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暗転する日常
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2人は家に着いた。
メアがドアノブを回しドアを開く。
「どうぞ、サラお嬢様」
メアは気取ったポーズをとりながら頭を下げ、サラを家に入れる。
「うむ! ご苦労!」
そんな2人のやり取りを聞いてマーサさんが呆れながらにサラに言う。
「どこで覚えたのよ、そんな言葉」
「街に行った時に、偉そうなおじさんが言ってたんだよ」
街で覚えた新しい言葉を誇らしげにするサラは、手を洗った後、夕食の支度をするマーサさんに抱きつく。
「今日の夕飯は?」
家族の会話を聞きながらメアは微笑む。
しばらくすると、街に荷物を運び終えたハワードさんが帰ってきた。
「パパだ!」
サラは読んでいた絵本を机に置くと、帰ってきたハワードさんの元へ走っていった。
「おかえりー!」
「ははは、ただいま。 今日は何処へ行ってたんだ?」
走ってきたサラを抱きかかえると、ウルカノと出掛ける姿でも見かけたのか質問をした。
「丘の上の方へ行ったの」
あそこには確か古い家屋があったような、きっと子供達の秘密基地にでもなっているのだろう。
「そうか! あそこは風が気持ちいいだろ」
サラを下ろすと、食事にしようと背中を軽く叩くと、テーブルに向かうよう促す。
「ただいま」
「おかえり、あなた」
マーサさんが食事をテーブルへと運び、またメアもそれを手伝っていた。
「待たせてしまったかな?」
ハワードさんはメアを家族の様に接してくれる。
それはメアがマクブライド家へ来た時からずっとだ。
初めはサラに怖がられていたが、流石子供と言うべきか、一緒に遊んであげるようになってから、直ぐに懐いてくれた。
4人で食卓を囲み、何気ない日常会話をしながら夕食をとる。
食後はマーサさんとサラが並んで洗い物をしている。
「じゃぁ僕らは先に、お風呂でもいただいちゃおうか」
ハワードさんは、お風呂を沸かしに向かう。
火に薪をくべながら、筒状の器具で息を吹きかけながら火を大きくしていく。
「私は明日出掛ける用事もないから、キミが先に入ってくれ」
「1番風呂ですか!? いいんですか?」
「構わないとも」
そう言ってくれたハワードさんの厚意を無駄にしないようメアは、先にお風呂をいただいた。
メアは翌日、久々に街の方へと戻る用事があった。
なので少し早めの就寝をとった。
「それじゃぁ、少し出かけてきます」
翌日の朝、メアはマクブライド夫妻に挨拶をした後、家を後にしようとした。
「私も連れてって~」
サラが羨ましそうに言ってくる。
「こら、サラ。 メアくんの邪魔するんじゃないぞ」
「ちぇ~、お土産買ってきてね」
ふてくされながらメアを見送るサラ。
苦笑いを浮かべながら、メアは彼女に手を振って家を後にした。
久々に訪れた街でメアは、冒険者ギルドの建物へと向かう。
冒険者ギルドのクエストや、街のクエストは時間経過で自動更新されていくので、全てのクエストを完了しても、また新たにクエストを受ける事が可能なのだ。
勿論、初めの頃に比べれば経験値だけで言えば効率は落ちる。
しかし、金銭的なものや報酬はほぼ変わらないので、生活していく分には、それなりに足しになるのだ。
「ハワードさんやマーサさんは、気にしなくていいって言ってくれてるけど、そうはいかないよな。 それに、召喚士としての腕も鈍っちゃうしな!」
メアはダステル村で住むようになってからも時々街へ来ては、クエストをこなして少しずつではあるもののレベルを上げている。
彼もいつまでも村に止まるつもりはない。
いつかは村を出て、世界を見て回るのが彼の夢でもあるから。
しばらく街に来てなかったせいか、更新されたクエストがかなりあった。
半分も終わらせない内に、あっという間に日が落ちかけてきていた。
「しまった、久々の戦闘でつい夢中になっちゃったか・・・。 馬車まだ出てるかな?」
帰りの馬車を探して、村までは行かないものの、近くを通る行商人がいたので、ついでに乗せていってもらうことにした。
メアはクエストの疲れからか馬車で寝てしまった。
すっかり日も落ち、暗くなった頃、行商人の人が呼ぶ声が聞こえた。
「お客人、お客人! 着いたよ」
寝てしまったのかと、意識を取り戻すように身体をグッと伸ばした。
「すみません、寝てしまいました」
馬車から降りて、行商人の方にお礼を言うとメアが見送る中、道を更に先へと進んでいった。
「さ、俺も帰るか・・・」
あくびをしながら、まだ覚めきってない頭をゆっくり歩きながら覚ます事にした。
「ま~たサラに文句言われそうだな・・・、あ! お土産も忘れた・・・何か穴埋めしないとな」
また面倒な事になるなと、頭を掻く。
しかし、こんな事を思えるのも帰る家があるからなんだなと感じた。
以前までのメアならこんな事は思わなかっただろう。
村が見える丘の方へと歩いていくと、普段は見かけない様な煙が立っていた。
「・・・何だ?」
メアは初め、何か燃やしているのだろうかくらいにしか思わなかった。
正常性バイアスという言葉がある。
これは、正常化の偏見とも言われ、危険が迫っているにも関わらず「自分は大丈夫」「どうせ何もない」などと、自分にとって都合の悪い情報を無視したり過少に評価してしまう人の心理的な特性だという。
今のメアは、正にその状態にあった。
それは村に近づくにつれて、受け入れがたい情報が明らかになっていく事で分かった。
煙の色が枯れ木や落ち葉を燃やすのとは明らかに違い、黒くて背景が全く見えない程煙濃度が高い。
短い間とはいえ、村で生活してきたメアにははっきりと大きな物や有害な物が燃えているのだと理解した。
更に近づくと、煙が立ち込める一帯がやけに明るい事が分かる。
そして・・・。
「そんな・・・どうして・・・?」
メアの目に移ったのは、自分にとっての居場所であり第2の家族と暮らした、一生をここで暮らしても良いと思えるような思い出の場所が、無惨にも燃えている光景だった。
煙の異変に気づいた時からメアは足早になっていたが、その光景を目にして急いで走り出した。
「だ、大丈夫! きっとみんな避難してる。 声だってしてない、誰もいないはず」
必死に自分の心を落ち着かせようと、希望的な憶測の言葉が次々に口から出てくる。
しかし、発言とは反対に身体からは冷や汗が吹き出してくる。
まるで、頭では希望を望んでいるが、身体は絶望を感じ取っているようだった。
そして村が目前に迫ってくると、更にその惨状がメアの瞳に映り込んだ。
地面に横たわる人、普通では考えられない様な場所で凭れる人影、血を流し倒れている人。
「う・・・!!」
泣き叫びたくなるのを堪え、必死に走った。
そして倒れている人に駆け寄ると、大きな声で呼びかけた。
「大丈夫ですか! しっかりしてください! 何があったんですか!?」
身体を起こそうと、腕を引き上げ腕に抱えた時に確定的なものを感じた。
「あ・・・あぁ・・・」
思わず漏れた声が震える。
抱えた腕に生暖かいぬるぬるしたものがついた。
背中がどうなっているかなど、とても見れる心境ではなかった。
そのままゆっくり地面に戻すと、辺りを見渡し、近い人から順に駆け寄り、声をかけていく。
しかし、誰も返事をすることはなかった。
そして広場にやってくると、更に彼の心を押しつけるような光景があった。
親子が倒れていた。
母親は背中を大きく切られた様な傷を受け、子供の方へと手を伸ばした状態でうつ伏せに倒れており、子供の方は仰向けに倒れており、目は開いたまま倒れており、首には強い力で締められた跡が残っている。
「あぁ・・・アレン? そんな・・・うそだ」
昨日、メアの召喚したウルカノと一緒に散歩に出かけていった子供達の内の1人だった。
メアの嫌な予感を遥かに超える凄惨な光景に足が震え、腰を落としてしまう。
そしてようやく頭が回り始め、1番安否を確かめなければならない場所を思い出す。
最も心配で、最も見に行くのが怖い場所。
第2の家族、マクブライド家。
震える足を抑えながら立ち上がり、フラフラと自分の帰るはずだった家へ向かう。
しかし、村の惨状から察する通り無事なはずもなく、崩れかけの家に火が灯っていた。
「ぅ・・・ッ!
心の奥底で黒く重苦しいものが身体中に広がっていく様な感覚、嫌な予想が当たってしまうのではないか、それを後押しする感情がメアを覆っていく。
家へ向かう足取りが重くなる、生存者を探して村を駆け回っていた時より遥かに。
壊れた玄関のドアがあった場所から、自分の予感を裏切ってくれるのを願いながら、何者にも気配を悟られない様にゆっくりと、ゆっくりと中の様子を伺う。
家族と過ごした思い出の場所が燃えている。
一緒に囲んだ食卓、ハワードさんと一緒に風呂を沸かした浴室、マーサさんとサラが並んで洗い物をしていた台所。
しかし、まだマクブライド家の人を誰も見かけていない。
胸を突く心臓の音が聞こえてくる程大きく鳴る中、もしかしたら既に村から避難できたのではないかと思う気持ちが顔を出し始める。
食卓の方へと進むと奥の広間に、蹲る人影が揺らめく炎越しに見えた。
「マーサさんッ!!」
燃え盛る炎の熱さになど気を回している余裕などない程早く、炎を飛び越えマーサさんに駆け寄る。
「マーサさん! マーサさん!! しっかり・・・ 」
マーサさんの身体を揺さぶると、何かを抱える様に蹲っていたその身体の下から、もう一つの人影が姿を表した。
「・・・!?」
そこにあったのはサラの姿だった。
直ぐにマーサさんの下から引き抜くと、大丈夫かと声をかけながら呼吸の確認をした。
「まだ息がある!」
何人にも声をかけてきて、初めての生存者だった。
まだ村の全てを確認したわけではなかったが、やっと見つけた生存者にメアの気持ちにも小さな光がさした。
ただ、その呼吸は小さく、ちゃんと空気を取り込めているのかわからない状態だった。
「直ぐに外に・・・」
と、言葉を続けようとした矢先、外から悲鳴が聞こえた。
「まだ生きてる人が!?」
だが、メアが悲鳴の元を確かめようと窓越しに外を見た時、その悲鳴は断末魔へと変わった。
黒い何かが目にも留まらぬ速さで、逃げるその人を後ろから貫いた。
命が途絶えようとしているその身体から、ズルりと何かを引き抜くと、その場で獲物を探すかの様にゆっくりと辺りを見渡していた。
「ここにはいない様だな」
小さく話し声が聞こえる。
燃え盛る炎の音で鮮明には聞こえないが、良くない者達であるのは確かだ。
息を潜め、その者達の会話に耳を澄ます。
「俺達は次の場所へ向かう、後は頼んだぞ」
見渡していた男は頷くと、姿こそは見えなかったが、何かがその場から消えたのは感じた。
「あれは・・・あいつらが?」
黒い者の動向を伺っていると、いつの間にか黒い者はこちらを向いていた。
「ハッ・・・!?」
慌てて窓から身を隠し、サラを抱えたまま自分の口を押さえる。
足音が近づいて来るのを感じる。
心臓の音が五月蝿い、とても呼吸なんか出来ない、そして手や額からは燃え盛る炎による熱さからくるものなのか、恐怖によるものなのか汗が吹き出していた。
ついにその黒い者が窓の前までやって来た。
中の様子をじっくりと眺めるその者は、フードを被ったローブの姿をしていた。
何か少しでも物音を立ててしまったら、きっと命はないだろうその状況にメアは固唾を呑んだ。
緊迫するこの時間が重苦しく、そして何分も経っているかの様に感じる。
やがてローブ姿の人物は横へ歩き出し、窓枠の外へと消えていった。
メアは警戒して足音が聞こえなくなるまで、緊張状態を維持し続けた。
足音が聞こえなくなり、しばらく間を置くとメアはまるで息を吹き返した様に呼吸を再開した。
全身から生気が抜けきる程大きく息を吐くと、1度サラを床に寝かせ、再度外の様子を見るために体制を変え、ゆっくりと窓枠の下部に指をかける。
そおっと顔を上げ、必要最低限の動きで外の様子を伺う。
突然、ローブ姿の人物が歩いていった方向とは逆の家の壁が、何か巨大な衝撃波で撃ち抜かれた様な爆音をあげて吹き飛んだ。
メアは咄嗟に、その場で魔力を込めた手のひらで床に触れると、反対の手でサラを引っ張り、爆音をあげた方とは逆の方へと飛び退いた。
土煙を上げながら外からの空気と共の、その人物はゆっくりと穴から家屋へと入って来た。
「まだ生きている者がいたか」
ローブの人物から発せられた声は男の声で、その低音はメアに、心臓をグッと握り潰すようなプレッシャーを与えた。
メアがドアノブを回しドアを開く。
「どうぞ、サラお嬢様」
メアは気取ったポーズをとりながら頭を下げ、サラを家に入れる。
「うむ! ご苦労!」
そんな2人のやり取りを聞いてマーサさんが呆れながらにサラに言う。
「どこで覚えたのよ、そんな言葉」
「街に行った時に、偉そうなおじさんが言ってたんだよ」
街で覚えた新しい言葉を誇らしげにするサラは、手を洗った後、夕食の支度をするマーサさんに抱きつく。
「今日の夕飯は?」
家族の会話を聞きながらメアは微笑む。
しばらくすると、街に荷物を運び終えたハワードさんが帰ってきた。
「パパだ!」
サラは読んでいた絵本を机に置くと、帰ってきたハワードさんの元へ走っていった。
「おかえりー!」
「ははは、ただいま。 今日は何処へ行ってたんだ?」
走ってきたサラを抱きかかえると、ウルカノと出掛ける姿でも見かけたのか質問をした。
「丘の上の方へ行ったの」
あそこには確か古い家屋があったような、きっと子供達の秘密基地にでもなっているのだろう。
「そうか! あそこは風が気持ちいいだろ」
サラを下ろすと、食事にしようと背中を軽く叩くと、テーブルに向かうよう促す。
「ただいま」
「おかえり、あなた」
マーサさんが食事をテーブルへと運び、またメアもそれを手伝っていた。
「待たせてしまったかな?」
ハワードさんはメアを家族の様に接してくれる。
それはメアがマクブライド家へ来た時からずっとだ。
初めはサラに怖がられていたが、流石子供と言うべきか、一緒に遊んであげるようになってから、直ぐに懐いてくれた。
4人で食卓を囲み、何気ない日常会話をしながら夕食をとる。
食後はマーサさんとサラが並んで洗い物をしている。
「じゃぁ僕らは先に、お風呂でもいただいちゃおうか」
ハワードさんは、お風呂を沸かしに向かう。
火に薪をくべながら、筒状の器具で息を吹きかけながら火を大きくしていく。
「私は明日出掛ける用事もないから、キミが先に入ってくれ」
「1番風呂ですか!? いいんですか?」
「構わないとも」
そう言ってくれたハワードさんの厚意を無駄にしないようメアは、先にお風呂をいただいた。
メアは翌日、久々に街の方へと戻る用事があった。
なので少し早めの就寝をとった。
「それじゃぁ、少し出かけてきます」
翌日の朝、メアはマクブライド夫妻に挨拶をした後、家を後にしようとした。
「私も連れてって~」
サラが羨ましそうに言ってくる。
「こら、サラ。 メアくんの邪魔するんじゃないぞ」
「ちぇ~、お土産買ってきてね」
ふてくされながらメアを見送るサラ。
苦笑いを浮かべながら、メアは彼女に手を振って家を後にした。
久々に訪れた街でメアは、冒険者ギルドの建物へと向かう。
冒険者ギルドのクエストや、街のクエストは時間経過で自動更新されていくので、全てのクエストを完了しても、また新たにクエストを受ける事が可能なのだ。
勿論、初めの頃に比べれば経験値だけで言えば効率は落ちる。
しかし、金銭的なものや報酬はほぼ変わらないので、生活していく分には、それなりに足しになるのだ。
「ハワードさんやマーサさんは、気にしなくていいって言ってくれてるけど、そうはいかないよな。 それに、召喚士としての腕も鈍っちゃうしな!」
メアはダステル村で住むようになってからも時々街へ来ては、クエストをこなして少しずつではあるもののレベルを上げている。
彼もいつまでも村に止まるつもりはない。
いつかは村を出て、世界を見て回るのが彼の夢でもあるから。
しばらく街に来てなかったせいか、更新されたクエストがかなりあった。
半分も終わらせない内に、あっという間に日が落ちかけてきていた。
「しまった、久々の戦闘でつい夢中になっちゃったか・・・。 馬車まだ出てるかな?」
帰りの馬車を探して、村までは行かないものの、近くを通る行商人がいたので、ついでに乗せていってもらうことにした。
メアはクエストの疲れからか馬車で寝てしまった。
すっかり日も落ち、暗くなった頃、行商人の人が呼ぶ声が聞こえた。
「お客人、お客人! 着いたよ」
寝てしまったのかと、意識を取り戻すように身体をグッと伸ばした。
「すみません、寝てしまいました」
馬車から降りて、行商人の方にお礼を言うとメアが見送る中、道を更に先へと進んでいった。
「さ、俺も帰るか・・・」
あくびをしながら、まだ覚めきってない頭をゆっくり歩きながら覚ます事にした。
「ま~たサラに文句言われそうだな・・・、あ! お土産も忘れた・・・何か穴埋めしないとな」
また面倒な事になるなと、頭を掻く。
しかし、こんな事を思えるのも帰る家があるからなんだなと感じた。
以前までのメアならこんな事は思わなかっただろう。
村が見える丘の方へと歩いていくと、普段は見かけない様な煙が立っていた。
「・・・何だ?」
メアは初め、何か燃やしているのだろうかくらいにしか思わなかった。
正常性バイアスという言葉がある。
これは、正常化の偏見とも言われ、危険が迫っているにも関わらず「自分は大丈夫」「どうせ何もない」などと、自分にとって都合の悪い情報を無視したり過少に評価してしまう人の心理的な特性だという。
今のメアは、正にその状態にあった。
それは村に近づくにつれて、受け入れがたい情報が明らかになっていく事で分かった。
煙の色が枯れ木や落ち葉を燃やすのとは明らかに違い、黒くて背景が全く見えない程煙濃度が高い。
短い間とはいえ、村で生活してきたメアにははっきりと大きな物や有害な物が燃えているのだと理解した。
更に近づくと、煙が立ち込める一帯がやけに明るい事が分かる。
そして・・・。
「そんな・・・どうして・・・?」
メアの目に移ったのは、自分にとっての居場所であり第2の家族と暮らした、一生をここで暮らしても良いと思えるような思い出の場所が、無惨にも燃えている光景だった。
煙の異変に気づいた時からメアは足早になっていたが、その光景を目にして急いで走り出した。
「だ、大丈夫! きっとみんな避難してる。 声だってしてない、誰もいないはず」
必死に自分の心を落ち着かせようと、希望的な憶測の言葉が次々に口から出てくる。
しかし、発言とは反対に身体からは冷や汗が吹き出してくる。
まるで、頭では希望を望んでいるが、身体は絶望を感じ取っているようだった。
そして村が目前に迫ってくると、更にその惨状がメアの瞳に映り込んだ。
地面に横たわる人、普通では考えられない様な場所で凭れる人影、血を流し倒れている人。
「う・・・!!」
泣き叫びたくなるのを堪え、必死に走った。
そして倒れている人に駆け寄ると、大きな声で呼びかけた。
「大丈夫ですか! しっかりしてください! 何があったんですか!?」
身体を起こそうと、腕を引き上げ腕に抱えた時に確定的なものを感じた。
「あ・・・あぁ・・・」
思わず漏れた声が震える。
抱えた腕に生暖かいぬるぬるしたものがついた。
背中がどうなっているかなど、とても見れる心境ではなかった。
そのままゆっくり地面に戻すと、辺りを見渡し、近い人から順に駆け寄り、声をかけていく。
しかし、誰も返事をすることはなかった。
そして広場にやってくると、更に彼の心を押しつけるような光景があった。
親子が倒れていた。
母親は背中を大きく切られた様な傷を受け、子供の方へと手を伸ばした状態でうつ伏せに倒れており、子供の方は仰向けに倒れており、目は開いたまま倒れており、首には強い力で締められた跡が残っている。
「あぁ・・・アレン? そんな・・・うそだ」
昨日、メアの召喚したウルカノと一緒に散歩に出かけていった子供達の内の1人だった。
メアの嫌な予感を遥かに超える凄惨な光景に足が震え、腰を落としてしまう。
そしてようやく頭が回り始め、1番安否を確かめなければならない場所を思い出す。
最も心配で、最も見に行くのが怖い場所。
第2の家族、マクブライド家。
震える足を抑えながら立ち上がり、フラフラと自分の帰るはずだった家へ向かう。
しかし、村の惨状から察する通り無事なはずもなく、崩れかけの家に火が灯っていた。
「ぅ・・・ッ!
心の奥底で黒く重苦しいものが身体中に広がっていく様な感覚、嫌な予想が当たってしまうのではないか、それを後押しする感情がメアを覆っていく。
家へ向かう足取りが重くなる、生存者を探して村を駆け回っていた時より遥かに。
壊れた玄関のドアがあった場所から、自分の予感を裏切ってくれるのを願いながら、何者にも気配を悟られない様にゆっくりと、ゆっくりと中の様子を伺う。
家族と過ごした思い出の場所が燃えている。
一緒に囲んだ食卓、ハワードさんと一緒に風呂を沸かした浴室、マーサさんとサラが並んで洗い物をしていた台所。
しかし、まだマクブライド家の人を誰も見かけていない。
胸を突く心臓の音が聞こえてくる程大きく鳴る中、もしかしたら既に村から避難できたのではないかと思う気持ちが顔を出し始める。
食卓の方へと進むと奥の広間に、蹲る人影が揺らめく炎越しに見えた。
「マーサさんッ!!」
燃え盛る炎の熱さになど気を回している余裕などない程早く、炎を飛び越えマーサさんに駆け寄る。
「マーサさん! マーサさん!! しっかり・・・ 」
マーサさんの身体を揺さぶると、何かを抱える様に蹲っていたその身体の下から、もう一つの人影が姿を表した。
「・・・!?」
そこにあったのはサラの姿だった。
直ぐにマーサさんの下から引き抜くと、大丈夫かと声をかけながら呼吸の確認をした。
「まだ息がある!」
何人にも声をかけてきて、初めての生存者だった。
まだ村の全てを確認したわけではなかったが、やっと見つけた生存者にメアの気持ちにも小さな光がさした。
ただ、その呼吸は小さく、ちゃんと空気を取り込めているのかわからない状態だった。
「直ぐに外に・・・」
と、言葉を続けようとした矢先、外から悲鳴が聞こえた。
「まだ生きてる人が!?」
だが、メアが悲鳴の元を確かめようと窓越しに外を見た時、その悲鳴は断末魔へと変わった。
黒い何かが目にも留まらぬ速さで、逃げるその人を後ろから貫いた。
命が途絶えようとしているその身体から、ズルりと何かを引き抜くと、その場で獲物を探すかの様にゆっくりと辺りを見渡していた。
「ここにはいない様だな」
小さく話し声が聞こえる。
燃え盛る炎の音で鮮明には聞こえないが、良くない者達であるのは確かだ。
息を潜め、その者達の会話に耳を澄ます。
「俺達は次の場所へ向かう、後は頼んだぞ」
見渡していた男は頷くと、姿こそは見えなかったが、何かがその場から消えたのは感じた。
「あれは・・・あいつらが?」
黒い者の動向を伺っていると、いつの間にか黒い者はこちらを向いていた。
「ハッ・・・!?」
慌てて窓から身を隠し、サラを抱えたまま自分の口を押さえる。
足音が近づいて来るのを感じる。
心臓の音が五月蝿い、とても呼吸なんか出来ない、そして手や額からは燃え盛る炎による熱さからくるものなのか、恐怖によるものなのか汗が吹き出していた。
ついにその黒い者が窓の前までやって来た。
中の様子をじっくりと眺めるその者は、フードを被ったローブの姿をしていた。
何か少しでも物音を立ててしまったら、きっと命はないだろうその状況にメアは固唾を呑んだ。
緊迫するこの時間が重苦しく、そして何分も経っているかの様に感じる。
やがてローブ姿の人物は横へ歩き出し、窓枠の外へと消えていった。
メアは警戒して足音が聞こえなくなるまで、緊張状態を維持し続けた。
足音が聞こえなくなり、しばらく間を置くとメアはまるで息を吹き返した様に呼吸を再開した。
全身から生気が抜けきる程大きく息を吐くと、1度サラを床に寝かせ、再度外の様子を見るために体制を変え、ゆっくりと窓枠の下部に指をかける。
そおっと顔を上げ、必要最低限の動きで外の様子を伺う。
突然、ローブ姿の人物が歩いていった方向とは逆の家の壁が、何か巨大な衝撃波で撃ち抜かれた様な爆音をあげて吹き飛んだ。
メアは咄嗟に、その場で魔力を込めた手のひらで床に触れると、反対の手でサラを引っ張り、爆音をあげた方とは逆の方へと飛び退いた。
土煙を上げながら外からの空気と共の、その人物はゆっくりと穴から家屋へと入って来た。
「まだ生きている者がいたか」
ローブの人物から発せられた声は男の声で、その低音はメアに、心臓をグッと握り潰すようなプレッシャーを与えた。
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少し冷めた村人少年の冒険記
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元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
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もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
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