World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
23 / 1,646

決死の抵抗

しおりを挟む
ウルカノは魔法でベヒモスの目の周りに、黒い靄を発生させ視界を奪う。ベヒモスは突然周りが見えなくなったことに驚き、前足を浮かせ、靄を振り払おうとする。

その隙にウルカノは、サラとシンを両腕に抱え、ベヒモスから距離をおく。

「気を・・・つけてね・・・」

サラがウルカノを気遣う。
ウルカノは力強く頷くと、勢いよくベヒモスの元へと戻っていった。

ベヒモスの巨大な前足がゆっくりと降りてくる。地面は大きく揺れ、瓦礫は吹き飛び、土は土砂の波となって辺りへ押し寄せる。

大地を蹴り、大きく飛翔するウルカノ。
ベヒモスの背中に一体化するメアを発見すると、接近戦へ持ち込もうとする。

大きく腕を引き、飛ぶ勢いに乗せ力任せに殴りに行くウルカノ。メアは厄介なことになったかのように、舌打ちしながらベヒモスへ合図を送る。

するとベヒモスの巨大な身体は左右に大きく揺れる。犬などの動物が身体に水をかぶってしまった時にする仕草を、この巨体がやるのだ。

頭部から背中にかけて生えている赤黒い鬣が大きく振られ、ウルカノの進行を妨げる。堪らず、一度背中に着地してから飛び上がる。

上からはメアの様子がはっきり捉えられる。メアは再びベヒモスに合図を送ったようで、その巨体が再度立ち上がる。

二体の魔物が目を合わせる。ベヒモスはまるで爆発音のような咆哮をエリア一帯に響き渡らせるとウルカノを威嚇し、右の前足を大きくウルカノ目掛けて振り抜く。

機敏な動きでベヒモスの一撃を避けるウルカノだったが、振り抜いた大きな前足の後を追うようにやってきた風に巻き込まれ態勢を崩してしまう。

そこへ左前足の第二撃目が襲いかかる。
振り抜かれた前足に張り付くように身体が押し付けられていまう。そのままの勢いで地面へと叩きつけられるウルカノ。

どうだと言わんばかりに雄叫びを上げるベヒモス。それを盛り立てるように雷が鳴り始め、至る所で落雷が発生する。

辺りは火の海となり燃え始める。
ウルカノは瓦礫を吹き飛ばしながら立ち上がると、負けじと咆哮する。

激しい戦闘を繰り広げる二体の魔物。
そんな傍らでシンは意識を取り戻す。

なんとサラの回復にシンは、万全とまではいかないが戦えるまでに復帰していたのだ。

「サラ・・・これは一体・・・?」

「わからない・・・、でもミアが作ってくれた薬が効いたみたいなの・・」

ミアとサラが和解できた夜の出来事のことを言っているのだろう。サラの“自分も何かの力になりたい”という想いが、彼女に力を与えたのかもしれない。

「何故、アンデッド化してる俺を回復出来るんだ・・・?」

シンは戦闘中、自身の体力の回復を試みた。しかし、彼が得たのは回復という形ではなく、ダメージによる衝撃と絶望だった。

だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。シンは起き上がるとサラにお願いをする。

「サラ、ミアも頼む」

「勿論よ・・・!」

サラはその為に来たのだと、力強く頷いてみせた。シンはサラに、ミアが倒れている場所を教えると、彼女は魔物達の戦いに巻き込まれないよう、迂回してミアの元へと向かった。

しかし、シンは見逃さなかった。
サラは強がって見せていたが、彼女の表情には疲労が見えた。恐らく戦闘の経験はおろか、ろくにスキルを使った経験がない彼女には負担が大きすぎるようだ。

果たしてミアをどこまで回復できるか、或いは回復出来るのかも分からない。それでも、彼女の力に頼らざるを得ない。きっとミアの身体もシンと同じく、サラのあの力以外の回復手段は受け付けないだろう。

そしてシンも再度戦場へと舞い戻る決意をする。

落雷による炎は、ベヒモスの攻撃や土砂の波によって粗方鎮火していた。しかし、戦況は依然として不利なまま。それどころかウルカノのダメージは蓄積されていく一方なのに対し、ベヒモスには殆どダメージはなく、動き回るだけで甚大な被害をもたらす。

ウルカノよりも更に小さいシンが一人加わった程度でどうこうなるとも思えない。

「すまない・・・、待たせたなウルカノ」

「マニアッテ ヨカッタ」

ボロボロの肉体を何とか起き上がらせるウルカノ。

「何故だ・・・? 何故、奴は復活できた?アンデッド化は治らない筈だ・・・。 回復などあり得ない・・・」

メアは今までに経験したことのない動揺を隠しきれない。アンデッド化に関してはメアの身体も彼等と同じ状態にある。戦闘中の回復手段はなく、戦闘終了後に体力が元に戻るといった現象を利用して今までやりくりしてきた。

そもそもメアの体力自体も、この境遇になる以前とは比べ物にならないほど高く成長している。これは黒いローブの男によって与えられた力の影響によるものが大きく、エリアのボスとしてのステータスに引き上げられたからだ。

それも正規の方法ではなく、異質な力による能力の引き上げだ。死のリスクに伴ったものだと言えるだろう。

「あの娘か・・・」

メアはサラに目をつけた。
彼女が現れてからシンにしていた回復行為に何か秘密がある。

「原理は分からんが、また回復されても面倒だ・・・。 回復手段を持つ者から始末しないとな・・・」

メアはベヒモスの標的をウルカノ達から、サラへと切り替えた。巨獣の身体がゆっくりと向きを変える。

「ウルカノ、何か勝算は掴めたか?」

ウルカノは俯きながら首を横に振る。
しかし、ベヒモスの背中に乗った時、メアの表情が変わるのを見たとシンに伝えた。何か接近されることを嫌がっているような、そんな素振りだったと。

「勝算ではないが、試す価値はありそうだな・・・。 敵の嫌がることをしてやろう、そこから道が開けるかもしれない」

ウルカノとシンは互いに頷くと、自分達に背を向けてサラの元へ向かおうとするベヒモス目掛けて進む。

「俺が行こう・・・!」

「ノレ!」

そういうと腕を差し出すウルカノ。その腕に乗り、ウルカノが飛翔する。

近くまで飛んでいき、メアを目視出来る位置まで来ると、ウルカノはシンをメアの元へ向かって思いっきり投げた。

音を殺し静かに、しかしそれは放たれた一矢のように鋭くメアを狙う。

だがシンの目論見は、彼に憑いて離れない炎に包まれた悪魔レイスによって察知されてしまう。

「何!?」

「二度も同じ手は食らわんさ」

メアは不敵に笑う。

「不意打ちはお前の専売特許だからな! レイスには姿を消して警戒させておいたんだ」

メアは余裕を見せると、レイスの姿をまたけしてしまう。その後、またしてもベヒモスの巨体は大きく揺れ、シンを振り落とそうとする。

咄嗟に刀を取り出し、メアに向かって投擲するシン。飛んでくる刀の方向に手をかざし、チープな盾の魔法で弾かれ、刀はベヒモスの背中にくるくると回りながら刺さる。

どうやらこの程度ではダメージにすらなっていない様子のベヒモス。

そこへ、既に頭上に回り込んでいたウルカノが、メアに向けて闇魔法を放つ。黒い靄でできた球体が三つ、メアに向かって飛んでいくが、一球目はメアが盾の魔法で軌道をずらすと足元に落とされる。

しかし二球目、三球目は、メアのそれぞれ左右に別れて飛んでいき、メアの後方辺りで着弾する。球体の軌道上には黒い靄が残り、視界を妨げる。

メアの死角から高速接近を仕掛けるウルカノ。それをうけとめるようにレイスが姿を現し、両腕をがっしりと掴む。力比べと言わんばかりに、互いに力を押し合い睨み合う。

振り落とされそうになるシンは、ベヒモスの体毛を掴みながら、別の短剣を自分の影の中へと投げる。

短剣は影を通り、ウルカノの影から現れ、メア目掛けて飛んでいく。メアはそれを
冷静に腕に受け、ガードすると、シンが首を貫いた時と同じように、バチバチとエフェクトを走らせると、短剣を腕から引き抜いて捨てる。

「レイス!」

メアが声を掛けると、レイスはウルカノの両腕を一気に跳ね除け、力強くウルカノを殴り飛ばし、メアの側から姿を消すと、ベヒモスにしがみつくシンの側に腕だけで現れ、シンを振り落とす。

シンとウルカノを撃退すると、ベヒモスは再びサラの元へと進み始める。しかし、ウルカノが既にベヒモスの進路上に立ち塞がっていた。

「サラ ニハ チカヅケ サセナイ!」

ウルカノがベヒモスの顔目掛けて両腕を伸ばすと、その大きな顔を覆い尽くす程の黒い靄が飲み込んでいく。

巨獣が視界を奪われ暴れ始めている隙に、飛翔し背中のメアを目指そうとした。だが、上空から見たベヒモスの背中に、メアの姿はなかった。

「!? ・・・ドコヘ キエタ・・・?」

辺りを見渡してもメアの姿は確認できなかった。嫌な予感がしてサラの方を見ると、メアは既にサラの元におり、その小さな首を握り持ち上げていた。

「小娘・・・、一体何をした? どうしたらアンデッド化した者を治さずに回復できる? ・・・その力があれば、或いは・・・」

メアはその少女の回復スキルを使えば、村の人々も元に戻せるのではないかと考えていた。

「サラ!」

ウルカノは反転し、一気に加速するとサラの元へと飛んだ。

「メア! サラ ヲ ハナセ!」

勢いよくメアに殴りかかろうとするウルカノを、地面から突如現れた大きな骨の手が掴み取る。

「サラ! ウルカノ!」

着地の衝撃から何とか起き上がるシン。二人の元へ向かおうとするが、ベヒモスが暴れることによって発生する瓦礫や土砂により妨げられてしまう。

ウルカノを捕まえた者が、その姿をゆっくりと現す。そして徐々に増す、その青い炎によって身を焼かれ始める。

炎と共に現れた反対の腕が、ゆっくりと後ろに下がり助走をつける。そして腕は真っ直ぐウルカノへ向かうと、彼の腹部を貫いた。

「ゔぅ・・・!!」

首を絞められ、声を上げられないサラがその瞬間を目の当たりにし、声にならない声と共に、涙が頬を伝う。

「オォ・・・、ヴォオオオオオッ!!」

ウルカノは、自分を貫くレイスの腕を掴むと、最期の力を振り絞り砕こうとする。

今までにない力に、痛みを表情に出すレイス。ミシミシと軋む骨にウルカノの指が食い込んでいき、そして砕けた。

「ギィィ・・・、ァアアアァッ!」

それは初めて聞くレイスの絶叫。
しかし、すぐ様新しい腕が炎の中から現れ、今度は両手で虫の息のウルカノを、握りながら炎で焼いていく。

ウルカノも力の限り耐える。彼は全力でレイスに自分を攻撃させる。

ウルカノは、自分に残された最後の役目を理解し、覚悟した。

それはメアを倒すことでも、ベヒモスを倒すことでもない。

メアに魔力を消費させることだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

処理中です...