World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
50 / 1,646

ギフト

しおりを挟む
「シン君、そこまでにしておきましょう」

朝孝がイデアールとの模擬戦に区切りをつける。

もう少しイデアールの槍から、長物との戦い方、中距離から遠距離の特徴や対策について学んで起きたかったが、既に“自分に出来ることをする”という、戦いの中での贈り物を受け取ったのもあり、あまり長く彼を引き止めてしまうのも悪いと思い、シンは朝孝の判断に従った。

「もういいのか? ・・・そうだな、時間が余ってしまったから、明日の仕事を前倒しでやってしまうのも良いか・・・」

どうやらイデアールの今日の、仕事か任務か分からないが、やることは終わってしまったのだと呟いた。

それを聞いたシンは、稽古のお礼にと、彼の仕事を手伝うと申し出る。

「イデアール、稽古のお礼をしたい。 その仕事とやら、俺にも出来る事だろうか?」

「稽古だなんて・・・、俺は大したことはしてないし、いい運動にもなったから別に気にしなくていい」

彼はそう言ってくれたが、次にいつ会えるか分からない彼にシンは、返せる時に恩は返しておきたいと思うようになっていた。

それというのも朝孝の昔の話を聞いてシンは、自分達のようにゲームの世界であるにも関わらず、現実のように痛みや苦しみがある世界でシン達の存在とは、明確に生命体であるのか、それともデータであるのか、実にあやふやな存在である。

故に、いつどうなるかも分からない常態で、自分達へ親切に接してくれたり、施しをしてくれる人達といつ会えなくなるか分からない。

朝孝が、武蔵や卜伝に危険が迫る日本から送り出され、二度と会えなくなってしまったこと、彼は今でも二人に会えることなら会いたい、会ってちゃんとお礼を言いたいと、後悔しているのを聞いていたからだ。

「何かをしてもらったら、何かを返す。 この国が掲げる“思い遣りの心”と同じだろ? 朝孝さん、構いませんよね?」

朝孝は勿論というように頷いてくれた。

シンの言葉に負けたよというような表情をし、イデアールは少し考えた後、シンに手伝ってもらう事について説明する。

「そうだな・・・、それなら聖都から市街地へ運ぶ物があるんだが、それを手伝ってもらおうか」

「勿論だとも! それじゃ朝孝さん、アーテム、少し行ってきます」

イデアールの稽古のお礼に仕事を手伝いに行くのを、朝孝は笑顔で送り出してくれ、アーテムもこちらを向きはしなかったが、手をダルそうに振りながら送り出してくれた。

こうしてシンは、イデアールと共に聖都へ赴くこととなる。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





イデアールが道場を訪れる二、三日前の事。

聖都ユスティーチへ、他国から訪れていた商人を護衛するというクエストを受け持ったルーフェン・ヴォルフの幹部達が、無事商人を自国へと送り届けていた。

「いつもありがとね、兄ぃちゃん達! 助かるよ、主に金銭的に」

商人の男はいつものように荷台の中から小袋を取り出すと、護衛を果たしてくれた者達に報酬の品を払う。

「俺たちしがない商人にとっちゃ、騎士様に護衛を頼むと懐に響く。 その点、安く引き受けてくれるアンタらには感謝してるよ」

「いいってことよ! 俺らには俺らなりにやらなきゃならない事をやってるだけだからな!」

聖都ユスティーチ全土の安全は、騎士隊によって保証されている。

しかし、ユスティーチを訪れる商人達の護衛は、国外ということになるので、そこから先は依頼、又はクエストという扱いになる。

国外からも、聖都の騎士の実力は高く評価されており、彼らが護衛についた者達は、誰一人危険な目にあったことがないと言われるほど信頼されている。

護衛は、聖騎士と騎士で別れており、報酬が変わってくる。

商人の程度にもよるが、ユスティーチの護衛となればそれなりの額となるため、毎回頼んでいては、厳しくなる者も少数いる。

そんな彼らのためにルーフェン・ヴォルフは、格安の報酬、或いは情報の提供などで受け持っている。

この活動は彼らの組織としての顔を広める意味でも、ユスティーチという国が貧困の者の為に対策を講じてくれているという意味でも、他国へのアピールになる為、シュトラールもこれを容認してくれている。

「それより・・・、前に話していたアイテムの話なんだが・・・」

ルーフェン・ヴォルフ幹部の者が、商人に話を持ちかける。

「あの件ならもう発注しておいたよ。 そろそろ聖都に届く頃じゃないかな?」

「ホントか!? ありがとよ! 助かるぜ。 アーテムの兄貴へ良い贈り物が出来そうだ!」

アーテムの口調に影響を受けた幹部の男が、商人の手を掴み感謝を伝える。

ルーフェン・ヴォルフ幹部、クラレ。
ナーゲルと同じく小柄で素早い動きを得意とする少年で、アーテムを兄貴と慕う。

「これで私たちの活動も、大きく変わるね!」

ルーフェン・ヴォルフ幹部、ナーゼ。
茶色髪を腰辺りにまで伸ばした、糸目で大人しい様子の少女。ナーゲルやクラレよりも年上で、匂いを嗅ぎ分け索敵したり、行動を先読みすることが出来る。

「俺たちの行いが広く知れ渡れば、救える命も増える筈だ・・・」

ルーフェン・ヴォルフ幹部、ブルート。
細剣と言われる刺突用の剣を得意とし、華麗な剣技で相手の血液を抜き取る戦い方から、怒らせたくない人間としてルーフェン・ヴォルフでも有名な細身の青年。

「さぁ、行こうか。 シュトラール殿が許可をお出しになれば良いが・・・」

ブルートは繊細で心配性なこともあり、護衛を行う際や、物事を進めるときは準備を整えたがる。

「大丈夫だろ!? 良いことしてんだし。 なぁ、ナーゼ?」

「私も大丈夫だと・・・思う。 危険なものでもないし・・・」

三人は、商人と別れを告げ、聖都ユスティーチの帰路へと向かう。





その頃、聖都では他国との貿易で入ってきたアイテムや商品などの査定をしていた。

「これは・・・、シュトラール様。 ルーフェン・ヴォルフ宛に発注された物のようです」

コツコツと、高貴な履物の音を立て近く男。
白髪の長い髪を、小さな銀の筒が少量ずつ複数に渡り束ね、顎から鼻まで覆う黒いマスクには空気を清浄するようなファンが付いている、変わった装飾をしており、真っ白い羽織りものに聖都の紋章が刻まれている。

「移動ポータルか・・・、時間系の魔法がかけられた回数制限のある移動手段のようだな」

アイテムを手に取って眺めると、それだけでどんな効果を持ったアイテムなのかを見抜いていく。

「あとで聖騎士隊に届けさせる。 別にして分けて置いてくれ」

作業をしている騎士達が、アイテムの分別を始めながら作業に戻る。

そこへ任務を終えたイデアールが帰還すると、シュトラールへ任務の報告と報酬を渡しにやってくる。

「シュトラール様、モンスター討伐の任、完了致しました」

聖都ユスティーチから北部にある山岳地帯に、頻繁に近隣の国へと現れるようになった上位のモンスター。

その調査と討伐の任務を任されていたイデアールは、調査報告とそのモンスターのドロップ品についてシュトラールへ話す。

「そうか・・・うん、使えそうだな。 ありがとう、イデアール。 怪我はなかったか?」

シュトラールは戦闘の任務やクエストへ送り出した騎士達に対して、手厚いケアと報酬をする。

彼にとって志を同じくする、正義をなす騎士という存在は掛け替えのないもののように、騎士達は感じており、そんな彼に敬意と感謝を忘れない。

「イデアール、休暇の後でも構わないのだが、一つ物運びをお願いしたい」

シュトラールの申し出にイデアールは、休暇など取らずとも直ぐに任に就くと答える。

「彼ら・・・、ルーフェン・ヴォルフへの品物だ。 市街地へは君が一番適任だろう。それと追加の物資も届けてやってくれ。 場所は・・・、彼らの使う“入り口”とやらに運んでもらいたい」

ルーフェン・ヴォルフの者達が、聖都側は知らないであろうと使っていた地下のルートだが、勿論のこと、王であるシュトラールが知らないはずもなかった。そしてそれは、聖騎士隊隊長の者も同じく、“入り口”について把握していたのだった。

「追加の物資ですか・・・。この前、定期の分を送りましたが追加でですか? その・・・失礼だったら申し訳ないのですが、まさかシュトラール様がここまで彼らに協力的であられるとは思いもしなかったもので・・・」

そもそもシュトラールの“悪を根絶やしにする”思想と、ルーフェン・ヴォルフの“正せる者は正すべき”の思想は、よくぶつかり合っていた。

だが、それも民の為なのだとシュトラールは彼らの活動を禁止にはしなかった。

そしてそんな彼らに、武器やアイテム、食料などの物資を提供している上、追加で物資を送るシュトラールの行為に、てっきり敵対心を持っていると思っていたイデアールは驚いたのだ。

「彼らも、彼らなりに聖都ユスティーチのことを考えてやっていることだ・・・。これは私からのギフト・・・だよ」

シュトラールは物資に手を置き、何かを想うようにイデアールに話した。

そんなシュトラールの話に、イデアールは感銘し、喜んでその任に就くことを彼に告げた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...