World of Fantasia

神代 コウ

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さらば正義の国、聖都ユスティーチ

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 玉座の間でイデアールからの手厚い恩賞を得たシン達三人は、彼の厚意に素直に甘えることにした。次なる地、グラン・ヴァーグへの道程を乗りこるため、武器や防具といった装備、調合素材や回復アイテムといった物の買い溜めをしようとしていた。

 城内にある各ギルドに設けられたショップで買い物をしていく三人は、戦闘以外で時を共にするのが初めてだった。ミアとツクヨはシャルロットの兵舎内で共に過ごしていたが、シンとツクヨに至っては戦火の中が初対面という、何とも数奇な出会いになってしまった。

 「三人でゆっくりするのは初めてだね」

 最年長者であるツクヨが気を利かせて、会話を始める。彼の言う通り、誰かとゆっくり街並みを歩くなんてことは、ユスティーチに到着した僅かな一時‬だけであった。

 「そうだな・・・。それどころか私とシンも、一緒に買い物するのなんて初めてじゃないか?」

 「えッ!?そうなのかい!?・・・君達ねぇ、仲間なんだろ?」

 シンもミアも、そもそもクラスが違うため、買い求める物が違うのも事実。故に時間短縮を図るのであれば、それぞれ別行動をしお互いのギルドや、必要な物が売っているショップに向うのが効率的だ。だが、人との関わり合いとは、効率的にこなしているだけでは築いていけないものでもある。

 彼らはツクヨと違い、現実世界で人の醜い部分によって傷ついたり孤立する道を歩んできた。なので人同士の向き合い方というものに少し抵抗がある。いや、彼らの場合少しではないのかもしれない。

 「俺とミアはそもそもクラスが違うし、近くもない。買い求める物が違うんだから、別れて買った方が効率的だろ・・・」

 「だからこそだよ。お互いが使うアイテムの用途を、知っておくことも連携に繋がるとは思わないか?このアイテムをどうやって使うのか、何故必要なのか。それを知っていればお互いに必要なアイテムをストックしておく事も可能だろう」

 確かに彼らの連携といえば、口頭でこれは出来るかあれは出来るかという、“はい”と“いいえ”による二択のやり取りが殆どで、彼なら彼女ならやってくれるという憶測による賭けもある。それではあまりにもリスキーだ。それなら、お互いの手の内を知っていれば詳細でより細かな連携が行えるというものだ。

 「そう・・・だな、確かに俺達はお互いのことを知らな過ぎるのかもしれない。調合用のアイテムなら俺にも持ってる物が多い筈だし」

 「私は・・・シンの必要な物を調合してやれるな。互いに何が出来るのか、何が必要なのかの情報を共有した方がいいな」

 二人が理解を示したようでホッとするツクヨは、頷きながらついて行く。三人は順々にそれぞれの対応したクラスギルドへ全員で向かい、各々の購入品について説明したり質問したりと、会話をしながら互いのスキルや戦術について理解を深めて行く。

 必要な物資の調達を終え、一行は夜を待ちながら城内を歩く。激動を乗り越えた聖都に想いを馳せながら、三人は口にすることはなくとも新たな新天地への期待と不安が、時間と共にその姿を色濃くしていった。

 そして、夜と呼ぶにはまだ日の光が地平線に残り街を赤く染め上げていた頃、三人はイデアールのいる玉座の間へと赴き、出発の準備が整ったことを伝えると、彼はグラン・ヴァーグ行きの馬車を手配してくれた。

 「もう聖都を立つんだな・・・」

 「あぁ、あまり長居してお前達に迷惑はかけられないからな」

 馬車の到着を待つため場所を移動するシン達とイデアール、そしてシャルロット。普段は利用しないという城内の裏口へと案内され、街にいる人や城の騎士達の声が遠くに聞こえる避難用の出入口から外へ出る。

 暫く待っていると、遠くの方から馬の蹄が地を蹴り上げる音を鳴らしながら、振動で荷台を軋ませて、こちらへと向かってくる影が見える。側に停車し、必要な物資をみんなで荷台に乗せ、最後に三人が乗り込む。

 「いろいろとありがとう、イデアール」

 「感謝をするのはこっちの方さ。またな・・・ シン、元気で・・・」

 シンとイデアールの別れを聞き、ミアとツクヨも世話になったシャルロットに別れを告げる。

 「シャルロット、アンタには借りが出来た。ありがとう・・・」

 「借りだなんて・・・。私達はそれ以上に返し切れない程のご厚意を受けました。あなた達にはユスティーチを代表してお礼を申し上げます。ありがとうございました」

 「シャルロット・・・何とお礼を言えばいいのか、何も知らない私にこの世界のことを教えてくれてありがとう。生き方を教えてくれてありがとう。君がいなかったら私は今ここにいなかっただろう、感謝しても仕切れない・・・」

 WoFの世界へ一人飛ばされ、聖都という特殊な環境下に置かれたツクヨ。もし最初に出会ったのがシャルロットではなく別の者だったら、何も知らないまま彼は裁きに合っていたかもしれない。彼の最大の幸運はシャルロットと最初に出会うことが出来たということだろう。

 「ツクヨさん、貴方は奥さんと娘さんを探さなきゃ・・・ですよね?なら、ここに留まってはいられない・・・。必ず見つけて下さいねッ!諦めなければ希望は必ずあります!・・・どうかお元気で・・・」

 涙ぐみながら精一杯の励ましの言葉を掛けてくれる彼女の姿が、まるで自分の娘かと思うほど純粋で健気で、思わず込み上げてくるものをツクヨは抑えることができなかった。

 「あぁ!必ず見つけるとも!そしたら家族三人でここに帰ってくるよ。この世界の私の・・・俺のッ!もう一つの故郷にッ!」

 空気を読んで待っていてくれた馬車の主人に、イデアールが合図を出す。馬車はゆっくりと動き出してその場を離れて行く。

 荷台から身を乗り出して手を振るツクヨと、それに答えるように元気に振る舞うシャルロットが両手を振って一行を送り出す。

 馬車が見えなくなった頃、全霊を込めて送り出したシャルロットがその腕を下ろし、寂しそうな背中をすると、イデアールは彼女の頭をそっと撫でて慰める。

 「彼らがいつ帰って来てもいいように、国を立て直さないとな!そして今度は誰もが一丸となる新たな聖都として生まれ変わって驚かせてやろう」

 涙を拭い、大きく頷くシャルロットの背中を押しながら、二人は城へと戻っていった。
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