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消失と歩み
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彼の言い方からだと、病気や傷が深くて助からないといった状態ではなく、まるでリーベが自ら命を絶つような言い方であった。
「どういうことだ、イデアール? 詳しく話してくれッ・・・」
彼が言うにリーベは、戦闘によって受けた外傷こそ治せたものの、精神的な衰弱が激しいようで食事も喉を通らず、神経にまだ麻痺が残っているリーベは、車輪の付いた椅子、現代の車椅子のようなものに座って生活しているのだと言う。
彼女専属の侍女に様子を見させてはいるが、彼女からの報告はいつも変わらないものだったそうだ。
「あのリーベが・・・。 何故そんな状態になっているんだ? 彼女は何て言っている?」
ミアの質問にイデアールは首を横に振った。
「分からない・・・、それに彼女は俺とも口を利かないんだ。 いや、利けないのかもしれないな」
命こそ無事であったシャルロットやリーベも、それぞれ戦いの中で何かを抱えるようになってしまっているようで、ミアはそんな彼女らを放っては置けない心境となった。
「そうか・・・。 彼女は今何処へ?」
「城内部にある、彼女の部屋にいるよ。 俺の向かいの部屋だ。 場所は以前シャルロットと共に来たことがあると思うが・・・、覚えているか?」
まだ聖都で動乱が起きる前に、シャルロットの手伝いでイデアールの部屋を訪れていたミアは、その場所を記憶している。
「あぁ、覚えているよ・・・ありがとう。 少し顔を出して行っても?」
リーベの身を案じてくれているミアの言葉に、イデアールは感謝の気持ちと、そして彼女ならそう言ってくれるのではないかと思っていた彼は、少しホッとした様子で頷いた。
「願ってもないことだ。 寧ろ俺の方から頼みたいと思っていたところだったんだ・・・。 俺ではリーベの助けになれないようだ・・・」
少し遠くを見るような目で彼はミアに話すと、ミアもそれを聞き届けたといった様子で頷き、シンに今後のことについて話を持ちかける。
「シン、私はもう少しこの国に残って、シャルロットやリーベの様子を観ようと思う。 キミはどうする?」
ミアに話したしかけられ、ふと我に帰ったシンは彼女の提案に、特に今後の目的地や先を急ぐ理由も無いため、首を縦に振り賛成した。
「分かったよ、ミア。 先を急ぐ旅でもないからな・・・。 もう少し落ち着いてからでも遅くはないだろう。 それなら俺はキャンプに戻って、ツクヨの様子を見ながら復興の手伝いをしようかな」
彼らと同じく、現実世界から来たと言うツクヨの目覚めを待ち、彼と話し合わなければならないことが沢山ある。
そして願わくば、同じ境遇を共にする者同士、力を貸して貰えれば心強い。
「了解した。 それじゃぁ何かあったらメッセージでやり取りしよう。 私は暫く聖都にあるシャルロットの兵舎にいるから、何かあったらそこを訪ねてくれ」
こうしてシンとミアは、再び二手に分かれてそれぞれユスティーチで出来ることや、思い残すことの無いよう思い思いの時間を過ごすことにした。
話を終えるとミアは、早速リーベの元へと向かうため部屋を後にすると、イデアールがシンに復興の依頼を申し出てきた。
「シン、早速で悪いんだがこれから時間あるか?」
先も自分で言った通り、復興の手伝いをしようと思っていたシンは、自分から手伝えることを探すよりも、現状を把握して指揮を取っているイデアールから指示してもらった方が効率的であり、それにツクヨの再起へはまだ時間が掛かりそうなため、彼の申し出を断る理由は無かった。
「あぁ、勿論。 アンタが指示してくれた方が俺も動きやすい」
シンの快い姿勢にイデアールは、本来であれば無関係の旅人である彼らが、積極的に協力してくれる事に感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだった。
「すまない、助かるよシン。 それでは現場に向かいながら話そう。 詳細は道中で話す」
彼の提案に頷き、二人も部屋を後にする。
城を出て、聖都の被害現場に向かう途中で、イデアールはシンの使うスキルでの作業は可能なのかどうかを尋ねる。
「シン、お前の影のスキルは物に対しても使うことが出来るものなのか?」
「と、言うと・・・? 具体的にどんなことに使うんだ?」
彼の咄嗟の質問内容だけでは、どのようなことにスキルを使おうとしているのか想像出来なかったため、二つ返事で出来ると口にするのは、あまりに無責任だと思ったシンは、具体的な例を彼に求めた。
「瓦礫をそのまま影に落として移動させたり、資材を宙に固定させたり出来ると助かるのだが・・・」
「なるほど、それなら力になれそうだ。 これでやっと借りが返せそうだな」
シンは朝孝の道場で、イデアールに稽古を踏まえた模擬戦のお礼を漸く出来ると、嬉しそうにしていたが、イデアール自身はその後の荷物運びでその件はチャラになっているものだと思っていたようだ。
「借り・・・?」
「道場で戦い方を教えてくれただろ? それのお礼だよ。 それにアンタと全力で戦えたことは、俺にとって大きな成長の要因ともなった。 改めて礼を言うよ、ありがとう」
「何を言う。 お礼を言わなければならないのは俺の方だ。 他人のモノではない、自分の大志を追いかける決断をさせてくれたのは、他ならぬお前なんだシン。 それに、シュトラールとの戦いで、俺にもう一度立ち上がる力をくれたのもお前だ。 それにユスティーチの復興まで・・・、借りが出来る一方だな」
互いに心の内を晒した二人には絆が生まれ、ユスティーチに日常を取り戻すため、シンとイデアールは被害現場へと向かう。
「どういうことだ、イデアール? 詳しく話してくれッ・・・」
彼が言うにリーベは、戦闘によって受けた外傷こそ治せたものの、精神的な衰弱が激しいようで食事も喉を通らず、神経にまだ麻痺が残っているリーベは、車輪の付いた椅子、現代の車椅子のようなものに座って生活しているのだと言う。
彼女専属の侍女に様子を見させてはいるが、彼女からの報告はいつも変わらないものだったそうだ。
「あのリーベが・・・。 何故そんな状態になっているんだ? 彼女は何て言っている?」
ミアの質問にイデアールは首を横に振った。
「分からない・・・、それに彼女は俺とも口を利かないんだ。 いや、利けないのかもしれないな」
命こそ無事であったシャルロットやリーベも、それぞれ戦いの中で何かを抱えるようになってしまっているようで、ミアはそんな彼女らを放っては置けない心境となった。
「そうか・・・。 彼女は今何処へ?」
「城内部にある、彼女の部屋にいるよ。 俺の向かいの部屋だ。 場所は以前シャルロットと共に来たことがあると思うが・・・、覚えているか?」
まだ聖都で動乱が起きる前に、シャルロットの手伝いでイデアールの部屋を訪れていたミアは、その場所を記憶している。
「あぁ、覚えているよ・・・ありがとう。 少し顔を出して行っても?」
リーベの身を案じてくれているミアの言葉に、イデアールは感謝の気持ちと、そして彼女ならそう言ってくれるのではないかと思っていた彼は、少しホッとした様子で頷いた。
「願ってもないことだ。 寧ろ俺の方から頼みたいと思っていたところだったんだ・・・。 俺ではリーベの助けになれないようだ・・・」
少し遠くを見るような目で彼はミアに話すと、ミアもそれを聞き届けたといった様子で頷き、シンに今後のことについて話を持ちかける。
「シン、私はもう少しこの国に残って、シャルロットやリーベの様子を観ようと思う。 キミはどうする?」
ミアに話したしかけられ、ふと我に帰ったシンは彼女の提案に、特に今後の目的地や先を急ぐ理由も無いため、首を縦に振り賛成した。
「分かったよ、ミア。 先を急ぐ旅でもないからな・・・。 もう少し落ち着いてからでも遅くはないだろう。 それなら俺はキャンプに戻って、ツクヨの様子を見ながら復興の手伝いをしようかな」
彼らと同じく、現実世界から来たと言うツクヨの目覚めを待ち、彼と話し合わなければならないことが沢山ある。
そして願わくば、同じ境遇を共にする者同士、力を貸して貰えれば心強い。
「了解した。 それじゃぁ何かあったらメッセージでやり取りしよう。 私は暫く聖都にあるシャルロットの兵舎にいるから、何かあったらそこを訪ねてくれ」
こうしてシンとミアは、再び二手に分かれてそれぞれユスティーチで出来ることや、思い残すことの無いよう思い思いの時間を過ごすことにした。
話を終えるとミアは、早速リーベの元へと向かうため部屋を後にすると、イデアールがシンに復興の依頼を申し出てきた。
「シン、早速で悪いんだがこれから時間あるか?」
先も自分で言った通り、復興の手伝いをしようと思っていたシンは、自分から手伝えることを探すよりも、現状を把握して指揮を取っているイデアールから指示してもらった方が効率的であり、それにツクヨの再起へはまだ時間が掛かりそうなため、彼の申し出を断る理由は無かった。
「あぁ、勿論。 アンタが指示してくれた方が俺も動きやすい」
シンの快い姿勢にイデアールは、本来であれば無関係の旅人である彼らが、積極的に協力してくれる事に感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだった。
「すまない、助かるよシン。 それでは現場に向かいながら話そう。 詳細は道中で話す」
彼の提案に頷き、二人も部屋を後にする。
城を出て、聖都の被害現場に向かう途中で、イデアールはシンの使うスキルでの作業は可能なのかどうかを尋ねる。
「シン、お前の影のスキルは物に対しても使うことが出来るものなのか?」
「と、言うと・・・? 具体的にどんなことに使うんだ?」
彼の咄嗟の質問内容だけでは、どのようなことにスキルを使おうとしているのか想像出来なかったため、二つ返事で出来ると口にするのは、あまりに無責任だと思ったシンは、具体的な例を彼に求めた。
「瓦礫をそのまま影に落として移動させたり、資材を宙に固定させたり出来ると助かるのだが・・・」
「なるほど、それなら力になれそうだ。 これでやっと借りが返せそうだな」
シンは朝孝の道場で、イデアールに稽古を踏まえた模擬戦のお礼を漸く出来ると、嬉しそうにしていたが、イデアール自身はその後の荷物運びでその件はチャラになっているものだと思っていたようだ。
「借り・・・?」
「道場で戦い方を教えてくれただろ? それのお礼だよ。 それにアンタと全力で戦えたことは、俺にとって大きな成長の要因ともなった。 改めて礼を言うよ、ありがとう」
「何を言う。 お礼を言わなければならないのは俺の方だ。 他人のモノではない、自分の大志を追いかける決断をさせてくれたのは、他ならぬお前なんだシン。 それに、シュトラールとの戦いで、俺にもう一度立ち上がる力をくれたのもお前だ。 それにユスティーチの復興まで・・・、借りが出来る一方だな」
互いに心の内を晒した二人には絆が生まれ、ユスティーチに日常を取り戻すため、シンとイデアールは被害現場へと向かう。
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