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対リーベ戦 反撃の兆し
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「あらあら・・・、また建物の中に・・・。 ミアさん大丈夫かしらね」
リーベは、ミアを抱え建物の中に逃げ込んだツクヨの影を目で追い、再度巨大な光の矢を作り出すと、二人の元へと飛ばした。
矢はゆっくり降下しながら二人のいる高さまで微調整されると、建物の壁や遮蔽物をすり抜けながら、目標へと着実に進んでいく。
彼女の目には、建物の中にいる人の反応が二つ、生命の灯火のような形で見えており、そして一つの灯火は今にも消えそうなくらい弱っていた。
「これで終わりにして差し上げますわ・・・」
矢が二人のいる建物の一室にまで入っていくのを確認すると、リーベはその方向へ腕を伸ばし、開いた手のひらをグッと握る。
二人のいる建物内で矢が爆発すると、複数の小さな矢となり部屋中で反射しながら、獲物の生命の灯火を刈りとる。
一つの生命反応は、飛散する矢の中で、その灯火を小さくしながらも何とか耐えていたが、既に小さく弱っていた灯火の方は、そこで最期の輝きを放ち、そして消えた。
「さよなら・・・ミアさん。 最期はお仲間の・・・人の醜い部分を見ることなく逝けたかしら・・・」
ミアへの弔いの思いを馳せながら、リーベはもう一つの灯火にトドメを刺すため、その建物に向かって飛んでいく。
「あとは剣士のお兄さんね・・・、貴方もすぐ後を追わせてあげるッ!!」
建物の中に入っていくと、そこには剣を床に突き刺し、両手でそれを支えに耐えるツクヨの姿があった。
「最期までご立派でしたわ。 正しく弱きを守る騎士のようで・・・。 出会った場所が違えば、私達は良き正義の使徒として、同じ道を歩めたでしょうね」
「お褒めに与り恐縮です、Ms.リーベ。 願わくば、その寛大なお慈悲に授かりたく存じます・・・」
最期の時を前に、ツクヨは冗談混じりの、ちょっとした皮肉を効かせて、命だけはとらないでくれと慈悲を乞う。
「まぁ! ご冗談を・・・。 女性を死なせて貴方だけ助かろうとでも? 初めから私がどう出るか、分かっておいでではなくて?」
彼の冗談に、リーベは上品な微笑みを浮かべる。
そして、剣を軽く突けば今にも崩れ落ちそうな彼へ向けて手をかざすと、無数の光が彼の周りに現れ、矢の形を象る。
「・・・せめて最期くらいは、苦しまないよう・・・一思いに」
「そうね・・・。 彼女を最期まで裏切らなかった、貴方の騎士道に免じて・・・、愛の恩寵による“裁き”で送って差し上げましょう」
それを聞いてホッとしたのか、彼はフッと笑いながら口元を緩めた。
その瞬間、りーべは何かの気配を感じ取ると、咄嗟に頭を下に曲げた。
音も無く飛んできたそれは、壁を突き抜けて通り過ぎる。
「全くッ・・・! どこまで勘が良いんだッ、アンタはッ!!」
ツクヨは手にした剣を瞬時に引き抜き、リーベの曲がった首目掛けて剣を振り下ろす。
後方へ勢いよく飛び退くと、そのまま浮遊するリーベは、今起きている出来事に驚きを隠せない様子でいた。
「・・・ッ!? なに・・・? 今のは・・・。 銃弾・・・? 一体誰が・・・」
混乱する彼女に、更に追撃の一閃を入れようとするツクヨだったが、リーベは光の矢を解除してはいなかった。
彼を囲む光の矢が、一気にその身体に突き刺さる。
「ぐッ・・・!! なんだ・・・冷静じゃないか・・・。 どこまでも・・・隙の・・・ない・・・」
ツクヨは最後まで言葉を発すること無く、人形のように床へ崩れ落ちると、身体に刺さった光の矢は消滅した。
「何故ッ・・・!? 反応は確かに一つしかなかった筈・・・」
しかし、音の無い弾丸が彼女に考える暇を与えないように、次から次へと飛んでくる。
これを嫌がったリーベは、窓ガラスを突き破り外へと飛び出し、上空へ上がる。
「・・・? 今、生命の反応はここには見えないッ・・・。 どこから飛んでくるの?この弾丸はッ!?」
冷静さを欠いたリーベは、飛んでくる弾丸を何発か貰ってしまう。
「くッ・・・! 誰ッ!? 一体何処にいるのッ!? 何処から私を・・・」
取り乱すリーベに、そっと話しかける女性の声が、何処からともなく聞こえてくる。
「彼はアタシの為に・・・、アタシらの勝利の為にアンタの前に姿を晒した・・・。 アンタを油断させる為の囮になって・・・」
それは聞き覚えのある声、灯火が消え、死んだ筈の、もう二度と聞くことはないと思っていたミアの声だった。
「ミアッ・・・!? そんな・・・、そんな筈ないわッ!! 貴方の反応はさっき消えた筈だものッ!!」
「アンタはまんまと騙されてくれたよ・・・、 そしてもう、アンタにアタシは探知出来ない・・・。 ・・・ぐぅッ・・・!! ・・・はぁ・・・はぁ、次はアタシの番だッ! アンタが獲物でッ・・・、アタシが狩人だッ!!」
再び、何処からともなく飛んでくる無音の弾がリーベの身体に命中する。
「あぁぁッ・・・! 何処から撃ってきているのッ? 反応が見えない・・・、音も聞こえないのにッ! ・・・空はまずいわ・・・、地上へ降りなくてはッ・・・」
上空にいては、ミアの格好の獲物となってしまうと考え、すぐに地上へと降りてくるリーベ。
辺りを見渡せど、何かが動くのも感じなければ、音も聞こえてこない。
まるで真っ暗な森の中で、狩人に狙われる兎のように、リーベの心を恐怖が包み込む。
いつ、何処から狙っているか、何処から攻撃されるか分からない、逃げ場のない状況に、何故こんなことがミアに出来ているのか理解できない状態。
ミアとリーベの立場は、完全に逆転した。
「おかしいわ・・・。 そもそも銃弾が音も無く飛んでくること自体がおかしいッ! 何かの魔法・・・アイテムで音を消しているの?」
徐々に冷静さを取り戻してきたリーベは、ミアのことについて思い出していく。
開けた場所は彼女から狙われやすいと、建物の陰へと走って向かい、路地を移動しながら、ミアを探す。
「彼女・・・錬金術士よね。 城でギルドに向かっていくのを何度か見たことがあるわ。 そして彼女は属性を使う錬金術に長けてる・・・、それも光や闇ではなく四大元素の方。 もし彼女が土地の属性を利用するのであれば? 聖都の土地の属性は・・・闇、または陰の属性・・・」
ミアの情報を思い返し、彼女を探しながらぶつぶつと自分に言い聞かせるように分析を口にする。
その間も、ミアの放つ無音の弾丸はリーベを狙い続け、予測できないところから飛んでくる攻撃に対処出来ず、ただただくらい続けるしかなかった。
「アンタ、元は狩人の民族だったらしいな・・・。聖都で便利な力に頼り、人相手に狩を行ってたせいで、狩人としての腕も誇りも失ってしまったようだな・・・」
「何ですって・・・。私の家族を・・・愚弄するつもり?」
珍しくリーベが声色と目つきを変え、感情を露わにする。
「自然の中で強く、逞しく者が相手ならアタシに勝機はなかっただろうね・・・。 アンタが”聖都の人間“で良かったよ」
皮肉なのか挑発なのか、はたまたリーベの為に言った言葉なのか、ミアのその言葉を聞いて、リーベは小さい頃に父親と、狩りに出掛けた時のことを思い出していた。
「いいか? 狩りは観察が大事なんだ。 獲物をただ追いかけるだけでは決して上手くいかない。 痕跡というのは、見た目以上に多くの情報を持っているんだ」
聖都で使っていた“光”に溺れ、その機能を失っただけで取り乱すほど、リーベは自分が狩人として落ちぶれてしまったのかを知り、かつての感覚を取り戻そうと、意識を集中させる。
リーベの表情が変わった。
彼女はミアの言葉に、聖都の騎士としてでは無く、狩人の自分として戦おうとしていた。
「そうね・・・。 いつからかしら・・・、今に追われ昔を忘れてしまっていたのは・・・。 忘れたい過去しか私にはなかったけれど、忘れてはいけないことも確かに私の中にあったのよね・・・。 感謝するわミアさん、今度は狩人として貴方と戦うッ!」
リーベは目を瞑り、その場に立ち尽くしている。
ミアは、彼女を狙い、無音の弾丸を放つと、リーベはこれを間一髪のところで避ける。
だが、これまでと違い、目を見開いた彼女は、ミアを見つけたかのように一気に彼女のいる方向へと走り出す。
「何ッ!? 闇雲に走っているのかッ!? それにしてはヤケに方向が正確・・・!」
そんなことを考えている内にリーベは、建物を駆け上がりミアを見つけると、光の矢を一本だけ構え、ミアに向けて勢いよく放つ。
「くッ・・・!!」
光の矢は一本だけではあるが、そのスピードと貫通力は宛らレーザーのように飛んでいき、ミアのいた建物を崩壊させる。
土煙と瓦礫の物音に身を隠し、素早くその場を離れるミア。
相変わらずその動きからは、一切の物音がしない。
リーベは辺りを見渡すと、土煙の中で僅かに地面に残る足跡を見つけると、正確にミアの後を追い始める。
「どうやって場所を特定している・・・?」
建物の間を、追ってくるリーベの視界から外れるように、右へ左へと移動しながら、無音の弾で地面や壁などを撃ち、追跡を撹乱させる工作をする。
「・・・音や攻撃の痕跡じゃない。 それならッ・・・!」
次にミアは、無音の弾であちこちの民家のドアノブを撃ち、建物内へと逃げ込む。
二階へと駆け上がり、今度は窓から隣へ移動し、外を走ることなく建物伝いに移動し始めると、追ってくるリーベの気配がやや遅れ出す。
「気づいたようね・・・。 それならそれで、じっくり探すまでッ!」
リーベは上空に光の球を打ち上げると、球は宙に浮いたまま固定され、彼女はミアの足跡が途絶えた民家へと入っていく。
走ることをやめ、民家の中に残る痕跡をじっくりと観察していくリーベ。
「追跡が途絶えた・・・。 何とか巻けたようだな」
彼女の追跡を巻くことには成功したが、お互いに相手の位置が分からなくなったのも事実。
今度は、物音を立てないようにゆっくりとリーベの位置を探し出そうとするミアは、外の上空で光る何かに気付く。
「・・・ッ!? アレは何だ?」
咄嗟に壁に隠れ、磨き上げた銃身を鏡のように使い、外に打ち上げられた光を見る。
「動かない・・・。 攻撃のためのものではない、恐らく探索のためのものだッ・・・。 アレがどうやってアタシを探知するのかは知らんが、下手に姿を晒さない方が良さそうだ・・・」
ミアは窓から離れると、直接光が見える外や窓の側を避け、慎重にリーベの位置を探り出す。
隣の建物へ移り、高い位置に登り、上からリーベを探そうとする。
すると、床の建てつけが悪いのか、小さな隙間から下の階の明かりが見える。
それを確認しようと、覗き込んだ瞬間、下の階が一気に光だし、身の危険を感じたミアは、すぐに窓から外へ出ると、先ほどの建物がまるで地面が噴火したかのように、下から上へと突き上げるように崩壊する。
その中心部にいたのは、いつの間にここまで接近してきていたのか、リーベの姿があり、逃げるミアの方をゆっくり振り返る。
何を言うこともなかったが、ミアは彼女の追跡にプレッシャーを感じ、動揺する。
「クソッ・・・! 索敵の技術は向こうの方が上だッ・・・。何か別の・・・ッ!?」
リーベを出し抜く方法を考えているミアの目に、信じられないものが映り込む。
それは逃げ遅れたのか、小さな子供が二人、動乱の起こるこの街を、手を繋ぎながら物陰伝いに移動してる姿だった。
それはミアが、ギルド通いで仲良くなった姉弟のウッツとエルゼだったのだ。
ミアはすぐに建物から外の路地に飛び出すと、二人の元へ駆け寄る。
「何してるッ!? 何故まだ避難してないんだッ!?」
小声で二人に問うミア。
「ミアッ! よっよかった・・・。 避難してる途中でモンスターに襲わわれてッ・・・! 騎士の人達が助けてくれたけど、それでも抑えきれないくらいモンスターが強くて・・・。 それで、崩れた瓦礫の下敷きになっちゃったの。 大きな怪我はなかったけど、気を失ってて・・・。 目が覚めたのもついさっきなの」
涙を浮かべる弟ウッツをなだめながら、姉エルゼが経緯を説明してくれたが、何故リーベはこの子達の気配は探知できなかったのだろうと、少し疑問に思った。
そうしているうちに、何かの足音が近づいて来るのを感じ、ミアは咄嗟に二人を抱え物陰に隠れる。
「すまんが今はそれどころじゃないッ! 少しの間、静かにしていてくれッ・・・」
二人の口を手で覆いながら、そう言い聞かせると、ウッツもエルゼも頷いてミアに従った。
足音は近くで止まると、そこで探索するように物音がし出す。
その様子を、固唾を飲んでやり過ごそうとするミアの額に汗が滲む。
足音は暫くすると、その場を離れていった。
徐々に遠ざかる足音に安堵するミア。
その時・・・。
安心して息をつくミア達のすぐ横の壁を、光る何かが突き破ると、空いた穴から土煙と共にリーベが姿を現わす。
「見つけたわ・・・、ミア」
リーベは、ミアを抱え建物の中に逃げ込んだツクヨの影を目で追い、再度巨大な光の矢を作り出すと、二人の元へと飛ばした。
矢はゆっくり降下しながら二人のいる高さまで微調整されると、建物の壁や遮蔽物をすり抜けながら、目標へと着実に進んでいく。
彼女の目には、建物の中にいる人の反応が二つ、生命の灯火のような形で見えており、そして一つの灯火は今にも消えそうなくらい弱っていた。
「これで終わりにして差し上げますわ・・・」
矢が二人のいる建物の一室にまで入っていくのを確認すると、リーベはその方向へ腕を伸ばし、開いた手のひらをグッと握る。
二人のいる建物内で矢が爆発すると、複数の小さな矢となり部屋中で反射しながら、獲物の生命の灯火を刈りとる。
一つの生命反応は、飛散する矢の中で、その灯火を小さくしながらも何とか耐えていたが、既に小さく弱っていた灯火の方は、そこで最期の輝きを放ち、そして消えた。
「さよなら・・・ミアさん。 最期はお仲間の・・・人の醜い部分を見ることなく逝けたかしら・・・」
ミアへの弔いの思いを馳せながら、リーベはもう一つの灯火にトドメを刺すため、その建物に向かって飛んでいく。
「あとは剣士のお兄さんね・・・、貴方もすぐ後を追わせてあげるッ!!」
建物の中に入っていくと、そこには剣を床に突き刺し、両手でそれを支えに耐えるツクヨの姿があった。
「最期までご立派でしたわ。 正しく弱きを守る騎士のようで・・・。 出会った場所が違えば、私達は良き正義の使徒として、同じ道を歩めたでしょうね」
「お褒めに与り恐縮です、Ms.リーベ。 願わくば、その寛大なお慈悲に授かりたく存じます・・・」
最期の時を前に、ツクヨは冗談混じりの、ちょっとした皮肉を効かせて、命だけはとらないでくれと慈悲を乞う。
「まぁ! ご冗談を・・・。 女性を死なせて貴方だけ助かろうとでも? 初めから私がどう出るか、分かっておいでではなくて?」
彼の冗談に、リーベは上品な微笑みを浮かべる。
そして、剣を軽く突けば今にも崩れ落ちそうな彼へ向けて手をかざすと、無数の光が彼の周りに現れ、矢の形を象る。
「・・・せめて最期くらいは、苦しまないよう・・・一思いに」
「そうね・・・。 彼女を最期まで裏切らなかった、貴方の騎士道に免じて・・・、愛の恩寵による“裁き”で送って差し上げましょう」
それを聞いてホッとしたのか、彼はフッと笑いながら口元を緩めた。
その瞬間、りーべは何かの気配を感じ取ると、咄嗟に頭を下に曲げた。
音も無く飛んできたそれは、壁を突き抜けて通り過ぎる。
「全くッ・・・! どこまで勘が良いんだッ、アンタはッ!!」
ツクヨは手にした剣を瞬時に引き抜き、リーベの曲がった首目掛けて剣を振り下ろす。
後方へ勢いよく飛び退くと、そのまま浮遊するリーベは、今起きている出来事に驚きを隠せない様子でいた。
「・・・ッ!? なに・・・? 今のは・・・。 銃弾・・・? 一体誰が・・・」
混乱する彼女に、更に追撃の一閃を入れようとするツクヨだったが、リーベは光の矢を解除してはいなかった。
彼を囲む光の矢が、一気にその身体に突き刺さる。
「ぐッ・・・!! なんだ・・・冷静じゃないか・・・。 どこまでも・・・隙の・・・ない・・・」
ツクヨは最後まで言葉を発すること無く、人形のように床へ崩れ落ちると、身体に刺さった光の矢は消滅した。
「何故ッ・・・!? 反応は確かに一つしかなかった筈・・・」
しかし、音の無い弾丸が彼女に考える暇を与えないように、次から次へと飛んでくる。
これを嫌がったリーベは、窓ガラスを突き破り外へと飛び出し、上空へ上がる。
「・・・? 今、生命の反応はここには見えないッ・・・。 どこから飛んでくるの?この弾丸はッ!?」
冷静さを欠いたリーベは、飛んでくる弾丸を何発か貰ってしまう。
「くッ・・・! 誰ッ!? 一体何処にいるのッ!? 何処から私を・・・」
取り乱すリーベに、そっと話しかける女性の声が、何処からともなく聞こえてくる。
「彼はアタシの為に・・・、アタシらの勝利の為にアンタの前に姿を晒した・・・。 アンタを油断させる為の囮になって・・・」
それは聞き覚えのある声、灯火が消え、死んだ筈の、もう二度と聞くことはないと思っていたミアの声だった。
「ミアッ・・・!? そんな・・・、そんな筈ないわッ!! 貴方の反応はさっき消えた筈だものッ!!」
「アンタはまんまと騙されてくれたよ・・・、 そしてもう、アンタにアタシは探知出来ない・・・。 ・・・ぐぅッ・・・!! ・・・はぁ・・・はぁ、次はアタシの番だッ! アンタが獲物でッ・・・、アタシが狩人だッ!!」
再び、何処からともなく飛んでくる無音の弾がリーベの身体に命中する。
「あぁぁッ・・・! 何処から撃ってきているのッ? 反応が見えない・・・、音も聞こえないのにッ! ・・・空はまずいわ・・・、地上へ降りなくてはッ・・・」
上空にいては、ミアの格好の獲物となってしまうと考え、すぐに地上へと降りてくるリーベ。
辺りを見渡せど、何かが動くのも感じなければ、音も聞こえてこない。
まるで真っ暗な森の中で、狩人に狙われる兎のように、リーベの心を恐怖が包み込む。
いつ、何処から狙っているか、何処から攻撃されるか分からない、逃げ場のない状況に、何故こんなことがミアに出来ているのか理解できない状態。
ミアとリーベの立場は、完全に逆転した。
「おかしいわ・・・。 そもそも銃弾が音も無く飛んでくること自体がおかしいッ! 何かの魔法・・・アイテムで音を消しているの?」
徐々に冷静さを取り戻してきたリーベは、ミアのことについて思い出していく。
開けた場所は彼女から狙われやすいと、建物の陰へと走って向かい、路地を移動しながら、ミアを探す。
「彼女・・・錬金術士よね。 城でギルドに向かっていくのを何度か見たことがあるわ。 そして彼女は属性を使う錬金術に長けてる・・・、それも光や闇ではなく四大元素の方。 もし彼女が土地の属性を利用するのであれば? 聖都の土地の属性は・・・闇、または陰の属性・・・」
ミアの情報を思い返し、彼女を探しながらぶつぶつと自分に言い聞かせるように分析を口にする。
その間も、ミアの放つ無音の弾丸はリーベを狙い続け、予測できないところから飛んでくる攻撃に対処出来ず、ただただくらい続けるしかなかった。
「アンタ、元は狩人の民族だったらしいな・・・。聖都で便利な力に頼り、人相手に狩を行ってたせいで、狩人としての腕も誇りも失ってしまったようだな・・・」
「何ですって・・・。私の家族を・・・愚弄するつもり?」
珍しくリーベが声色と目つきを変え、感情を露わにする。
「自然の中で強く、逞しく者が相手ならアタシに勝機はなかっただろうね・・・。 アンタが”聖都の人間“で良かったよ」
皮肉なのか挑発なのか、はたまたリーベの為に言った言葉なのか、ミアのその言葉を聞いて、リーベは小さい頃に父親と、狩りに出掛けた時のことを思い出していた。
「いいか? 狩りは観察が大事なんだ。 獲物をただ追いかけるだけでは決して上手くいかない。 痕跡というのは、見た目以上に多くの情報を持っているんだ」
聖都で使っていた“光”に溺れ、その機能を失っただけで取り乱すほど、リーベは自分が狩人として落ちぶれてしまったのかを知り、かつての感覚を取り戻そうと、意識を集中させる。
リーベの表情が変わった。
彼女はミアの言葉に、聖都の騎士としてでは無く、狩人の自分として戦おうとしていた。
「そうね・・・。 いつからかしら・・・、今に追われ昔を忘れてしまっていたのは・・・。 忘れたい過去しか私にはなかったけれど、忘れてはいけないことも確かに私の中にあったのよね・・・。 感謝するわミアさん、今度は狩人として貴方と戦うッ!」
リーベは目を瞑り、その場に立ち尽くしている。
ミアは、彼女を狙い、無音の弾丸を放つと、リーベはこれを間一髪のところで避ける。
だが、これまでと違い、目を見開いた彼女は、ミアを見つけたかのように一気に彼女のいる方向へと走り出す。
「何ッ!? 闇雲に走っているのかッ!? それにしてはヤケに方向が正確・・・!」
そんなことを考えている内にリーベは、建物を駆け上がりミアを見つけると、光の矢を一本だけ構え、ミアに向けて勢いよく放つ。
「くッ・・・!!」
光の矢は一本だけではあるが、そのスピードと貫通力は宛らレーザーのように飛んでいき、ミアのいた建物を崩壊させる。
土煙と瓦礫の物音に身を隠し、素早くその場を離れるミア。
相変わらずその動きからは、一切の物音がしない。
リーベは辺りを見渡すと、土煙の中で僅かに地面に残る足跡を見つけると、正確にミアの後を追い始める。
「どうやって場所を特定している・・・?」
建物の間を、追ってくるリーベの視界から外れるように、右へ左へと移動しながら、無音の弾で地面や壁などを撃ち、追跡を撹乱させる工作をする。
「・・・音や攻撃の痕跡じゃない。 それならッ・・・!」
次にミアは、無音の弾であちこちの民家のドアノブを撃ち、建物内へと逃げ込む。
二階へと駆け上がり、今度は窓から隣へ移動し、外を走ることなく建物伝いに移動し始めると、追ってくるリーベの気配がやや遅れ出す。
「気づいたようね・・・。 それならそれで、じっくり探すまでッ!」
リーベは上空に光の球を打ち上げると、球は宙に浮いたまま固定され、彼女はミアの足跡が途絶えた民家へと入っていく。
走ることをやめ、民家の中に残る痕跡をじっくりと観察していくリーベ。
「追跡が途絶えた・・・。 何とか巻けたようだな」
彼女の追跡を巻くことには成功したが、お互いに相手の位置が分からなくなったのも事実。
今度は、物音を立てないようにゆっくりとリーベの位置を探し出そうとするミアは、外の上空で光る何かに気付く。
「・・・ッ!? アレは何だ?」
咄嗟に壁に隠れ、磨き上げた銃身を鏡のように使い、外に打ち上げられた光を見る。
「動かない・・・。 攻撃のためのものではない、恐らく探索のためのものだッ・・・。 アレがどうやってアタシを探知するのかは知らんが、下手に姿を晒さない方が良さそうだ・・・」
ミアは窓から離れると、直接光が見える外や窓の側を避け、慎重にリーベの位置を探り出す。
隣の建物へ移り、高い位置に登り、上からリーベを探そうとする。
すると、床の建てつけが悪いのか、小さな隙間から下の階の明かりが見える。
それを確認しようと、覗き込んだ瞬間、下の階が一気に光だし、身の危険を感じたミアは、すぐに窓から外へ出ると、先ほどの建物がまるで地面が噴火したかのように、下から上へと突き上げるように崩壊する。
その中心部にいたのは、いつの間にここまで接近してきていたのか、リーベの姿があり、逃げるミアの方をゆっくり振り返る。
何を言うこともなかったが、ミアは彼女の追跡にプレッシャーを感じ、動揺する。
「クソッ・・・! 索敵の技術は向こうの方が上だッ・・・。何か別の・・・ッ!?」
リーベを出し抜く方法を考えているミアの目に、信じられないものが映り込む。
それは逃げ遅れたのか、小さな子供が二人、動乱の起こるこの街を、手を繋ぎながら物陰伝いに移動してる姿だった。
それはミアが、ギルド通いで仲良くなった姉弟のウッツとエルゼだったのだ。
ミアはすぐに建物から外の路地に飛び出すと、二人の元へ駆け寄る。
「何してるッ!? 何故まだ避難してないんだッ!?」
小声で二人に問うミア。
「ミアッ! よっよかった・・・。 避難してる途中でモンスターに襲わわれてッ・・・! 騎士の人達が助けてくれたけど、それでも抑えきれないくらいモンスターが強くて・・・。 それで、崩れた瓦礫の下敷きになっちゃったの。 大きな怪我はなかったけど、気を失ってて・・・。 目が覚めたのもついさっきなの」
涙を浮かべる弟ウッツをなだめながら、姉エルゼが経緯を説明してくれたが、何故リーベはこの子達の気配は探知できなかったのだろうと、少し疑問に思った。
そうしているうちに、何かの足音が近づいて来るのを感じ、ミアは咄嗟に二人を抱え物陰に隠れる。
「すまんが今はそれどころじゃないッ! 少しの間、静かにしていてくれッ・・・」
二人の口を手で覆いながら、そう言い聞かせると、ウッツもエルゼも頷いてミアに従った。
足音は近くで止まると、そこで探索するように物音がし出す。
その様子を、固唾を飲んでやり過ごそうとするミアの額に汗が滲む。
足音は暫くすると、その場を離れていった。
徐々に遠ざかる足音に安堵するミア。
その時・・・。
安心して息をつくミア達のすぐ横の壁を、光る何かが突き破ると、空いた穴から土煙と共にリーベが姿を現わす。
「見つけたわ・・・、ミア」
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