一行は一通りクエストをこなした村を後にし、グラン・ヴァーグへの道程へと戻る。その道中、昨日のことをシンとミアに話し、ヘラルトが二人に描いた絵を見せてくれた。シンもミアも、描かれた絵が現実の世界で有名なものだと気づくや否や、知っている素振りを見せないように上手く躱し、話を合わせる。
幾つかの町や村を訪れては、簡単なクエストをこなして資金を増やし、ダンジョンを抜ける。そして平野にでると、遠くの方から風に乗って磯の香りが一行の元へ届けられてきた。
「もう間も無く見えてきますよ」
馬車の車輪が大地を擦りながら平野を進み、心地の良い揺れと木材を軋ませる音を立てる中、アランが夢見心地でいる彼らに目的地が近づいてきたのを知らせる。大きな丘を越えると、港町を一望できる見晴らしのいい絶景スポットへ辿り着く。
「お待たせしました!彼方が目的地となる港町、グラン・ヴァーグです!」
泊地に泊まる幾つもの様々な形をした大きな船。その殆どが心中穏やかではないマークの旗を掲げ、船体にロゴのようなものがペイントされた荒々しい形相の船が多く停泊している。そのことからも予感させられる通り、ある程度覚悟していたことだろうが、情報を集めるだけでは収まりそうにない、波乱が待ち受けていることを感じさせるピリピリとした空気がそこにはあった。
「あれって・・・海賊船か・・・?」
「間も無く開催されるイベントが目的でしょうね。このシーズンになると、各方面のならず者やギャングが集まってくるんです。それがフォリーキャナルレース、グラン・ヴァーグで開催される催し物の目玉イベントの一つです」
職業柄、情報に富んだアランが異色の賑わいを見せる町並みの理由について説明っしてくれた。彼の言っていたフォリーキャナルレースとは、どんな者でも参加できるイベントで、多額の賞金や珍しいアイテムが景品となることで、ならず者達にとっては良い資金源となり、トレジャーハンターやコレクターの間にとっては探す手間の省ける掘り出し物がお目に掛かれるものとして有名らしい。
中には賞金の掛けられた者も参加しているため、彼らの首を目当てに参加する者も多いのだという。無論、シン達のような冒険者であったり旅の者も多く参加しているようで、各々のクラスを活かした造船技術により船を改造したり、自ら生み出した召喚獣に乗ってレースに参加する者もいるのだとか。
「へぇ・・・レースか、面白そうだね。どうだみんな、折角だから参加なんて・・・」
誰でも参加できるというお祭りごとの雰囲気に飲まれたツクヨが、未知なる出会いと冒険の予感に興奮しながら一行に語りかけようとしたが、シンとミアは彼のその先の言葉を聞くまでもなく口を揃えて同じ返事を返した。
「しないからな!」
回避できない異変に巻き込まれるのなら仕方がない、だが明かに何か一悶着あるであろう事に自ら飛び込んで行くのは違う、といった意見はシンもミアも同じだったようだ。
発見された場所やその内容は多岐に渡り、どういった内容の書物であるかを説明するのは難しい。しかし、中でも重要視され、歴史的価値が高いとされているのは宗教の内容が記されたもののようだ。
彼の言う死海文書が、現実世界の物と同じである可能性は低いのかもしれない。それというのも、宗教上の問題というのは過去から現在に至るまで多くあり、それが元で争いが起こることも多かった。
様々な人がプレイするオンラインゲームで、そういった問題に触れるのは制作上で多くの問題を抱えることになりかねない。
「それは一体、どういう内容のものなんだい?」
普通に生活していれば、恐らくその言葉自体聞き馴染みのない人も多いだろう。ツクヨが彼からその言葉を聞いて思い至ることがなかったのも、無理もない。
「僕が持っている物は数枚で内容も様々なのですが、誰かのメモのようなものであったり、何処かの場所を記した文章のものが殆どでした。僕が興味を持ったのはメモの方で、そこには見たこともないような生物の記述や目撃談で、冒険者の方々に尋ねても知らない生き物ばかりなんです!興味が湧きませんか!?誰も知らない生き物なんて!」
目を輝かせて語るヘラルトを、嬉しそうに好きなものについて語る子供の話を聞く親のような心持ちで聞いていたツクヨ。誰も見たことがなく知らないという生物の特徴に、ツクヨは現実世界にもある、誰も見たことは無いが居たとされており、名前こそ多くの人に広まっている空想上の生き物について彼に話した。
「まるで幻獣のようだね。ユニコーンやペガサス、麒麟とかなら知っているけど・・・。あれ?こっちじゃ割と知られている存在なのかな?寧ろ存在してたりして・・・」
一人で話し出すツクヨの言葉に目を輝かせるヘラルトは、彼の口にした生き物について詳しく聞いた。その姿の特徴であったり、どのような存在であるのか、またどのようなものを通して人々に知れ渡ったのかというルーツについて聴取しながら、ヘラルトは手にした紙の束でできたスケッチブックのようなものに、ツクヨから聞いた生き物の絵を想像しながら描いていく。
「へぇー、凄いね!正にその通りだよ!まるで見て描いたようじゃないか!」
作家とは聞いていたが、聞いただけでどんな生き物なのかを描き上げる彼の才能にツクヨは驚いた。それもその筈、ヘラルトは戦闘以外の方法でお金を稼ぐ手段として、見てきた風景や肖像画などを描いてその場凌ぎの収入を得ていたのだ。
「ツクヨさんは物知りですね!こんなにもいろんな生き物のこと、どこで知ったんですか?」
彼の素朴な疑問に、つい現実世界のことを口にしそうになったが、異世界のことを説明してもきっと信じてもらえないだろうし、文化の違いに驚かれるだろう。それに、プレイヤー以外にこの手の話はしない方が得策だと考えた。
「え?あぁー・・・うん、私も人から聞いた伝承や民話の話なんだけどね」
上手いこと質問を避けていくツクヨは、何とかその場を凌ぎながらヘラルトに現実世界で有名な幻獣の話をし、その日の夜を過ごした。
翌日、アランの馬車に集った一行は一通りクエストをこなした村を後にし、グラン・ヴァーグへの道程へと戻る。その道中、昨日のことをシンとミアに話し、ヘラルトが二人に描いた絵を見せてくれた。シンもミアも、描かれた絵が現実の世界で有名なものだと気づくや否や、知っている素振りを見せないように上手く躱し、話を合わせる。
幾つかの町や村を訪れては、簡単なクエストをこなして資金を増やし、ダンジョンを抜ける。そして平野にでると、遠くの方から風に乗って磯の香りが一行の元へ届けられてきた。
「もう間も無く見えてきますよ」
馬車の車輪が大地を擦りながら平野を進み、心地の良い揺れと木材を軋ませる音を立てる中、アランが夢見心地でいる彼らに目的地が近づいてきたのを知らせる。大きな丘を越えると、港町を一望できる見晴らしのいい絶景スポットへ辿り着く。
「お待たせしました!彼方が目的地となる港町、グラン・ヴァーグです!」
泊地に泊まる幾つもの様々な形をした大きな船。その殆どが心中穏やかではないマークの旗を掲げ、船体にロゴのようなものがペイントされた荒々しい形相の船が多く停泊している。そのことからも予感させられる通り、ある程度覚悟していたことだろうが、情報を集めるだけでは収まりそうにない、波乱が待ち受けていることを感じさせるピリピリとした空気がそこにはあった。
「あれって・・・海賊船か・・・?」
「間も無く開催されるイベントが目的でしょうね。このシーズンになると、各方面のならず者やギャングが集まってくるんです。それがフォリーキャナルレース、グラン・ヴァーグで開催される催し物の目玉イベントの一つです」
職業柄、情報に富んだアランが異色の賑わいを見せる町並みの理由について説明っしてくれた。彼の言っていたフォリーキャナルレースとは、どんな者でも参加できるイベントで、多額の賞金や珍しいアイテムが景品となることで、ならず者達にとっては良い資金源となり、トレジャーハンターやコレクターの間にとっては探す手間の省ける掘り出し物がお目に掛かれるものとして有名らしい。
中には賞金の掛けられた者も参加しているため、彼らの首を目当てに参加する者も多いのだという。無論、シン達のような冒険者であったり旅の者も多く参加しているようで、各々のクラスを活かした造船技術により船を改造したり、自ら生み出した召喚獣に乗ってレースに参加する者もいるのだとか。
「へぇ・・・レースか、面白そうだね。どうだみんな、折角だから参加なんて・・・」
誰でも参加できるというお祭りごとの雰囲気に飲まれたツクヨが、未知なる出会いと冒険の予感に興奮しながら一行に語りかけようとしたが、シンとミアは彼のその先の言葉を聞くまでもなく口を揃えて同じ返事を返した。
「しないからな!」
回避できない異変に巻き込まれるのなら仕方がない、だが明かに何か一悶着あるであろう事に自ら飛び込んで行くのは違う、といった意見はシンもミアも同じだったようだ。
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