103 / 1,646
レッツト・ヴォルフ
しおりを挟む
シュトラールの影とシンの【潜影】がリンクしたことにより、彼にもダメージの一部が行き渡り、その役目を果たしたというように事切れ、膝から崩れ落ち静かに倒れ込む。
両腕を失ったシュトラールに動きはなく、ただ黙って立ち尽くしており、その神話で語られる剣士の偉業のように、光の怪物の腕を斬り落としたアーテムは、飛び上がったまま身を翻し、未だ何か秘めているのではないかと思わせる程に、不気味に立ち尽くす彼を視界に収める。
「まだだッ・・・、完全に気配を断つまで安心できねぇ」
空中で身体を捻るアーテムが、回転数を上げてシュトラールを蹴り、地に張り倒さんと試みようとする。
そして、流石というべきであろう。
狼の獲物に対する、息の根を止めるまで油断しないその姿勢が功を奏し、予想が的中する。
回転を加えた強烈な回し蹴りをシュトラールに向けて放ったアーテムだったが、突如動き出した彼の、切断したはずの銀の腕によって掴まれ、遠方へと投げ飛ばされる。
「ばッ・・・馬鹿なッ! 不死身なのか!?」
辛うじて立っていることが精一杯のイデアールが、底の見えないシュトラールという漢の、異常なまでの生命力に驚嘆と絶望の声を上げる。
シュトラールは彼の方を見ることもせず、斬り落とされた腕の代わりに水銀で両腕を作り、俊敏な動きで身体を回転させながらイデアールの方を向くと、地に円を描くように足を開き急停止し、片方の腕を飛ばす。
腕は弓矢のようにイデアールの元へ飛んでいくと、彼の喉元を鷲掴みにして、そのまま壁まで吹き飛ばすと、身体を壁に固定するように形を変える銀の腕。
「ぐはッ・・・!」
激しく壁に打ち付けられたイデアールは、遂に意識を失い再起不能となってしまうと、ボヤける視界で上下の闇が徐々に彼の見る景色を飲み込んでいく中で最後に焼き付けた光景は、上半身の傷を銀色に染め上げ、依然凛として立ち尽くすシュトラールの姿と、何処へ飛ばされたのかも分からぬアーテムの落とした短剣、そして彼の傍でイデアールを影から支えてくれた男の力無く倒れる姿だった。
「シン・・・、アーテム・・・、みんな・・・。 これが、光に当てられ続けた者達の・・・末路なのか。 最早何処へも行けない・・・。 彼の方舟は既に・・・黄金郷へと飛び立ってしまっていたのか・・・」
そこで、シュトラールという強い光の中から、別の光の元へと歩き出そうとした、小さな小さな理想を抱く灯火、イデアールという漢の意識は途絶えた。
すっかり閑散とした朝孝の道場は、殺風景な程に物が崩壊し、まだ街で戦っている騎士やルーフェン・ヴォルフの者達の声や戦火が上がる音が聞こえてくる程、物静かになった。
シュトラールが此処を訪れた時とは全く別物にまで様変わりし、ボロボロとなった王の衣服を水銀が包み込み、元通りの威厳ある美しい装飾の施された物へと、アバターを変えるかの如く作り出す。
そして一通り辺りを見渡し、シン達の惨状を確認すると、彼はその場を後にしようとしたが、不意に投げられた短剣がその足を止めさせる。
「・・・着替えたばかりなんだ、止してくれないか? 傷のある格好では、民達に合わす顔がない・・・」
瓦礫を避けて歩く男が外壁を潜り、獲物に背を向ける屈辱とも捉えられる態度を取る彼に、まだ仇なす者がここにいるのだと、その姿を現わす。
「何を馬鹿なことを言ってやがるッ・・・! どこにも行かせねぇ・・・、お前が人々の前にその姿を晒すことはもうないッ! ここでお前の思惑は喰い散らかされるんだからなぁ・・・!」
「思惑ではない。 前に進めば見える景色が変わるように、それは当たり前のようにやってくる必然の事なのだ。 夢幻の中にいるのは、貴様の方だ・・・アーテムよ。 迷える者共を導き、指導者にでもなったつもりでいたのか? 貴様が引き連れてきたのは、正しき者達の礎となる為に用意された死地に他ならない・・・」
シュトラールの言葉に全く物怖じせず、聞く耳を持たないアーテムは、自分の信じる道しか見ておらず、その考えを曲げることもない。
「貴様は聖人でもなければ、気高い狼でもない・・・。 人々を騙し、惑わす穢らわしい悪の権化なんだと、いい加減気づいて大人しく裁かれろ」
新しく携えた鋼の剣を引き抜き、装いを新たにした王たる姿でアーテムへ剣先を向けるシュトラール。
「黙れよ・・・ペテン師がッ・・・!」
バチバチと稲妻を纏って、アーテムが短剣を構えながら睨みを効かせる。
聖都ユスティーチにおいて、正義を違えた二つの組織。 その長たる二人が国の命運を賭けた最後の戦いを始めようとしていた。
両腕を失ったシュトラールに動きはなく、ただ黙って立ち尽くしており、その神話で語られる剣士の偉業のように、光の怪物の腕を斬り落としたアーテムは、飛び上がったまま身を翻し、未だ何か秘めているのではないかと思わせる程に、不気味に立ち尽くす彼を視界に収める。
「まだだッ・・・、完全に気配を断つまで安心できねぇ」
空中で身体を捻るアーテムが、回転数を上げてシュトラールを蹴り、地に張り倒さんと試みようとする。
そして、流石というべきであろう。
狼の獲物に対する、息の根を止めるまで油断しないその姿勢が功を奏し、予想が的中する。
回転を加えた強烈な回し蹴りをシュトラールに向けて放ったアーテムだったが、突如動き出した彼の、切断したはずの銀の腕によって掴まれ、遠方へと投げ飛ばされる。
「ばッ・・・馬鹿なッ! 不死身なのか!?」
辛うじて立っていることが精一杯のイデアールが、底の見えないシュトラールという漢の、異常なまでの生命力に驚嘆と絶望の声を上げる。
シュトラールは彼の方を見ることもせず、斬り落とされた腕の代わりに水銀で両腕を作り、俊敏な動きで身体を回転させながらイデアールの方を向くと、地に円を描くように足を開き急停止し、片方の腕を飛ばす。
腕は弓矢のようにイデアールの元へ飛んでいくと、彼の喉元を鷲掴みにして、そのまま壁まで吹き飛ばすと、身体を壁に固定するように形を変える銀の腕。
「ぐはッ・・・!」
激しく壁に打ち付けられたイデアールは、遂に意識を失い再起不能となってしまうと、ボヤける視界で上下の闇が徐々に彼の見る景色を飲み込んでいく中で最後に焼き付けた光景は、上半身の傷を銀色に染め上げ、依然凛として立ち尽くすシュトラールの姿と、何処へ飛ばされたのかも分からぬアーテムの落とした短剣、そして彼の傍でイデアールを影から支えてくれた男の力無く倒れる姿だった。
「シン・・・、アーテム・・・、みんな・・・。 これが、光に当てられ続けた者達の・・・末路なのか。 最早何処へも行けない・・・。 彼の方舟は既に・・・黄金郷へと飛び立ってしまっていたのか・・・」
そこで、シュトラールという強い光の中から、別の光の元へと歩き出そうとした、小さな小さな理想を抱く灯火、イデアールという漢の意識は途絶えた。
すっかり閑散とした朝孝の道場は、殺風景な程に物が崩壊し、まだ街で戦っている騎士やルーフェン・ヴォルフの者達の声や戦火が上がる音が聞こえてくる程、物静かになった。
シュトラールが此処を訪れた時とは全く別物にまで様変わりし、ボロボロとなった王の衣服を水銀が包み込み、元通りの威厳ある美しい装飾の施された物へと、アバターを変えるかの如く作り出す。
そして一通り辺りを見渡し、シン達の惨状を確認すると、彼はその場を後にしようとしたが、不意に投げられた短剣がその足を止めさせる。
「・・・着替えたばかりなんだ、止してくれないか? 傷のある格好では、民達に合わす顔がない・・・」
瓦礫を避けて歩く男が外壁を潜り、獲物に背を向ける屈辱とも捉えられる態度を取る彼に、まだ仇なす者がここにいるのだと、その姿を現わす。
「何を馬鹿なことを言ってやがるッ・・・! どこにも行かせねぇ・・・、お前が人々の前にその姿を晒すことはもうないッ! ここでお前の思惑は喰い散らかされるんだからなぁ・・・!」
「思惑ではない。 前に進めば見える景色が変わるように、それは当たり前のようにやってくる必然の事なのだ。 夢幻の中にいるのは、貴様の方だ・・・アーテムよ。 迷える者共を導き、指導者にでもなったつもりでいたのか? 貴様が引き連れてきたのは、正しき者達の礎となる為に用意された死地に他ならない・・・」
シュトラールの言葉に全く物怖じせず、聞く耳を持たないアーテムは、自分の信じる道しか見ておらず、その考えを曲げることもない。
「貴様は聖人でもなければ、気高い狼でもない・・・。 人々を騙し、惑わす穢らわしい悪の権化なんだと、いい加減気づいて大人しく裁かれろ」
新しく携えた鋼の剣を引き抜き、装いを新たにした王たる姿でアーテムへ剣先を向けるシュトラール。
「黙れよ・・・ペテン師がッ・・・!」
バチバチと稲妻を纏って、アーテムが短剣を構えながら睨みを効かせる。
聖都ユスティーチにおいて、正義を違えた二つの組織。 その長たる二人が国の命運を賭けた最後の戦いを始めようとしていた。
0
お気に入りに追加
310
あなたにおすすめの小説
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転生貴族の異世界無双生活
guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。
彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。
その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか!
ハーレム弱めです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと
Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】
山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。
好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。
やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。
転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。
そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。
更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。
これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。
もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。
──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。
いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。
理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。
あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか?
----------
覗いて下さり、ありがとうございます!
10時19時投稿、全話予約投稿済みです。
5話くらいから話が動き出します?
✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!
べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる