World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
72 / 1,646

数奇な運命

しおりを挟む
玉座の間にて、互いの正義をぶつけ合うアーテムとシャーフ。

「アーテム、お前は相変わらずだな・・・。形がまるで身についていないじゃないか。 先生の元で何を学んでいるのやら・・・」

激しい打ち合いの中シャーフは、朝孝が得意としている刀の技術を全く使わず、己の戦闘スタイルで戦うアーテムに呆れる。

「剣術は、ただ学んでいくだけじゃ時代についていけなくなる。 だから新しい技術を交えて先に進めていかなくちゃいけぇんだぜッ!」

アーテムが独自の理論を得意げに語るのを聞いて、シャーフはより一層呆れる。

「はぁ・・・。 進化っていうのは基盤となる元があってこそだろ? お前にはソレすらないじゃないか。 何だ・・・その戦い方はッ・・・、武器を取っ替え引っ替え、蹴ったり投げたり・・・」

彼が得意な短剣を無数に使う戦い方を受けながら、シャーフは彼の周りに飛び交う短剣を冷静に、そして一瞬のうちに振るわれる刀捌きにて、見事に弾き飛ばしていく。

「そういうお前は、今も昔も変わらねぇなッ! 教えに準じ、寡黙に鍛えてきたその動きは、限りなく無駄をカットして省略化された、正に神速の域に達する剣技・・・。 昔っから俺はお前のその才能が羨ましかったよッ!」

彼の言った“羨む”という発言に、シャーフの太刀筋に力が入る。

「先生から同じメニューの修行を受けてるのに、お前ばかり上達していって俺は悔しかったんだッ・・・」

シャーフの深層に眠っていた想いが、アーテムとの打ち合いによって徐々にその姿を現し始めた。



─── 黙れ 。



「このまま同じ修行を受けていても、俺はお前に差をつけられるだけ・・・。 自分の才能の無さに嫌気が差した」

アーテムの止まらぬ思い出話に、シャーフの気持ちと刀に込められる力が、どんどんと強くなる。



─── 黙れッ! 黙れッ!



「だから俺はお前から逃げ、別の方法でお前と並び立とうとしたんだッ!」

アーテムの取った別の方法、それは短剣や小刀による戦闘スタイルを道場に確立することになり、そのことで朝孝の道場は刀のスキルだけでなく、様々な戦闘スキルを学べる場となって、道場の発展にも繋がった。

結果的に彼の抱えていたフラストレーションは、道場を発展させ、学びに来る生徒を増やし、仲間を大勢作るという大きな成果をもたらした。

「それでもお前は常に俺の前にいて、その差は縮むことはなかったッ!」



─── 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッッッッッッッ!!!



アーテムへの想い、道場への想い、剣術への想い・・・。

様々な感情が彼の沸点に達すると、彼の抑止されていた感情は、表へと一気に溢れ出し、アーテムの周りに飛び交う無数の短剣を、一瞬のうちにして全て叩き落として見せた。

「・・・黙れぇぇぇッッッ!!!!!」

「・・・ッ!?」

昔から感情をあまり表に出さない、冷静沈着の彼が、未だかつて見せたことのない感情を、アーテムに曝け出す。

「そうやってお前達は、俺を見ようとはしなかったッ! 孤立させていった・・・。 俺の気も知らないで・・・」

シャーフの手が、刀を振るうことを止め、頭を下げてしまう。

「シャーフ・・・」

「俺は・・・お前達の目標になりたかったんじゃないッ! 前を・・・歩きたかったんじゃないッ・・・! 誰かに認められたかった・・・。 先生に・・・、お前やシャルロットに・・・。 同じ騎士を目指し、同じ目標に向かって努力し、並んで歩きたかったのに・・・」

アーテムは、あの頃の彼の気持ちを始めて知る。
そして、彼の思いもよらぬ発言に言葉を失った。

「俺が努力すればするほど、お前達の距離は開く一方だ・・・。 遅れを取っていたのはお前達じゃない・・・、俺だったんだ・・・。 俺だけが何も変わらず、ただ剣術に没頭し、何も成長していなかった。 それを認めたくないからッ・・・、何かに没頭せずにはいられなかったんだッ・・・」

シャーフは、ゆっくりと顔を上げながらアーテム、シャルロットと順に二人の姿を瞳に映す。

「アーテム・・・、お前には人を惹きつけ繋げる、輝かしい程の絆の力が・・・。 シャルロット・・・、アイツには周りの人や仲間から愛される、眩しい程の親愛感がある・・・。 お前達は、俺が絶対に手にすることのできないような唯一無二の力を持っている・・・」

そしてシャーフは最後に、自分自身を見る。

「俺の力は、所詮努力すれば誰でも手に入れることのできる力でしか無い・・・。 しかも俺の力には限界というものが、目に見えてやってくる。 羨ましかったのは・・俺の方だったんだ・・・アーテム」

「お前・・・そんなことを・・・」

「俺はもう、誰の背中も見えなくなるくらい・・・置いていかれていた。 そんな時に出逢ったのがシュトラール様だった」

アーテムは、彼の口から飛び出したその名前に反応する。

「何も見えない真っ暗闇で、同じ道を繰り返し歩く事しか出来なかった俺を・・・あの人が見つけてくれた・・・。 俺の悩みを・・・、俺の苦悩を・・・全部理解してくれ、俺の中にある本当の力を見出してくれた・・・」

シャーフは力強い瞳で、アーテムを見ると、その決別の意思を伝える。

「俺を理解し、認めてくれたのは、先生でも・・・お前達でも無いッ・・・。 本当に辛い時、限界を感じた時に助けてくれた人を信じる事に何の意があるッ!? そしてあの人はこの世の真実を見せてくれた。 正しき正義の裁きは、あの人を基にあるッ! 」

刀を構え、剣先をアーテムへ向けて、強く睨みつける。

アーテムも、彼の心の内を聞いて説得しようなどとは思わなかった。

朝孝の道場にて、強さの象徴だった男の想い・・・。

「そうかよ・・・。 お前にはお前の“正義”があったんだな・・・、良かったぜ・・・知れて。 何も知らねぇで決着をつけるんじゃ、スッキリしねぇからなッ・・・! いいぜッ・・・、“魅せて”やるよ・・・。 お前の想いを受けるに相応しい・・・俺の“答え”で相手になってやるッ!!」

アーテムは手にしていた短剣を捨てると、

片手に“刀”を・・・

片手に“小太刀“を構える。


何の因果か・・・

二人のその姿は、正しく・・・



塚原卜伝と、宮本武蔵のようであった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。 彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。 だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。 神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。 アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO! これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。 異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。 そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

元英雄 これからは命大事にでいきます

銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの 魔王との激しい死闘を 終え元の世界に帰還した英雄 八雲  多くの死闘で疲弊したことで、 これからは『命大事に』を心に決め、 落ち着いた生活をしようと思う。  こちらの世界にも妖魔と言う 化物が現れなんだかんだで 戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、 とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜  八雲は寿命を伸ばすために再び 異世界へ戻る。そして、そこでは 新たな闘いが始まっていた。 八雲は運命の時の流れに翻弄され 苦悩しながらも魔王を超えた 存在と対峙する。 この話は心優しき青年が、神からのギフト 『ライフ』を使ってお助けする話です。

処理中です...