World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
117 / 1,646

聖都のジャンヌ・ダルク

しおりを挟む
 リーベの一件が済んだ後、ミアは次にシャルロットに会おうとしたが、せっかく訪れた聖騎士の城内部に、動乱前にお世話になっていたギルドにも顔を出そうと、足を運んだ。

 ただ、あの時とは大きく違い、一人閑散とした城内を歩くミアの足音だけがやけに廊下を反響し、聖騎士やギルドを訪れる者達の声で賑わいを見せていた城内は、全く別の一面を見せる。

 あまりの静けさに、広く構えられた城内の構造が高貴で豪華な安心出来る印象から、何処かに誰かが潜んでいるのではないかという一種の恐怖すら感じるほど、静かな上層部だったが、下層に降りてくると少しづつ人の声が聞こえてきた。

 それは城内のギルドを訪れる者の声であった。

 ミアが世話になった錬金術士のギルドや、調合士のギルドの者達との再会を喜び、簡単な挨拶を交わすと、街の様子や家族の様子、彼らが行なっている復興活動の進行具合など聞き、思いの外早く進んでいる事に驚くミア。

 それもきっと、イデアールの指示のもと、騎士達の統率が取れ、各地で現場の指揮を取っているという聖騎士やシャルロット達の奮闘のおかげなのだと、話を聞いていて分かった。

 それというのも、当初ミアは城内にシャルロットがいなければ、兵舎にて彼女の帰りを待とうと考えていたが、ギルドの者に聞いた話によると、聖騎士達は兵舎に戻って泊まることはないのだという。

 彼らは、聖都の各地や国の外に設けられた救援キャンプに在住し、人々の身の安全を守りながら、瓦礫除去や復興の活動を行なっているのだそうだ。

 要するに、崩壊の被害が少ない城近辺で贅沢をする事なく、生活水準を被害に遭った人々と共有し、持ち運べる物資や食事などをキャンプへ運び、貧富の差を無くそうとする努めているのだ。

 これは生前、シュトラールが言っていた“貧富の差は、人の心を大きく歪める要因”となるという、彼の教えがまだ生きていることが伺える。

 シュトラールは何も独裁者ではなく、本当に正しく生きようとする人々のために尽力する人物であり、行き過ぎた思想を持ってはいたものの、人として正しくある為に一人一人が持たねば成らぬ道徳や誠実さを、彼らの心に根付かせたのは、大きな功績でもある。

 城内にいる聖騎士にシャルロットの所属を聞き、何処のキャンプにいるのかを聞くと、ミアは城を後にし、復興にあたる彼女の元を目指した。

 久々と言うにはそれ程時間は経ってはいないが、生きて再会を果たしたギルドの顔馴染みとの会話に花が咲いてしまい、外はすっかり夕暮れ時となっていた。

 街を染め上げる暖かい橙色の光が、崩壊した建物や街並み散乱する生活の品、聖都に刻まれた痛ましい傷を、優しく照らし出し、聖都の二つの顔を見たミアにはその光景が、どこか物悲しい憂いを帯びているように感じた。

 まだ崩壊の危険があるエリアでは、街の人々の姿はなく、夕暮れ時だというのにまだ忙しなく働く騎士達の姿が、初めてユスティーチに訪れた時の嫌な印象を払拭する。

 街並みを歩いていると、遠くの方から女性の声で鎧姿の男達を、オーケストラの指揮者のように無駄なく適確に動かしている。

 徐々にはっきりと聞こえてくる、聴き馴染みのある懐かしい声、お天端でもあり活発的な明るい声ではあるが、聞いていると心が落ち着き安心する、再びその声を聴けた事に思わずミアの口角は上がる。

 ミアは、作業をしながら部下達に忙しなく指示を飛ばす彼女の背後から近づき、肩をトントンと軽く叩くと女性は振り返り、二人の視線が交わると女性の目が徐々に大きく開いていき、ミアにはその様子が妙に面白く映り、反応が返って来るまで黙って待った。

 女性の目には、夕陽で橙色に染まる街並みが映し出されるほど綺麗で透き通ったものが込み上げて、許容を越えて溢れ出すと同時に、手にした物を落とした女性はミアに抱きついた。

 子供のように声を震わせて泣き出す女性は、精一杯の力でそこにある命の温もりが、本物であるかを確かめるように抱き締める。

 「痛いって・・・シャルロット」

 優しく囁かれたミアの言葉に、シャルロットの涙の勢いは増し、その透明な雫と同じように裏表のない彼女の言葉が、ミアへ向けて贈られる。

 「よがっだッ・・・! 無事だっだんでずねッ・・・!!」

 そんなシャルロットをあやすかの様に、ミアは両腕を彼女の脇から滑らせるように背中へ回し、背中を優しく摩って再会を喜んだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...