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シュトラールの翼
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全身を貫かれ、身体中を走る痛みで、何もない真っ暗な時の中から目を覚まし、その重たい瞼を開くアーテムは、自分の身に起きた出来事の行く末と、シュトラールのその後、そして戦いがどうなったかを確かめるように頭を起こし、辺りを見渡す。
彼が戦いがどうなったかを悟るのに、然程時間は必要なかった。
それは彼の視界に入った、地面に横たわるシュトラールの無残な姿を一見した瞬間、この男はもう彼らの前に立ちはだかることはないのだと、直感でそう感じたのだった。
「シッ・・・シュトラール・・・」
アーテムは地を這いながら、黄金郷へ向かうという方舟から落とされた男の傍らえと近づき、その男の死を確認するまでは決して緊張を緩めることなく、表情を伺う。
彼がうつ伏せで倒れる男の顔を確認すると、男は目を見開いたまま虚ろな瞳で、見えているのかいないのか、その身体は時の流れの輪廻から外れたかのように、ピクリともしない。
その死人とも取れなくもない表情を暫く見つめ、動かない様子に安堵の息を吐こうとした時、男は自分の血で詰まらせた喉の異物を吐き出し、最早文字通り虫の息となった男は呼吸を再開する。
こんな身体になってまで、未だその魂は天界を拒み、必死に現世に留まろうとしがみ付く、男の恐ろしいまでの執念が、滲み出ているようだった。
「これが・・・私の、最期か・・・? こんな・・・虫けらのような、姿で・・・」
全くその瞳を動かすことなく、土に汚れたその口でありのままの心の内を吐き出していく姿は、かつての高貴で威厳のあるシュトラールとは見る影もないくらい、惨めで哀れに思うほどの姿。
男にとって幸いなことは、その姿を晒したのが奇しくも、対立する組織のリーダーであるアーテムただ一人であったことだろう。
「呆れたぜ・・・まだ、息が・・・あるのか・・・」
「そこに、いるのか・・・アーテム。 何故・・・トドメを刺さない・・・?」
顔をゆっくりと動かし、彼の声のする方を探すシュトラールは、その様子から聴力も大分損傷しているのが分かり、顔を動かしたことで地面に顎を擦り、傷つけても反応がないことから、痛覚も最早失われているのだろう。
「はッ・・・、お前に相応しい・・・最期じゃねぇか・・・。 誰に倒されるでもなく・・・自ら、滅びていくなんてよぉ・・・」
アーテムの精一杯の皮肉に、意外にもシュトラールは少し笑ったかのような様子で、自分の姿を語る。
「・・・まるで、イカロスだな・・・。 戦争で多くの命の終わりを見て・・・、世界を巡り人々の不幸に触れ・・・、犠牲の上に成り立つ幸福という世界の在り方に抗おうと、聖都という方舟を創り飛び立った結果が・・・これだ・・・」
アーテムが、男の言葉を黙って聞いていたのは、それがシュトラールの最期の遺言になるのを悟ったからだった。
分かり合うことはなく、対立こそしたものの、シュトラールという男のやろうとしたことは、全て否定出来るようなものではなく、寧ろ人としての在り方は正しく、力を持たない者達からすればそれこそ聖人と呼ぶに相応しい人物であった。
「何かに成ろうと・・・勘違いしていた訳じゃない。 それでも、人は何かに成ろうとしても、所詮人だということだ・・・。 だが、人に無い力を授かったのなら・・・、ただ何かが起こるのを待っているというのは、それだけで罪だ。 特別な者はその力で人々に夢を魅せ、行動を起こす意思、努力する価値、目標にし志すといった世界に波を起こす、人々を突き動かす義務が・・・あるのではないか・・・」
「お前は・・・特別だと、思ったのか・・・?」
アーテムの対立する正義というものも、きっとシュトラールという存在があってこそ生まれた志に違いない。
彼という男がいなければ、今のアーテムは居らず、ルーフェン・ヴォルフが結成されることもなければ、朝孝の元にシャーフ、シャルロット、アーテムの三人が集うこともなかっただろう。
彼らもまた、シュトラールという大きな波に突き動かされ、人生の歯車を動かし出した一つの大きな物語の欠片達なのだ。
「私は・・・きっと特別ではなかったのだろう。 故にこの有様だ・・・。 凡人の私に・・・理想を実現させるだけの力がなかった・・・運命が、そう判断を下したのだ・・・」
シュトラールは表情こそ変わらなかったものの、アーテムは彼の内心を知り、彼の歩いて来た道は酷く閑散としており、孤独な道のりだったのだと感じた。
「いや・・・、シュトラール・・・アンタは十分特別だったよ。 だからこそ、聖都の連中や俺達、それにこの国に来たばかりのシン達だって、アンタの起こした波に飲まれていったんだからな・・・」
目としての機能を失った彼の瞳から、一雫の涙が溢れたように見えた。
「ふッ・・・。 まさか、対立する貴様に・・・慰められるとは・・・、何たる・・・・・」
彼の発する言葉を最後まで聞こうとしていたアーテムだったが、その途中で声は聞こえなくなり、ふと彼の方を向く。
「・・・・・勝手に逝くんじゃねぇよ・・・・・、バカ・・・」
彼が戦いがどうなったかを悟るのに、然程時間は必要なかった。
それは彼の視界に入った、地面に横たわるシュトラールの無残な姿を一見した瞬間、この男はもう彼らの前に立ちはだかることはないのだと、直感でそう感じたのだった。
「シッ・・・シュトラール・・・」
アーテムは地を這いながら、黄金郷へ向かうという方舟から落とされた男の傍らえと近づき、その男の死を確認するまでは決して緊張を緩めることなく、表情を伺う。
彼がうつ伏せで倒れる男の顔を確認すると、男は目を見開いたまま虚ろな瞳で、見えているのかいないのか、その身体は時の流れの輪廻から外れたかのように、ピクリともしない。
その死人とも取れなくもない表情を暫く見つめ、動かない様子に安堵の息を吐こうとした時、男は自分の血で詰まらせた喉の異物を吐き出し、最早文字通り虫の息となった男は呼吸を再開する。
こんな身体になってまで、未だその魂は天界を拒み、必死に現世に留まろうとしがみ付く、男の恐ろしいまでの執念が、滲み出ているようだった。
「これが・・・私の、最期か・・・? こんな・・・虫けらのような、姿で・・・」
全くその瞳を動かすことなく、土に汚れたその口でありのままの心の内を吐き出していく姿は、かつての高貴で威厳のあるシュトラールとは見る影もないくらい、惨めで哀れに思うほどの姿。
男にとって幸いなことは、その姿を晒したのが奇しくも、対立する組織のリーダーであるアーテムただ一人であったことだろう。
「呆れたぜ・・・まだ、息が・・・あるのか・・・」
「そこに、いるのか・・・アーテム。 何故・・・トドメを刺さない・・・?」
顔をゆっくりと動かし、彼の声のする方を探すシュトラールは、その様子から聴力も大分損傷しているのが分かり、顔を動かしたことで地面に顎を擦り、傷つけても反応がないことから、痛覚も最早失われているのだろう。
「はッ・・・、お前に相応しい・・・最期じゃねぇか・・・。 誰に倒されるでもなく・・・自ら、滅びていくなんてよぉ・・・」
アーテムの精一杯の皮肉に、意外にもシュトラールは少し笑ったかのような様子で、自分の姿を語る。
「・・・まるで、イカロスだな・・・。 戦争で多くの命の終わりを見て・・・、世界を巡り人々の不幸に触れ・・・、犠牲の上に成り立つ幸福という世界の在り方に抗おうと、聖都という方舟を創り飛び立った結果が・・・これだ・・・」
アーテムが、男の言葉を黙って聞いていたのは、それがシュトラールの最期の遺言になるのを悟ったからだった。
分かり合うことはなく、対立こそしたものの、シュトラールという男のやろうとしたことは、全て否定出来るようなものではなく、寧ろ人としての在り方は正しく、力を持たない者達からすればそれこそ聖人と呼ぶに相応しい人物であった。
「何かに成ろうと・・・勘違いしていた訳じゃない。 それでも、人は何かに成ろうとしても、所詮人だということだ・・・。 だが、人に無い力を授かったのなら・・・、ただ何かが起こるのを待っているというのは、それだけで罪だ。 特別な者はその力で人々に夢を魅せ、行動を起こす意思、努力する価値、目標にし志すといった世界に波を起こす、人々を突き動かす義務が・・・あるのではないか・・・」
「お前は・・・特別だと、思ったのか・・・?」
アーテムの対立する正義というものも、きっとシュトラールという存在があってこそ生まれた志に違いない。
彼という男がいなければ、今のアーテムは居らず、ルーフェン・ヴォルフが結成されることもなければ、朝孝の元にシャーフ、シャルロット、アーテムの三人が集うこともなかっただろう。
彼らもまた、シュトラールという大きな波に突き動かされ、人生の歯車を動かし出した一つの大きな物語の欠片達なのだ。
「私は・・・きっと特別ではなかったのだろう。 故にこの有様だ・・・。 凡人の私に・・・理想を実現させるだけの力がなかった・・・運命が、そう判断を下したのだ・・・」
シュトラールは表情こそ変わらなかったものの、アーテムは彼の内心を知り、彼の歩いて来た道は酷く閑散としており、孤独な道のりだったのだと感じた。
「いや・・・、シュトラール・・・アンタは十分特別だったよ。 だからこそ、聖都の連中や俺達、それにこの国に来たばかりのシン達だって、アンタの起こした波に飲まれていったんだからな・・・」
目としての機能を失った彼の瞳から、一雫の涙が溢れたように見えた。
「ふッ・・・。 まさか、対立する貴様に・・・慰められるとは・・・、何たる・・・・・」
彼の発する言葉を最後まで聞こうとしていたアーテムだったが、その途中で声は聞こえなくなり、ふと彼の方を向く。
「・・・・・勝手に逝くんじゃねぇよ・・・・・、バカ・・・」
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