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ヴェーク・エルドラード
しおりを挟む聖都の外、市街地でもモンスターによる襲撃と毒の脅威は、そこら中で蔓延っしていた。
しかし、市街地のモンスターは聖都に現れているモンスターとは違い、騎士達やレジスタンスのルーフェン・ヴォルフの隊員でも、何とか倒せるモンスターが殆どで、人々の救助や騒動の沈静化は、思いの外早く進んでいた。
シンとの決闘に勝利したイデアールは、自身の追うべき理想に悩んでいたが、漸くその答えを出す決意をする。
彼は手にした槍を、倒れるシンの側に突き刺し、階段を降りていく。
「俺は・・・、俺の大志を持って理想を追う・・・。 もう、迷わないッ・・・!」
決意の目をしたイデアールは、その足で市街地のとある場所を目指す。
それは、南部にある周りとは一風変わった建造と光景の場所・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
道場を訪れたシュトラールは朝孝と対峙し、そして剣を握る。
「安心しろ。 連れてきた騎士は、邪魔が入らないようにする為の護衛だ。 我々の間に水を差すことはない」
シュトラールの後方で待機する、二人の聖騎士はその場から全く動く気配がない。
それどころか朝孝には、彼らが人である気配すら感じていなかった。
腰に帯刀した刀を握り、攻撃の姿勢を取る朝孝を見て、シュトラールはある人物と朝孝の姿を重ねる。
「正に師弟と言ったところか・・・。シャーフの構えによく似ている・・・。私も昔は彼と手合わせをしたものだ」
「・・・何が、言いたいんです・・・?」
ゆっくり目を閉じ、口角を上げて鼻で笑うシュトラールの表情からは、最大の相手を前にした緊張や不安は一切見て取れない。
彼のその笑いが、余裕と狡猾さを語っている。
「いや、なに・・・彼が私の腹心にまでなってくれて、嬉しく思っていたんだ・・・」
「貴方という人は・・・。 利用する為に彼に近づいたのですかッ・・・?」
朝孝のその発言に、シュトラールは表情を変え、真っ直ぐ朝孝の目を見て答える。
「私をそんな下衆な奴らと一緒にするなッ・・・。 確かにいずれは・・・と考えていなかった訳ではない。 だがそれ以上に私は、彼の純粋な心が黒く淀んでいくのを見過ごすことが出来なかった」
どこまでが本気なのか、この男の真意は、外側から垣間見ることはできないだろう。
彼の正義に対する徹底ぶりからは、一つの異常性や狂気すら感じるほどであるにも関わらず、弱き者を救いたいという真っ直ぐな気持ちが共存しているのも事実。
「何よりも、その淀みを生み出したのは他でもない、お前やその仲間たちではないか・・・? それがお前達の掲げる“正義”が完全なものではなく、“悪”を宿していたという何よりの証拠だ」
朝孝は彼の言葉に言い返すことが出来なかった。
それは彼の言う“淀み”に心当たりがあるからだ。
道場に人が増え、活気が溢れてくる一方で、シャーフの様子がどこか変わっていくのを朝孝は感じていた。
だが朝孝には、ライバル達と競い合い切磋琢磨して成長するという経験がなく、適切に彼をフォローすることが出来なかった。
そして皮肉なことに、それをやってのけたのがシュトラールだ。
シャーフが彼に付いて行ってしまい、それを引き止められるだけの説得が朝孝には出来ずにいたことを後悔していた。
そんな彼の悩みを代わりに行ってくれたのが、シャルロットで、彼女は聖騎士にまで成り上がると、幾度となくシャーフを説得しようと試みてくれた。
アーテムも、そんなシャーフをいつでも迎え入れられるように仲間を集い、組織を立ち上げ、本当に正しいことが何なのか、彼に訴え続けてきた。
みんなそれぞれ成長し、各々の理想や大志を掲げ、朝孝の元から飛び立っていく。
もはや彼らに教えられることはなく、せめてしてあげられることがあるならば、それはシュトラールという痼しこりを取り除いてやることくらいなものだった。
「確かに・・・私のような者に誰かを正しく育てていくこと何て出来ないのかもしれません・・・。 それに彼らは、私なんかがいなくても立派に成長していくでしょう。今の彼らを見ていれば良く分かります・・・」
それまでシュトラールの言葉に、顔を下に向けてしまっていた朝孝は、再び顔を上げると、強い意志でシュトラールの目を見返す。
「彼らや・・・ここで暮らす人々の成長を妨げてしまっているのは、私達古い考えを持った悪しき思想なのかもしれません・・・」
「“達”ではない、お前だけだ。 私の目指す黄金郷は、人間の過ちの歴史から学んだ、人が歩むべき正しい義の道の先にあるものだッ!」
シュトラールは感情を露わにし、剣を引き抜くと剣先を朝孝へと向ける。
「それは貴方が目指しているだけで、他者に強いることではッ・・・ないッ!!」
朝孝が放った目にも留まらぬ抜刀術を受け止めるシュトラールであったが、その剣技はシャーフのものとは比べものにならない一撃だった。
「くッ・・・! まさかこれ程までとはッ・・・!」
鍔迫り合いの中、今度は朝孝が口角を上げて鼻で笑う。
「貴方の言った通り・・・、彼と私は師弟です。 師が弟より強いのは道理でしょう・・・」
互いの刀剣をぶつけ合い、遅れてその一撃の衝撃が辺りへと広がる。
二人を中心に風が巻き起こり、側にあった物を吹き飛ばす。
「貴方を止めるのはッ・・・、私の役目であろうと思っていましたッ・・・!」
漸くどちらの正義が正しいかを決するということに、二人の心は強者を前に昂ぶっていた。
「抜かせッ! 私がお前を利用したのだッ・・・。 我が道の礎となれッ! 卜部朝孝ッ!!」
しかし、市街地のモンスターは聖都に現れているモンスターとは違い、騎士達やレジスタンスのルーフェン・ヴォルフの隊員でも、何とか倒せるモンスターが殆どで、人々の救助や騒動の沈静化は、思いの外早く進んでいた。
シンとの決闘に勝利したイデアールは、自身の追うべき理想に悩んでいたが、漸くその答えを出す決意をする。
彼は手にした槍を、倒れるシンの側に突き刺し、階段を降りていく。
「俺は・・・、俺の大志を持って理想を追う・・・。 もう、迷わないッ・・・!」
決意の目をしたイデアールは、その足で市街地のとある場所を目指す。
それは、南部にある周りとは一風変わった建造と光景の場所・・・。
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道場を訪れたシュトラールは朝孝と対峙し、そして剣を握る。
「安心しろ。 連れてきた騎士は、邪魔が入らないようにする為の護衛だ。 我々の間に水を差すことはない」
シュトラールの後方で待機する、二人の聖騎士はその場から全く動く気配がない。
それどころか朝孝には、彼らが人である気配すら感じていなかった。
腰に帯刀した刀を握り、攻撃の姿勢を取る朝孝を見て、シュトラールはある人物と朝孝の姿を重ねる。
「正に師弟と言ったところか・・・。シャーフの構えによく似ている・・・。私も昔は彼と手合わせをしたものだ」
「・・・何が、言いたいんです・・・?」
ゆっくり目を閉じ、口角を上げて鼻で笑うシュトラールの表情からは、最大の相手を前にした緊張や不安は一切見て取れない。
彼のその笑いが、余裕と狡猾さを語っている。
「いや、なに・・・彼が私の腹心にまでなってくれて、嬉しく思っていたんだ・・・」
「貴方という人は・・・。 利用する為に彼に近づいたのですかッ・・・?」
朝孝のその発言に、シュトラールは表情を変え、真っ直ぐ朝孝の目を見て答える。
「私をそんな下衆な奴らと一緒にするなッ・・・。 確かにいずれは・・・と考えていなかった訳ではない。 だがそれ以上に私は、彼の純粋な心が黒く淀んでいくのを見過ごすことが出来なかった」
どこまでが本気なのか、この男の真意は、外側から垣間見ることはできないだろう。
彼の正義に対する徹底ぶりからは、一つの異常性や狂気すら感じるほどであるにも関わらず、弱き者を救いたいという真っ直ぐな気持ちが共存しているのも事実。
「何よりも、その淀みを生み出したのは他でもない、お前やその仲間たちではないか・・・? それがお前達の掲げる“正義”が完全なものではなく、“悪”を宿していたという何よりの証拠だ」
朝孝は彼の言葉に言い返すことが出来なかった。
それは彼の言う“淀み”に心当たりがあるからだ。
道場に人が増え、活気が溢れてくる一方で、シャーフの様子がどこか変わっていくのを朝孝は感じていた。
だが朝孝には、ライバル達と競い合い切磋琢磨して成長するという経験がなく、適切に彼をフォローすることが出来なかった。
そして皮肉なことに、それをやってのけたのがシュトラールだ。
シャーフが彼に付いて行ってしまい、それを引き止められるだけの説得が朝孝には出来ずにいたことを後悔していた。
そんな彼の悩みを代わりに行ってくれたのが、シャルロットで、彼女は聖騎士にまで成り上がると、幾度となくシャーフを説得しようと試みてくれた。
アーテムも、そんなシャーフをいつでも迎え入れられるように仲間を集い、組織を立ち上げ、本当に正しいことが何なのか、彼に訴え続けてきた。
みんなそれぞれ成長し、各々の理想や大志を掲げ、朝孝の元から飛び立っていく。
もはや彼らに教えられることはなく、せめてしてあげられることがあるならば、それはシュトラールという痼しこりを取り除いてやることくらいなものだった。
「確かに・・・私のような者に誰かを正しく育てていくこと何て出来ないのかもしれません・・・。 それに彼らは、私なんかがいなくても立派に成長していくでしょう。今の彼らを見ていれば良く分かります・・・」
それまでシュトラールの言葉に、顔を下に向けてしまっていた朝孝は、再び顔を上げると、強い意志でシュトラールの目を見返す。
「彼らや・・・ここで暮らす人々の成長を妨げてしまっているのは、私達古い考えを持った悪しき思想なのかもしれません・・・」
「“達”ではない、お前だけだ。 私の目指す黄金郷は、人間の過ちの歴史から学んだ、人が歩むべき正しい義の道の先にあるものだッ!」
シュトラールは感情を露わにし、剣を引き抜くと剣先を朝孝へと向ける。
「それは貴方が目指しているだけで、他者に強いることではッ・・・ないッ!!」
朝孝が放った目にも留まらぬ抜刀術を受け止めるシュトラールであったが、その剣技はシャーフのものとは比べものにならない一撃だった。
「くッ・・・! まさかこれ程までとはッ・・・!」
鍔迫り合いの中、今度は朝孝が口角を上げて鼻で笑う。
「貴方の言った通り・・・、彼と私は師弟です。 師が弟より強いのは道理でしょう・・・」
互いの刀剣をぶつけ合い、遅れてその一撃の衝撃が辺りへと広がる。
二人を中心に風が巻き起こり、側にあった物を吹き飛ばす。
「貴方を止めるのはッ・・・、私の役目であろうと思っていましたッ・・・!」
漸くどちらの正義が正しいかを決するということに、二人の心は強者を前に昂ぶっていた。
「抜かせッ! 私がお前を利用したのだッ・・・。 我が道の礎となれッ! 卜部朝孝ッ!!」
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