114 / 1,646
消失と歩み
しおりを挟む
彼の言い方からだと、病気や傷が深くて助からないといった状態ではなく、まるでリーベが自ら命を絶つような言い方であった。
「どういうことだ、イデアール? 詳しく話してくれッ・・・」
彼が言うにリーベは、戦闘によって受けた外傷こそ治せたものの、精神的な衰弱が激しいようで食事も喉を通らず、神経にまだ麻痺が残っているリーベは、車輪の付いた椅子、現代の車椅子のようなものに座って生活しているのだと言う。
彼女専属の侍女に様子を見させてはいるが、彼女からの報告はいつも変わらないものだったそうだ。
「あのリーベが・・・。 何故そんな状態になっているんだ? 彼女は何て言っている?」
ミアの質問にイデアールは首を横に振った。
「分からない・・・、それに彼女は俺とも口を利かないんだ。 いや、利けないのかもしれないな」
命こそ無事であったシャルロットやリーベも、それぞれ戦いの中で何かを抱えるようになってしまっているようで、ミアはそんな彼女らを放っては置けない心境となった。
「そうか・・・。 彼女は今何処へ?」
「城内部にある、彼女の部屋にいるよ。 俺の向かいの部屋だ。 場所は以前シャルロットと共に来たことがあると思うが・・・、覚えているか?」
まだ聖都で動乱が起きる前に、シャルロットの手伝いでイデアールの部屋を訪れていたミアは、その場所を記憶している。
「あぁ、覚えているよ・・・ありがとう。 少し顔を出して行っても?」
リーベの身を案じてくれているミアの言葉に、イデアールは感謝の気持ちと、そして彼女ならそう言ってくれるのではないかと思っていた彼は、少しホッとした様子で頷いた。
「願ってもないことだ。 寧ろ俺の方から頼みたいと思っていたところだったんだ・・・。 俺ではリーベの助けになれないようだ・・・」
少し遠くを見るような目で彼はミアに話すと、ミアもそれを聞き届けたといった様子で頷き、シンに今後のことについて話を持ちかける。
「シン、私はもう少しこの国に残って、シャルロットやリーベの様子を観ようと思う。 キミはどうする?」
ミアに話したしかけられ、ふと我に帰ったシンは彼女の提案に、特に今後の目的地や先を急ぐ理由も無いため、首を縦に振り賛成した。
「分かったよ、ミア。 先を急ぐ旅でもないからな・・・。 もう少し落ち着いてからでも遅くはないだろう。 それなら俺はキャンプに戻って、ツクヨの様子を見ながら復興の手伝いをしようかな」
彼らと同じく、現実世界から来たと言うツクヨの目覚めを待ち、彼と話し合わなければならないことが沢山ある。
そして願わくば、同じ境遇を共にする者同士、力を貸して貰えれば心強い。
「了解した。 それじゃぁ何かあったらメッセージでやり取りしよう。 私は暫く聖都にあるシャルロットの兵舎にいるから、何かあったらそこを訪ねてくれ」
こうしてシンとミアは、再び二手に分かれてそれぞれユスティーチで出来ることや、思い残すことの無いよう思い思いの時間を過ごすことにした。
話を終えるとミアは、早速リーベの元へと向かうため部屋を後にすると、イデアールがシンに復興の依頼を申し出てきた。
「シン、早速で悪いんだがこれから時間あるか?」
先も自分で言った通り、復興の手伝いをしようと思っていたシンは、自分から手伝えることを探すよりも、現状を把握して指揮を取っているイデアールから指示してもらった方が効率的であり、それにツクヨの再起へはまだ時間が掛かりそうなため、彼の申し出を断る理由は無かった。
「あぁ、勿論。 アンタが指示してくれた方が俺も動きやすい」
シンの快い姿勢にイデアールは、本来であれば無関係の旅人である彼らが、積極的に協力してくれる事に感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだった。
「すまない、助かるよシン。 それでは現場に向かいながら話そう。 詳細は道中で話す」
彼の提案に頷き、二人も部屋を後にする。
城を出て、聖都の被害現場に向かう途中で、イデアールはシンの使うスキルでの作業は可能なのかどうかを尋ねる。
「シン、お前の影のスキルは物に対しても使うことが出来るものなのか?」
「と、言うと・・・? 具体的にどんなことに使うんだ?」
彼の咄嗟の質問内容だけでは、どのようなことにスキルを使おうとしているのか想像出来なかったため、二つ返事で出来ると口にするのは、あまりに無責任だと思ったシンは、具体的な例を彼に求めた。
「瓦礫をそのまま影に落として移動させたり、資材を宙に固定させたり出来ると助かるのだが・・・」
「なるほど、それなら力になれそうだ。 これでやっと借りが返せそうだな」
シンは朝孝の道場で、イデアールに稽古を踏まえた模擬戦のお礼を漸く出来ると、嬉しそうにしていたが、イデアール自身はその後の荷物運びでその件はチャラになっているものだと思っていたようだ。
「借り・・・?」
「道場で戦い方を教えてくれただろ? それのお礼だよ。 それにアンタと全力で戦えたことは、俺にとって大きな成長の要因ともなった。 改めて礼を言うよ、ありがとう」
「何を言う。 お礼を言わなければならないのは俺の方だ。 他人のモノではない、自分の大志を追いかける決断をさせてくれたのは、他ならぬお前なんだシン。 それに、シュトラールとの戦いで、俺にもう一度立ち上がる力をくれたのもお前だ。 それにユスティーチの復興まで・・・、借りが出来る一方だな」
互いに心の内を晒した二人には絆が生まれ、ユスティーチに日常を取り戻すため、シンとイデアールは被害現場へと向かう。
「どういうことだ、イデアール? 詳しく話してくれッ・・・」
彼が言うにリーベは、戦闘によって受けた外傷こそ治せたものの、精神的な衰弱が激しいようで食事も喉を通らず、神経にまだ麻痺が残っているリーベは、車輪の付いた椅子、現代の車椅子のようなものに座って生活しているのだと言う。
彼女専属の侍女に様子を見させてはいるが、彼女からの報告はいつも変わらないものだったそうだ。
「あのリーベが・・・。 何故そんな状態になっているんだ? 彼女は何て言っている?」
ミアの質問にイデアールは首を横に振った。
「分からない・・・、それに彼女は俺とも口を利かないんだ。 いや、利けないのかもしれないな」
命こそ無事であったシャルロットやリーベも、それぞれ戦いの中で何かを抱えるようになってしまっているようで、ミアはそんな彼女らを放っては置けない心境となった。
「そうか・・・。 彼女は今何処へ?」
「城内部にある、彼女の部屋にいるよ。 俺の向かいの部屋だ。 場所は以前シャルロットと共に来たことがあると思うが・・・、覚えているか?」
まだ聖都で動乱が起きる前に、シャルロットの手伝いでイデアールの部屋を訪れていたミアは、その場所を記憶している。
「あぁ、覚えているよ・・・ありがとう。 少し顔を出して行っても?」
リーベの身を案じてくれているミアの言葉に、イデアールは感謝の気持ちと、そして彼女ならそう言ってくれるのではないかと思っていた彼は、少しホッとした様子で頷いた。
「願ってもないことだ。 寧ろ俺の方から頼みたいと思っていたところだったんだ・・・。 俺ではリーベの助けになれないようだ・・・」
少し遠くを見るような目で彼はミアに話すと、ミアもそれを聞き届けたといった様子で頷き、シンに今後のことについて話を持ちかける。
「シン、私はもう少しこの国に残って、シャルロットやリーベの様子を観ようと思う。 キミはどうする?」
ミアに話したしかけられ、ふと我に帰ったシンは彼女の提案に、特に今後の目的地や先を急ぐ理由も無いため、首を縦に振り賛成した。
「分かったよ、ミア。 先を急ぐ旅でもないからな・・・。 もう少し落ち着いてからでも遅くはないだろう。 それなら俺はキャンプに戻って、ツクヨの様子を見ながら復興の手伝いをしようかな」
彼らと同じく、現実世界から来たと言うツクヨの目覚めを待ち、彼と話し合わなければならないことが沢山ある。
そして願わくば、同じ境遇を共にする者同士、力を貸して貰えれば心強い。
