World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
44 / 1,646

聖都での出逢い

しおりを挟む
リーベと別れた後、ミアは一人、調合士ギルドへと入っていく。

ミア本来のクラスを隠すために、偽りのクラスを探すフリをしていたが、実際ミアのダブルクラスである錬金術士にも、関係がない訳ではない。

錬金術士へクラスアップする際に、調合士のスキルも必要になるからだ。

そしてミアのメインクラス、ガンスリンガーとの相性も抜群で、調合による弾の生成や、モンスターのアイテムや薬品などと組み合わせた後に、更にそれを弾丸と調合する事で、特殊な効果のある弾を創り出すこともできる。

「流石・・・、各国との貿易が盛んに行われてるだけあって、ちょうごうの資料が豊富だ」

ガンスリンガーは武器だけで攻撃することはなく、必ず弾が必要になる。

その為、戦闘の前準備が重要になるクラスなので、弾切れを起こすと攻撃手段が極端に限られてしまうので、その対策に他の武器を使用するクラスと合わせる人も多い。

要は組み合わせ次第、ミアはメインクラスのガンスリンガーを更に活かすため、もう一つのクラスに錬金術士を選んだ。

「シンには悪いが、少し用事が長くなりそうだな・・・」

ミアが調合の資料を物色していると、珍しいアイテムを運んでいる子供達が目に入った。

「ねぇ、君たち。 それは一体何だい?」

店で売られているような物ではないように見える。

「これ? これはクエストの報酬の品だよ。 騎士様達がこなしたクエストの報酬は聖都の発展や研究、他にも商品として店に陳列したりするんだ」

どうやらこの子供達は姉弟であり、弟のウッツ、そして姉はエルゼと名乗り、その品を運ぶ仕事をしているのだと応えた。

かと言って仕事は強制という訳でもなく、この都市は年齢に関係なく働くことができ、それで生活をしたり、お小遣い稼ぎをしているのだと教えてくれた。

ゲームで例えるなら、荷物運びのクエストを行なって報酬を得ているということだ。

その荷物を何処へ運ぶのかと尋ねると、どうやらそれはここ、調合士ギルドのショップだという。

調合の資料だけでなく、ショップにも興味を引かれたミアは、その子供達に同行することにした。

「おじさん! 持ってきたよ」

調合士ギルドのショップへ荷物が届く。
男は子供達から荷物を受け取ると、ざっと中身を確認し、報酬を子供達へと渡す。

「いつもありがとな! お前達」

「お客さん、連れてきたよ!」

姉のエルゼがショップの男に、ミアをお客だと紹介する。

ミアは商品を見にきただけだったが、客として紹介されてしまっては、何も買わずに去る訳にもいかなくなる。エルゼは子供の割にはしたたかだった。

「そうだな、じゃぁ報酬にオマケをつけてやる!」

男が報酬を上乗せすると子供達は嬉しそうにハイタッチして喜んだ。

ショップの男はトーマスといい、調合士のクラスを活かし商売をしながら、商品のやり取りと共に、ギルドの研究に貢献しているのだそうだ。

WoFの世界で生活する人々の中には、元冒険者という者も少なくなく、冒険者時代のクラスを活かして、それを生業にする者も多い。

勿論、商人や農業といったスキルを突き詰めて、のんびりと生活することもできる為、必ずとも戦闘スキルが必要になる訳ではない。

ただそう言った場合、戦闘を生業とする者を雇ったり、聖都ユスティーチのように騎士や自警団がいる国や街で暮らさなければ危険となる。

姉弟と別れ、ミアはショップで商品を眺める。

安価で入手できるモンスターのドロップ品や、素材がいくつも並んでいる。無論、調合済みのアイテムも陳列されていたり、調合のレシピなんかも売られている。

いくつかモンスターの素材や調合済みのアイテム、そして使えそうなレシピを購入すると、ミアはトーマスに錬金術士のギルドは何処にあるか尋ねた。

彼に説明された通り進み、調合のスキルとはまた別のスキル。魔力を使い、更に質を上げたり、別の物に変えたり、そして四大元素などの属性を使ったアイテムの精製を行える錬金術士ギルドを訪れる。

国や街、地域によってその土地ならではの、属性の原子があり、ミアはかつてパルディアの街で“風”の原子を集め、メアに属性を込めた弾を撃ち込んだ事がある。

ミアは錬金術士のギルドで、この土地特有の属性について聞いてみると、驚きの回答が返ってきた。

「聖都ユスティーチの属性原子は、闇や陰になります」

「・・・え?」

正義や平和を謳っている聖都なのだから、属性はきっと聖や陽、光などの原子だとばかり思っていたミア。

聖騎士のクラスが使える属性スキルとは、真逆の属性がこの土地の原子なのである。

しかし、その土地の原子の属性が何であれ、他の属性が使えないわけでもなし、属性が弱くなることもない。

ただ、原子の属性と同じであれば、威力が強化されたり、能力が向上する他、その属性の調合率が上がったり、その属性のアイテムが精製できる。

ミアは調合士と錬金術士のギルドを行き来し、必要な物資を整えたり、新しい弾の精製、属性原子の収集を終えると、聖騎士の城を後にする。

城内から出て聖都を歩いていると、聖都内の繁華街に出る。

そしてそこで、違和感を覚える出来事に遭遇することになる。

ミアは、聖都を出て、市街地のルーフェン・ヴォルフのアジトへと帰ろうとしていた。

何気なく目についた男が、露店で食べ物を買おうとしているのだが、その男はシンやミアにとって聞き馴染みのある言葉を口にしたのだ。

「へぇ~、コレが100円で売ってるのか・・・。 俺のいた国ならぼろ儲けできそうだな」

基本的な知識として、ゲーム内の通貨というものは、そのゲーム特有の呼び方の通貨が使われる。

WoFでは、1ゴールドや10ゴールドというように、ゴールドという通貨になる。

それなのにこの男は今、“円”と言ったのだ。

ミアが咄嗟に思ったのは、この男はこの世界の住人ではない。プレイヤー、或いは自分達と同じ境遇にある者。

「なっなぁ、アンタ・・・」

ミアがその男に話しかけようとした時、彼の後ろの方から男に向けた言葉が女性の声で、聞こえてきた。

「もうッ! 一人でどっか行かないで下さいよ! また迷子になっちゃいますよ!?」

息を切らしながら、一人の女性がその男の元へと走って来た。

「あ・・・あれ? お知り合いの方ですか?」

女性がミアと男を交互に見る。

「え? ・・・あ、あれ? 私に何か・・・?」

男はミアと、その女性に挟まれ、慌てた様子で二人の方へ顔を向けると、最終的にミアの方へ向き、自分を指差しながら確認する。

「アンタ今・・・、“円”って言わなかったか?」

「円・・・? あぁ! 100円? えッ‼︎ もしかして貴方、日本の方ですか!?」

驚いたことにこの男は、現実世界での日本の通貨を知っていたのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

処理中です...