World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
43 / 1,646

隠し事

しおりを挟む
「ご安心下さい。 貴方が正しき人であるのならば、これ程素晴らしい都市はありません」

リーベは笑顔でそう語るが、ミアは内心、彼女のその笑顔が怖くなった。

自分も何かちょっとしたことで他人に迷惑になるようなことがあれば、彼女の手によって裁かれるのかと思うと、とても笑顔でそうですねとは、言えなかったのだ。

「聖都に住む方々も、それを承知で暮らしています。だからこそ、みんな聖都での暮らしに満足していただけていると思います。 耐えかねて移住する者を止めることもありません」

ミアは、その言葉にだけは少しだけ納得している。嫌なら移住すればいいだけの話だ。

誰も閉じ込めている訳ではないのだから、危険を冒してまで聖都にい続ける事もない。そこは個々の選択の自由があるのだから。

だが、聖都に暮らすということは、自分の中の“悪”との戦いにもなる。自分の中で上手く消化できるかどうかで、この都市は天国にも地獄にもなる。

そして、この聖都に暮らす人の多さを見れば、外で生きる“不安の中での危険”よりも、約束された“安全の中での危険”にさらされる方が、自分の命が他人に左右されることの無い、自己責任で生きられる場所であることを物語っている。

「お話はこの辺で。 ほら、見えてきましたわ。 あれが聖騎士達の本部で有り都市の中枢を担う城です」

リーベの言葉に、ハッと我に返り、当初の目的のことを思い出す。

「城の中には、各クラスのギルドや研究施設、国立図書館や生産施設などもはいっています」

「なるほど・・・、そりゃぁこれだけ立派な訳だ・・・」

目の前に聳える聖騎士の城は、そこが小さな国家でもあるかのような大きさで、警備も厳重に見える。

敷地内やその上空には、聖騎士と呼ばれる羽付きの騎士が、地上や上空から至る所に配置され巡回している。

「リーベ様、お疲れ様です! ・・・その方は?」

リーベへ敬礼をする聖騎士は、ちらっとミアの方を見る。

「外からの冒険者の方です。 ギルドへの案内で戻りました」

そういうとリーベはそっとミアに耳打ちをする。

「本当は手続きがあるのですが、私がいればその手間もありません」

「そ、そんなことをしていいのか?」

ミアは厳重な警備を見た後に、こんな簡単に入れてしまう事が本当に大丈夫であるのかを、リーベへ確認する。

「えぇ、勿論ですとも。 私達隊長は特別な恩恵を授かっておりますので」

特別な恩恵というものが、スキルであるのかは分からないが、対象者である者、この場合ミアに接触っすることや視認することで、何らかの情報を読み取っているという可能性をミアは少し疑った。

或いは既に何かされているのか・・・。

城内に入りリーベの案内の元、調合士のギルドへと向かう。

敷地の中には聖騎士の他にも、一般の人も多く見受けられる。

こんな国の中枢へ他所の者が入ってきても問題はないのか、ミアはリーベへ尋ねてみた。

「人が多いな・・・、こんなに騎士でない者達が城に入ってき大丈夫なのか?」

「私達、聖都を守る立場である騎士達は、情報の開示を約束しています。隠し事というのは人に不信感を与え、人との繋がりに距離を作ってしまいます。そこから生まれる“悪”を避けるため、騎士達のことや、武器や防具、研究の成果や王の事まで全ての情報が、入城を許された者ならば確認することができるのです」

聖都に暮らす者や、入城許可が下りた者であれば、分け隔てなく情報が解禁されているのには驚きだ。

それだけ騎士と一般の者との隔たりを無くし、寄り添うことが出来るのは、互いの信頼が保証されているからこそだと言える。

「勿論、他国のことは厳禁になっていますけどね。 それでも、話せる内容は他国の確認が取れたものに関しては知ることもできます」

他所の者の情報に関しては、当然と言えば当然だ。ただそれだけ情報が解禁されてるのであれば、他国のスパイがいくらでも情報を外へ持ち出せそうなものだが。

「漸く着きましたわ。 ここが調合士のギルドになります」

リーベの案内で、だだっ広い聖都、そして城内を迷わず進むことができた他、手続きの省略までしてくれたリーベには、最早感謝しかない。

「何から何までありがとう。何かお返しが出来たらいいのだけれど・・・」

「気にすることはありませんわ。 貴方の気遣いこそ、私への褒美として受け取っておきます」

リーベは笑顔でそう言ってくれた。

なるほど、こういう事かと、ミアは身にしみて分かった気がした。

本来、見知らぬ土地や環境へ行くというものは、緊張や不安から身構えてしまうものがあるが、人への気遣いや感謝がこれ程までに、心を穏やかにし、温かくするものであるのか、こんな気持ちでずっといられるのであれば、成る程確かにここ、聖都は正しき者にとって楽園と呼べるものだろう。

「それじゃぁ、これで・・・」

と、ミアがリーベへ別れを告げようとした時。

「それと・・・、錬金術師のギルドは調合士ギルドの先にあります。 この聖都では、四大元素の属性は得られないかも知れませんね・・・」

ミアは、背筋がゾクッとした。

それはミアとシンが、聖都ユスティーチを訪れてから隠していた事、上位クラスであることを見抜かれていたこと、そしてそれが、先程リーベが言っていた、“隠し事は人との間に距離を作る”ということから、ミアの心の中に”悪“がいるのではないかと、リーベに思われてしまったかと思ったからだ。

「ッ・・・!? 気付いて・・・」

ミアが話し出すよりも先に、リーベは背を向け、その場から離れ始めていた。

「ふふっ、それではご機嫌よう・・・ミアさん」

聖騎士隊の者達には、何も疑われなかった。

これが彼女の言う、授けられた特別な恩恵による力なのだろうか。

離れていく彼女の後ろ姿を、ミアは命懸けの綱渡りをするような気持ちで見送った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転生貴族の異世界無双生活

guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。 彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。 その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか! ハーレム弱めです。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと

Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】 山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。 好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。 やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。 転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。 そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。 更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。 これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。 もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。 ──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。 いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。 理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。 あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか? ---------- 覗いて下さり、ありがとうございます! 10時19時投稿、全話予約投稿済みです。 5話くらいから話が動き出します? ✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください

処理中です...