World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
59 / 1,646

降注ぐ恩寵の矢

しおりを挟む
シャルロットが向かっているであろう城内に向かう、ミアとツクヨ。

聖都の敷地内では、先程まで戦っていたような上位のモンスターが未だに各地で暴れている。

そんな折り、二人の向かう先にモンスターの強襲に押されている一団が、視界に入る。

「チッ! 急いでいるんだがな・・・」

「それでも、危険に晒されてる人は放って置けないッ! ミア、助けよう!」

ミアは仕方がないという様子で、走りながら銃に弾を込める。

モンスターの攻撃が女性に当たろうかというところで、ミアの放った銃弾がその攻撃を弾く。

「・・・ッ!?」

「銃弾・・・? あッ! ミアさん! 助かったっス!」

モンスターに襲われていたのは、ミアを聖都の城門まで案内してくれたナーゲルと、ルーフェン・ヴォルフの一行だった。

「ナーゲル!? 何でアンタがここに・・・? 聖都へは入らなかったんじゃないのか?」

「緊急事態っスからね・・・。 そんな場合じゃないってやつっス! それにアジトへの通路が軒並み進入不可になってるんスよ・・・」

困った様子のナーゲルに、先程助けた女性が申し訳なさそうに謝る。

「ごめんなさいッ! 私達があんな物を使おうとしたばかりに・・・。 まさかこんな事になるなんて・・・」

「どういうことだ・・・?」

事情を知らないミアが、その女性に問いかけると、ナーゲルが彼女を庇うように話し始める。

「何言ってるんスか、ナーゼさん達は自分達、組織の活動や国のためを想ってやってくれたことなんスから、気にする必要はないっス! 悪いのはそれを悪用した奴なんスから!」

「ナーゲル。 一体何が起きてるんだ? 説明してくれ」

どうやらこの女性は、ナーゼというルーフェン・ヴォルフの幹部だという。

他の組織の隊員がモンスターを食い止めている間に、怪我を負ったナーゼを安全な所に移動させるミア達。

「ミアッ! 私は彼らとモンスターを抑える」

ミアが頷くのを確認すると、ツクヨは剣を構えモンスターに向かっていった。

ナーゼを抱え、ナーゲルは少し困った表情で答える。

「自分も全部を知ってる訳じゃないんス・・・。 ただ、ナーゼさん達が他国から仕入れた移動ポータルを作るアイテムがあるんスけど、それが突然稼働し始めて、モンスターが国中に入って来てるみたいで・・・」

ナーゲルの話を聞いて、ミアは疑問に思うことがあった。

この異常が起きた世界ではどうか分からないが、ミアの知る限り、WoFではアイテムというのは、誰かが使って始めて効果を発揮するものだった。

それは例え人間ではなくとも、野生動物やモンスターの接触などによって発動するアイテムもあるが、移動ポータルを作るというような高度なアイテムは、人間の手によってでないと発動しない。

「待ってくれ。 アイテムが誤作動で稼働したのか? それとも・・・誰かが・・・?」

ミアの言葉にナーゲルは頷く。

「ミアさんの思っている通り・・・だと思うっス。 誰かがアイテムを使ってモンスターを招き入れた可能性があるっス。 それに・・・実はモンスターだけじゃないんスよ・・・。実際、こっちの方が問題で・・・」

表情の曇るナーゲルに、問いただすようで申し訳ないと思いつつも、ミアは知らないその“何か”が気になってしまう。

「何だ、モンスターの他に何かあったのか?」

「・・・毒っス。 それもアジトの階段付近に撒かれていて、中にいた人達はみんな毒に侵されて・・・倒れていったっス・・・。 自分達はちょうど外にいたから助かったっスけど、毒のせいでアジトに入ることも出ることも出来ない状態になってるっス・・・」

「それは・・・アジトに通じる出入り口、全てに起こっているのか?」

ミアの問いに、ナーゲルは頷く。

もしそれが本当だとするならば、甚大な被害になることは免れないだろう。

アジトはそもそも、聖都ユスティーチ国内の地下にある張り巡らされているため、それを全て封鎖され、地下通路に充満しているとなれば、中にいた者達はひとたまりもない。

「ミアさんッ! 自分・・・聞いたっス。 ミアさんは錬金術士なんスよねッ!? なら解毒薬とか何か作れないっスか!? みんなを・・・助けて欲しいっス・・・」

あんなに明るかったナーゲルの、今にも泣き出しそうな震え声に、ミアは胸を痛める。

どんな毒性を持った毒なのかも分からなければ、彼の話を聞く限り、何とか地下から這い出てきた人達も倒れていってるという。

騒動が起きてからそれ程時間は経っていない、それでも既に倒れている、彼は言葉を濁したが、恐らく死んでいるということから、速効性のある毒だとミアは推測した。

「誰に聞いたか知らないが、・・・すまない、状態を見てみない限りは何とも言えない。 それに・・・解毒できる可能性は低いと思う。 だから・・・期待はしないでくれ」

ミアは濁さず、ありのままをナーゲルに伝える。

それが彼らのためでもあり、他ならぬミアのためでもあったからだ。

不用意に安心させるよな言葉をかけるのは、時として人の激しい恨みを買うことになる。

思わず漏れる小さな呻き声をグッと堪え、ナーゲルは再び力強い瞳へと戻る。

「そうっスね・・・。 今はただ、今出来ることをするのが先決っスもんねッ! まだ助けを待つ人達のためにッ・・・スねッ!」

彼の心を強く持とうという意志に、ミアの気持ちも鼓舞されてかのように勇気づけられる。

「ミアッ! 話は済んだか!? 悪いけど手を貸してくれると助かるッ・・・!」

モンスターを抑えていた隊員とツクヨが、押されだした。

ミア達が最初に戦ったモンスターもそうだったが、モンスター自体のレベルが高く、どうしても複数人でなければまともに戦う事すら出来ない状況だった。

「自分達も戦うっス! ナーゼさんッ! 近くに人の気配はないっスか? 出来る限り纏まって戦った方が良いと思うっス!」

ナーゼは広範囲に渡り、生き物の香りを探知することができ、範囲内であればどこに何人、どれくらいの戦闘力を持った者であるかを探ることができる。

「少し前まであった小さな気配は、既に私の範囲を出たわ。 街の人達、上手く避難できたみたいね。 ・・・良かった」

避難しているであろう人々の安否を確認し、無事逃げられたと知り、ホッと胸をなでおろすナーゼが、次に探知したのは、避難した人々とは逆に、こちらへ向かってくる気配だった。

「何か・・・強い力を持った人が、こっちに向かって来てるッ!」

「“人”なんスねッ!? 良かった。 援軍がくるっス!」

気配の存在が人であることを知ると、ナーゲルは援軍だと安心したが、ナーゼはその気配に何か違和感を感じていた。

「でもおかしい・・・。 凄いスピードでこっちに向かって来てるわ。これは・・・“人”の動きなの・・・?」


その時、上空から強い光が放たれると、空から無数の光の矢が降り注ぎ、まるで砲撃でもされているのかと疑う程の衝撃が無数に走る。

モンスターはいくつものの光の矢に貫かれ、声を上げることも出来ず粉砕された。

「すっすげぇ・・・」
「これは一体・・・」
「こんなことが出来るのは、聖騎士隊の隊長クラス以外に考えられない!」
「助かったぁー・・・」

隊員達は、安堵する。

ツクヨも唖然とした後、剣をしまうとミアの元へと歩き出す。





しかし・・・。





ツクヨの表情が急変し、ミアの元へと何かを叫びながら走り出す。

ミアは、急なことで何を言ってるのか分からなかった。

ナーゲルは、次第に明るさを増してくる空の光に、顔を上げる。

彼は目を見開き、咄嗟に頭を抱えながら、前方へと身を投げ出す。

少し遅れて、ミアも空を見上げてみると、今度は数本の棒状の光が、こちらに向かって降ってくる。

光が何なのか、何を狙って降ってきているのかは分からなかった。

ツクヨがミアの元にたどり着くと、走る勢いのまま彼女に飛びかかり、地面へと押し倒した。

それと同時に、数本の光が地面へと突き刺さるのが見えた。


ミアは上体を起こすと、目に入ってきた光景に言葉を失う。





降ってきた光は、ルーフェン・ヴォルフの隊員達の身体に突き刺さると、まるで串刺しにされたかのように固定され、動かなくなっていた。

嫌な予感を背筋に感じたミアは、ゆっくりと後ろを振り返る。






「ナーーーーーゼぇぇぇーーーッ!!」


ナーゲルの悲痛の叫びが、辺り一帯に響き渡る。

ナーゼも隊員達と同じく、光に貫かれ、串刺しの状態で立ったまま固定されていた。

「ぁ・・・あぁ・・・、ナ・・・ゲル・・・」

凄惨な状態にも関わらず、貫かれた者達は誰一人血を流しておらず、身体に損傷も見当たらない。

ただ、皆一様に魂を抜かれた人形のように身体がそこにあるだけだった。

特殊なスキルを持ち合わせていたナーゼだけが、何とか意識を保っているが、それも時間の問題だろう。

瞳から徐々に生気が失われていき、虚ろになっていく。

「ナーゼッ! ダメだッ!! しっかりッ!! ・・・ナーゼッ!!!」

ナーゲルのかける言葉も虚しく、彼女の生命はそこで事切れた。

一体何事なのかと、辺りを見渡すミア。

すると、ある街並みの一角にだけ、スポットライトのように優しい光が降り注いでいるところがある。

羽のようなものがヒラヒラと舞い、そして光を一身に受け、地に降り立った羽を生やした白銀の甲冑姿の人がそこにいた。

そしてゆっくりと立ち上がると、背を向けたまま、その人物は語りかけてきた。

「神の元へ御身を贈って差し上げようというのに・・・。 恩寵は、素直に受け取るものですわ」

聞き覚えのある口調、そしてその者のためにあつらった白銀の甲冑姿に、不気味なまでの愛の包容、全てを見透かしたかのような瞳。

忘れもしない。

その者の名は、聖都ユスティーチが誇る、正義の名の下に悪を裁く、聖騎士隊隊長リーベ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...