「了解した。 それじゃぁ何かあったらメッセージでやり取りしよう。 私は暫く聖都にあるシャルロットの兵舎にいるから、何かあったらそこを訪ねてくれ」
こうしてシンとミアは、再び二手に分かれてそれぞれユスティーチで出来ることや、思い残すことの無いよう思い思いの時間を過ごすことにした。
話を終えるとミアは、早速リーベの元へと向かうため部屋を後にすると、イデアールがシンに復興の依頼を申し出てきた。
「シン、早速で悪いんだがこれから時間あるか?」
先も自分で言った通り、復興の手伝いをしようと思っていたシンは、自分から手伝えることを探すよりも、現状を把握して指揮を取っているイデアールから指示してもらった方が効率的であり、それにツクヨの再起へはまだ時間が掛かりそうなため、彼の申し出を断る理由は無かった。
「あぁ、勿論。 アンタが指示してくれた方が俺も動きやすい」
シンの快い姿勢にイデアールは、本来であれば無関係の旅人である彼らが、積極的に協力してくれる事に感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだった。
「すまない、助かるよシン。 それでは現場に向かいながら話そう。 詳細は道中で話す」
彼の提案に頷き、二人も部屋を後にする。
城を出て、聖都の被害現場に向かう途中で、イデアールはシンの使うスキルでの作業は可能なのかどうかを尋ねる。
「シン、お前の影のスキルは物に対しても使うことが出来るものなのか?」
「と、言うと・・・? 具体的にどんなことに使うんだ?」
彼の咄嗟の質問内容だけでは、どのようなことにスキルを使おうとしているのか想像出来なかったため、二つ返事で出来ると口にするのは、あまりに無責任だと思ったシンは、具体的な例を彼に求めた。
「瓦礫をそのまま影に落として移動させたり、資材を宙に固定させたり出来ると助かるのだが・・・」
「なるほど、それなら力になれそうだ。 これでやっと借りが返せそうだな」
シンは朝孝の道場で、イデアールに稽古を踏まえた模擬戦のお礼を漸く出来ると、嬉しそうにしていたが、イデアール自身はその後の荷物運びでその件はチャラになっているものだと思っていたようだ。
「借り・・・?」
「道場で戦い方を教えてくれただろ? それのお礼だよ。 それにアンタと全力で戦えたことは、俺にとって大きな成長の要因ともなった。 改めて礼を言うよ、ありがとう」
「何を言う。 お礼を言わなければならないのは俺の方だ。 他人のモノではない、自分の大志を追いかける決断をさせてくれたのは、他ならぬお前なんだシン。 それに、シュトラールとの戦いで、俺にもう一度立ち上がる力をくれたのもお前だ。 それにユスティーチの復興まで・・・、借りが出来る一方だな」
互いに心の内を晒した二人には絆が生まれ、ユスティーチに日常を取り戻すため、シンとイデアールは被害現場へと向かう。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです
寝転ぶ芝犬
ファンタジー
スマホ大好きなこの俺、関谷道長はある日いつものように新しいアプリを探していると何やら怪しいアプリを見つけた。早速面白そうなのでDLして遊ぼうとしてみるといつの間にか異世界へと飛ばされていた!
ちょっと待てなんなんだここは!しかも俺のスマホのデータ全部消えてる!嘘だろ俺の廃課金データが!!けどこのスマホなんかすごい!けど課金要素多すぎ!!ツッコミどころ多すぎだろ!
こんなことから始まる俺の冒険。いや、宿にこもってスマホばっかりいじっているから冒険してないや。異世界で俺強え無双?いや、身体能力そのままだから剣もまともに振れませんけど。産業革命で超金持ち?いや、スマホの課金要素多すぎてすぐに金欠なんですけど。俺のすごいところってただすごいスマホ持っているだけのような…あれ?俺の価値なくね?
現在、小説家になろうで連載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる