135 / 1,646
旅する作家の少年ヘラルト
しおりを挟む
「こんなに貰っちゃ悪いですよ!そんなに大したことは・・・」
「何を言っているんだ。私を助けてくれただろ?これはそのお礼だよ」
村に戻った一行はクエストの報酬を受け取ると、各々自分の懐に入れる中ツクヨは、モンスターからの一撃を救ってもらったお礼として、レラルトに報酬の分け与えていた。
「どうでもいいが、私達も決して余裕がある訳じゃないんだ。後で足らないから貸してくれなんて言われても、私は貸さないからな」
「え!?お金は共通のモノじゃないのかい?」
まだパーティー加わって日の浅いツクヨに、ミアの意地悪な部分が顔を見せる。彼らは報酬や金を共通のモノとはしていなかった。それというのも、それぞれが就いているクラスによって必要となる物資も違えば装備も違い、それらに掛かる金額も変わってくる。
シンは投擲を沢山行おうとするならば、投擲用の武器やアイテムなどに金がかかり、節約して近接だけを行うことも可能だ。だが、ミアの戦闘を担当するクラスであるガンスリンガーは、基本銃弾を使うため、常に弾をキープしておかなければならない。一発一発の金額は大したことないが、塵も積もれば山となるとはよく言ったモノで、消費に見合った戦果を挙げ、購入金額以上の報酬を常に気にかけていかなければならない。
故に共通の財産とした場合、仲間の負担になってしまうと彼女は報酬や金をそれぞれに分けようと提案していたのだった。
「それぞれで使い道も金額も違うからな。ミアは俺達に気を使ってくれているんだよ。自分が仲間の負担にならない様に・・・てね」
シンがツクヨに事情を話すと、ミアの鋭い視線が突き刺さり余計なことを言うなといった表情を一瞬だけ見せる。悪かったと歩み寄るシンに背を向けながら酒を呷る彼女に、空いたグラスに新たな酒を注ぎ、まるで目上の者に接待でもするかの様にこびを売るシンの姿を見送りながら、ツクヨは微笑ましい表情をする。
「何だか・・・いいね、こういう関係って。いい仲間に出逢えて良かった」
「・・・え?」
物思いにふけるように遠い目をするツクヨに、まだ幼いヘラルトは言葉の表面上の意味でしか理解出来ず、思わず彼の顔を見上げて意味を問う。
「言葉に出さずとも、お互いがお互いに気を遣い合っている関係がね。それも互いに相手の気持ちを汲み取っているからこその気遣いだ。息苦しくなるタイプの気遣いでは無い」
「気遣い・・・ですか?相手の顔色を伺うっていうやつの事です?」
ヘラルトくらいの年齢の少年から聞くその台詞に、思わずツクヨは笑いを堪えきれなかった。大きく笑い出す彼に、自分がまた可笑しなことでも言ったのかと心配になる少年は慌てふためいた。
「違う違う。君の言う気遣いも、それはそれで合っているよ。寧ろ世の中には、そっちの意味の方が多く出回っていると思うよ。彼らの方が珍しいんだ・・・」
そう言うと、手の中にあるグラスの中で氷が溶け、角度の変わったグラスと氷がぶつかって音を立てる。グラスを回しながら氷を酒に溶かすとそれを一口、口に運び難しく考えていた頭を冷やすツクヨ。そして今度は彼のことについて聞いてみる。
「君は・・・ヘラはどうして一人で旅をしているの?」
それまで誰も触れてこなかったが、ヘラルトくらいの年齢の子供が一人で旅をしているのは、あまり良くあることとはいえないだろう。普通なら家族や故郷の大人達が止めていてもおかしく無いはずなのに、こんなに多くの荷物を持って旅とは、何か事情があるのではないだろうか。
「僕は、いろんな世界を周って、いろんなものを見て・・・。教えてあげたいんです故郷の友達に、世界には僕達が夢に見たような、不思議でキラキラしたものが溢れているって」
「世界を・・・教えてあげたい?」
不思議なことを言う少年だなという印象だった。旅に出るのであれば友達と行ってもいい筈。彼は故郷の友達とは違った境遇にでもあるのということなのだろうか。そして同時に不安にもなった。彼の夢見る世界はきっと綺麗なものばかりではない。それこそツクヨが初めてこの世界に降り立った聖都のように、想いを同じくしても争わなければならない人の姿や、人を騙し利用する醜い姿など、目も背けたくなるような凄惨なものを目にした時、彼はどうするのだろうか。
「だから作家をやっているのか・・・?」
彼の荷物にある画材道具や書物を見ながら、ツクヨは彼の旅路を想像した。この絵画達は彼が今までに旅して周って来た景色を描いたものなのだろうかと。
「えぇ、僕に出来ることは見てきたものを絵にして残すこと、聞いてきたことを文字にして残すこと。知らないことを知るのはとても楽しくてワクワクします。最近のお気に入りは古文書なんですよ!まるで御伽話みたいですごく楽しくて・・・。物流の盛んなところに行けば、他にもお目に掛かれるかなって」
「それでグラン・ヴァーグに?」
「はい。あそこにはいろんな大陸や国から物が流通していると聞きます。そして僕の目的は海にあるんです!海には人が知り得ない物が沢山眠っているそうなんですよ。その一つが僕の探している“死海文書”という物なんです!」
「何を言っているんだ。私を助けてくれただろ?これはそのお礼だよ」
村に戻った一行はクエストの報酬を受け取ると、各々自分の懐に入れる中ツクヨは、モンスターからの一撃を救ってもらったお礼として、レラルトに報酬の分け与えていた。
「どうでもいいが、私達も決して余裕がある訳じゃないんだ。後で足らないから貸してくれなんて言われても、私は貸さないからな」
「え!?お金は共通のモノじゃないのかい?」
まだパーティー加わって日の浅いツクヨに、ミアの意地悪な部分が顔を見せる。彼らは報酬や金を共通のモノとはしていなかった。それというのも、それぞれが就いているクラスによって必要となる物資も違えば装備も違い、それらに掛かる金額も変わってくる。
シンは投擲を沢山行おうとするならば、投擲用の武器やアイテムなどに金がかかり、節約して近接だけを行うことも可能だ。だが、ミアの戦闘を担当するクラスであるガンスリンガーは、基本銃弾を使うため、常に弾をキープしておかなければならない。一発一発の金額は大したことないが、塵も積もれば山となるとはよく言ったモノで、消費に見合った戦果を挙げ、購入金額以上の報酬を常に気にかけていかなければならない。
故に共通の財産とした場合、仲間の負担になってしまうと彼女は報酬や金をそれぞれに分けようと提案していたのだった。
「それぞれで使い道も金額も違うからな。ミアは俺達に気を使ってくれているんだよ。自分が仲間の負担にならない様に・・・てね」
シンがツクヨに事情を話すと、ミアの鋭い視線が突き刺さり余計なことを言うなといった表情を一瞬だけ見せる。悪かったと歩み寄るシンに背を向けながら酒を呷る彼女に、空いたグラスに新たな酒を注ぎ、まるで目上の者に接待でもするかの様にこびを売るシンの姿を見送りながら、ツクヨは微笑ましい表情をする。
「何だか・・・いいね、こういう関係って。いい仲間に出逢えて良かった」
「・・・え?」
物思いにふけるように遠い目をするツクヨに、まだ幼いヘラルトは言葉の表面上の意味でしか理解出来ず、思わず彼の顔を見上げて意味を問う。
「言葉に出さずとも、お互いがお互いに気を遣い合っている関係がね。それも互いに相手の気持ちを汲み取っているからこその気遣いだ。息苦しくなるタイプの気遣いでは無い」
「気遣い・・・ですか?相手の顔色を伺うっていうやつの事です?」
ヘラルトくらいの年齢の少年から聞くその台詞に、思わずツクヨは笑いを堪えきれなかった。大きく笑い出す彼に、自分がまた可笑しなことでも言ったのかと心配になる少年は慌てふためいた。
「違う違う。君の言う気遣いも、それはそれで合っているよ。寧ろ世の中には、そっちの意味の方が多く出回っていると思うよ。彼らの方が珍しいんだ・・・」
そう言うと、手の中にあるグラスの中で氷が溶け、角度の変わったグラスと氷がぶつかって音を立てる。グラスを回しながら氷を酒に溶かすとそれを一口、口に運び難しく考えていた頭を冷やすツクヨ。そして今度は彼のことについて聞いてみる。
「君は・・・ヘラはどうして一人で旅をしているの?」
それまで誰も触れてこなかったが、ヘラルトくらいの年齢の子供が一人で旅をしているのは、あまり良くあることとはいえないだろう。普通なら家族や故郷の大人達が止めていてもおかしく無いはずなのに、こんなに多くの荷物を持って旅とは、何か事情があるのではないだろうか。
「僕は、いろんな世界を周って、いろんなものを見て・・・。教えてあげたいんです故郷の友達に、世界には僕達が夢に見たような、不思議でキラキラしたものが溢れているって」
「世界を・・・教えてあげたい?」
不思議なことを言う少年だなという印象だった。旅に出るのであれば友達と行ってもいい筈。彼は故郷の友達とは違った境遇にでもあるのということなのだろうか。そして同時に不安にもなった。彼の夢見る世界はきっと綺麗なものばかりではない。それこそツクヨが初めてこの世界に降り立った聖都のように、想いを同じくしても争わなければならない人の姿や、人を騙し利用する醜い姿など、目も背けたくなるような凄惨なものを目にした時、彼はどうするのだろうか。
「だから作家をやっているのか・・・?」
彼の荷物にある画材道具や書物を見ながら、ツクヨは彼の旅路を想像した。この絵画達は彼が今までに旅して周って来た景色を描いたものなのだろうかと。
「えぇ、僕に出来ることは見てきたものを絵にして残すこと、聞いてきたことを文字にして残すこと。知らないことを知るのはとても楽しくてワクワクします。最近のお気に入りは古文書なんですよ!まるで御伽話みたいですごく楽しくて・・・。物流の盛んなところに行けば、他にもお目に掛かれるかなって」
「それでグラン・ヴァーグに?」
「はい。あそこにはいろんな大陸や国から物が流通していると聞きます。そして僕の目的は海にあるんです!海には人が知り得ない物が沢山眠っているそうなんですよ。その一つが僕の探している“死海文書”という物なんです!」
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる