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すかい・ぶるー
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恋をした。
それはすぐに終わりを迎えたけれど。
黒髪のツインテールが似合う君が好きだった。
飾らない笑顔、少し高い声、容姿からは想像できない運動神経の良さ。
そんな君を僕はいつも斜め後ろから見ているだけだった。
家に帰ると君がいて、
「おかえり。」
そう言ってくれるように思った。
「ただいま。」
そう呟いてからリビングに向かう。
食事を終えて自分の部屋に戻ると、君は帰ってきた時よりも
色濃く僕の眼に映った。
「課題やらないといけないから、邪魔しないでね。」
そう告げると君は寂しそうにキラキラと涙を光らせるから、
僕は仕方なく窓を開けておく。
君と初めて話したのは、夏の暑い日だった。
化学の実験、窓を開けた君が振り向き僕に囁いた。
「恋してる…。」
甘い君の香りと、試験管から香る薄いアンモニア。
不思議な香りを漂わせながら帰宅すると、君は不機嫌な色をしていた。
「雨が降りそうだから、買い物に行ってきてくれない?」
リビングから母の声が聞こえる。
傘を持って外に出た。君はますます不機嫌な色に染まっていく。
買い物を終えた頃には、君は既に泣き出していた、君らしくない大きな声で。
僕はポンっと傘を開き、君の涙に濡れないように河川敷を歩いていく。
それから3日、君が泣き止むことはなかった。
君に失恋したのは、秋から冬に季節が変わる少し寒い木曜日だった。
僕は初めて君の色を見た。
放課後、帰ろうとした僕の腕を掴み君は屋上へと走り出した。
君の冷たい手と、ドアを開ける錆び付いた金属音が僕の全神経を支配した。
扉の先の空間で、振り向いた君は笑っていた。
綺麗な瞳から透き通った滴がこぼれ落ちる。
掴まれた僕の腕に温かいそれが触れた。
君の口がゆっくり開く。
「私からの、答え。」
僕の腕から手を離し、その手を制服のポケットに滑らかに潜らせた。
「3秒だけ、待ってあげる。」
1秒、君の言葉を頭が理解しようとする。
2秒、君に掴まれていた腕から感覚が消えていく。
3秒、固まる僕を正面から見つめている君の口角が優しく上がる。
銀色と限りなく白に近い薄い橙が、
一瞬、ほんの一瞬、交わった。
僕の眼に鮮やかな赤色が映るまで、そう多くはかからなかった。
気付けば僕は自分の部屋にいた。
窓を開けると君を近くに感じた。
「3秒あったら何ができただろう。」
君が僕にくれた3秒間。もう一度目を閉じて3秒数える。
君は僕にたくさんの色を見せてくれた。
3秒では足りない程、多くの色を。
目を開けるといつも君がそこにいた。
「君のこと、好きだったのかな。」
君を見上げる。
「恋って難しいね。」
君は瞬きを繰り返しながら、黙って僕の話を聞いていた。
「僕には…」
視界が揺れる。
目の前の君が水分を多く含んだ水彩絵の具の青のように、
さらさらと僕の視界を流れる。
「僕は君が好きだよ。」
やっと、本当の気持ちを君に伝えることができた。
赤く腫れた瞳よりも、青く笑う君に夢中になっていた。
きれいな君の青。
笑顔も涙も眩しい君を、抱きしめられない程とおい君を、
目を閉じて感じているだけで幸せだった。
河川敷を流れる水より青く、赤に染まった屋上より広い、
今日も僕は君に恋をする。
それはすぐに終わりを迎えたけれど。
黒髪のツインテールが似合う君が好きだった。
飾らない笑顔、少し高い声、容姿からは想像できない運動神経の良さ。
そんな君を僕はいつも斜め後ろから見ているだけだった。
家に帰ると君がいて、
「おかえり。」
そう言ってくれるように思った。
「ただいま。」
そう呟いてからリビングに向かう。
食事を終えて自分の部屋に戻ると、君は帰ってきた時よりも
色濃く僕の眼に映った。
「課題やらないといけないから、邪魔しないでね。」
そう告げると君は寂しそうにキラキラと涙を光らせるから、
僕は仕方なく窓を開けておく。
君と初めて話したのは、夏の暑い日だった。
化学の実験、窓を開けた君が振り向き僕に囁いた。
「恋してる…。」
甘い君の香りと、試験管から香る薄いアンモニア。
不思議な香りを漂わせながら帰宅すると、君は不機嫌な色をしていた。
「雨が降りそうだから、買い物に行ってきてくれない?」
リビングから母の声が聞こえる。
傘を持って外に出た。君はますます不機嫌な色に染まっていく。
買い物を終えた頃には、君は既に泣き出していた、君らしくない大きな声で。
僕はポンっと傘を開き、君の涙に濡れないように河川敷を歩いていく。
それから3日、君が泣き止むことはなかった。
君に失恋したのは、秋から冬に季節が変わる少し寒い木曜日だった。
僕は初めて君の色を見た。
放課後、帰ろうとした僕の腕を掴み君は屋上へと走り出した。
君の冷たい手と、ドアを開ける錆び付いた金属音が僕の全神経を支配した。
扉の先の空間で、振り向いた君は笑っていた。
綺麗な瞳から透き通った滴がこぼれ落ちる。
掴まれた僕の腕に温かいそれが触れた。
君の口がゆっくり開く。
「私からの、答え。」
僕の腕から手を離し、その手を制服のポケットに滑らかに潜らせた。
「3秒だけ、待ってあげる。」
1秒、君の言葉を頭が理解しようとする。
2秒、君に掴まれていた腕から感覚が消えていく。
3秒、固まる僕を正面から見つめている君の口角が優しく上がる。
銀色と限りなく白に近い薄い橙が、
一瞬、ほんの一瞬、交わった。
僕の眼に鮮やかな赤色が映るまで、そう多くはかからなかった。
気付けば僕は自分の部屋にいた。
窓を開けると君を近くに感じた。
「3秒あったら何ができただろう。」
君が僕にくれた3秒間。もう一度目を閉じて3秒数える。
君は僕にたくさんの色を見せてくれた。
3秒では足りない程、多くの色を。
目を開けるといつも君がそこにいた。
「君のこと、好きだったのかな。」
君を見上げる。
「恋って難しいね。」
君は瞬きを繰り返しながら、黙って僕の話を聞いていた。
「僕には…」
視界が揺れる。
目の前の君が水分を多く含んだ水彩絵の具の青のように、
さらさらと僕の視界を流れる。
「僕は君が好きだよ。」
やっと、本当の気持ちを君に伝えることができた。
赤く腫れた瞳よりも、青く笑う君に夢中になっていた。
きれいな君の青。
笑顔も涙も眩しい君を、抱きしめられない程とおい君を、
目を閉じて感じているだけで幸せだった。
河川敷を流れる水より青く、赤に染まった屋上より広い、
今日も僕は君に恋をする。
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