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神代 コウ

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数奇な運命

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玉座の間にて、互いの正義をぶつけ合うアーテムとシャーフ。

「アーテム、お前は相変わらずだな・・・。形がまるで身についていないじゃないか。 先生の元で何を学んでいるのやら・・・」

激しい打ち合いの中シャーフは、朝孝が得意としている刀の技術を全く使わず、己の戦闘スタイルで戦うアーテムに呆れる。

「剣術は、ただ学んでいくだけじゃ時代についていけなくなる。 だから新しい技術を交えて先に進めていかなくちゃいけぇんだぜッ!」

アーテムが独自の理論を得意げに語るのを聞いて、シャーフはより一層呆れる。

「はぁ・・・。 進化っていうのは基盤となる元があってこそだろ? お前にはソレすらないじゃないか。 何だ・・・その戦い方はッ・・・、武器を取っ替え引っ替え、蹴ったり投げたり・・・」

彼が得意な短剣を無数に使う戦い方を受けながら、シャーフは彼の周りに飛び交う短剣を冷静に、そして一瞬のうちに振るわれる刀捌きにて、見事に弾き飛ばしていく。

「そういうお前は、今も昔も変わらねぇなッ! 教えに準じ、寡黙に鍛えてきたその動きは、限りなく無駄をカットして省略化された、正に神速の域に達する剣技・・・。 昔っから俺はお前のその才能が羨ましかったよッ!」

彼の言った“羨む”という発言に、シャーフの太刀筋に力が入る。

「先生から同じメニューの修行を受けてるのに、お前ばかり上達していって俺は悔しかったんだッ・・・」

シャーフの深層に眠っていた想いが、アーテムとの打ち合いによって徐々にその姿を現し始めた。



─── 黙れ 。



「このまま同じ修行を受けていても、俺はお前に差をつけられるだけ・・・。 自分の才能の無さに嫌気が差した」

アーテムの止まらぬ思い出話に、シャーフの気持ちと刀に込められる力が、どんどんと強くなる。



─── 黙れッ! 黙れッ!



「だから俺はお前から逃げ、別の方法でお前と並び立とうとしたんだッ!」

アーテムの取った別の方法、それは短剣や小刀による戦闘スタイルを道場に確立することになり、そのことで朝孝の道場は刀のスキルだけでなく、様々な戦闘スキルを学べる場となって、道場の発展にも繋がった。

結果的に彼の抱えていたフラストレーションは、道場を発展させ、学びに来る生徒を増やし、仲間を大勢作るという大きな成果をもたらした。

「それでもお前は常に俺の前にいて、その差は縮むことはなかったッ!」



─── 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッッッッッッッ!!!



アーテムへの想い、道場への想い、剣術への想い・・・。

様々な感情が彼の沸点に達すると、彼の抑止されていた感情は、表へと一気に溢れ出し、アーテムの周りに飛び交う無数の短剣を、一瞬のうちにして全て叩き落として見せた。

「・・・黙れぇぇぇッッッ!!!!!」

「・・・ッ!?」

昔から感情をあまり表に出さない、冷静沈着の彼が、未だかつて見せたことのない感情を、アーテムに曝け出す。

「そうやってお前達は、俺を見ようとはしなかったッ! 孤立させていった・・・。 俺の気も知らないで・・・」

シャーフの手が、刀を振るうことを止め、頭を下げてしまう。

「シャーフ・・・」

「俺は・・・お前達の目標になりたかったんじゃないッ! 前を・・・歩きたかったんじゃないッ・・・! 誰かに認められたかった・・・。 先生に・・・、お前やシャルロットに・・・。 同じ騎士を目指し、同じ目標に向かって努力し、並んで歩きたかったのに・・・」

アーテムは、あの頃の彼の気持ちを始めて知る。
そして、彼の思いもよらぬ発言に言葉を失った。

「俺が努力すればするほど、お前達の距離は開く一方だ・・・。 遅れを取っていたのはお前達じゃない・・・、俺だったんだ・・・。 俺だけが何も変わらず、ただ剣術に没頭し、何も成長していなかった。 それを認めたくないからッ・・・、何かに没頭せずにはいられなかったんだッ・・・」

シャーフは、ゆっくりと顔を上げながらアーテム、シャルロットと順に二人の姿を瞳に映す。

「アーテム・・・、お前には人を惹きつけ繋げる、輝かしい程の絆の力が・・・。 シャルロット・・・、アイツには周りの人や仲間から愛される、眩しい程の親愛感がある・・・。 お前達は、俺が絶対に手にすることのできないような唯一無二の力を持っている・・・」

そしてシャーフは最後に、自分自身を見る。

「俺の力は、所詮努力すれば誰でも手に入れることのできる力でしか無い・・・。 しかも俺の力には限界というものが、目に見えてやってくる。 羨ましかったのは・・俺の方だったんだ・・・アーテム」

「お前・・・そんなことを・・・」

「俺はもう、誰の背中も見えなくなるくらい・・・置いていかれていた。 そんな時に出逢ったのがシュトラール様だった」

アーテムは、彼の口から飛び出したその名前に反応する。

「何も見えない真っ暗闇で、同じ道を繰り返し歩く事しか出来なかった俺を・・・あの人が見つけてくれた・・・。 俺の悩みを・・・、俺の苦悩を・・・全部理解してくれ、俺の中にある本当の力を見出してくれた・・・」

シャーフは力強い瞳で、アーテムを見ると、その決別の意思を伝える。

「俺を理解し、認めてくれたのは、先生でも・・・お前達でも無いッ・・・。 本当に辛い時、限界を感じた時に助けてくれた人を信じる事に何の意があるッ!? そしてあの人はこの世の真実を見せてくれた。 正しき正義の裁きは、あの人を基にあるッ! 」

刀を構え、剣先をアーテムへ向けて、強く睨みつける。

アーテムも、彼の心の内を聞いて説得しようなどとは思わなかった。

朝孝の道場にて、強さの象徴だった男の想い・・・。

「そうかよ・・・。 お前にはお前の“正義”があったんだな・・・、良かったぜ・・・知れて。 何も知らねぇで決着をつけるんじゃ、スッキリしねぇからなッ・・・! いいぜッ・・・、“魅せて”やるよ・・・。 お前の想いを受けるに相応しい・・・俺の“答え”で相手になってやるッ!!」

アーテムは手にしていた短剣を捨てると、

片手に“刀”を・・・

片手に“小太刀“を構える。


何の因果か・・・

二人のその姿は、正しく・・・



塚原卜伝と、宮本武蔵のようであった。
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