16 / 1,646
決断
しおりを挟む
少しずつ、少しずつ。
大切だった何かを忘れていってる気がする。
それが何で、何だったのか思い出せない。
少しずつ、少しずつ。
自分が何者だったのかを忘れていく。
何をしてきて、何をしようとしていたのか。
やがて自分の中に何もなくなり、空っぽの器だけが残った。
器は何かに動かされるように、運命を辿る。
やがてその行動から、新しい何かが器に入って新しい自分になる。
やるべき事が心の中に見えてくる。
それだけしか中になかった。
それしかないから、それに縋った。
また忘れて空っぽになるのが怖かったから。
ただただ、やるべき事成していった。
自分に与えられた役割を、ただただ成していった。
終わりを迎えるその日まで。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シンはサラと一緒にウルカノというデーモンの話を聞いた。
ウルカノは、シンのような冒険者は初めてだったと話した。今までサラを庇う者などいなかった。日々傷つくサラの心と身体を見ていくうちに、ウルカノの中にどこか終わりを求める気持ちが芽生えたのだという。
そしてシンと同じく事情を知らなかった人物。
サラもまた、村を脱した後どうなっていたかまでは知らなかった。
徐々に自分の身体に変化が起きていたことには気づいていた。それ故の包帯とローブなのだから。
その変化はサラの身をどんどんと蝕んでいった。見た目の変化は、街の人たちの見る目を変えた。
初めはサラの訴えに耳を貸してくれ、クエストの手配や、進んで身を乗り出してくれる冒険者もいた。
だがサラの変わり果てた姿を見るや否や、“病気が感染る”や“呪われた”などと言い、遠ざけるようになっていき、近づく者すらいなくなる。
そんなサラの姿を不憫に思ったある女性が、サラを匿い服や包帯を提供してくれた。それだけではなく、サラの事情を知った女性は、サラが行なっていたクエストの手配を手伝ってくれ、冒険者達にクエストを促すようなこともしてくれていたのだ。
そして、その話はいつしかミアの耳に入り、そしてシンの元へと届いた。
サラは村を救ってくれる冒険者を求めた。
だが事態はそう簡単な話ではなかった。
助けたいと思っていた人々は、アンデッドとなり村を彷徨い、人々を助けるためには、今や元凶となっているメアが、サラやウルカノ、そして村を救うために来てくれたシン達を倒さなくてはならない。
やっと出会えた信頼できるシン達を、同じ屋根の下で過ごした、家族のように思っていたメアに捧げなければならない。
それ故サラは今、悩み苦しんでいる。
こんな小さな少女には重たい決断だ。
そしてシンも言葉を失っていた。
彼にとっても簡単な話ではない。
助けると約束した少女の為に死んであげられる人が、果たしてどれだけいるだろうか。
自分の死が、少女と見ず知らずの村人達の命を救う。
シンもまた八方塞がりとなる。
「ココヲ ハナレタ ホウガ イイ」
重く苦しい静寂な空気を始めに破ったのはウルカノだった。
ここに長居しては、アンデッド化した村人に見つかるかもしれない。ウルカノはシンと村人、双方の傷つく事態を避けたいようだった。
「サラ、一度丘上の家屋に戻ろう・・・。ミアも戻ってくるかもしれない」
真実を知り、言葉を失うサラの肩にそっと触れると、丘の方へと向かせ、ゆっくりと歩き出す。
去り行く二人の背中に、ウルカノが言葉を投げかける。
「オワラセテ クレ。 ジガヲ ウシナウ
マエニ。 メアモ ソレヲ ノゾンデイル」
ウルカノの言葉にシンは振り返る。
そして視線をサラの方へと向ける。
サラは何も言わず、ただウルカノの言葉に足を止め、黙っている。
シンはその背中に触れ、再び二人は歩き出す。
日も沈み真っ暗になった頃、ようやく丘の上に辿り着く。すると、家屋に灯る明かりが目に入る。誰かが家屋にいる、心当たりなど一つしかない。
だが、足取りは軽くならなかった。
ウルカノから聞いた真実を知ってミアはどう思うのだろう。どう、答えを出すのだろう。
きっとミアは迷わない、そんな気がした。
そしてシンは心の片隅で思っている。
ミアなら正しい判断が出来る。
自分では決められない。ミアの意見を聞きたい。
シンはミアの決断に全て委ねようとしていた。自分では背負いきれない事情を、誰かに被せて楽になろうとしていた。
ドアノブを握り、ゆっくりと開ける。
そこには椅子に座り、机に肘をついたミアの姿があった。やはり帰ってきていた。
「ミア・・・」
「遅かったな」
ミアは落ち着いていたが、少し不機嫌そうな声色をしていた。
「結界のようなものがあってエリアからは出られなかった。 結界沿いに調べてもみたが、抜け穴はなさそうだった。・・・閉じ込められている」
ミアは、過去のメアと同じことをしていた。
そしてミアは、手にしたボトルを机の上に置いた。
「これはアンデッド化の状態異常を治す薬だ」
アンデッド化を治すと聞いてシンは驚いた。本当に治せるのなら、戦う以外の別の道ができる。全員助かる道だって・・・、そう思ったが、ミアはすぐにその考えが甘いものだとわかる言葉を言った。
「1本、私が使ってみたがアンデッド化は治らなかった。進行状態が戻るだけ・・・。これはシン、アンタの分だ。そして薬はもう無い・・・もう作れない」
「作れない・・・?」
シンはゆっくりと机に近づき、ボトルを手に取る。そしてミアは、シンに忠告した。
「街で調合してた時の余り物で作れた物だ。その素材はもうここにはない。どれくらいの進行度を戻せるのかは分からないし、ここにいる以上、アンデッド化は進む。・・・だから、大事に使いな」
アンデッド化が進めば、シンもミアも村の人々と同じように、自我を失い、彷徨える屍となってしまうのだろうか。
そんなことを考えながらも、シンもミアに話さなければならない大事なことがあった。
「ミア、君が出て行った後、俺とサラで村にいったんだ」
ミアは少しだけ驚いた様子だった。
「そこで昨日見かけたアンデッドデーモンに会ったんだ。 でもモンスターではなかった。そして彼から村の事や、このエリアに起きてる事を聞いたんだ」
「アンタ・・・、そんな危険なことを」
視線をサラへ向けた後、またシンの方を見る。無理もない話だ。シンとミアの2人がかりでも勝ち目のないであろう相手に、守らなければならない依頼者のサラを抱えて、シンだけで向かったのだから。
「あぁ、日の出てる時には、村にアンデッドやデーモンの姿がなかったから、時間帯で湧かないものだと思っていてんだ」
シンはあの時のことを思い出していた。
何もいないであろう村に訪れ、突然物陰から上級モンスターが姿を表したのだ。咄嗟の出来事に対し、シンは逃げずに良くやった方だろう。
「いや、それはいいんだ。それよりそのデーモンから聞いた事の方が重要なんだ」
そしてシンは、アンデッドデーモンのウルカノから聞いたことを、全てミアに話した。
村のこと、メアという人物のこと、クエストのこと、そして・・・サラのこと。
全てを聴き終えるとミアは、目を閉じ、呼吸を整えるように深くゆっくり一呼吸すると、椅子から立ち上がり、部屋の隅に腰掛けているサラの元へ歩いて行った。
サラは、ミアが歩いてくるのを見ると、俯いてビクビクと身体を震わせていた。
それも仕方のないことだ。
今朝、ミアはサラを床に押し倒し銃口を向けて怒鳴っていたのだから。
ミアはサラの前まで来る。
サラは、恐る恐るミアの顔を見上げると、目があったのか、咄嗟に視線を落としてしまう。
「サラ・・・」
そしてシンとサラは、彼女の行動に驚いた。
彼女の行動というよりも、シンもサラも、ミアがそんなことをするイメージがなかったから驚かされたというべきだろう。
「ごめんなさい」
ミアはサラに向かって、深々と頭を下げて謝ったのだ。
「何も知らなかったとはいえ、私は貴女に酷いことをし、傷つけた・・・」
サラは驚き、目を見開いたままミアを見続ける。
そんな彼女の驚きを尻目に、ミアは頭を上げると、ゆっくり腰を下ろし目線をサラに合わせる。
「許して欲しいとは言わない・・・。この失態の埋め合わせは、行動で貴女に示す。私は・・・メアを倒すよ」
彼女に迷いはなかった。
メアのことを聞いても、村の人々がどうなるか見えていても、ミアは決断した。
サラを助けるのだと。
ミアはシンの思っていた通り、迷ったりはしなかった。
そしてシンは、自分がなんと恥ずかしくみっともないものかと思う。
サラを助けるという目的を見失い、迷った挙句、最終的な決断をミアに任せ、それに乗っかろうとしていたのだ。
2人のやり取りを見届けると、シンは手にしたボトルを握りしめると、サラの元へと向かった。
サラはミアの決断を聴き、固まっていた。
家族のように慕っていたメアを倒すということに、そしてウルカノの終わりを望むという言葉に、彼女はまだ迷っている。
「シン・・・」
ミアは、サラの元まで歩いてきたシンを見上げる。
シンはボトルを開けると、それをサラに使った。
「シン!?」
ボトルから降り注ぐ光の粒子は、サラへ降り注ぎ、効いているのか効いていないのかは分からなかったが、サラからは回復に似たエフェクトが出ている。
「ぁ・・・」
固まっていたサラは、シンから与えられた薬の効果で我に帰る。
「これは俺の決意表明だ。そして自分への戒め・・・。俺も自分で選んで、そして自分で決断した。・・・サラ、俺もメアを倒す。君を救う」
シンはアンデッド化の進行度を戻す薬を断つことで、保険を断ち決意を固めた。迷いを捨て、ただ前へ進むという道を選ぶ決断をした。
シンの決意が届いたのか、アンデッド化を良くする薬はサラに変化をもたらした。
「こ・・・、声が・・・声が、出る」
シンは目を見開き、ミアと目を合わせる。そして再度サラの方を見ると嬉しそうに言った。
「薬が効いたようだな」
ミアはサラを抱きしめる。
「サラ・・・!」
「シン・・・ミア・・・、あり・・・がとう」
ミアに抱かれるサラの目からは、清く純粋な雫がこぼれ落ちた。
初めて聴くサラの言葉は、シンとミアに対する感謝の言葉だった。
大切だった何かを忘れていってる気がする。
それが何で、何だったのか思い出せない。
少しずつ、少しずつ。
自分が何者だったのかを忘れていく。
何をしてきて、何をしようとしていたのか。
やがて自分の中に何もなくなり、空っぽの器だけが残った。
器は何かに動かされるように、運命を辿る。
やがてその行動から、新しい何かが器に入って新しい自分になる。
やるべき事が心の中に見えてくる。
それだけしか中になかった。
それしかないから、それに縋った。
また忘れて空っぽになるのが怖かったから。
ただただ、やるべき事成していった。
自分に与えられた役割を、ただただ成していった。
終わりを迎えるその日まで。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シンはサラと一緒にウルカノというデーモンの話を聞いた。
ウルカノは、シンのような冒険者は初めてだったと話した。今までサラを庇う者などいなかった。日々傷つくサラの心と身体を見ていくうちに、ウルカノの中にどこか終わりを求める気持ちが芽生えたのだという。
そしてシンと同じく事情を知らなかった人物。
サラもまた、村を脱した後どうなっていたかまでは知らなかった。
徐々に自分の身体に変化が起きていたことには気づいていた。それ故の包帯とローブなのだから。
その変化はサラの身をどんどんと蝕んでいった。見た目の変化は、街の人たちの見る目を変えた。
初めはサラの訴えに耳を貸してくれ、クエストの手配や、進んで身を乗り出してくれる冒険者もいた。
だがサラの変わり果てた姿を見るや否や、“病気が感染る”や“呪われた”などと言い、遠ざけるようになっていき、近づく者すらいなくなる。
そんなサラの姿を不憫に思ったある女性が、サラを匿い服や包帯を提供してくれた。それだけではなく、サラの事情を知った女性は、サラが行なっていたクエストの手配を手伝ってくれ、冒険者達にクエストを促すようなこともしてくれていたのだ。
そして、その話はいつしかミアの耳に入り、そしてシンの元へと届いた。
サラは村を救ってくれる冒険者を求めた。
だが事態はそう簡単な話ではなかった。
助けたいと思っていた人々は、アンデッドとなり村を彷徨い、人々を助けるためには、今や元凶となっているメアが、サラやウルカノ、そして村を救うために来てくれたシン達を倒さなくてはならない。
やっと出会えた信頼できるシン達を、同じ屋根の下で過ごした、家族のように思っていたメアに捧げなければならない。
それ故サラは今、悩み苦しんでいる。
こんな小さな少女には重たい決断だ。
そしてシンも言葉を失っていた。
彼にとっても簡単な話ではない。
助けると約束した少女の為に死んであげられる人が、果たしてどれだけいるだろうか。
自分の死が、少女と見ず知らずの村人達の命を救う。
シンもまた八方塞がりとなる。
「ココヲ ハナレタ ホウガ イイ」
重く苦しい静寂な空気を始めに破ったのはウルカノだった。
ここに長居しては、アンデッド化した村人に見つかるかもしれない。ウルカノはシンと村人、双方の傷つく事態を避けたいようだった。
「サラ、一度丘上の家屋に戻ろう・・・。ミアも戻ってくるかもしれない」
真実を知り、言葉を失うサラの肩にそっと触れると、丘の方へと向かせ、ゆっくりと歩き出す。
去り行く二人の背中に、ウルカノが言葉を投げかける。
「オワラセテ クレ。 ジガヲ ウシナウ
マエニ。 メアモ ソレヲ ノゾンデイル」
ウルカノの言葉にシンは振り返る。
そして視線をサラの方へと向ける。
サラは何も言わず、ただウルカノの言葉に足を止め、黙っている。
シンはその背中に触れ、再び二人は歩き出す。
日も沈み真っ暗になった頃、ようやく丘の上に辿り着く。すると、家屋に灯る明かりが目に入る。誰かが家屋にいる、心当たりなど一つしかない。
だが、足取りは軽くならなかった。
ウルカノから聞いた真実を知ってミアはどう思うのだろう。どう、答えを出すのだろう。
きっとミアは迷わない、そんな気がした。
そしてシンは心の片隅で思っている。
ミアなら正しい判断が出来る。
自分では決められない。ミアの意見を聞きたい。
シンはミアの決断に全て委ねようとしていた。自分では背負いきれない事情を、誰かに被せて楽になろうとしていた。
ドアノブを握り、ゆっくりと開ける。
そこには椅子に座り、机に肘をついたミアの姿があった。やはり帰ってきていた。
「ミア・・・」
「遅かったな」
ミアは落ち着いていたが、少し不機嫌そうな声色をしていた。
「結界のようなものがあってエリアからは出られなかった。 結界沿いに調べてもみたが、抜け穴はなさそうだった。・・・閉じ込められている」
ミアは、過去のメアと同じことをしていた。
そしてミアは、手にしたボトルを机の上に置いた。
「これはアンデッド化の状態異常を治す薬だ」
アンデッド化を治すと聞いてシンは驚いた。本当に治せるのなら、戦う以外の別の道ができる。全員助かる道だって・・・、そう思ったが、ミアはすぐにその考えが甘いものだとわかる言葉を言った。
「1本、私が使ってみたがアンデッド化は治らなかった。進行状態が戻るだけ・・・。これはシン、アンタの分だ。そして薬はもう無い・・・もう作れない」
「作れない・・・?」
シンはゆっくりと机に近づき、ボトルを手に取る。そしてミアは、シンに忠告した。
「街で調合してた時の余り物で作れた物だ。その素材はもうここにはない。どれくらいの進行度を戻せるのかは分からないし、ここにいる以上、アンデッド化は進む。・・・だから、大事に使いな」
アンデッド化が進めば、シンもミアも村の人々と同じように、自我を失い、彷徨える屍となってしまうのだろうか。
そんなことを考えながらも、シンもミアに話さなければならない大事なことがあった。
「ミア、君が出て行った後、俺とサラで村にいったんだ」
ミアは少しだけ驚いた様子だった。
「そこで昨日見かけたアンデッドデーモンに会ったんだ。 でもモンスターではなかった。そして彼から村の事や、このエリアに起きてる事を聞いたんだ」
「アンタ・・・、そんな危険なことを」
視線をサラへ向けた後、またシンの方を見る。無理もない話だ。シンとミアの2人がかりでも勝ち目のないであろう相手に、守らなければならない依頼者のサラを抱えて、シンだけで向かったのだから。
「あぁ、日の出てる時には、村にアンデッドやデーモンの姿がなかったから、時間帯で湧かないものだと思っていてんだ」
シンはあの時のことを思い出していた。
何もいないであろう村に訪れ、突然物陰から上級モンスターが姿を表したのだ。咄嗟の出来事に対し、シンは逃げずに良くやった方だろう。
「いや、それはいいんだ。それよりそのデーモンから聞いた事の方が重要なんだ」
そしてシンは、アンデッドデーモンのウルカノから聞いたことを、全てミアに話した。
村のこと、メアという人物のこと、クエストのこと、そして・・・サラのこと。
全てを聴き終えるとミアは、目を閉じ、呼吸を整えるように深くゆっくり一呼吸すると、椅子から立ち上がり、部屋の隅に腰掛けているサラの元へ歩いて行った。
サラは、ミアが歩いてくるのを見ると、俯いてビクビクと身体を震わせていた。
それも仕方のないことだ。
今朝、ミアはサラを床に押し倒し銃口を向けて怒鳴っていたのだから。
ミアはサラの前まで来る。
サラは、恐る恐るミアの顔を見上げると、目があったのか、咄嗟に視線を落としてしまう。
「サラ・・・」
そしてシンとサラは、彼女の行動に驚いた。
彼女の行動というよりも、シンもサラも、ミアがそんなことをするイメージがなかったから驚かされたというべきだろう。
「ごめんなさい」
ミアはサラに向かって、深々と頭を下げて謝ったのだ。
「何も知らなかったとはいえ、私は貴女に酷いことをし、傷つけた・・・」
サラは驚き、目を見開いたままミアを見続ける。
そんな彼女の驚きを尻目に、ミアは頭を上げると、ゆっくり腰を下ろし目線をサラに合わせる。
「許して欲しいとは言わない・・・。この失態の埋め合わせは、行動で貴女に示す。私は・・・メアを倒すよ」
彼女に迷いはなかった。
メアのことを聞いても、村の人々がどうなるか見えていても、ミアは決断した。
サラを助けるのだと。
ミアはシンの思っていた通り、迷ったりはしなかった。
そしてシンは、自分がなんと恥ずかしくみっともないものかと思う。
サラを助けるという目的を見失い、迷った挙句、最終的な決断をミアに任せ、それに乗っかろうとしていたのだ。
2人のやり取りを見届けると、シンは手にしたボトルを握りしめると、サラの元へと向かった。
サラはミアの決断を聴き、固まっていた。
家族のように慕っていたメアを倒すということに、そしてウルカノの終わりを望むという言葉に、彼女はまだ迷っている。
「シン・・・」
ミアは、サラの元まで歩いてきたシンを見上げる。
シンはボトルを開けると、それをサラに使った。
「シン!?」
ボトルから降り注ぐ光の粒子は、サラへ降り注ぎ、効いているのか効いていないのかは分からなかったが、サラからは回復に似たエフェクトが出ている。
「ぁ・・・」
固まっていたサラは、シンから与えられた薬の効果で我に帰る。
「これは俺の決意表明だ。そして自分への戒め・・・。俺も自分で選んで、そして自分で決断した。・・・サラ、俺もメアを倒す。君を救う」
シンはアンデッド化の進行度を戻す薬を断つことで、保険を断ち決意を固めた。迷いを捨て、ただ前へ進むという道を選ぶ決断をした。
シンの決意が届いたのか、アンデッド化を良くする薬はサラに変化をもたらした。
「こ・・・、声が・・・声が、出る」
シンは目を見開き、ミアと目を合わせる。そして再度サラの方を見ると嬉しそうに言った。
「薬が効いたようだな」
ミアはサラを抱きしめる。
「サラ・・・!」
「シン・・・ミア・・・、あり・・・がとう」
ミアに抱かれるサラの目からは、清く純粋な雫がこぼれ落ちた。
初めて聴くサラの言葉は、シンとミアに対する感謝の言葉だった。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる
朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。
彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる